ヒロインは七罪   作:羽国

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新年あけましておめでとうございます。
去年は初めてのコミケ参加しましたが、とても楽しかったです。
落ち着いたら戦利品をしっかり楽しみます。


折紙の勝利

 精霊に変身して士道の家に潜り込んだ七罪。その正体を見破り、天使の檻に閉じ込めた。

 今七罪は絶滅天使(メタトロン)に囲まれている。袋のネズミだとわからない彼女ではないはず。

 

「ちっ。やっぱり、わけわかんないわね。鳶一折紙」

 いつもと違い、モデルのような姿に変身している七罪。どうしてそのようなことをしているのか?

 

「折紙、なんでわかったのよ?不甲斐ないけど、私は七罪がいることにすら気づいていなかったわ」

 琴里が悔しそうな顔をしている。彼女も事前情報は聞いているはずだけど、やはり気づいていなかった。

 

「敵意を感じ取れなければ生死にかかわる。今回は運よく七罪の視線を感じ取った」

 レーダーや随意領域(テリトリー)による感知も当然重要。しかし、それだけでは見逃す脅威もある。

 七罪は隠密、侵入にかけては群を抜いている。おそらく、ラタトスクの警戒すら潜り抜けてみせた。

 だからこそ、本能に近い部分が役に立った。

 

「後は簡単。一人ずつ本物かどうかを確かめただけ」

「そんな簡単に見分けられるわけないでしょ。私が全力で成り代わったのよ」

 七罪が檻の中で文句を叫ぶ。どうやら、自分の演技力に相当な自信があったよう。

 確かに彼女の演技力は一流だった。事前情報がなかったら、見破ることは難しかった。

 

「十香の食欲は誰にも真似できない。それこそ、胃の中にブラックホールでもなければ」

「?」

 十香本人は首をかしげているが、他の精霊たちは納得している。そこだけは七罪でも不可能だと判断した。

 

「十香と同じ量食べたらお腹がはち切れちゃうよね~」

 そう、耶倶矢の言う通り。

 十香と同じ量食べるのは物理的に不可能。そもそも、どうして十香が問題ないのかわからない。

 

「琴里も戸惑いなく兵装の話をしていた。彼女も除外できる」

 いくら七罪でも、ラタトスク本部にしかない情報を調べるとは思えない。

 

「いくら七罪でも、ラタトスク本部に侵入するのは不可能でしょ」

 琴里が薄ら笑いを浮かべている。しかし、その自信は酷く空虚。

 

「…………」

 前の世界で実施済みと聞いている。おそらく、そこまでするのは時間がかかり過ぎるだけ。

 わざわざ腰を折る必要もない。黙っておく。

 

「夕弦と耶倶矢に話した内容。これは前の世界の記憶。彼女たちも七罪なら知ることができないことを話している」

 私たちが士道と湯舟を共にしたのは前の世界だけ。こちらの世界では、そのようなことはしていない。

 

「そして、四糸乃。彼女にしかできない技能を難なく実践していた」

 よしのんは四糸乃の中にある別人格が腹話術の形で出ている。仮に七罪が化けていたとしたら、きっと別の手段で喋らせる。

 四糸乃の喉に触れたけど、間違いなくよしのんの言葉と連動していた。四糸乃がよしのんを喋らせているのは間違いなかった。

 

「どういうことですか?」

 ただ、それを本人に悟られるわけにはいかない。よしのんが人形だと言われると、彼女は精神が不安定になる。

 

「推測。おそらくマスター折紙はよしのんの可愛さから見抜いたのかと」

「そうだよね~。よしのんのかわいさは真似できないよね~」

 幸い、夕弦がフォローを入れてくれた。流石私が指導しただけある。

 

「そして、美九に化けたあなたは本人がしない話を繰り返した」

 美九は七罪のことをよく知っていて、愛は女の子になることができた。それを知らなかった七罪に勝利はなかった。

 

「それに、美九にしてはセクハラが控えめだった」

『あ~』

 全員が口を揃えて納得する。本物の美九は隙を見て他の精霊に抱きつこうとする。

 さっき迫った拍子に抱きつくくらいはしていないと不自然。

 

「なんなのよ、前の世界って。頭おかしいんじゃないの⁉」

 七罪はこちらをにらんでいる。残念ながら、相手が悪かった。

 

「私はお義姉(ねえ)ちゃん。義妹(いもうと)に負けることなんてあり得ない」

「こいつ本当に言ってること理解できないわね。誰が誰の妹だって?」

「あなたが私の」

 全く嘆かわしい。世界が変わった程度でそんな風になってしまうだなんて。

 

「いや、折紙って頼もしいんだけどさ」

「七罪の方が不憫になって来るわよね」

 耶倶矢と琴里が変な視線を向けてくる。どうして味方にそんな目をされるのか、理解に苦しむ。

 

 視界の端で七罪の手が動くのを捉えた。会話の隙を見て何かしようとしている。

「七罪、逃げることも天使を使うことも推奨しない。もし何かしたら、手足に穴が開くことを覚悟してもらう」

 それに先んじて七罪の足元に光線を放つ。床が焦げ小さな穴が開く。

 

「……ふん、わかったわよ」

 七罪は絶滅天使(メタトロン)を見て両手を挙げた。表向きは降参の姿勢を見せた。

 

「七罪さんがかわいそうです」

「折紙ちゃん、相手は七罪ちゃんなんだしさ~。もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃな~い?」

 四糸乃とよしのんが私の行動に心を痛めている。正直、私もこんなことをしたくはない。

 

「七罪は油断のならない相手。手心を加える余裕はない」

 今の七罪は味方じゃない。優秀な味方ほど、敵に回ったら恐ろしい。

 七罪には少しでも隙を与えたら全員を相手どるポテンシャルがある。

 

「だったら僕から提案があるんだけど。どうかな?」

 部屋の扉を開けて入ってくる人物が一人。ちょうど一時間が経過した。

「鳶一……愛」

 私の愛する弟が到着した。七罪が警戒に満ちた目で愛のことを見ている。

 

「安心して、七罪。取って食おうってわけじゃないから」

 あの子は七罪を見てにやりと笑った。何か考えているみたい。

 ここからはあの子に任せる。私も十分に満足したことだし。

 

♦♦♦

 

 みんなの視線がこっちに集まっている。図らずも注目されるタイミングで入ってきてしまったようだ。

 何が起こったのか詳細は知らない。けど、大方予想はできる。

 お姉ちゃんの方を見つめる。得意げな顔をしているし、七罪に勝ったんだろうな。

 

「愛、あんた何を考えてるの?」

 みんなを代表するように琴里が水を向ける。琴里にとっていい展開じゃないのは予想できてるんだろう。

 

「僕は七罪を攻略することしか考えてないよ」

 何があろうと、誰が求めようと僕は七罪をものにする。最近はそのことしか考えていない。

 

「あんた、私をどうするつもり?」

「捕虜としては最高の扱いをするつもりだけど?」

 七罪はこっちをにらみつけている。これは好感度低そうだな。

 モルモットにでもすると思ってるのかな?誰よりも丁重に扱うつもりなのに。

 

「七罪を放置することはできないよね。かと言って、七罪を拘束し続けるのも難しい」

 当初の作戦では何か理由をつけて一緒にいる時間を作るつもりだった。取材は都合いい建前だったけど。

 その思惑はきれいさっぱり砕け散った。七罪の変身見破ってるし、ガッツリ天使を見せちゃってるし。

 

 まあそうなったらそうなっただ。この状況は利用できる。

「だから、七罪のことは我が家で預かる。僕とお姉ちゃんが二十四時間体制で見張りながら」

 

「へ~」

「な⁉」

 それに大きく反応したのが二人。七罪本人と琴里だ。

 因みにお姉ちゃんは腕を組んでうなずいている。強い。

 

「わざわざ獅子身中の虫を飼おうっての?」

 七罪が挑発的に言い放つ。好きがあったら襲ってやるってことだろうね。

 

「好き勝手できると思う?精霊二人を相手に」

 一時的に封印を開いて身体に霊力を流す。禍々しい力が身体の中で渦を巻いている。

 最恐の天使が姿を現す。杖の渦巻く白と黒の螺旋が怪しく輝く。

 

「そ、それは⁉」

 七罪が目を見開いて驚く。体の負担を無視して膨大な霊力を流した甲斐はあった。

 

「僕の天使、断罪覇王(アズラエル)。どう?強そうでしょ?」

 七罪の前で掲げてみせる。世にも恐ろしい、始原の精霊の天使を。

 この天使があれば世界だって滅ぼすことができる。そんなことしないけど。

 

 僕も本当は天使なんて使いたくない。僕自身の残り時間がとても短いから。

 ただでさえ、断罪覇王(アズラエル)を使わないといけない作業も残ってるのに。無駄遣いはできない。

 

 天使を握ると心地よさを感じてしまう。危ない薬でも使っているかのように。

 余裕のある顔を崩さずに頑張る。男の姿でも天使を出せるってことは、もう本当に完成しかけなんだろうな。

 

「そうか、あんただったのね。この前のアホみたいな霊力は」

 七罪が悔しそうな顔で僕を見つめる。なるほど、それが七罪の狙いだったのか。

 

「僕が監視する。その意味わかる?」

「ライオンと一緒の檻に入れられた方がまだマシね」

 

「でも、七罪を無罪放免にはできない。これが嫌なら、五体満足にはできないかもしれないけど」

 スパイの行く末なんてどこも一緒。良くて捕虜、悪ければ研究者の玩具だ。

「あーもうわかったわよ。あんたと一緒に生活すればいいんでしょ」

 七罪はとても嫌そうな顔で了承した。これで一緒に生活する時間は稼ぐことができた。

 

「あんた、いくらなんでもそれはずるいでしょ」

 異議を唱えるのは琴里だ。今回、七罪をかけて勝負している相手でもある。

 

「私が見つけて拘束した。どうするかは私が決めるべき。そう思わない、琴里?」

 僕と琴里の間にお姉ちゃんが入り込む。珍しく、とてもまともなことを言っている。

 

「ちっ」

 琴里もこの言い分には黙り込むしかないようだ。

 

「安心してよ。別に七罪を閉じ込めようってわけじゃない。ちゃんと外にも出すから」

「引率つきを口説けって言うの?」

 琴里が苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 僕自身の手で琴里と圧倒的な差をつけるつもりだったのに。先にお姉ちゃんが叩き潰してしまった。

 

「ちょっと待ちなさい。あんたたちの家は令音の家でしょ。令音が許可を出すの?」

 琴里が苦し紛れに懸念点を出す。普通なら重大な問題だけど、こと僕たちの家に限ってはそうならない。

 

「大丈夫だと思うけど。まあ、一応許可取っておくか」

 その場で電話をかけて連絡する。

『どうしたんだい、愛?こんな急に』

 令音さんは当然仕事中。よくこんなすぐ出てくれたものだ。

 

「七罪を連れて帰りたいんだけどいい?」

『……それはもう七罪を攻略したということかい?』

 令音さんは少し考えていた。流石の令音さんでも状況について行けてないか。

 

「いや、お姉ちゃんが七罪の変身見破って捕まえた。家で攻略しようと思って」

『なるほど、実に簡潔な内容だ。後で詳細を説明してくれ』

「それは勿論」

 令音さんの困ったような声が聞こえる。いろいろ呑み込んだんだろうな。

 

『ふむ……連れて帰るのは別に構わない。私たちの家以上に七罪に相応しい場所などないだろう』

 少し驚いていたけど、話はとんとん拍子で進んでいく。令音さんも結構乗り気だ。

『君がしっかりとエスコトートしたまえ』

「わかったよ」

 それだけ言って話は終わった。実にスマートな会話だった。

 

「問題ないって」

「なんでよ⁉何あっさりと精霊を家の中に住まわせようとしてるのよ」

 琴里が絶叫している。今の状況を鑑みて行って欲しい。

 

「あの家、何人精霊が住んでると思ってるの?」

 僕自身精霊だし。お姉ちゃんも精霊だし。

 そもそも令音さん自身が精霊だし。琴里は令音さんの正体知らないけど。

 

「既に手遅れ」

 お姉ちゃんが崩れ落ちた琴里に止めを刺した。

 

「もしかして、ジュラシックワールドより危険な家に連れ込まれかけてる?」

 七罪が戦々恐々としている。

 そこまで怖くないって。ただ、世界を滅ぼせる精霊二人が同じ家に住んでるだけで。

 

「ちょっと、せめて手を離しなさい」

「ダメだよ。そうしたら逃げるかもしれないじゃないか」

 七罪は無事ドナドナした。明日は歓迎のパーティをしないと。

 

♦♦♦

 

 DEMインダストリー、日本支社における私の居室。最早第二の執務室となりつつある。

 この国は、この天宮市という町は非常に面白い。《プリンセス》を始めとする精霊たち、ラタトスク機関、そしてイツカシドウ。

 この街では次々にわくわくするようなことが起こる。三十年間一度もなかったようなことが。

 運命の神とやらもなかなか粋なことをする。先日は素敵なプレゼントを枕元に届けてくれたことだし。

 

 そして今日も新たな報告が私の胸を躍らせる。

「ほう、再びあの霊力が観測されたと?」

「はい、こちらが観測機の記録です」

 ノルディックブロンドの髪をなびかせるスーツを着た少女、エレンが資料を出す。それをしっかりと確認する。

 

「《デウス》に迫るような膨大な霊力。しかも、隣界の属性のそれだ。――素晴らしいじゃないか」

 かつて私たちが顕現させ、取り逃がしてしまった愛しの精霊。彼女に勝るとも劣らない、実に興味深い相手だ。

 やはり、十四年前のクリスマス。始原の精霊が召喚されていたのだろう。

 

「およそ一か月前。十一月十日に、一度だけ観測された霊波です」

「ああ、よく覚えているよ。《アポクリファ》と名付けたね」

 期待と願いを込めて名前をつけた。

 《デウス》と系統を別にする精霊であれと願った。異端(アポクリファ)と。

 

「それが、今日イツカシドウの家の方から確認できたと?」

「おっしゃる通りです、アイク」

 

 エレンは努めて冷静に応えた。しかし、私の目には炎が揺らいでいるように見える。

 悲願を追い求め、長く待ち続けた日々。その苦労が報われるかもしれない。

 私たちを拒絶した世界を塗り替える。その願いを叶える鍵はすぐそこまで。

 

「フフフッ。イツカシドウ、やはり君は面白い」

 私から《デウス》を掠め取った少年。私自らの手で殺した少年。

 そして今、同じ顔で私の計画を回し続ける彼だ。この三十年、こんなに面白いことがあっただろうか?

 

「エレン、ゲーティアを使って構わない。燻り出すんだ」

 精霊の霊力がこんなにもきれいさっぱりと消えている。これはつまり、隠れているということだ。

 《デウス》と同じように非常に高い隠蔽能力を持っている。見つけることは困難だろう。

 しかし、イツカシドウと近しい関係にあることは予想できる。

 

「イツカシドウに近しい人間をかわいがってあげるといい。精霊の一人二人なら、殺してしまっても構わない」

 それで出てくるなら儲けもの。出てこなかったとしても、霊結晶(セフィラ)が手に入れば特に言うことはない。

 ああ、もしかしたら誰か一人くらい反転してくれるかもしれないな。もしそうなったとしたら、非常に愉快なことになる。

 

「久しぶりに暴れてくるといい、エレン」

「承知しました、アイク。ここに《アポクリファ》の首を用意しましょう」

 エレンは嗜虐的に笑った。彼女なら世界最強の魔術師(ウィザード)に相応しい活躍を見せてくれることだろう。




ということで安定の折紙さんです。何だこの人?ただ喋るだけで面白い。

今回の裏話は折紙ボディについて。
士道を魅了する鍛え抜かれた肉体――のことではありません。愛くんの身体の改変が歴史改変で変わっていないなら、折紙も同じなんですよ。折紙は天使、霊力が使いやすい特性を持っています。

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