赤い軍服を肩にかけ、フラクシナスの艦橋に立つ。命を預かるかわいい部下たちが一斉にこちらを見る。
「総員、状況は理解しているわね?」
「DEMの艦隊が接近中。
モニターで敵戦力を確認する。
軍艦が一隻こちらに向かっているわ。そして、
「あれが《ゲーティア》かしら?」
愛が教えてくれた敵艦の情報。エレン専用の戦闘艦、《ゲーティア》。
エレン・メイザースが乗ることを前提に製造されたっていうイカレた兵器。いくら世界最強の
力あるから冷蔵庫を武器にするようなものなんだから。
でも、それが本当だとしたら確かに最強の兵器となる。エレンという
愛が戦えない今、エレンに対抗できる戦力はない。その最強が最強の兵器を引っ提げて戦場に出てくる。悪夢ね。
「司令、該当艦から通信が入っています」
「こんなときに?……繋ぎなさい」
何考えてるか知らないけど、敵の顔くらいは見ておきましょう。うちのネットワークを管理している
『初めまして、でしょうか。通信に応じていただき感謝いたします』
偉そうにあごを手に乗せながら話す、くすんだ金髪の女。予想通り、エレン・メイザースね。
「初めまして、エレン・メイザース。お茶のお誘いなら後にしてくれるかしら?私たちは今どこかの会社が攻めてきて忙しいの」
『用件はただ一つですよ、五河琴里。《アポクリファ》の居場所をご存知でしょうか?』
私の嫌味なんて無視して自分の要求を押し通す傲慢女。……それにしても、《アポクリファ》ね。
「《アポクリファ》なんて識別名は初めて聞いたのだけれど。どういった精霊かしら?」
適当にはぐらかしておく。この女の都合いいことなんて話す気はないわ。
《アポクリファ》は前の世界でこいつらが愛につけた識別名。十中八九愛を出せってことでしょうね。
始原の精霊たる愛はこいつらの目的そのもの。絶対に渡さないわよ。
『とぼけなくても構いません。あなたの家から観測された強大な霊波の持ち主です。心当たりがあるでしょう?』
ちっ、どこかのタイミングで愛の霊波を観測されたのね。そして既にその正体も掴んでると。
「仮に知ってたとして、私が教えると思うの?ラタトスクの司令官が、DEMの
舐めないで頂戴。
私は精霊の命を預かる司令官よ。死んでも精霊をDEMに売らないわ。
『そうですか。では少々強引な手段を取りましょう』
エレンは私の返答をわかっていたかのように切り替える。そして、残虐な笑みを浮かべた。
『今からあなたの保護する精霊の首を一つずつ落としていきます。あなたは何人犠牲にすれば喋ってくれるのでしょうね?』
「エレン……メイザース」
こいつもDEMらしい性格してるわね。人の命も精霊の命も平気で使い潰す。
『どこに隠れていても関係ありません。必ず見つけ出します。いつでも返答をお待ちしていますよ、五河琴里』
そう言って一方的に通信を切ったわ。本当に礼儀を知らない女ね。
「あの性悪女の鼻っ柱を叩き折るわよ。目にもの見せてやりなさい」
エレン・メイザース。私たちの手であいつの艦を堕とすわよ。
「神無月、
「勿論です。指令のご命令があればいつでも」
頭にヘッドギアをつけた神無月がさわやかな笑顔でサムズアップしている。流石、うちの優秀な
「令音、精霊のみんなの状況は?」
「全員避難――してくれたらよかったのだけどね」
背後の自動扉が開いてぞろぞろと少女たちが入ってくる。言うまでもなく、精霊のみんなね。
十香、四糸乃、耶倶矢、夕弦、美九、折紙。残念なことに全員揃ってるわ。
「空間震が発生したということは、士道は出撃する。そんなときにシェルターの中にいられない」
全員の気持ちを代弁するように折紙が宣言したわ。後ろでみんな大きくうなずいてる。
「わかっているの?敵はあなたたちの命を狙ってるのよ」
今まさにエレンが宣言したんだから。精霊たちの首を落とすって。
「逃げたらシェルターを掘り返して一般人も見境なく殺す。エレンはそういう手合い。違う?」
「それは……」
折紙の言葉は否定できない。DEMは手段を選ばない。
精霊を殺すためなら一般人まで殺しかねない。
「いや~、琴里ちゃん水臭いって」
「私も力になりたいです」
「同調、四糸乃の言う通りです」
「かかか、いかなる状況も我らの力があればこそ打破できるというもの」
「だーりんのためにお力添えさせてください」
「一緒に戦わせてくれ、琴里」
本当は保護すべき精霊に戦わせるなんて司令官失格なんだけど。彼女たちの顔を見ながら下がれと言えないわね。
「大人気じゃないの、妹ちゃん」
「二亜……。あんたも来たのね」
さらにその後ろから二亜が出てくる。
「DEMにはお礼をしなくちゃいけないでしょ。あたしはマゾじゃない教えてあげないと」
「だそうだ、琴里。みんなは守られるだけのお姫様でいてくれないらしい」
一番後ろから士道が顔を出す。困った顔して苦笑いしてるわ。
「はぁ、仕方ないわね。でも、私の指示に従ってちょうだいよ。じゃないとシェルターに戻ってもらうから」
どうせ止めてもいっちゃうんでしょうし。ならせめて、私たちの指示に従ってくれる方がマシね。
「敵は招待状もなしで私たちのフィールドに侵入してきた不届き者よ。まずはマナーの教育から躾直してあげましょう」
敵は長年の因縁を持つDEM。戦力差を考えると、状況はお世辞もいいとは言えないわ。
「非礼には非礼を。敵意には敵意を。総員、敵を撃破しなさい」
だからこそ優雅に行きましょう。最後に笑うのは私たちよ。
『おー!』
全員が心を一つにして戦いに赴く。あなたたちは何があっても帰してあげるから。
「琴里、愛からの伝言。七罪と一緒にシェルターに隠れておく、と」
折紙が席に近寄って話しかける。とても重要なことを教えてくれたわ。
「それでいいわ。あいつは今戦場に出しちゃいけない」
七罪を監視しながらDEMへの応戦は無理。そうでなくてもあいつは兵装もなく、天使の力を使えばいずれ――
あいつは戦力に数えない。そのつもりでいないと。
「それと、これを渡しておく」
「これは?」
折紙が渡してきたのはカバーガラスの中に赤いボタンがついた装置。とてもシンプルでボタン以外何もないわ。
「それを押したら愛に位置情報が伝わる」
「……それって⁉」
どうしようもないときに押せってこと?いざというとき、愛が助けに入れるよう。
「絶対に使わないで。私も同じものを持たされている」
折紙だって好きで渡したんじゃないでしょう。折紙の方があいつの状況よくわかってるんだから。
「安心しなさい。絶対に使わないから」
フラクシナスが墜ちることになったとしても使ってあげないわ。
アインが完全に出てきたら、今度こそ世界は滅ぶ。誰が世界滅亡のカウントを進めるもんですか。
それに、友達を地獄に堕とすような真似しないわよ。
「行きなさい、折紙。あの馬鹿の出番を奪うために」
「了解した。私が全て殲滅する」
折紙の全身が白い輝きに包まれる。そして、天使のような白いドレスを身にまとった。
静かに開かれた瞳は蒼炎のような熱を持つ。目に映る敵を全て焼き滅ぼすために。
「琴里、敵の中心に転移させて」
周囲で踊る羽たちが、折紙の気持ちを代弁するかのように微光を放っているわ。すぐにでも破滅の光を放てるように。
見てる私がぞくぞくしてくる。これほど折紙が味方で良かったと思う日はない。
「冷静さを失うんじゃないわよ」
「わかっている。家族が待っているから、私は戦場に立つ」
勇ましく折紙は戦場に向かったわ。本当に、見違えるように強くなったわね。
♦♦♦
精霊の力は格別。
「絶滅天使――【
天使の羽が周りで輪を為し、飽和攻撃を展開する。全てを滅殺する光が雨のように降り注ぐ。
「精霊よ。生死は問わないわ。攻撃しなさい」
敵の隊長格が私に向けて攻撃指示を出す。その瞳は殺意に満ちている。
どこまでも精霊を利用する道具としてしか見ていない奴ら。精霊になった私にもその魔の手は迫る。
しかし、恐れる必要はない。私の方が強いのだから。
「【
天使を背中に集合させて翼のように羽ばたかせる。そしてそのまま光のように空を駆ける。
敵との距離を一瞬でなかったものにする。手を伸ばせば届きそうなほどの間合い。
「ひっ」
顔が一瞬で恐怖の色に染まる。狩る側から狩られる側に回ってしまったから。
そして、この羽は移動と同時に攻撃を放つこともできる。私の通った道には灰しか残らない。
「恨むなとは言わない」
私はみんなを守りたい。そのためならば、敵を殺す覚悟はできている。
「だったら死んでよ、精霊!」
背後からレイザーエッジが振り下ろされる。不意を突いた鋭い一撃。
避けることは不可能。この能力を使わなければ。
「消え、た?」
うららかな声が驚きで裏返る。
相手の攻撃と同時に陽炎のように消え、背後に回り込む。そしてそのまま天使で迎撃する。
敵も一流の
「光線と瞬間移動。厄介な能力だね」
殺意に満ちた目で私のことを、いや精霊のこと見ている。DEMによって歪められた美しい碧眼。
「また、あなたと戦うことになるとは」
美しい黄金の髪がふわりと舞う。その顔からは強い嫌悪しか感じられない。
イギリスの対精霊部隊SSSの元エース。アルテミシア・ベル・アシュクロフト。
世界最強のエレンに次ぐ実力の持ち主。今の私を以てしても、勝てるかわからない相手。
「また?君みたいな精霊、一度見たら忘れないと思うけど。――殺したくて仕方がないから」
「……やはり、洗脳されている」
前の世界と同じ。記憶を改ざんされた上で、精霊への殺意を植え付けられている。
「あなたに勝利して、今度こそあなたを取り戻す」
フラクシナスで処理を施せば、洗脳を解くことができる。
仲間のために命を懸けられる、優しく強いあなたを。私はあきらめたくない。
「精霊なんかが私のことを語らないでくれるかな?虫唾が走る」
本人からは殺意のこもった刃を向けられる。
ウェストコット。あなたの首は私が落とす。
勝負は音を置き去りにする。衝撃波が発生したその瞬間、私たちは別の場所でぶつかり合う。
彼女のレイザーエッジを払いのけ、砲撃で
薄氷の上を進むような戦いが続く。一瞬の判断ミスがそのまま死に直結する。
「戦い慣れしてるね。その天使、本当は近距離で戦える武器じゃないでしょ?」
「……」
彼女の言葉通り、
彼女はそれを許してくれるほど甘い相手じゃないけれど。
何か方法はない?彼女から距離を取る方法は。
「苦しそうではないか、折紙」
私とアルテミシアの間を割るように巨大な斬撃が放たれる。私とアルテミシアは距離を取らされた。
今の声はおそらく。攻撃が飛んできた方を確認する。
紫紺の甲冑と光で編まれたレースでできたドレス。身の丈ほどの大きな剣。
白兵戦最強の精霊が威風堂々と構えていた。
「以前、その女を倒すのに協力して欲しいと言っていたな。その願い、今叶えてやろうではないか」
十香は笑みを浮かべる。前の世界での言葉を彼女は覚えていた。
「――改めて協力をお願いする、十香」
「任された」
二人でアルテミシアの元まで駆け抜ける。私たち二人ならば。
「へー、美しい友情ってやつかな?でも、それが精霊だけのものだなんて思わないでね」
攻撃が届く瞬間、アルテミシアは嗤った。私の頭部に向けて弾丸が放たれたから。
なんとか能力で躱してアルテミシアと距離を取る。だけど、その隙をアルテミシアは逃さない。
「死ね、精霊」
アルテミシアは距離を詰めて攻撃しようとする。おびただしい魔力を発する刃が振り下ろされる。
「折紙、無事か?」
間一髪のところで十香が防いでくれた。
「問題ない。十香のおかげ」
「気にするな。お互いさまというやつだ」
辛うじて能力を使って避けることができた。しかし、受けたのが十香だったら危なかった。
……あの攻撃はおそらく。
「アルテミシア、大丈夫ですか?」
「助けに来たぜ」
アルテミシアの前に立つように二人の魔術師が現れる。セシル・オブライエンとアシュリー・シンクレア。
そして、さっき攻撃をしたレオノーラ・シアーズも。
アルテミシアの仲間で、アルテミシアと同じように洗脳を施された被害者。……そう、彼女たちとも戦わないといけないの。
「この四人が相手。流石にそれは――」
アルテミシアは精霊を超えている
十香と二人でも、かなり厳しい。負けることはなくてもかなり不利になる。
「だったら、もう一人追加なんていかがでしょうか?」
私たちの背後に兵装をまとった少女が現れる。狼のような鋭い兵装は、彼女のスタイルによく合っている。
「真那!」
「折紙さん、私もあの人たちには言いたいことがありやがります。手伝わせてください」
真那は真剣な顔で助力を買って出た。とても心強い。
「十香、彼女たちのことも救いたい。後から要求を増やすようで悪いけれど――」
「水臭いことを言うな、折紙。全員救うのだろう。シドーならきっとそう言う」
十香は最後まで言わなくても賛同してくれた。本当に、私は出会いに恵まれた。
「アルテミシア。これであなたとの戦いを終わりにする」
彼女との戦いもこれで三度目。ここで決着を着ける。
久しぶりのエレン、そして本作初の《ゲーティア》登場です。前の章で精霊大戦してたので、そろそろ精霊vs魔術師しませんと。
さて今回の裏話はMARIAについて。
原作だとこの辺りで進化するのですが、フラクシナスの撃墜がなかったことになってるのでまだ進化していません。彼女が喋るようになるのはいつのことやら。
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