Side 七罪
この家の訪問者は地味に多いわ。
どこぞの司令官とか、アル中の漫画家とか、ウサギを連れた天使様とか。まあ、ぶっちゃけ八割精霊なんだけど。
基本的にキャラが濃いのしか来ない。そして今日は特段濃くて危険なお客様が訪れていたわ。
「愛さん、お久しぶりです」
「美九さん、お待ちしてました。どうぞ上がってください」
玄関から聞こえた声が背筋をぞわりとさせる。また抱きつき魔が襲ってくる⁉
持ってたファッション誌を畳んで速攻で部屋に逃げる。でも、それより早く私は止められてしまった。
「七罪、それはいくらなんでも失礼でしょ」
いつの間にか先回りしていた愛に捕らえられる。そして、そのままリビングまで引きずって行かれる。
「放しなさい、愛。私はまだ汚されたくないのよ」
「そこまで言う?」
「あんたはわかってないわ、美九の恐ろしさを。あいつはね、女を見るや否や抱きついて精気を吸い上げる妖怪みたいなもんなのよ」
いつも女の子に抱きついた後つやつやしてるもの。ドレインタッチみたいな技を使ってるんじゃないかしら?
「そんなことありませんよぉ。ただ女の子といちゃいちゃしてリフレッシュしてるだけですからぁ」
「ひぃぃぃ⁉」
そんなことを言ってたら本人がいつの間にか背後に。舌なめずりをして、獲物を見定めてる⁉
「あぁん、七罪さんは小さくて抱き心地がよくて最高ですねぇ」
「いや~!放して、私はあんたに抱かれたくない」
美九は抱き枕みたいにガシッと私に抱きつく。全力で抵抗してるのに全然逃げられない。
なんでこんなに力強いのよ。十香と同じくらい力出てないかしら?
「七罪さん、寂しかったんですよ~。ず~っとお会いできませんでしたから」
「私は会いたくなかったわよ。こういうことされるから」
美九はそのままほおずりしたり変なところを触ってきたり。このままじゃ本当に美九に汚されちゃう。
「愛、そんな呑気な顔してないで助けなさい」
「いや、これは許容範囲なのか悩んでて」
何考えてるのよこの馬鹿は。同性だからってセクハラが許されるわけないでしょう。
「許容範囲じゃないから助けなさい」
「了解」
愛は私たちの背後に回って美九の腕を取る。そしてそのまま何かの技を極め始めた。
「あいだだだ!ギブです!愛さん、ギブです!」
美九の痛みに耐えかねて手を緩める。その隙にどうにか逃げ出すことができたわ。
「はぁはぁ、もうちょっと早く助けなさい」
「ほいほい」
適当な調子で答える愛。役に立つんだか立たないんだか。
「ああん、愛さんのいけずぅ」
そして、ケロッとしてる美九。
また元気に私に狙いを定めてるわ。愛が牽制してるから動けないみたいだけど。
なんで味方を警戒しないといけないのよ。
「美九、来ていたの?」
「ああ、折紙さん。いい匂いがしますねぇ、すりすり」
美九はターゲットを折紙に変えて抱きつきに行く。頬をすり合わせて目一杯密着しているわ。
それをいつも通りのクールさで受け入れる折紙。あいつはなんで受け入れてるのかしら>
「美九さん、今日はそういうことをしに来たんじゃないでしょう」
「そうですねぇ。こういうのはまた今度にしましょうか」
「永久にやらなくていいわよ」
「私はどちらでも構わない」
美九はセクハラを止めて席に着く。美九の対面に座って話を進めようとする愛。
やる気満々の美九と愛。
「じゃあ、終わったら呼んでくれる?部屋で待ってるから」
それを見て即座に逃げることを決めたわ。嫌な予感しかないから。
「七罪、協力してくれない?」
「七罪さんのお力が必要なんです!」
「え~」
あんたら二人が画策?それで私が必要?
十中八九面倒ごとに決まってるじゃない。もう今の時点でお腹いっぱいなんだけど。
「因みに四糸乃も関係ある――」
「聞かせなさい」
この世に顕現なさった女神であらせられる四糸乃が?美九の毒牙にかかるって?
そんなこと許されるわけないじゃない。
四糸乃の最高級絹のように純白の心を弄ぶだなんて。天が許そうとも私が許さないわ。
四糸乃はこんな廊下に転がってる紙屑のような私のことでも大事な友達って言ってくれる。マリアナ海溝のような深い心を持ってるのよ。
きっと美九のことだからその優しさに付け込んで何か邪なことを企んでるに決まってるわ。絶対に阻止しないと。
場合によっては二亜辺りを代わりに差し出して。そう思って席に着くわ。
「……」
そしてさりげなく美九の隣に座る折紙。あいつは何考えてるかわからないわね。
「それじゃあ美九さん。一から説明をお願いします」
「はぁい、わかりましたぁ」
美九は楽しそうに語り始めたわ。頭の中全部百合の花に取り換えたような夢いっぱいの計画を。
「だいぶ前に琴里さんとお約束してたんですよ。だーりんとデートしたらぁ、みーんながバニーガールさんの格好でご奉仕してくれるって」
「ああ、そう言えばそんなこともあったわね」
九月の終わりごろ。まだ美九が攻略できていなかった頃に、そういう取引をしていたわね。
男嫌いの美九とデートするため、琴里たちが身体を張ってたわ。
「まだ使ってなかったの?」
「はい。どうせなら女の子は多い方がいいと思いまして」
その言葉に何となく嫌な予感がする。あのとき約束したのって琴里、十香、耶倶矢、夕弦、四糸乃でしょ。
私たちは関係ない。でもここに来てるってことは。
「それでぇ、愛さんに何でも言うこと聞いてもらえる権利もあるんですよ」
「……マジで言ってるの?」
ちらりと愛を見ると無言でうなずいてる。
そう、言っちゃったのね。これ相手に。
「一連の事件の贖罪。愛は精霊のみんなに対してそう言った」
折紙がさらりと補足を入れる。私がいない間に色々あったってことかしら。
「まあ、それは仕方ないわね」
確かに迷惑かけたもの。愛が何をやらかしたのか確認したけど、色々酷かったし。
仕方ないかもしれないわね。このモンスターにそんな権利渡すのも。
「それでぇ、みーんなにご奉仕してもらおうと思いましてぇ、うへへ」
美九はきらきらとして目で語る。口の端から涎を垂らしながら。
これ本当にアイドルなの?というか人間なの?
「それで、愛もバニーガールにしようってこと?」
「はい、そうですぅ。どうせなら愛さんにもご奉仕してもらいたいじゃないですか」
言葉を聞いて思わず頭を抱える。そう、既に負け戦確定なのね。
「はい、それで七罪さんに協力をお願いしたくって」
「
美九の意図を察して答える。私に片棒を担げって話ね。
案の定、美九は笑顔になったわ。
「愛さん、自分で女の子になれないみたいですから」
「そりゃそうよ。愛はもう二度と霊力使わせないから」
愛は私が許可しない限り二度と霊力を使わせない。そして、私が許可を出すことはないから永久に霊力を使えない。
つまり女の子にはなれないわ。私が協力しない限り。
「でも七罪さんならできますよね」
「それは、そうね」
贋造魔女ならば姿形は好きに変えられる。もちろん、女の子にすることも簡単ね。
気持ちの問題を無視したら。
「七罪、ダメ?」
「ダメというか……」
不安よね。あいつ、自分のことはあまり頓着しないから。
多分美九のセクハラくらい平気で受け入れるでしょ。
愛の貞操が奪われる?そこまでは行かないと思うけど。
女の子になった愛と美九が抱き合ってるのを想像すると。いい気分はしないわね。
独占欲出し過ぎだとは思うけど、私たちの間で今更って感じはするし。嫌だって言ったら多分別のお願いって話になると思う。
でも、美九は自分の権利を使ってるだけでしょ。愛が言い出したことを反故にするのも――
「七罪さん、嫌なことがあったら教えてくれませんか?」
「え?」
顔を上げると、美九は優し気な顔をしていたわ。まるで、年上のお姉さんみたいな。
「私はもう誰にも無理矢理お願いを聞いてもらおうなんて思ってません。本気で嫌なら、ちゃんと話してください」
「美九……」
そうよね。美九も前みたいに我儘な歌姫じゃないものね。
「正直、愛が女の子とべたべたしてるのは嫌ね。例え身内が相手でも」
「そうですか。七罪さんはそういう気持ちになっちゃうんですね」
促されるままに自分の気持ちを吐き出す。空気読めてないなって思うけど、ちょっとすっきりした。
「悪いわね、美九」
「いいんじゃないでしょうか。私はだーりんが皆さんと仲睦まじくしてくれると幸せですが。それが普通じゃないのはわかってます」
士道を想うみんなは争いつつもなんだかんだ譲り合ってる。みんなが幸せになれるようにって。
自分が一番になりたい。士道を独占したいって気持ちを心の奥にしまってる。
でも私はそうなれない。愛は私だけのものじゃないと気が済まない。
そういう、独占欲が強い女になってしまったわ。
「じゃあ美九さん、そういうことなので。内容は別のものに――」
愛が仕切り直そうとする。今回はお開きというつもりで。
「はい、なので愛さんと七罪さんがいちゃいちゃしてる所を見せていただけませんか?」
でも、美九はこの程度で転ぶ奴じゃない。そう思い知らされるわ。
「うん?」
「私、見てみたかったんです。お二人が愛し合ってる姿を」
美九は再び目を輝かせて語り出す。熱烈に力強く。
「最近、私気づいたんです。女の子同士で仲良くするのを見るのも悪くない。むしろいいって」
なんか頭が痛くなってきた。感情の落差で風邪ひきそう。
「愛し合う二人が組んず解れず。それをみなさんと一緒に眺める。もぅ、最高じゃないですか!」
「………………」
一瞬でも美九のことを見直した私が馬鹿だったわ。
そうよね。美九はこういう奴よね。
「つまり、美九さんは僕と七罪の百合プレイが見たいと」
「そこまでは言いませんけどぉ。二人で同じジュースを飲んだり、お菓子の食べさせ合いくらいで構いませんから。あとは妄想で補完しますのでぇ」
つまり見たいのね。そこまで言ったらアレだから抑えてるだけで。
「私に羞恥プレイの趣味はないんだけど?」
「一切お触りはしません!お二人が見せられる範囲で構いません!なので、どうかバニーガール衣装でいちゃいちゃしてくれませんか?」
美九は真剣な顔で頭を下げたわ。なんでこいつこんなことのためにそんな必死なれるの?
「七罪どう?結構譲歩してくれてるけど」
「……はぁ、そうなのよねぇ」
喉から溜息が勝手に出てくる。マジでふざけたこと言ってるけど、結構まともなラインまで抑えてるのよね。
だから性質が悪いというか。
「公開■■■■を求められているわけでもない。それくらいはむしろ見せつけていくべき」
「あんたはもうちょっと羞恥心を持ちなさいよ!」
黙ってた折紙は平気な顔で放送禁止用語を突っ込んでくる。誰がそんな変態プレイみたいなことするのよ!
「関係を見せることであなたと愛は幸せになり、牽制もできる。どこに問題が?」
「あんたの頭に問題があるわね」
この変態大魔神が身内なのよね。常識が崩壊しそう。
愛も令音もどこかずれてるし。私の近くにはどうして常識人がいないのかしら。
「はぁ、何か小さいことを気にしてるのが馬鹿らしくなってきたわ。もうそれでいいわよ」
「はぁい、ありがとうございますぅ!」
美九は嬉しそうに顔の横で手を合わせてるわ。まあ、色々あったし多少ね。
「それではクリスマスパーティーはみんなでバニーガールになりましょう」
「クリスマスにそれやるの?」
「みなさんで集まれるタイミングはそれくらいしかありませんから」
「ああ、そう」
好きにしたらいいんじゃないかしら?どうせ私は当日天使を使えばいいだけだし。
「……美九、クリスマスパーティーはどこで開催予定?」
折紙が何か考えて質問を投げる。ああ、これは何か企んでるわね。
「私のおうちにみなさんを集めるつもりですよ」
「士道の家に変更することは可能?」
「構いませんけど?何かあるんでしょうか?」
折紙の質問に美九は不思議そうな顔をする。場所変更して何のメリットがあるのかって話よね。
まあ、折紙が提案してる時点で察しがついたけど。
「そうすれば交渉次第でバニーガールをさらに増やせる」
「是非そうしましょう!」
折紙のぶら下げた人参に一瞬で食いつく美九。多分、あいつが被害に遭うんでしょうね。
もうどうにでもなれ。そんな気分よ。
作者は基本的に細かいことはキャラに丸投げします。この子ならこう言うだろうなってのをそのまま書いてるだけです。
美九ならこういうことするだろうなってなったんですよ。全員バニーのクリスマスって何ですか?(おまいう)
今回の裏話は七罪の美九に対する印象について。
美九編で改心前の美九と接する時間が多かったので、印象がアレのままです。原作よりも美九の扱いが酷いですね。
……いや、原作も大概なような。
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