Sideエレン
「流石、五河琴里。エリオットの選んだ司令官というだけありますね」
この私と《ゲーティア》を以てしても苦戦を強いられました。
流石に直接私の身体に干渉してくるとは思いもしなかった。おそらく精霊による工作でしょう。
おかげであの一撃を貰ってしまった。魔力砲に霊力まで込めた見事な一撃でした。
しかし、それまで。世界最強たる私に届くことはありません。
フラクシナス。
世界樹の名を冠した艦は撃墜しました。
これでラタトスクは動けないでしょう。一番厄介な邪魔が消えました。
さて、そろそろ精霊狩りを始めましょうか。五河士道さえ死ななければ、あとはどうなろうと構いません。
ああでも、《ゲーティア》で殺してしまってはいけませんね。霊結晶の回収が難しくなるので。
ここから出てちゃんと首を落としに行きましょうか。
「さて、どの精霊がいいでしょうか?」
《プリンセス》や《ベルセルク》なら肩慣らしとしては丁度いい。彼女たちなら私を十分に楽しませてくれるはずです。
《ハーミット》や《ディーヴァ》は戦いが得手ではない分殺しやすいでしょう。迷いますね。
そんなことを考えていたら、精霊たちが徒党を組んでこちらに向かってきましたね。
五河士道、《ハーミット》、《ディーヴァ》、それに《ウィッチ》。一度に刈り取ってしまいたくなるような顔ぶれではありませんか。
日本のことわざでは、カモがネギを背負ってやってきたというのでしょうね。
そしてその集団の中に奇妙な顔ぶれが一人。あれは確か、鳶一愛でしょうか?
ASTに所属する優秀な
それがなぜ今ここに?
五河士道や精霊たちと一緒に。しかも、ASTのものでない装備をまとって。
『聞こえるか、エレン・メイザース。お前と話がしたくて来た』
その鳶一愛が代表するかのように前に出ました。……少し、聞いてみてもいいでしょう。
「どういった用件でしょうか、鳶一愛。そこの五河士道と精霊を献上しに来たということでしょうか?」
『いいや、それよりもっと面白いものだ』
五河士道や精霊よりも面白いもの?そんなもの存在するわけ――
『僕が精霊《アポクリファ》だ』
「――なんですって?」
その言葉は非常に意外なものでした。私の関心をこの戦いから引き離す程度には。
『僕がお前に連れて行かれる。だから、みんなは見逃してくれ』
美しい自己犠牲――とでも言うつもりでしょうか?
「ブラフでしょうか?ただの
到底信じられる話ではありません。しかし、本当だとしたら。
《アポクリファ》は霊力を隠蔽してしまう精霊。霊波がないからといって断定はできません。
話を聞く価値はあるでしょう。《アポクリファ》を連れ帰ることができたなら、この作戦の意義は十分です。
「あなたが《アポクリファ》だというならば証明してみなさい」
『僕は十五年前のクリスマス、生まれる前に精霊術式の核になった。それで十分じゃないか?』
十五年前のクリスマス、精霊術式、《アポクリファ》。十五年前のマナ消失事件と繋がります。
少なくとも、この少年は重大な何かを知っている。
「証明とは言えませんね」
彼が本当に《アポクリファ》かわかりません。しかし、生け捕りにする価値はあるでしょう。
情報と
「わかりました。そこで待っていなさい」
《ゲーティア》から降りて単身で鳶一愛のもとへ。
見た目はジュニアハイの少年。しかし、その顔と技術は歴戦の戦士のそれです。
近くで見てみると素晴らしい
無駄がなく洗練されている。このレベルで扱える人間は片手で数えられるほどしかいないでしょう。
「アイクと私で、あなたのことを有効活用してあげようではありませんか」
残念です。彼が精霊だとしたら、殺さなければいけないことが。
「相変わらず傲岸不遜な女だな」
吟味していた意識のゆるみ。そこを狙って刃が振るわれました。
本当に素晴らしい一撃です。アデプタスナンバーでも、これを受け止めることは難しいでしょう。
鋭く研ぎ澄まされた。殺意を込めた一撃。
ですが、私には効きません。
「仲間を助けて欲しいのではないですか?」
「誰がお前らと取引すると思ってるんだ?お前らに精霊を渡してもいいことなんてないからな」
なるほど。初めから取引をするつもりなどなかったと。
こんな攻撃をするだなんて。この少年が《アポクリファ》だというのもブラフでしょうね。
まあ、別にどうでもいいです。
「全員死なない程度に弱らせて情報を頂くだけです」
レイザーエッジを抜いて真っすぐ鳶一愛に向ける。
「後ろの精霊たちも一緒で構いません。かかって来なさい」
すぐに斬り伏せてあげましょう。世界最強の名のもとに。
「ほぅ、そうか。お前には、後ろのみんながちゃんと精霊に見えてくれたか」
鳶一愛がにやりと笑いました。その顔を見ると嫌な予感が。
五河士道、《ハーミット》、《ディーヴァ》、《ウィッチ》の四人が確かにそこにいます。
霊力反応も確かにそこに。
「
それと同時に後方から声が。とっさに旋回して避けます。
「あら、余裕綽々で受けてくれるかと思ったんだけど」
《ウィッチ》が箒を杖のように構えながら現れました。
《ウィッチ》がどうして後ろに?確かに目も前にいたはずなのに。
「悪いが、敵の前で整列するほどお行儀良くないんでな」
改めて確認しますが、そこに精霊たちの姿はあります。
「……まさか⁉」
精霊たちの霊波を改めて観測します。確かに霊波は観測できますが、一種類だけ。
この反応は《ディーヴァ》のもの。それ以外はダミーということですか。
「おいおい、冷静に偽物を分析していていいのか?」
鳶一愛の言葉を聞いて思考を巡らせる。そうです、五河士道と《ハーミット》も偽物ということは――
「
考えに至ると同時に猛吹雪が地面から吹き上がってきます。これは《ハーミット》の力。
とにかく
足元を見ると巨大な白い怪獣が口をこちらに向けています。背中に乗っているのは《ハーミット》と五河士道。
彼女らが本命ですか。三段構えの不意打ちとは。
「不意打ちがお好きなようですね」
「非力な
「なるほど悪くありません。しかし、この程度で私を倒せると思わないでください」
私でなかったらここで倒されていたでしょう。しかし、私に越えられない敵などありません。
「あなたたちはよくやりました。精霊を集め必死に策を練った。十分に誇っていい」
五河琴里との激しい戦い。その後の精霊たちによる多段攻撃。
これほどの苦戦は久しぶりです。しかし、それでも届きません。
「世界最強には及ばなかった。それだけの話です」
私の勝ちは揺るがない。私は世界最強の
「あまり舐めるなよ。僕が認めた戦士のことを」
「なんでしょう、まだ手が残っているとでも?」
だったら見せてみなさい。そのことごとくを踏みつぶしてあげましょう。
「よしのん、行って」
「了解だよ、四糸乃」
《ハーミット》が空を駆け登り私に近づいてきます。至近距離で攻撃を仕掛けようということですか。
「その程度のでどうにかなるとでも?」
私の元までやって来た《ハーミット》。彼女が見せたのは攻撃でも攪乱でもない。
天使を消し去り無防備をさらしました。巨大な怪獣は雪の結晶のように空に消えていきます。
精霊最大の武器たる天使をどうして?
「
違う。天使を消したのではない。
《ハーミット》は雪のように散った天使を再び集めて再構成している。
金属でも樹脂でもない。氷でできた鎧のように。
「四糸乃、行くぞ」
「はい、士道さん」
《ハーミット》の手の中に冷気が集まっていく。さっきの攻撃とは比較にならないほど冷たく鋭い。
「はあああああっ!」
それはまるで触れたもの全て壊す絶対零度。私の随意領域を凍てつかせている⁉
「
それに、五河士道が使っているのは《ディーヴァ》の能力ですか?そうですか、それで《ハーミット》の力を強化して。
まずい、このままでは。私が負けるなど。
「ダメ押しだ、エレン。お前が見たがっていたもの、見せてやるよ」
「鳶一愛⁉」
ここでどうしてあなたが前に⁉なにをしようというのですか。
「
彼の伸ばした手の中に力が集まっていく。他の精霊たちなど比較にならない。
三十年前のあの日見た。《デウス》と見まがうばかりの強大な力。
「あなたは本当に――」
「
鍵のようなものを顕現させて私の
「お前ごときに殺される私じゃないんだ」
CR‐ユニットが消え、代わりに霊装がその身を守る。白と黒の混ざりあった、不気味で豪華なドレスによって。
これが第二の始原の精霊。私たちの悲願を叶える力。
そのまま鍵をひねる。同時に私の
世界から音が消える。私から全てを奪い去るように。
「頭を冷やして来てね、世界最強」
精霊となった鳶一愛は笑った。私に力を見せつけるかのように。
「鳶一、あいーー!」
そのまま私は吹雪に押し流されるように空へ舞い上がる。
私が私が、世界最強のこの私が。敗北するだなんて。
認めてたまるものですか。受け入れてやるものですか。
あなたの命は、あなたの
私たちの悲願を叶えるため。私の汚名を雪ぐため。
絶対に。
♦♦♦
Side愛
「終わったね」
最強の敵、エレンを何とか退けた。これでこの戦争は僕たちの勝利だ。
同時に霊装と天使が溶けるように消える。何とか一瞬に抑えることができた。
なかなか余韻が消えてくれない。
体が熱い。喉が冷たい空気を求めている。
「ちょっと、あんた大丈夫なの」
心配した七罪が駆け寄ってくる。心配かけちゃったみたいだね。
「大丈夫、ほんの一瞬だったから」
本来は僕一人でエレンを倒すつもりだった。実行していたら、どうなっていたことか。
戦闘に使うと消耗が早い。あの一瞬でも、精霊化が進んだ実感がある。
それでもいい。みんなを守ることができたから。
「やりましたね、愛さん。かっこよかったですよー」
美九が後ろから抱きついてくる。大きな胸が頭に押し付けられる。
「美九さん、僕男ですよ」
男嫌いの美九なのに。
「愛さんって男の子でも結構かわいいですよね。今度、スカート履いてみません?」
なんだか変な世界に引きずり込もうとしている。別にそれくらいいいけど。
「ちょっと、誘宵美九。離れなさい」
七罪が後ろから美九を引きはがす。
「あら、あら、あらららら?七罪さん、それは嫉妬ですか?嫉妬なんですか?」
美九は目を輝かせて楽しそうに七罪のことを見ている。なんか面白がってるな。
「うるさいわね。体調悪い奴に無理させてるんじゃないわよ」
「あ~ん、七罪さんたらいけず~」
七罪は虫でも払うかのように美九を扱う。面倒臭そうに美九を見ている。
「本当に大丈夫なのか、愛?」
士道がこちらに寄って心配している。
「大丈夫ですよ。すぐに精霊になったりしません」
あと何回か同じことができるはずだ。使用制限付きの奥の手とでも思っておけばいい。
「愛さんのおかげ……です。ありがとうござい……ました」
「こっちこそ、いいものを見せてもらったよ」
四糸乃最強の形態、
本当に素晴らしい力だった。流石、僕の認めた小さな戦士。
「僕たちの勝利です」
『おー!』
皆で勝利を喜び、誰も失わなかった事実を噛みしめる。
「七罪。帰ろう、僕たちの家に」
七罪に向かって手を伸ばす。受け入れてくれると信じて。
家族みんなで暮らすんだ。令音さんと、お姉ちゃんと、七罪と。
「……もうちょっとだけ、いてあげてもいいわ。あのふざけた家に」
七罪は僕の手を取り微笑んだ。
これは僕と七罪の物語の再開。そして、全てに決着を着けるための始まりでもある。
次回からが七罪編の本番です。お楽しみください。
今回の裏話は愛くんの装備について。
《ノルン》ほどじゃないものの、ちゃんとした装備を持たされています。今回はそれで戦いました。
ぶっちゃけ空を飛ぶためでしかありません。
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