ヒロインは七罪   作:羽国

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最近重い話ばっかりだったのでふざけた話を書きたくなりました。今回ギャグ回です。

適当にtwitterも始めました。何か呟くかもしれません。https://x.com/_hanekoku_

それではどうぞ。


番外編:七罪の漫画家デビュー 士道の黒歴史を添えて

「キャラの名前ダサくね。」

 琴里が楽しそうにタブレットを見て読み上げる。神無月さんが見たら喜びそうな女王様の表情だ。悪魔のように口角がつり上がっている。

「お願いだから止めてくれー。」

 椅子に縄で縛りつけられた士道は絶叫する。その姿は傷口を開いて粗塩を擦りこまれているかのようだ。

 手足を縛られているから、逃げ出すことはおろか耳を塞ぐことすらできない。

 十香や四糸乃が見ていたら心配して駆け寄っていただろう。ここには僕を含めてそんな優しい人間はいないが。

「面白いけど、全体的に名前が中二臭い。」

 そんな士道の言葉は聞こえないかのように話を続ける。凄い速度でタブレットをスワイプしているから、わざわざ士道にダメージを与える文言を探しているのだろう。

「頼む。頼むから……」

 士道は悲痛な声で懇願している。十香や四糸乃の攻略の時もこんな声は出していなかった。

 精霊攻略よりも、味方に追い詰められる方がキツいってどういうことだ?まあ、拷問官(琴里)も精霊だけど。

「瞬閃轟爆波は流石に草。」

 書いた本人の感情を再現するかのように、心を込めて読み上げる。まるで舞台女優のように身振りまでつけた感情の乗り具合だ。琴里はノリノリで士道を虐めている。

「あ……あ……あ……」

 士道は遂に壊れたラジオみたいになってしまった。ただひたすら「あ」って言い続けている。

「あはははは!何よ士道、その顔は!あ~面白い!」

 それを見て七罪はお腹を抱えて笑っている。笑い過ぎて涙まで流している。琴里と並んで、この拷問の下手人なだけは有る。

 何故このような面白……じゃなくて凄惨な光景が繰り広げられているのか。その原因は半月ほど前に遡る。

 

♦♦♦

 

「漫画を描きたい?」

 七罪にいきなりそう言われた感想は「やっとか」である。原作でも漫画を描いていたし、最近練習をしていたことも知っている。むしろ遅すぎるくらいだ。

「そうよ。このままじゃ私タダ飯喰らいのニートじゃない。だったらちょっとは意味のあることをしようかと思って。」

 七罪はテンションを下げながらそう言う。楽しいから漫画を描きたいという前向きな姿勢ではない。ニートだと思われたくない、何かしなくては。そういう焦燥感で動いているようだ。ある意味七罪らしい。

「そこまで卑下しなくても良くない?七罪は働いているって。」

 ラタトスクから給料が出ているのは僕だけだ。しかし、僕だけの給料と考えるには多すぎる額が振り込まれている。

 このまま行けば、二十代で豪邸が建てられそうなとんでもない額だ。

 ラタトスクが気前の良い組織であることや、僕のポジションが重要であることを考慮しても過剰だ。

 だから、僕の給料は七罪の分も含まれていると考えている。二人分だと考えたらギリギリ納得できる……かな。

 僕は七罪も立派な社会人だと思っている。確かに勤務時間は短いし、家賃水道高熱の全てラタトスク持ちの超ホワイト労働だ。でも、精霊から人類を守る、十分に立派な仕事だと思うんだけど。

「そんなこと無いわよ。私がやっていることなんて、愛、十香、四糸乃でもできることじゃない。その内用済みになった私は無一文で放り出されるのよ。」

「そうか~?」

 七罪が挙げたメンバーでも今までの七罪の仕事はできるだろう。でも、逆に言うと世界中探してもそのメンバー位しかできない仕事だ。替えが利くなんて言えないと思う。

 それに、七罪ほど頭が回って気か利く精霊は少ない。僕は十香や四糸乃に七罪の代わりができるとは思えない。僕が七罪の代わりなんて論外だ。

「だから、今のうちに多少は役に立つことをアピールしておかないといけないのよ。」

「な、なるほど……。」

 七罪は力強く宣言した。後ろ向きなのか前向きなのか、判断に苦しむ考えだな。

 しかし、建設的なのは間違いない。僕としては全面的に応援したい。

「それで、どんな漫画を描くんだ?」

「これよ。」

 七罪は何かのコピーを取り出す。そこにはキャラクターの設定が細かく書いてある。身近な()()()()が昔書いたであろうキャラクターが。

「この設定を元に漫画を描くわ。」

 楽しそうにそう言っている。十香や四糸乃のような無邪気な笑顔ではない。人の困る顔を見るのが大好きな悪戯娘の顔だ。

「これどこで手に入れたんだ?」

「琴里がくれたわ。」

 あのサディストなら喜んで渡すだろう。普段は仲が悪い癖にこういうときだけ固く手を握るのだから困ったものだ。琴里の高笑いを聞いた気がした。

「他人が作った設定で漫画を描くのって難しくないか?本人も協力しないだろうし。」

 一応、士道の為の助け舟を出す。別に積極的に助ける気は無いけど、このままだと士道は見るも無残なことになりそうだ。それは少し可哀そう。

 七罪はそんなものが無くても面白い作品は描けると思う。モチベーションも士道とは全く関係が無い。わざわざ士道の設定を使わなくても良いのではないだろうか。

「琴里に言われたの。これを使って漫画を描いたら原稿料として百万出すって。漫画だけ描いたら、面倒なことは全部ラタトスクがやってくれるの。」

「さいですか。」

 どうやら琴里が手厚くサポートするようだ。かなりの大金だが、精霊の為ならラタトスクは目が飛び出るような予算を出す。マンション建てたり、街を丸ごと精霊攻略仕様に変えたりするよりも遥かに安くつくだろう。

 そうでなくても、琴里ならポケットマネーで出せる。ラタトスクの司令官が稼いでいないわけない。これだけ貰っている僕の上司なのだから。

「それに、士道は四糸乃を泣かせたじゃない。四糸乃を泣かせた士道には罰を受けて貰わないと。」

「そう言えばそんなこと言っていたな。」

 七罪は少し真面目に言う。いつの間にか七罪と四糸乃は仲良くなっていた。四糸乃には少し過保護になっている。

 一回目の四糸乃攻略作戦の時に、琴里にそんな伝言を頼んでいた。そして、四糸乃が泣いていることは言うまでもない。吹雪の結界を張って引き籠っていたのだから。

 僕はもう諦めた。この凶悪タッグを止めることができない。それに、行動しようとしている七罪を止める気も起らない。七罪の為、士道には犠牲になって貰う。

 僕は士道の家の方角を向いて、そっと手を合わせた。

 

♦♦♦

 

 それから、七罪は漫画制作に取り掛かった。僕をアシスタントに指名して。

 別に良いんだけどね。僕も七罪同様に暇だし。初めから応援するつもりだったし。漫画描くのがこんなに大変だと思わなかっただけで。

「七罪、ベタ塗り終わったぞ。」

「それじゃあ次のページをお願い。そこに置いてあるから。」

 僕ははっきり言って絵が下手だ。そこらの小学生でも連れてきた方がまだマシだと思うレベルで。

 だから、僕が担当したのは誰でもできる作業だけ。消しゴムをかけたり、ベタを塗ったりと。

「七罪、こいつは妹がいる設定だっただろ。だったら帰っても誰もいないって台詞はおかしくないか?」

「……そうね。二人のキャラを一人にまとめたから間違っていたわ。すぐに直す。」

 後は設定の確認と簡単なアイディア出しくらいかな。ほとんどの作業はネームから作画まで七罪がやってしまった。

 そして、漫画は無事完成した。今日は琴里に原稿を渡す日だ。

 琴里は編集ではないし、厳しくチェックするつもりもないだろう。それはそれとして緊張するのだ。人に自分の創作を見て貰うのは。

 琴里は原稿を受け取るとぴらぴらと捲る。真面目な表情のまま琴里の表情は変化が無い。

 隣の七罪は気まずそうに琴里を見ている。やっぱり怖いのだろうか。

 やがて琴里は最後のページを読み終わり、少しだけ目を閉じる。

「面白かったわ。正直、漫画の体裁さえできていれば良いと思っていたけれど。七罪……あなたプロでもやっていけると思うわよ。」

 琴里はかなりの高評価だ。本当に面白いと思ったのだろう。

「ふん、お世辞で心を乱されたりしないわよ。どうせ、精霊が相手だから調子の良いこと言っているんでしょ。」

 七罪は琴里の感想を疑ってかかる。でも、口が緩んでいるのを僕は見逃さなかった。全く信じていないならこんな顔にはならない。

「琴里の言葉は嘘じゃないと思うぞ。だって、編集者に持ち込みでもしたら嘘が簡単にばれるじゃないか。」

 琴里は当たり障りのないことが言える人間だ。だが、ちゃんと先のことを考える人間でもある。

 自分一人が過剰なお世辞を言ったら、相手が傷つくと知っている。琴里一人が七罪の漫画を褒めても、他全員が否定したら七罪を余計に落ち込ませるだけだ。

 そんな簡単なことが理解できない琴里ではない。先ほどの賛辞は琴里の本心と判断するのが妥当だ。

「そういうことよ。七罪の漫画は本当に面白いわ。でも、私の言葉が信じられないのなら証明してあげるわ。」

 琴里はチッパチャップスを七罪の方に向けながらにやりと笑う。

「証明って、何する気よ?」

 七罪は警戒している。でも、僕はこの後の展開が大方読めた。

「聞いてみようじゃないの。沢山の人にこの漫画の感想を。この原稿の権利は買い取ったから、好きにさせて貰うわよ。」

 

♦♦♦

 

 そこから琴里の動きは早かった。投稿サイトで七罪の漫画を公開した。

 ラタトスクの力を使って、多くの人の目に触れるように色々と工夫したようだ。

 しかし、漫画自体には手を一切加えていない。サイトに来た人を漫画の面白さで捕まえる方針だ。

 閲覧者数はうなぎ上りに増えて、多くの感想が寄せられた。悪い感想も有るが、大半が七罪の漫画を絶賛するものだ。

「サクラじゃ……ないでしょうね。」

 七罪はわなわなと震えながら、自身の作品に寄せられた感想を読んでいる。喜びを超えて信じられないのだろう。

「閲覧数が百万を越えているのよ。感想も読み切れない程届いているわ。あなたを騙すためだけにこれは割に合わないと思わない?」

 琴里は腕を組んで楽しそうにしている。目論見通りにことが運んだようだ。

「夢を見ているみたい。」

 七罪はそう溢す。本音がそのまま漏れ出たという感じだ。

 こんな七罪の顔はなかなか見られないから、録画しておきたいくらいだ。

 フラクシナスが記録していないだろうか?後で令音さんに聞いてみよう。多分、撮ってるでしょ。

「出版社にも伝手があるし、良かったら連載してみようと思っているわ。どうかしら?毎回百万円も出すことはできないけど、それなりの給料は出すわよ。契約内容は要相談ね。」

 琴里は本格的に話を進めようとしている。それだけ琴里は本気なのだろう。

「……ちょっと考えるわ。」

 七罪は真剣に考えこんでいる。僕としては頑張って欲しいし、協力も惜しまない。ただ、それは七罪決めることだ。

 僕はいつでも七罪を応援できるように準備をしておこう。差し当っては、家事の分担の割合を考えなくては。七罪が漫画を描くなら、その分僕はやるべきだし。

 僕は七罪を後方で見守った。大いに悩め、七罪。

 

 ところで、この場には僕、琴里、七罪以外にもう一人居る。この漫画の関係者の一人だ。

「なぁ、琴里。俺は初めて知ったんだが。七罪が俺の考えた設定を元に漫画を描いていたことも。琴里がネットに投稿していたことも。」

 精霊の交渉役にしてこの漫画の原案、五河士道である。

 士道は眉をぴくぴくさせている。自分の黒歴史が勝手に題材にされたとなればその気持ちは推して図るべし。

 ましてや、百万回も見られたのだ。士道は今すぐ転げ回りたい気分だろう。

「あら士道、良かったじゃない。あなたの考えたキャラクター大人気よ。ペンネームでも考える?あなたにも給料出すわよ。」

 琴里は七罪に向けるのとは別の種類の笑顔になっている。人を虐げて喜ぶ女王様(サディスト)の顔に。

 ペンネームというのも素晴らしい煽りだ。士道の名義を加えるなら、琴里は本気で給料を出すだろう。その場合、士道の尊厳は切り売りされるだろうが。

「決めた。琴里、私続きを描く。」

 七罪は机を叩いて宣言する。僕としては望ましい光景だ。

「あの~七罪さん?」

 だが、七罪の口が思いっきり笑っている。琴里と同類の顔をしている。士道の縋るような視線もスルーだ。

 ……士道を玩具にできることが最後の一押しになったわけじゃないよな?士道の不幸を楽しみたいから漫画を描くわけじゃないよな?

 

 その後、月に二回の頻度で漫画への感想を読み上げる反省会(拷問)が催されることになった。わざわざ設定(士道の担当)への感想をピックアップして。士道は毎回絶叫している。

 因みに、ちゃんとした反省会は七罪と琴里と三人で別にやっている。つまり、これはただの娯楽だ。僕はそれをポップコーンを食べ、ジュースをストローで飲みながら鑑賞することにしている。

 

♦♦♦

 

「はいこれ、七罪の通帳よ。給料はここに振り込むわ。」

 琴里は七罪に通帳を渡す。アスガルド・エレクトロニクス関連の銀行だ。僕も同じものを持っている。

 七罪は通帳の記帳を確認する。作られたばかりだから最初のページにしか数字が書かれていない。

「これ何かのミス?明らかに多過ぎるけど。」

 七罪は疑問を呈す。僕もチラリと覗いたが驚愕した。

 僕の通帳より少しだけ少ない金額が記載されている。因みに、僕の通帳には引くぐらいの給料が入っている。

「それはラタトスク機関員としての給料も入っているからよ。今まで有耶無耶にしていたからこの際まとめてね。貴女の契約書にも書いておいた筈よ。」

「確かに漫画家にしては妙な記述があったけど。」

 琴里は何でもないことのように言っている。七罪をラタトスク機関員として正式に契約したと。しかし、とんでもないことだ。僕の考えていた前提条件が崩れるのだから。

「僕の口座に七罪の分もまとめて振り込んでいたんじゃないの?」

 僕の口座には二人分でも過剰な金額が振り込まれている。これが、本当は一人分とでも言うのか!?

「別の人の給料を振り込むわけないじゃない。」

 琴里は常識を説くように言っている。当たり前と言えば当たり前の話なのだけど。そう思わないと納得できない額だったんだよ。

「アシスタント代までは面倒見れないから、あなたたちで好きにやり取りして頂戴。記録さえ残してくれたら、税金関係はこっちでやっておくから。」

 琴里は事務連絡を伝えて去っていく。僕と七罪はそれを見ていることしかできなかった。

 お金って、多すぎると逆に怖いんだな。……初めて知ったよ。

 




七罪が漫画家としてデビューする話でした。アンコールでもそういう話が有ったので取り入れてみました。結構優秀な面も七罪の魅力の一つですよね。本人に自覚が無い点まで含めて。

最近は投稿する度に沢山の人に読んで貰えて嬉しく思っています。お気に入り登録や感想、評価等何かしら反応を頂けると嬉しく思います。読者の方がどういうことを思っているのか是非知りたいです。こういうのが好きと教えて頂けたら、今後の話の内容をある程度変えます。

それでは今回の裏話を。今回は七罪のラタトスクに対する印象について。
愛君と七罪では、ラタトスクに対する認識が大きく異なります。

◆ 愛君の場合
愛君はラタトスクを「かなり信用できる組織」だと判断しています。
もちろん、円卓会議(ラウンズ)のメンバーのような不穏分子の存在は把握しています。だから、完全には信じていません。
それでも、全体としては「白に近い灰色」、フラクシナスクルーについては令音を除けば「白」だと考えています。
なんなら、令音さんにすら少し絆されているくらいです。

実は、愛君は「人を疑うのが得意ではない」人間です。
原作知識と頭の回転でカバーしているだけで、本来、腹の探り合いには向いていません。

◆ 七罪の場合
一方、七罪は『デート・ア・ライブ』のすべての知識を得た上で、ラタトスクを「信じるのは危険」だと判断しています。
ラタトスク全体は「黒に近い灰色」、フラクシナスメンバーも「中間の灰色」といったイメージです。
原作知識を得たことで、以前よりもさらに警戒レベルが上がっています。
令音に関しては、「DEMと同じくらいの黒」と認識。これは妥当でしょう。

そして、七罪は 愛君がラタトスクをかなり信用していることに薄々気づいています。
だからこそ、「代わりに警戒しておかなくては」と考えています。
琴里への当たりが強いのも、ラタトスクへの警戒の表れですね。

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