ヒロインは七罪   作:羽国

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七罪の帰還

「う~ん」

 カーテンの隙間から朝日が差し込む。眩しくて寝られない。

 だらだらしたいけど、愛は朝食抜くとうるさいし。

 

 面倒くさいけど、起きて着替える。いつもの黒地に星の刺繍が入った服を取り出して。

 このダボっとした感じが落ち着くのよ。

 

「さて、今日はどっちが朝ごはん作ってるんだか」

 そんなことを考えつつ部屋の外に出る。すると、目の前には一家団欒が広がっていた。

 

「お姉ちゃん、お皿取って」

 エプロンをつけて料理をしている愛。

 

「はい、これお皿」

 愛のサポートをする折紙。

 

「おや、起きたかい七罪。おはよう」

 コーヒーを飲みながらニュースに目を通す令音。

 

「ええ、おはよう令音」

 軽い挨拶を交わしつつはす向かいの席に座る。

 

 愛の向かいで折紙の隣。それが私の定位置。

 

「あ、おはよう七罪」

「おはよう、愛。私はいいからフライパン見なさい」

 愛ったら、ジュージュー言ってるフライパンから完全に顔背けてる。料理のときくらいは私から目を離しなさいよ。

 

「おはよう、七罪。早速で悪いけれど、手伝って」

 折紙はいきなり四人分の食器を私の前に置く。並べろってことね。

 

「本当、人使いが荒いんだから」

 少し面倒に思いながらもさっさと仕事をこなしていく。自分の口元が緩んでいるのを感じながら。

 

 何気ない家族の生活。私の知らない繋がり。

 愛と二人だけってのも良かったけど。これも悪くないわね。

 

 準備が終わって全員食卓につく。そうやって私たちの朝は始まる。

 

「七罪、そろそろ一時間が経つけど。新しい霊結晶の様子はどう?」

 愛と戦争するって決めた日から三日が経った。私は愛の霊結晶を受け入れて、生まれ変わった。

 

「悪くないわよ。前より調子いいくらいね」

 愛の霊力はとても身体に馴染んでいた。まるで生まれたときからそうだったみたいに。

 

「それは良かった。贋造魔女(ハニエル)も問題なし?」

「使い心地が完全に一緒でビビってるくらいよ」

 愛は私に合うよう調整したみたい。別の霊結晶なのに、完全に前と同じ感覚で力が使える。

 

「私も手を貸したからね」

「本当、そこがチートよね」

 

 オリジナルを創った令音が手を貸してる。だから、あんなものができてるんだと思うわ。

 いや、多分愛自身も凄いんだろうけど。

 

「七罪、今日はみんなと会う日」

 折紙の言葉で思い出す。

 

「ああ、そう言えばそうだったわね」

 アイドルの美九や、社会人(仮)の二亜は簡単に集まれない。でも、みんな時間を空けて集まってくれた。

 私のために。

 

「美九さん、マネージャーにゴリ押ししたらしいよ。『七罪さんが私の抱擁を待ってるんです』って」

「待ってない待ってない」

 

 首を横に振って全力で拒否する。誰が食虫植物のお腹の中に入るのよ。

 あの変態アイドル。なんでそんな無駄にやる気出してるんだか。

 相手は私よ。

 

「二亜は修羅場から逃げてくると聞いてる」

「それ、後で地獄を見る奴よね?」

 私を巻き込むために来るわけじゃないわよね?そうよね?

 

「他のみんなも君に会いたくて仕方ないようだ。みんな七罪のことが大好きなんだよ」

「それはまあ、嬉しいけど」

 本当、お人よしばっかり。

 

♦♦♦

 

 士道の家。リビングの扉を開けたと同時にパーンという音が響いたわ。

 同時にひらひらしたものが私の頭に降りかかる。

 

『お帰り、七罪!』

 よくよく見てみるとみんなが私にクラッカーを向けている。頭にかかったものを取って見ると紙吹雪だったわ。

 大げさじゃない?私が帰って来ただけよ?

 

「た、ただいま?」

「七罪さん!」

 首を傾げていると、一人が私の元に駆け寄ってくる。そのまま私に向けて抱き着いた。

 

「四糸乃⁉」

「七罪さん、七罪さん」

 

 駆け寄ってくるのはマイプリティーエンジェル。サファイアのような輝きを放つ超絶美少女、四糸乃。

 そのような存在が私に抱きついてくれる。こんなこと許されていいのかしら?

 

「七罪さん、戻ってきてくれて……本当に嬉しいです」

「私も……」

 

 水晶のようにきれいな瞳が私だけを見てる。何て恐れ多い。

 楽園はここにあったのよ。四糸乃は全てを包みこみ癒してくれる女神様。

 

 大丈夫よね?私、後から通報されたりしないわよね?

 

「七罪ちゃんがいない間寂しかったんだよ。これからは毎日遊ぼうね」

「うん、よしのん」

 冗談めかした調子ではやし立てるよしのん。いつもの日常に戻ってきた気がする。

 

「くっくっく、久方ぶりだな。七罪よ、我は貴様との会合を待ちわびておったぞ」

 

 四糸乃に続いたのは耶倶矢だった。

 左手を右ひじに当て、右手で頭を抱えている。ナルシストみたいにポーズを決めてるわ。

 

「まだ病気は治ってないみたいね、耶倶矢。早くしないと狂三みたいになっちゃうわよ」

「扱い酷くない!?」

 

 相変わらず、すぐ素に戻るわね。無駄なキャラ作りなんてしなくてもいいのに。

 まあ、それが耶倶矢らしいところだけど。

 

「再会。会えて嬉しいです、七罪」

 耶倶矢の後ろからぬっと出てきたわ。そのまま自然に私の手を握る。

 

「私も嬉しいわよ、夕弦」

 その手を握り返して再会を歓迎する。こいつらとも色々あったからね。

 家に居座られたのもいい思い出よ。

 

「ちょっとー、あたしと扱い違くない?」

 夕弦の後ろからジトっとした目で見てくる耶倶矢。付き合ってちょっと経った彼女みたいな奴。

 

「はいはい、あんたにも会えて嬉しいわよ耶倶矢」

「ふっふっふ。そうであろう、そうであろう」

 こいつチョロいわね。ちょっと心配になるくらいに。

 

「七罪、戻ってきてくれて嬉しいよ」

「士道、悪いわね。口説こうとしたことすら気づかず振っちゃったわ」

 後から知ったわ。士道が私のことも狙ってたって。

 

「ははは、いいさ。もともと無理な話だったし」

 こいつも大変ね。琴里に振り回されて。

 

「七罪さん、私も寂しかったですよ。さあ、胸の中に飛び込んできてください」

 目を輝かせながら手をがばっと広げる美九。何でか私がその胸に飛び込んでいくと信じてるみたい。

 

「えっ、嫌だけど」

「ほわ~い⁉」

 エセ外人っぽく叫ぶ美九。誰がそんなワキワキさせてる手を受け入れるのよ。

 

「握手くらいにしておいてよ」

「何でですか⁉四糸乃さんとは抱き合ってたじゃないですか⁉私も七罪さんと抱き合って喜びを分かち合いたいですよ」

「だって四糸乃だもの」

 

 四糸乃(天使)美九(変態)を同列に扱う訳ないじゃない。

 

「う~、七罪さぁん」

 不満そうに手を出す美九と握手する。涙ながらに握手する美九はかなり怖かったわ。

 

「お帰りだ、七罪。愛と仲直りしたのだな」

 次に駆け寄ってくるのは十香。

 

「仲直りねぇ」

 自分の髪をくるくると巻き取りながら思い出す。愛との勝負を決めたあの夜を。

 戦争なんて言っちゃってるけどね。あれを仲直りといっていいのかしら?

 

「どうしたのだ、七罪?まだ喧嘩中なのか?」

「……まあ、これからも愛に付き合ってあげてるつもりよ」

 私と愛の問題はみんなの前で言うことでもないでしょ。私が勝とうが愛が勝とうがずっと一緒にいるのは変わらないし。

 

「そうか、仲が良さそうで嬉しいぞ」

 十香は無垢に笑ったわ。十香はね。

 

「七罪、あの話本当なの?」

 私の様子に気づいた琴里が話しかけてくる。

 愛は琴里だけに少し話したらしいから。もう私の封印は必要ないって。

 

「本当よ。私は嫉妬深い彼氏のマーキング済みね」

 胸の中では新しい霊結晶が脈打ってる。愛の愛情と執着の証が。

 

「そ、そう。それはお幸せに」

 琴里は微妙な顔をして引っ込んだわ。見てはいけないものでも見たみたいに。

 

「別にそこまで変な顔しなくても……」

 やっぱ変かしら?愛の力を貰ったって。

 

 みんなとまた会えたことを喜び合う。

 

「ん、あれは?」

 その中で一人後ろに突っ立ってる影を見つけたわ。缶ビール片手にほんやりとしながら。

 

 それが気になってちょっと駆け寄る。放置しておいたらダメな気がして。

 

「二亜、そんなところでどうしたの?」

 いつもお茶らけてる二亜が空気みたいに。一周回って不気味ね。

 

「いやね、ちょっと声かけづらくて。わかるっしょ?」

 少し居心地悪そうにしているわ。眼鏡の奥の瞳は明らかに揺れてる。

 

「……」

 二亜の気持ちはずっと前からわかってた。そのためにいろいろ画策してたことも聞いてる。

 

 気まずい気持ちはわからないでもないわ。

 二亜は私と愛を引き裂こうとした。それは事実だもの。

 

「二亜、私はあんたのこと嫌いじゃないわ」

 でも、それで終わりってのは違うでしょ。

 

「なっつん?」

 不思議そうに私を覗き込む二亜。そんな怯えた顔しなくてもいいわよ。

 

「原稿手伝って欲しいなら余裕をもって教えなさい。また、愛と手伝いに行くから」

「それって……」

 茫然として言葉の意味を考える二亜。わざわざ言う気はないわよ。

 

「あんたがもうこれっきりにしたいならそれでいいけど。私はそうしたくない」

 何だかんだ二亜と漫画描くの楽しかったもの。修羅場のど真ん中だったのは恨んでるけど。

 

「それはありがたいけど。わかってるよね、あたしが愛くんをどう思ってるか?」

 二亜は確認するように自分に指を向ける。ええ、知ってるわよそんなこと。

 

「ちょっかい出された程度で負けるつもりはないから。できるものならやってみなさい。絶対無理でしょうけど」

 その程度で終わるならとっくに終わってる。私も愛も絶対に放す気がないから未だに続いてるのよ。

 

「そっか、敵わないなぁ」

 二亜は困ったように笑ったわ。諦めたように力なく。

 

「ありがと、なっつん」

「アルバイト代貰うから別に良いわよ」

 お礼をされるようなことは別にしてないわ。私のためにやることだもの。

 

♦♦♦

 

 クリスマスが近づいて雪がちらつくことも多くなったわ。駅前の大通りに出るとイルミネーションが派手に飾られてる。

 あっちを見ても、こっちを見ても男女がたむろしてる。雨後の筍みたいにカップルが湧いてるわね。

 

「七罪、何でそんな目をしてるの?」

 愛は私を見て覗き込む。頭に疑問符を浮かべながら。

 

「いや、リア充共が目の毒で」

 私とは違う人種。あいつらは理解し合えない存在なのよ。

 

「……七罪もリア充(そっち)側じゃないの?恋人いるでしょ?」

「ええと、そうかも?」

 愛に言われてようやく気付く。私も彼氏持ちだって。

 

 そういう括りで言えば私もリア充?

 周囲から見たら私と愛もあんな風にみられてるってこと?

 

「どうしてそんな困ってるの?」

「いや、あれと一緒だと思われるのが嫌というか」

 電灯にたかる虫みたいな奴らじゃない。アレの中に自分がいると思うとちょっと。

 

「そう複雑に考えなくてもいいんじゃないか」

「士道」

「士道さん」

 折紙と手を握ってる士道が私の元に歩み寄って来る。

 

「七罪のしたいようにすればいいだろ。リア充なんて気にしないでさ」

「士道の言う通り。人目なんて気にせず求め合えばいい」

 

 士道の言葉に折紙が乗っかる。

 あんたが言うと卑猥にしか聞こえないんだけど。今も明らかに士道を狙ってるし。

 

「僕は七罪のしたいようにするから。希望があったらいつでも言ってね」

「そうするわ」

 こういうときは柔軟な私の彼氏。その対応力に期待しましょう。

 

「準備ができたよ。集まってくれ」

 準備をしていた令音が手を挙げる。その声を聞いて全員集まったわ。

 

「聞いてなかったけど、何するんだ?」

 一家集合に呼ばれた士道は不思議そうな顔をしている。何も聞いてなかったのね。

 

「家族の集合写真を撮る。だから士道を呼んだ」

 愛が折紙に送ったロケットのペンダント。その中に飾る写真を()()()撮るらしいわ。

 

「なんで俺が家族写真に呼ばれてるんだ?」

 士道がようやく危機感を覚えたらしいわ。当然、外堀を埋める工作よ。

 

「諦めなさい。私が入れられてる時点でそういうことよ」

 こいつら自由人の中で認定されたら家族。もう逃げられないわ。

 

「嫌なら折紙をしっかり拒否しなさい」

「いや、それはその……なあ」

 士道は曖昧に困った顔をする。そんなんだから折紙につけ入られるのよ。

 

 士道はそのままハーレムでも築いたらいいんじゃないかしら?その方がみんな幸せになれそうだし。

 

「カメラはMARIAが操作している。いいタイミングで彼女が撮影する手筈だ」

「あのAI便利ね」

 カメラを勝手に操作するなんて。セキュリティとか大丈夫かしら?

 

「なるほど。MARIAからの指示だ。もう少し横に詰めて欲しいと」

 令音がスマホを見ながら私たちに指示を出す。MARIAとやり取りしてるんでしょうね。

 

「僕が七罪の後ろに立とうか」

 愛は後ろから私を抱え込むような立ち位置になる。ちょっと子供みたいで恥ずかしいわね。

 

「士道、私たちも密着を」

「ええと、あの、折紙さん?」

 折紙はコアラみたいに士道に抱き着く。もう好きにしたらいいんじゃないかしら。

 

「では撮るよ。はい、チーズ」

 私たちの中心に立った令音が控えめにピースサインを作る。それに合わせて全員がカメラに向けて表情を作った。

 

 カメラのシャッターが鳴ってレンズが光る。この瞬間が切り取られて思い出に残る。

 

 血の代わりに精霊の力でつながった変な家族。この関係を私は案外気に入ってるわ。




これにて七罪編は終了。ではありません。もう一話続きます。

次回はどこぞのきょうぞうさんのお話です。七罪編の間一切出てこなかった彼女は何をしていたのでしょうか?

今回の裏話は美九編と折紙編の間の話について。

愛くんと七罪は二亜の家に住み込みのアシスタントとして働いていました。その一か月ほどの間、色々あったそうですね。




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