「あの~、私の顔に何かついていますか?」
できるOLのようにスーツを着込んだ七罪はこちらを見つめる。困ったような顔を浮かべているが、大人らしい余裕がにじみ出ている。七罪本来の斜に構えた性格は感じられない。
完全に役に入り込んでいる。相変わらずの素晴らしい演技だ。
「いや、すみません。ちょっと知り合いに似てたから驚いちゃって。ねえ、琴里?」
琴里に視線を投げかける。適当に合わせてくれ。
「あはは、そうだな~。似すぎてドッペルゲンガーかと思ったぞ」
流石、司令官様。即席の演技に応じてくれた。
「あら、そうでしたか。私があなたたちに会うのは初めてだと思いますよ」
七罪は微笑みながら僕たちの言葉に納得する。わかってたことだけど、七罪に前の世界の記憶はない。
あっちだとほぼ毎日顔合わせてたんだけどな。仕方のないこととはいえ、少し悲しい。
「それで、その初めて会う人が私たちに何の用なのだ?」
「すみません、挨拶が遅れてしまって。私こういうものでして」
七罪が肩にかけたオフィスバッグから名刺を取り出す。それを受け取って確認する。
「天宮オンラインの
「はい。天宮市を盛り上げるため、天宮市の様々なものをまとめて発信しております」
七罪はにこやかに紹介する。
……本当にこの子コミュ障なの?普通に話しかけるの上手いんだけど。
「どうして私たちに声をかけたのだ?私たち、普通の学生だぞ?」
本当は精霊二人とかいう世界でも類を見ないほど珍しい存在だけど。
「今回は学生の生の声というコラムを作る予定でして。町で出会った学生さんにお話をお聞きしているんです」
「そうなのか~」
琴里が話している間に、スマホで名刺のURLに飛んでみた。
なるほど、サイトはちゃんとあるんだな。リンク自体偽装の可能性も考えてたけど。
割としっかり作り込んである。七罪らしい凝りようだな。
「あら、読んでいただけましたか?」
「ええ、少し気になったので。とてもいいサイトですね」
嘘偽りない本音だ。短期間で作っただろうに、下手な公式より上手く作られている。
この子本気でやればブロガーになれるんじゃない?
「ありがとうございます。お二方にも協力していただけると助かるのですが」
琴里とアイコンタクトを送り合う。一瞬で牽制し合う。
今は七罪を取り合うライバル同士。仲良しこよしなんてできるわけない。
(いくらなんでもこれはフェアじゃないでしょ)
(七罪の方から仕掛けてきたんだから仕方ないじゃん)
(私も参加するからね)
(好きにすれば)
「喜んで協力させていただきます」
「何でも聞いていいんだぞー」
表情を取り繕って七罪に向き直る。ただ、険しい顔は七罪も見ていたわけで。
「え、ええ。よろしくお願いします」
何が何だかわかっていない七罪は困惑した顔を浮かべていた。
♦♦♦
下校中の中学生を捕まえてインタビュー。怪しさ満点だけど、あっさり乗って来たわね。
岡峰美紀恵の同類なのかしら?……一応警戒しておきましょう。
「鳶一さんは休日に何をなさっているのでしょうか?」
「スイーツショップ巡りですね。家族も大好きで、一緒にいい店を回るんです」
観察対象の鳶一愛は言ってのけた。王道から外れた、取材として面白みのある回答ね。
「いいですね。最近はスイーツ男子もありだと思います」
私が本当に取材をしていたなら喜んだでしょうね。そんなことどうでもいいんだけど。
「ご家族と仲がよろしいのですね。お兄さんかお姉さんでしょうか?」
興味があるのはこいつがASTを辞めた理由。そんなこと直接聞けないし、せめて輪郭だけでも見えたらいいわ。
「お姉ちゃんと行くこともあるけど、基本は令音さんと」
「令音さん、ですか?親戚の方でしょうか?」
知らないふりして首をかしげておく。こいつら姉弟と同居してる血縁のないもの好きってことは調べてる。
でもいまいち正体が掴めなかったのよね。五年前からこの街に住み始めたことはわかったけど。
「養母、育ての母ですね。赤ちゃんの頃から育ててくれた人なんです」
育ての母?村雨令音って三十にもならないような女じゃなかったっけ?
それが十四歳の鳶一愛を赤ちゃんの頃から育ててた?奇妙ね。
「それは突っ込んだことを聞いてしまい失礼しました」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
本質とは関係ないことだけど、何かありそう。悪くない情報かしら?
「トラブルに巻き込まれやすい星のもとに生まれてしまったみたいで。家庭環境も少し複雑なんですよ」
「それはそれは。大変だったでしょう」
こいつ、自分からいろいろ話してくれたわ。これ以上は不自然だから流石に聞けないけど、普通じゃない事情を聞けただけ十分よ。
頻繁にトラブルに巻き込まれている。それなら、最近何かあってもおかしくないもの。
「いえいえ」
鳶一愛。危険を冒してでも調べた価値はあったわね。
「そちらの五河さんはいかがでしょうか?」
こっちはあんまり興味ないけど、取材という体裁を取ってる以上、聞いておかないとね。
「う~んそうだな~。最近はお兄ちゃんをからかって遊ぶことかな?」
鳶一愛の同級生、五河琴里。ツインテ、キャンディ、アホっぽい性格。
そういうキャラで売ってるんでしょう。
「お兄さんとは仲がよいのですね」
「うちのお兄ちゃん、妹に大好きって言っちゃうシスコンだからなー」
天然みたいな言葉で話してるけど、ちょこちょこ知性が見える。計算してやってるのよ、きっと。
「まあ、最近は女の子と急に仲良くなったみたいで大変なんだけど」
「女の子……もしかして彼女さんでもできたのでしょうか?」
興味ある振りして聞いてみる。別にこいつの兄の恋愛事情なんて興味ないんだけど。
五河琴里の顔に是非聞いてって書いてある。聞かないと面倒そうね。
「そういうわけじゃないんだよな~。なんか最近お兄ちゃんがモテまくってるみたいで。いろんな美少女をとっかえひっかえ」
「それはすごいですね」
ただの自虐風家族自慢だったわ。嫌味なやつね。
何?『わたしのお兄ちゃんいろいろな美少女を侍らせててすごいでしょ』って?
「空間震を起こすたびにシェルターで女の子捕まえてくるんだぞ。もう才能だと思わない?」
「凄まじい才能――ですね」
一瞬言葉に詰まってしまったわ。こいつ今なんて言った?
空間震の度に女の子を捕まえてくる?それ、本当にシェルターで捕まえてきてる?
空間震は精霊がこっちに引っ張られたときの余波。空間震が起きたなら必ず精霊が、女の子の姿をした存在が現れてる。
こいつの兄が捕まえてる女の子の正体。もしかして、精霊じゃないでしょうね?
「うちのお兄ちゃん、すごいでしょ?」
「ええ、本当に」
想定外の収穫よ。五河琴里も何かありそう。
確証は持てないけど、十分な根拠よ。もう少し調べないといけないわね。
♦♦♦
七罪が去った後、僕たちは五河邸に来ていた。議題は当然、さっき出会った七罪について。
僕は令音さん、琴里は士道。互いに味方のサポートをつけて反省会の開催だ。
琴里がこっそり準備させたカメラの映像を確認している。
「今回は僕と琴里の引き分けってところかな」
「ええ、そうね」
琴里と二人で評価をする。意見は完全に一致した。
「二人とも流石という他ないね。中学生とは思えない手腕だ」
令音さんもコーヒーを飲みながら肯定する。この人、カフェインと糖分を無限に摂取しようとするな。
「令音さん、どういうことなんですか?」
ただ一人だけ理解できていない士道。会話が高度だったようだ。
「士道はこれを見てどう思ったの?素直に言ってみなさい」
「えっと、何故か二人が精霊のみんなのことをぼかして話しているようにしか見えなかったけど……」
士道は頬をかきながら困ったような顔をする。機密を流出させるおかしな場面にしか見えなかったんだろう。
「士道さん、だったらなんでそんなことをしたんでしょうか?」
肘をついて士道の顔を見つめる。士道はこの意図がわかるだろうか?
「七罪に秘密を話して何かメリットが?」
「あるんですよ。七罪の意図を考えたら」
ただ答えを言っても面白くない。少し誘導しようか。
「七罪は今回取材という体をとっていました。本気でコラムを書きたいわけでもないでしょう。何かしら別の意図を隠すカムフラージュと考えるのが自然です」
まあ、その割にはクオリティの高いサイトだったけど。それは七罪の真面目な性格とセンスによるものだろう。
「何かって言ったら、精霊やラタトスクのことか?」
士道もそれはわかったのだろう。僕たちをただの中学生だと思っていたら、そんなことはしない。
目的を持って近づいたなら、僕たちの裏を知ってる。
「目的は知りませんし、どうやって僕たちに辿り着いたのかもわかりません。ただ、七罪は僕たちに何かを期待している。そこにそれっぽい情報を流してやればどうなりますか?」
ここまで来たらわかって欲しいな。精霊攻略も既に後半に差し掛かってるんだし。
「七罪は愛と琴里にまた近づいて来るってことか?」
「正解です。別に見つけに行ってもいいですけど、あっちから近づいてくれたらそれに越したことはない」
七罪は狩人のつもりで近づいてくるだろう。実際は狩人に狙われてるというのに。
「言葉をあいまいにぼかしたのは七罪を警戒させないためだろう。警戒心の強いあの子はわざとらしいと疑いを持つからね」
令音さんが補足を入れる。流石、ラタトスクで琴里のサポートをやってるだけある。
「二人とも、そこまで考えてたのか」
士道が口を開けて呆けている。士道は主人公であっても、策略家ではないからね。
「少しは腹芸を覚えて欲しいものだけど。まあ、士道にそこまで期待しないわ」
琴里が辛辣な評価を下す。もう少し素直になれば士道から誤解されないのに。
「それが士道さんのいい所でもあるでしょ」
士道は女の子を救うヒーロー。ダーティーな要素は合わない。
「さて、七罪はどういう風に動いてくるだろうか?」
令音さんが映像の中の七罪を見ながらあごに手を当てる。予想しているんだろう。
「あんたならわかるんじゃない?」
琴里は挑発してくる。でも、裏の意図が読めないほど馬鹿じゃない。
「わかるけど、敵の前で情報晒せって言うの?」
琴里は七罪を奪い合う敵。ここで七罪の動きを予想するのは情報を与えるに等しい。
「まあいいよ。ここは格の違いってものを見せてあげようじゃないか」
琴里たちに情報アドバンテージがあった所で関係ない。そんなものが意味ないくらい上手く立ちまわればいいだけだ。
「七罪はもっと明瞭な情報を欲しがってくる。そのため、身近な誰かに変身してくるだろうね」
七罪はこれからスパイをして来る。僕たちからしっかりと情報を抜くために。
「残念だな~。今の僕だと、勝負にならないから」
昔は七罪の変身見破るの手ごたえあったんだけど。今は
「そういうすぐ調子に乗るところ、七罪に似てるわね」
琴里は顔をひくつかせながら皮肉を投げた。僕の態度が気に入らなかったんだろう。
「おほめに預かり光栄だよ、琴里」
七罪に似ていると言われると嬉しくなる。それがたとえ欠点であっても。
何があっても七罪をもう一度堕としてみせよう。琴里の手を押しのけて。
♦♦♦
鳶一愛と五河士道。こいつらの周りにいる女のプロフィールを並べる。
地道に一人ずつ足で調べ上げたから大変だったわ。これだけいると流石に一苦労ね。
「潜り込むなら、五河士道の家からかしら」
この家には大量の女が入り浸ってる。それこそ、夜でもないと家族以外の女が誰かいるくらいに。
それだけ沢山いれば、誰か一人入れ替わっていてもばれないでしょう。
「さて、誰に変身しましょうか?」
できるだけ警戒心がなくて入れ替わりやすいやつがいいわね。変身してる間、本物は
プロフィールにくっつけた写真を見比べる。夜刀神十香、五河四糸乃、五河琴里、八舞耶倶矢、八舞夕弦、誘宵美九、鳶一折紙、村雨令音。
「一番アホっぽい顔をしている奴は……こいつかしらね」
一枚を取って残りを
早速、そいつの家に向かう。入れ替わりは簡単に終わったわ。
それにしても、私のことを歓迎していたように見えたんだけど。頭のおかしいやつだったかしら?
攻略対象がわざわざ近づいて来てくれるんですよ。タネの割れた能力で。七罪かいわいそう。
今回の裏話は七罪の偽名について。
自分の名前をもじって偽名を考える七罪さん。今回は七罪→ナッツ(nuts)→木の実という変化をしています。
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