長いこと書く書く詐欺をしていた外伝もここでまとめる予定です。
最初は士織ちゃんに焦点を置いたパステルチャイナのお話になります。お楽しみいただければ幸いです。
https://syosetu.org/novel/398063/
馬鹿みたいに強い精霊のことを調べるために潜り込んだ私。そして何故か、その危険生物と一緒に生活させられてるわ。
深入りし過ぎたのがミスね。周囲を探って終わらせるつもりが、いつの間にか奥まで誘い込まれてた。
「七罪、朝ごはんはパンでいい?」
当の本人は食パンにバターを塗りながらこっちを見ている。ただの中学生だと思ってたのに、こいつ自身が精霊だったなんて。
元AST隊員のエリート、鳶一愛。でも、私から見れば変な子供でしかない。
「別に何でもいいから」
適当にあしらっておく。私が何を言ってもこいつはなぜかニコニコしているのよね。
不気味ったりゃありゃしないわよ。まあ、私の魅力に鼻を伸ばしてるのかもしれないけど。
「七罪、そんな態度を取るものじゃない。未来の旦那様に対して」
そしてもっと意味の分からないこいつの姉、鳶一折紙。何故かこいつは意味の分からない前提で話をする。
「誰が誰の旦那だって言うのよ?」
「愛があなたの旦那様」
ほら、これ。この家の人間は私と鳶一愛がくっつく前提。
誰がこれとくっつくのよ。あり得ないでしょ。
「折紙、止めなさい」
会話に入ってきたのはこいつらの保護者、村雨令音。頭のおかしい姉弟と比べてまとも――だと思ってたのに。
「教育は本人が進んで参加しないと意味がない。その気になってからでいい」
「なるほど、理解した」
前言撤回。そんな訳なかったわね。
この狂人たちを育てた女よ。まともな道理がないわ。
「それで、七罪のことはどうするつもりなんだい?」
「ん~、まあ特に考えてないけど。一緒にいないといけないし、いつものに連れていくつもりだよ」
村雨令音と鳶一愛が何か予定を立てている。立場からして私は受け入れるしかない。
でも、こいつらの日常って何?サバトでもするの?
「お姉ちゃんも今日は一緒に行こう。嫌いじゃないでしょ?」
「わかった、一緒に行く」
訳も分からないまま家族の外出に付き合わされる。半強制的に霊力で適当に服を用意させられて。
まあ無難に毛皮のコートでいいでしょ。この姿なら、奇抜な服でも着ない限り変にならないわ。
家族連れと一緒にいるのが一番変な要素ね。
「あんたたち、一体何をしようってのよ?」
恐る恐る聞いてみる。嫌な予想を頭に巡らせつつ。
「何って、いつものスイーツショップ巡りだけど?」
鳶一愛は何げない顔で言った。
♦♦♦
電車を乗り継いで十数分。辿り着いたのは少し大きいログハウスのような店。
扉を開けて中に入ってみると持ち帰り用のクッキーやマドレーヌが並んでいるわ。そして、その奥にはケーキの入ったショーケースが。
「本当にただのスイーツショップね」
来るまで嘘じゃないかと思ってたんだけど。
「最初からそう言ってるじゃん」
鳶一愛は呆れたような顔で言っている。これじゃあ私が非常識みたいじゃない。
悪いのは常識が通じないこいつら家族でしょ。
「精霊だから人らしく暮らしちゃいけない。そんなことないでしょ?」
その言葉は酷く落ち着いていた。思わず背筋がぞくりとするほどに。
そのまま私の横を通り抜け、ショーケースに向かう。
「どれにしようかな~」
既にあいつはショーケースの中のケーキを楽しそうに眺めている。その顔はあどけない子供のものに戻っていた。
「何なのよ、あいつは?」
力だけじゃない。あいつには得体のしれない怖さがある。その背中を見ながら目を細めた。
テーブルについて一息。そして、数分後にはケーキがずらずらと並んでいく。
「何この量は?」
こいつらは迷うそぶりもなくバイキングを注文していたわ。
でも、机が埋まりかけるほど一気に注文って。馬鹿じゃないの?
「……ふむ、確かに少ないが。一度に注文できるのはこれが限界だからね」
村雨令音はアホなことを言ってる。こいつらの辞書に常識って言葉はないのかしら?
「多すぎるって言ってるのよ。こんなに食べきれるの?」
バイキングは大抵残したら別料金が出るでしょ。見栄や考えなしでそんな馬鹿なことするなんて。
「令音さんはこれ全部一人で食べられるよ」
鳶一折紙があっさりと言った。こいつが、一人で?
もしかして夜刀神十香と同じようなタイプだったりするのかしら。無限に食べることのできる人外タイプ?
「むしろ、食べさせないようにするのが大変で」
「いいじゃないか。週に一回の楽しみくらい」
「それは普段おやつタイムを設けてない人が言ってよ」
鳶一愛と村雨令音は親子の立場が逆になったようなやり取りをしているわ。
「はあ、好きにして頂戴」
自分の手元にあるモンブランへフォークを突きさす。こいつらの相手するよりは食べた方がマシね。
「あっ、美味しい」
こいつらを無視する口実として口に放り込んだケーキ。その美味しさに少し目を見開く。
栗の甘みが優しく舌に馴染んでいく。もったりとしたクリームの食感が心地いい。
「ねっ、美味しいでしょ?ここは僕が選んだんだから」
「そ、そうなのね」
少し興奮したように机に身を乗り出す鳶一愛。まるで褒められた子供みたいに。
「いや~、いい店を探すには事前調査が大事なんだよ。行ける数は限られてるんだから、しっかり吟味しないと」
鳶一愛はフォークを回しながら得意げに語っている。
「しかし、情報が出回っていない店にも当たりはあるからね」
「それはそれで色々と探す手段があるよ。やっぱりコミュニティの力は強いんだから」
調子に乗って語ってる。こういう場面は子供なのね。
化け物だけど、中身は結構人間らしい。少なくとも、監視に向いてるようなタイプには見えない。
ケーキを食べながら改めてこいつのことを考え直す。
冷静に策を考えて実行する能力。そしてあの馬鹿みたいな霊力。
こいつの隙を見つけるのは難しいって思ってたけど、案外そうでもないかもしれないわ。
十中八九真っ向から戦ったら私が負ける。
元々私は戦闘が得意なタイプじゃないもの。あんな馬鹿みたいな霊力放つ天使に勝てるわけない。
でも、逃げるだけなら不可能じゃないかも。
すぐに調子に乗る性格。そこを利用すれば……。
「まあ、ひとまずは様子見ね」
焦って動いたらどうなるかなんて目に見えてる。今は我慢する段階よ。
動くのは冷静に状況を見極めてから。
♦♦♦
「令音さん、あの店どう思う?」
「ふむ、悪くない出来栄えだった。十香を招待するのはあの店でいいかもしれないね」
鳶一愛と村雨令音は感想を語り合っている。かなり真剣な表情で。
なんでこんなことでそんな真剣になれるのよ。馬鹿じゃないの?
鳶一愛のことがわからない。人間らしいとは思えるけど、軸が見えない。
私が逃げるため、これからも快適で安全な生活をするため。こいつの情報は重要だっていうのに。
仮にこいつの真似をしろって言われても無理ね。考えてることが意味わからないから。
まるで別の人間をドッキングさせたような性格してるのよね。冷静な大人と無邪気な子供が同居してる。
「気になる、愛くんのこと?」
振り返るとそこには鳶一折紙が立っていた。腰の後ろで手を組みながら私を見ている。
長い髪の奥から覗くサファイアの様な瞳が細められる。口元も緩んでいる。
困っている他人を見て随分楽しそうね。
「別に。気持ち悪い子供だと思っただけよ」
こいつの言うことを素直に肯定するのも癪に障る。とりあえず否定しておきましょう。
才能に酔いしれて調子に乗ってる子供。だと思うんだけど、それだけだと言い切れない気持ち悪さがある。
「ちょっと変わってるからね~」
鳶一折紙は困ったように笑ってる。こいつ、富士山をちょっと高い山って言っちゃうタイプかしら?
「ねえ、あんた何かキャラが違わない?」
さっきまでの頭のおかしいことしか言わなかったこいつと違う。鳶一愛を変わっていると言えるだなんて。
それに雰囲気も。なんというか、ちゃんと人間味がある。
表情が柔らかいしちゃんと感情の動きが見える。いきなりロボットが人間になったみたいで不気味ではあるけど。
「今日は甘いものを食べる日だからね。こっちの私の方がいいと思って」
「こっちの私?」
こいつ多重人格だったかしら?調べた範囲ではそんなことなかったと思うけど。
「ん~、説明しにくいな。今の七罪ちゃんには前の世界の記憶がないからね」
鳶一折紙は困ったように笑った。こいつらは昨日からずっとそれね。
「何なの『前の世界』って。パラレルワールドだとか言いたいの?」
「七罪ちゃん、察しがいいね。だいたいそんな感じだよ」
「…………」
冗談のつもりだったんだけど。そんな漫画みたいなこと、本当にある?
「私は前の世界とこっちの世界、両方の記憶がある。だからちょっと変わってるように見えちゃうんだよね」
こいつの頭がおかしいだけなのか。それとも本当にそんなことがあったのか。
正直、前者を押したいんだけど。こいつら精霊だから、頭から否定することはできないのよね。
パラレルワールドを作る能力があるかって言われたら、あるかもしれないわね。
「それで、その前の世界とやらで私のことを知ったっての?」
とりあえず話を合わせておきましょう。勝手に吐き出してくれる情報を無視する理由もないわ。
「そうだよ。愛くんと七罪ちゃんはとっても仲がよかったんだから」
「こいつとね……」
信じられないわね。
やっぱりこいつの頭がおかしいだけなんじゃないかしら?仮に本当だとしても、洗脳されていたとか。
「それで、あいつも前の世界の記憶とやらがあるから変なの?」
鳶一愛に目線を向ける。相も変わらず、村雨令音としゃべり続けている。
「う~ん、それは少し違うかな。愛くんがああなっちゃったのは別の理由。前世がある、らしいから」
「何それ?どれだけ複雑怪奇な存在なのよ」
正体に近づいたと思ったのにまた遠のいた。
前世って。この期に及んで考えること増やさないでよ。
言い方からして前の世界とは別なんでしょ。多分、ネット小説とかでよくある転生的なやつ。
「誰があんなのに関わりたいのよ?厄ネタの宝庫じゃない」
精霊で、前世があって、本人もすこぶる変人。あんなのを好きになる奴の顔が見てみたいわ。
「あはは、運命の神様に好かれてるみたいだから」
鳶一折紙自身苦笑いしてる。どう見ても嫌われてるでしょ。
「でも、大丈夫。愛くんのいい所、本人がちゃんと教えてくれるから」
「…………」
私わかってますって態度が気に入らないわね。早くこいつの妄想だって教えてやらないと。
♦♦♦
「ねえ、令音さん。ちょっと寄りたいところがあるんだけど」
「構わないさ。どこへ寄りたいんだい?」
「ここなんだけど」
「……いいね。私も見ておきたいものがある」
私たちの前を歩く鳶一愛と村雨令音は新たな目的地を増やそうとしている。
「七罪とお姉ちゃんも大丈夫?」
鳶一愛は笑顔で振り返って私たちに意見を求める。なんでこいつは
「うん、大丈夫だよ」
「好きにすればいいんじゃない?」
家の中だろうが外だろうが変わらないし。別に何でもいいんだけど。
今まで私たちがいた飲食店が立ち並ぶ通りから外れる。家電やら電子機器やらが売られているようなビル街へ。
その中でも一番大きい建物に入って、エスカレーターを登っていく。その先にはパソコン関係の専門店があったわ。
「何よ。マウスでも買い替えに来たの?」
こいつは自前のデスクトップを持ってるませた中学生。買ってからそんなに時間経ってなさそうないいマシンだったわ。
買うなら周辺機器ね。ああいうものはパソコン本体より先に寿命が来ることもあるから。
「違うよ。ここには七罪のパソコンを見繕いに来たんだ」
「は?」
何度目かわからない疑問の声が出た。なんで私のパソコン?
「だって七罪もパソコンいるタイプでしょ。我が家の人間は全員持ってるし」
「そもそも、なんで一つの家にそんな数あるのよ?」
普通、家に一つとかじゃないの?個人持ちを買うにしても、もうちょっと成長してからとか。
「僕の趣味、プログラミングだから。ある程度のスペックないとフリーズしちゃうんだよね」
頭をかきながら笑う鳶一愛。
「高解像度のカメラを使うなら、高スペックのパソコンも買わなきゃなんだよ」
さっきと変わらない表情で変なことを言う鳶一折紙。
「彼らは自分の働いた給料で買っている。特に言うことはない」
こいつらの監督ができてるのか怪しい村雨令音。
「まあ、あんたたちがパソコン持つのは好きにすればいいわ。でもなんで私のパソコンを買おうとしてるの?」
仮にも捕虜でしょ?なんでそんな相手に情報収集の手段を与えようとしてるのよ。
「七罪って結構な時間パソコン触る人種でしょ?ないと辛くない?」
「なんで知ってんのよ?」
いや、確かにネトゲして延々とパーティに入れず、ソロで最高レベルに到達したことあるわよ。遊び半分で学校をぼろくそに叩く掲示板立てて、変な同意で埋め尽くされたことも。
不倫デートしてる有名人特定して、週刊誌に流したこととか。思い出して悲しくなってきたわね。
「これからずっと一緒に住むのは変わらないし、どうせなら早い方が良くない?」
「あんたら本当にいつもそれね」
なんで私がこいつらの家に住み着くこと確定してるのよ。絶対逃げてやるんだから。
「グラボもつけようと思ってたのに」
踵を返そうとした足が一瞬止まる。グラボがあれば、ネカフェのパソコンと違って処理落ちしないわよね。
……いや、なに考えるのよ。
「金の無駄なんてしてるんじゃないわよ」
どうせ一か月もしないうちに漬物石になるんだから。
「仕方ないね、令音さん。フラクシナスから余ってるノート借りてきてくれない?」
「……いいだろう。これもラタトスクの活動だ」
私を無視して話を進める鳶一愛たち。誰がこいつらと家族になるもんですか。
私のことを考えてるのは理解できるけど、有難迷惑なのよ。
♦♦♦
あれから買い物をしばらく続けて、夕食を取って帰って来た。本当に疲れる一日だったわ。
今は夜の十一時。鳶一姉弟に挟まれて川の字で寝ているわ。
「なちゅみ~」
そして、私は鳶一愛の抱き枕になってる。胸に顔をうずめながら気持ちよさそうに寝てるわね。
やっぱりこいつも男なのよ。この魅惑のボディには敵わない。
「これで監視になってるのかしら?」
狸寝入りだったら役者になれるわよ。むにゃむにゃ言ってる。
「問題ない。私があなたを見張っている」
後ろから小さい声がした。振り向くと鳶一折紙が薄眼で私を見ている。
寝る時間をずらして交代で見張ってるのかしらね。寝込みを狙うのも止めておいた方がよさそう。
鳶一愛の手を外して起き上がる。本当に鬱陶しいわね。
「どこへ行くの?」
「喉が渇いただけよ。それくらいいいでしょ」
「……わかった」
鳶一折紙はついて来なかったけど、扉の隙間からこっちを見ている。これが隙だなんて思えないわね。
何かあれば即座に対応できる位置。あいつの天使なら、キッチンに攻撃するくらいわけないでしょ。
「ん、どうしたんだい七罪。眠れないのかい?」
テーブルには村雨令音が座っていた。コーヒーを飲みながら本を読んでいる。
「少し喉が渇いただけよ」
鳶一折紙と同じように適当に応対する。そんなのどうでもいいけど、帳尻合わせくらいはしないと。
適当にコップを取ってパックのお茶を準備する。お湯が沸くまで地味に暇ね。
村雨令音が本をめくる音だけが静かな部屋に響く。
ちょっと待って?この状況ってものすごいチャンスじゃないの?
確かに私の行動は監視されている。何かしたら、すぐに鳶一姉弟が飛んでくる。
でも、それまでにほんの一瞬タイムラグができる。その間にこの女を人質に取ることができれば。
ちらりと視界の端で隣に座る相手を捉える。あの姉弟はなぜか完全に油断しているわ。
下手な血縁よりも縁が深いのは今日だけで十分わかった。
「止めておきたまえ。それは悪手だ」
村雨令音はこちらを見ることもなく呟いた。その言葉に背筋がぞくりとする。
「何を言ってるの?そんなこと考えてるわけ……」
「君のことを傷つけたくない。私も、君のことを好ましく思っている」
コーヒーのカップを置いて、クマの刻まれた目でこちらを見つめる。瞳の奥の鈍い光が私を射貫く。
「ただ、君が武器を向けたなら話は別だ。私も武器を抜かねばならない」
相手はただの人間で、私がその気になれば一瞬でどうにでもできる。そのはずなのに、悪寒が止まらない。
「互いにとって利のない選択。私はそう思うよ」
こいつを攻撃したら私が終わる。そう本能が警鐘を鳴らしてる。
「……ふん、ここに居座ってあんたの金を浪費するのも悪くないかもね」
わざわざリスクを冒してまで動く必要はないわ。どっちにしろ、化け物が見える範囲で見守ってるんだから。
「ふっ、安心するといい。君一人分くらい稼いで見せよう」
村雨令音は余裕のある顔で笑ったわ。本当に、こいつら家族は何なのよ。
「変な空気にしてしまったね。お詫びと言っては何だけど、君の質問に答えようじゃないか」
用意していたお茶を持って村雨令音の前に座る。こいつらは本当にぺらぺらと喋るわね。
私にとっては都合がいいから文句はないけど。妄言さえ聞き流せばいいのよ。
「どうしてあいつら姉弟の面倒見てるのよ?」
興味が半分、脱出に向けた情報収集が半分。
こいつらの関係はこいつらの正体と多分関係している。聞いておいて損はないはず。
「……全ての始まりは十五年前のクリスマスだ。あの日、二人目の精霊が生まれてしまった」
突然、村雨令音は語り始めた。歴史を語るように。
「二人目?何言ってるのよ?」
精霊はどう見ても二人以上いるじゃない。少なくとも、この家に三人。
それとも、当時はめちゃくちゃ少なかったってこと?
「君たち、子供の話じゃない。世界のマナを集めてできた、本当の意味での精霊のことさ」
「意味わかんないわね」
魚の養殖と天然みたいなもの?こいつ、私の質問に答える気ある?
「油断していた。まさか、『彼女』が精霊術式を使うだなんて思いもしなかった」
村雨令音は一人で勝手にしゃべり続けてる。私がわかってないのも無視して。
「『彼女』は呪いの言葉とあの子を残して消え去った。私は今も『彼女』に縛られ続けている」
村雨令音は顔を横に向ける。そこにはさっきまで私が寝ていた部屋がある。
「鳶一愛が、その精霊ってこと?」
あの部屋には鳶一姉弟が寝ている。ヤバいのはどっちかって言われたら、弟の方でしょ。
「そういうことだ。私はあの子を見張るため、あの子の親代わりをしている」
こいつが人間じゃないのはほぼ確定ね。明らかに変な話をしているし。
「思ったよりも冷静な理由が出てきたわね。てっきり、もっと甘い理由が出てくるものだと思ってたけど」
「君には、私たちがそう見えたのかい?」
村雨令音の瞳は何かを期待しているように見える。随分と人間らしい化け物一家ね。
「少なくとも、私はあんたが監視をしているように見えなかったわ。どんだけ甘やかしてるのよ?」
勝手に女連れてくるの許可したり、パソコン買うの許可したり。血のつながってない相手への遠慮がない。
完全に家族としての関係ができてる。いい意味でも悪い意味でも。
「……そう、だね。君の言うことはもっともだとも」
「まあ、好きにすればいいけど。何しようがあんたの勝手だし」
別に十四年ドブに捨てようが、子供の面倒押し付けられようがこいつの人生。別に私がとやかくいうこともないわ。
「そもそもどうして放し飼いにしてるのよ。もっと楽な方法があったでしょ?」
がちがちに縛りつけて、どこかに監禁しておけばいい。いや、もっと言うならそもそも芽を摘んでしまえば。
「私は彼のためなら
「ふ~ん」
聞いても意味は分からないわね。ただ、そのドブみたいな目を見れば、気持ちくらいは予想できる。
こいつは人を痛ぶって楽しめる奴じゃない。胸の痛みに苦しみながら、刃を振り下ろすタイプね。
「ただ、それでよかったんだよ。迷いに迷った過去があるから、今がある」
村雨令音の瞳に少し光が点る。幸せそうにコーヒーに視線を落としている。
「……あんた、鳶一愛のことをどう思ってるの?」
「世話の焼ける子供だよ。だからこそ、見ていて楽しい」
そういった口は笑っていた。本当に嬉しそうに。
「君はどうなんだい?」
「……」
ただひたすらに伝わってくる裏のない好意。あいつなりに私を想った行動。
何も思わないほど心は捨ててない。でも、総合的に考えると――
「あんたと同じね。見てて楽しいとは思わないけど」
村雨令音と違って字義通りの意味よ。
一緒にいてひたすら感情を動かされる。疲れて仕方ないわ。
「そうか、今回は早そうだね」
村雨令音は私の顔を見ながら微笑んだ。お茶の水面に映る私の顔も似たようなものね。
さて、七罪の不遇ポジションが明確になってきましたね。この程度じゃ終わらないのでお楽しみ下さい。
さて今回の裏話は令音から見た十四年前の出来事について。
自分自身で言ってた通り、精霊術式の現場にいました。ただ、何もさせてもらえなかったんですよね。『彼女』はいい笑顔で令音(崇宮澪)の前から消えました。
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