期待してますよ。デート・ア・ライブ最後の映像作品。
Side 二亜
『よお、二亜。ちょっと上げてくれないか?』
「少年?」
コミコ帰りの夜。
失恋を突きつけられてヤケ酒してた。
そしたら、少年が何故かあたしの家に来た。
「どしたのこんな時間に?」
少年はインターホン越しに頬をかいてる。高校生は補導される時間だけど。
『ちょっと琴里からお使い頼まれてさ。二亜にこの袋を渡せって言われてるんだけど』
少年は右手を上げてごつい紙袋を見せてくる。それを見てピンときた。
そういえばラタトスクにコミコでの本の確保頼んだんだっけ。すっかり忘れてた。
『こんな時間に悪いとは思ったけど』
「ああ、そういうことね。いいよ、上がっていきなよ少年」
ボタンを押して解錠する。正直本は明日でも良かったけど、せっかく来てくれたし。
「お邪魔しまーす、ってすごいお酒だな二亜」
少年は机の上の空き缶を見てぎょっとする。あたしも改めて見てヤベーなって思った。
「ちょっと飲みたい気分になっちゃって」
「ちょっとって……。よくわからないけど、この量は身体に良くないんじゃないか?」
「良くは、ないだろうね」
ぶっちゃけ、飲み過ぎた感はある。流石につまみなしでこの量は初めてじゃないかな。
今更ながらフラフラしてきたよ。
「大丈夫か、二亜?」
「大丈夫大丈夫。あたしが酔っ払ってるなんていつものことだよ」
少年を心配させまいと手を振ったんだけど、なかなか締まらない。おなかがぐ~って。
「ご飯まだなのか?」
「いや~、買いに行くの面倒くさくて」
言えない。失恋の勢いで夕方からずっとだらだら酒飲んでたなんて。
「簡単なもので良ければ俺が用意しようか?」
「あ~うんそうだね。お願いしようか」
少年が帰ったら買いも作りもしないだろうし。せっかくの厚意に甘えておこう。
「卵と、パックのご飯と、調味料はあるな。炒飯でいいか?」
「それでよろしく」
少年が早速コンロで料理を始めた。卵を炒めるいい匂いが空きっ腹によく刺さる。
「今日はコミコだったんだろ。どうだった?」
少年はフライパンを振りながら話しかけてくる。
「とっても楽しかったよ。本は買ったし、コスプレもいっぱい見てきたし」
「そっか、ならよかったんだけど」
少年は少し含みのある目を向けてきた。まるであたしの顔色を伺うみたいな。
「なに、どうかした?」
「いや、コミコって二亜の大好きなイベントなんだろ?」
「合ったり前よ。コミコはオタクの聖地。年に二度の命を懸けたイベントなんだから」
「にしては元気ないなと思って」
あたしはその言葉を聞いて固まってしまった。少年にバレるくらいわかりやすかったかー。
少年は少し寂し気にあたしの方を見る。
「前々からちょっと変だなとは思ってたんだよ。何かあったんなら話を聞くぞ。俺で良ければだけど」
少年はお皿にチャーハンをよそう。その手つきはとても丁寧だ。
「妹ちゃんの入れ知恵かな?弱みにつけこんで精霊を攻略して来いって」
この子は精霊を封印して回ってるハーレム王。そういう打算で動いているのかもしれない。
「かもな。気になるなら
少年は炒飯を差し出してくる。その炒飯はとても美味しそうだ。
こんな話題にはもったいないくらい。
「言うじゃん。その度胸に免じて囁告篇帙は使わないであげようじゃない」
なにより、今チートを使うのは違うでしょ。せっかく善意で来てくれたんだから。
「それじゃあ、おねーさんの愚痴に付き合ってもらうよ」
「お手柔らかに頼むよ」
あたしと少年はウーロン茶で乾杯した。
♦♦♦
Side 士道
「アタシがさぁ『仮にもデートなんだから他の女の話するな』って言ったらなんて返したと思う?」
二亜はテーブルにグラスを激しく叩きつけ、愛の愚痴を熱く語る。その目は怖いくらい極まってる。
今飲んでるのってウーロン茶だよな?アルコール入ってないよな?
「わからないなぁ。なんて言ったんだ?」
「『そうですね。仮にもデートでもんね』だって。いや、マジかって思ったね。
アタシはライフゼロになってそれでも耐えてるのに、容赦なく心臓抉りに来るんだから」
二亜は自分の胸を手刀で刺すジェスチャーをする。本気で辛かったみたいだ。
愛の奴、容赦ないからな。
「大変だったな」
「本当さあ、愛くんには呆れて言葉も出ないよ。女心が一ミリもわかってないんだから」
「うっ」
二亜の言葉が俺にも突き刺さる。
女心については俺も人のこと言えない。琴里によく言われるし。
「鈍感属性なんてなくしても良くない?擦り過ぎてもう味のしない属性だし。そこまで良いことないと思うんだよね」
「ぐはっ!」
流れ弾は俺の心臓を貫いた。どうやら、本人以外もダメージを食らうようだ。
「まあ、そこがあいつのいい所でもあるだろ。何でもできたら人間らしくないって」
「……そうだね。そういうところまで含めて愛くんだよね」
二亜は穏やかに微笑んだ。怒りながらも、なんだかんだ嬉しそうだ。
琴里はほとんど教えてくれなかった。ただ、今日二亜のところに行けと言われただけだ。
でも、ここまでだと流石に予想はしてた。
「二亜、お前は愛のこと……」
「ま、そういうことだよ。あたしは負けヒロインだったというわけさ」
二亜は両手をひらひらさせて笑う。冗談めかした口調がとても痛々しい。
「二亜はどうして愛のこと好きになったんだ?」
「あの子ってイケメンじゃん。見た目じゃなくて中身の方ね。まあ、見た目もそこそこレベル高いと思うけど」
二亜はここにきても冗談めかして話し続ける。
「仕事できるし、文句言いつつなんだかんだ助けてくれるし、優しいし。あんなに捕まえておきたいって思ったのは初めてだったんだよね」
顔が紅いのはまだ酔ってるのか。それとも――
「だから惚れちまったと。七罪がいるのもわかってて」
「……野暮だとは思ったよ。あの二人の仲は嫌って程見てきたから」
二亜はウーロン茶を注いでゆっくりと口をつける。
「それでも、抑えきれなかったんだよね。なっつんに勝つ自信も、蹴落とす勇気もないのにね」
二亜の言葉はずしりと重い。俺の手には余るくらい。
「気持ちを伝える気はないのか?」
「無理無理、誰も幸せにならないって。勝算ゼロのギャンブルに挑むほど二亜ちゃんは馬鹿じゃないよ」
二亜の言葉を否定も肯定もできなかった。したくなかった。
「ありがとね、こんな愚痴に付き合ってくれて」
「大したことはしてないよ。落ち込んでるときはお互い様だろ」
本当に大したことはできなかった。
「お礼と言っちゃなんだけど、デートしてあげよっか?」
「え?」
二亜はぽつりと呟いた。いつものように軽い調子で。
「アタシのこと、封印したいんでしょ?」
二亜は悪戯っぽい笑顔で俺を見る。それを見て、意味がわからなくなる。
「わかってるのか、二亜?封印するってことは」
「アタシが少年を好きになってキスする。そういうことでしょ。知ってるに決まってるじゃん、アタシの天使は囁告篇帙なんだからさ~」
そう、二亜は知っているはずだ。
封印するなら俺を好きになってもらわないといけない。今の気持ちを捨てないといけないって。
「アタシに湿っぽいのは似合わないし。このままよくわかんないポジション続けても、いいことないと思うんだよね」
自嘲気味にそう言う二亜はどう見ても無理をしている。
「いや、でも早すぎるだろ。せめてもうちょっと落ちついてからでも――」
「ねえ、知ってる?あの二人毎週来てくれるんだよ。原稿手伝うって」
俺の言葉を遮った二亜。その言葉にハッとさせられた。
「それって」
「愛くんに会えて嬉しいんだよ。でもさ、気持ちを隠すのも辛いんだよ。
本当、訳がわかんなくなりそう。今の私、ずっとそんな感じなの」
二亜の声色がどんどんと変わっていく。湿っぽく悲痛な感情を乗せたものに。
「頼むよ、少年。このままだと辛いんだよ。愛くんのこと、早く思い出にさせて欲しいの」
「二亜……」
二亜の静かな叫びが心に残る。
誰かがやらなきゃダメなんだな。そして、多分俺にしかできない。
「任せろ、二亜。愛のことちゃんと忘れさせてやるよ」
「期待してるよハーレム王」
少し臭いやり取りに二亜は笑った。その笑顔がぎこちないのは気のせいじゃないと思う。
♦♦♦
Side 琴里
令音の家とのお茶会はたびたびやっている。部下である以前に大切な友人だから。
でも今回は少し違うわね。令音の他に席がもう一つ。
「まさか七罪に招待される日が来るとわね」
初めてよこんなこと。
「私だってお礼くらいするわよ。琴里に面倒なこと押し付けたんだから」
七罪は紅茶を飲んで揺れる水面を見る。義理を果たすため、かしら。
「別にいいわ。これもラタトスクの仕事だし、私たちにとっても都合がいいから」
愛と二亜の微妙な関係を裏で調整して、士道と二亜が二人きりになれる状況を作りだした。その張本人が七罪よ。
私としても二亜は封印したかった。二亜には悪いけど、この状況は願ったりかなったり。
だからこそ、七罪のプランに乗っかった。
「むしろ、君もフォローに回っている側ではないのかな?」
「そうね。いつも通り、愛の後始末をさせられてるわ」
令音の言葉を七罪は疲れた顔で肯定する。今回のはそういうことなんでしょうね。
「あいつは鈍感で仕方のない奴よ。自分がどう見られてるか、全然わかってないんだから」
七罪は不機嫌そうにカップに口をつける。そして、間をおいて一言。
「女に需要ないって思いこんでるのよ。そんなわけないのに」
七罪は怒った様子でお茶請けのケーキを頬張る。七罪の苦労が目に浮かぶわ。
「今後のことを考えたら、愛も二亜の気持ちを知るべきかもしれないけど」
「二亜が頑張って隠してきたのに、私たちがバラしちゃダメでしょ」
令音の案を七罪は即座に却下する。その方が色々と早くて楽でしょうに。七罪も損な性格してるわね。
「やたら二亜の肩を持つけど、何か恩でもあるの?」
ここまで来ると流石に不自然よ。自分の恋人を狙われてるのに。
「二亜に思うところはあるけど、それよりも愛の鈍感さのほうにイラっとして」
「あ~」
「少しくらいは二亜の味方してもいい。そう思っただけよ」
言わんとしてることはわかるわ。どうして男ってああも鈍いのかしらね。
「まあ、そういうわけよ。二亜のことはあんたたちに任せるわ。しっかり頼んだわよ」
「任せて頂戴」
珍しく七罪が信用してくれたんだもの。ちゃんと応えてあげようじゃない。
「それで、そろそろ次の話題に入ってもいいかしら?」
「……いいわよ」
七罪は嫌そうに頷く。でも遠慮なく続けるわ。
むしろ、今日ここに来たのはこっちの方が本題だもの。
「七罪が戻って来てから半月くらい。その間、愛は一切霊力を使っていない。間違いないわね?」
「間違いないわよ」
「それについては私も保証しよう。観測記録を確認したけれど、微弱な霊波すら観測されていない」
私の確認に七罪と令音は即座に切り返す。その言葉に迷いはない。
「つまり、あれ以降状況は悪くなってないのよね?」
「ええ、その通りよ。愛は今の状態で踏みとどまってる」
愛は二人目の始原の精霊。そして、ここ数カ月の乱用のせいで身体が完成しつつある。
今は何とか抑えてるみたいだけど、根本的な解決にはなってない。
「わかってると思うけど、今の愛は火の点いてない爆弾。何がきっかけで爆発してもおかしくないわ」
七罪は私の言葉を驚くこともなくうなずく。七罪も今が安全じゃないことはわかってたみたいね。
「DEMは何企んでるかわからないし、崇宮澪ってやつもこのままなわけないわ。その内、大変なことが起こる。
「あの馬鹿は動こうとするに決まってるわ」
七罪は強い口調で断言する。そして珍しく目をぎらぎらと輝かせる。
「死んでもさせないけど。そのために私が見張ってるんだから」
今日まで無事なのは七罪の功績。
霊力を使ったら即座に心中する。そう言って、愛を脅迫し続けてる。
七罪狂いの愛だもの。死んでも霊力を使うはずないわ。
「感謝するよ、七罪。君は世界の救世主だ」
「え、何いきなり?ちょっと怖いんだけど」
さっきの覚悟とは一転。令音の言葉にびくつく七罪。
「冗談でも何でもないわよ。あなたがいないと世界は滅んでおかしくない。あなたの価値は以前の比じゃないわ」
「いや別に。私なんてただの粘着女だし……」
相も変わらず自分の行動を卑下するわね。悪いことなんて全くしていないのに。
むしろ、世界を救うとびっきりのいい子だけど。
「不甲斐ないことだが今は君に頼るしかない。頼むよ、七罪。ラタトスクの解析官として、あの子の家族として」
「……うん」
令音はほほ笑む。七罪は少し照れ臭そうに頷いた。
「というわけで、これはお礼よ。受け取って頂戴」
私は机の上にプレゼントを置く。それを見て七罪は怪訝な顔を見せる。
「なにこれ?」
七罪はラッピングを破って中身を取り出す。中から出てきたのは白いセーラー服と青のチェック柄のスカートのセット。
七罪は嫌そうな顔をする。見覚えがあるはずよね。私が毎日来てるんだから。
「ラタトスクはあなたを支援することにしたわ。これを着て私や愛と同じ学校に通っていいわよ」
「上げて落とすのが上手いわね、この性悪司令官!」
七罪は手に持った制服を床にたたきつける。せっかくの制服を乱暴に扱わないでよ。
「そんなに嫌なのかい、七罪」
「嫌に決まってるじゃない。誰が好き好んであんな場所に通うのよ」
令音の言葉に七罪がやたら反応する。
本当、七罪の学校嫌いは深刻ね。なんでそこまでに嫌がってるんだか。
「はぁ~、やっぱこうなるのね」
七罪は制服を見て大きなため息を吐く。魂まで抜け出てくるんじゃないかと思うほどに。
「むしろ、そのつもりだと思っていたのだけど」
「いや、予想はしてたのよ。避けられないだろうなって。でも改めて言われるとねぇ」
七罪は人差し指同士をつんつんと。どうして今更学校程度でいろいろ言ってるんだか。
「因みに、愛をまた学校通わせないってのはダメ?」
「愛自身が同年代との交流を試みている。それを妨げるべきでは、ないと思うのだけどね」
「うっ」
実際、愛はもうちょっとまともになってもらわないと困るのよ。
「君たちの人生はこれから先長いんだ。あまり短絡的に考えて欲しくないと思っているよ」
流石愛の親代わり。説得が楽で助かるわ。
「それで、覚悟は決まったかしら?手続きは済ませておいたから、冬休み明けから通ってちょうだい」
「何が『覚悟は決まったかしら?』よ。拒否権ないじゃない」
七罪はぶつぶつ言いながら制服を手に取る。不本意そうだけど抵抗はしないみたいね。
「因みに四糸乃も一緒だから」
「あーもうわかったわよ。行かせてもらいますー。……これだからラタトスクの連中は」
七罪は制服を持って自分の部屋に閉じこもった。
「七罪もなかなか難しい子だね」
「まあ、思ってたよりは楽な説得だったかしら」
自分の部屋にもっていってる。それだけで十分よ。
鈍感主人公をフォローする会発足。
今回の裏話は七罪と二亜の関係について。
色々あって一緒に住んでいた七罪と二亜。なんだかんだ相性が良くて一緒にネトゲとかしてました。その後原稿放置してたのが発覚して地獄が顕現したのですが。
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