Side 七罪
コミコが終わったらすぐに年が明ける。十香たちは初日の出を見に行ったみたいだけど、私は遠慮した。
私にはあんま似合わないイベントだし。コミコで疲れてたから。
新年は家に籠って最後の休日を満喫しよう。そう思ってたんだけど。
「七罪、初詣に行こうか」
起き抜け早々、愛は元気に言いだした。
「なんで?面倒だから嫌なんだけど」
お雑煮のお餅をびよーんと伸ばしながら答える。あ、出汁がきいてて美味しい。
「ラタトスクが晴れ着用意してくれたらしいからさ。どうせなら着てみようよ」
機嫌良さそうにカメラのレンズを磨く愛。こいつ、私の写真を撮りたいだけね。
愛は折紙と一緒で写真とか動画を取るのが趣味。因みに中身は九割五分が私。
でもこの前の世界の改変でカメラもその中身もなくなった。最近はそれを取り返すかのように、撮りまくってる。
こいつカメラマンになるのかと思うくらい。
「なんで自分から人混みに行かないといけないのよ。せめて人が減った午後でいいんじゃない?」
「ダメだよ。四糸乃やミケさんと約束してるんだから」
こいつ、私がら知らない間に勝手な約束して。放り出すわけにいかなくなったじゃない。
「着物は立派な武器。せっかくの機会を逃す手はない」
折紙が濃い緑色の着物を持って寄ってくる。真顔でじりじりと。
「心配しなくていい。着付けの心得は持ち合わせている」
逆サイドからは令音が帯を持って寄ってくる。既に包囲網が敷かれてる。
「もう好きにすれば」
観念して両手を上げた。こいつらと朝からやり合う体力はないわ。
「そうさせてもらうね!」
令音たちはてきばきと着物に着替えさせた。その後は一時間の撮影会。
「いいよ、七罪。その顔最高!」
死んだ魚みたいな目でレンズを見たら、愛は一層元気になってたわ。なんでよ。
♦♦♦
愛と折紙と令音と私。四人全員着物を着て神社まで来たわ。
せめてもの抵抗で愛にも着物を着させたわ。
いかにもな感じの黒い羽織袴。少しは窮屈さを味わえばいいのよ。
「うわぁ、多過ぎ」
ちょっと遅めの時間だけどまだまだ人がごった返してる。
「はぐれないように気をつけてくれ。合流するのは大変だ」
令音が保護者らしく指示を飛ばす。それと同時に私の手が握られた。
「じゃあ、これでいいかな」
愛のものね。握った手を少し上にあげて楽しそうに私の手をにぎにぎとしてる。
「好きにすればいいんじゃない」
斜め下を向いて顔を逸らす。少しだけ手を握り返した。
「あっ、お久しぶりです折紙さん、愛さん!」
しばらく歩いていると女の子が元気そうに手を振って駆け寄ってくる。少し小柄な体型を生かして人の隙間を潜り抜け、私たちの前で立ち止まった。
「久しぶり、ミケ」
「どうもです、ミケさん」
その顔を見て折紙と愛は嬉しそうに微笑む。
飼い猫みたいなあだ名をつけられてるのは岡峰美紀恵。ASTの隊員で折紙たちの元後輩ね。
小動物みたいにほんわか空気を作ってるわ。
「令音さんもお久しぶりです」
「元気そうだね、美紀恵」
令音とも挨拶を交わし合い、私の方を見る。そこでわかりやすく頭に?を浮かべた。
「えっと、こちらは?」
「そういえばまだ紹介していなかったね。鏡野七罪だ」
「どうも」
令音の紹介に合わせて適当に頭を下げておく。
「岡峰美紀恵と言います。折紙さんたちとは仲良くしてて」
「ええ、聞いてるわ」
「仲良くしてくださいね、七罪さん」
美紀恵は私の手を取ってぶんぶんと振る。
そっか、こいつは私のこと知らないのね。前会ったときは変身してたし。
「七罪さんは折紙さんたちとどういうご関係なんですか?」
美紀恵は当然の疑問を投げかける。いきなり別の人間が混じってたら気になるわよね。
私も不思議。なんでこの家族に巻き込まれてるのか。
「……どう表現すべきだろうか?」
「敢えて言うのならば、家族?」
美紀恵の言葉に令音と折紙は顔を合わせて首をひねる。
答えを私に求めるのは止めなさい。あんたら以上によくわかってないわよ。
「家族、ですか?」
「そうだね。一緒に住んでるし」
美紀恵の言葉を愛は肯定する。
「そうなんですね……」
その言葉を聞いて、美紀恵は横目に私と愛のことをちらちらと見る。
不思議そうというか、不安そうというか。そんな顔をして。
意図はなんとなくわかるわ。
家族でもない男と女が一つ屋根の下。そういう心配をしてるんでしょうね。
「何も問題ない。二人は将来を誓い合った仲」
「え⁉」
視線を察した折紙が爆弾を放り込む。美紀恵はその言葉を聞いて私の方を見た。
「まあ、そういうことよ」
少し目を逸らして肯定する。別に間違ってることは何もないし。
「そうだね~。七罪は僕のものだから」
私の言葉に気をよくしたのか、愛はご機嫌で追加した。私の首の周りに手を回してる。
美紀恵は顔を赤くさせる。あ、鼻血が出てきた。
美紀恵はブリキみたいなぎこちない動きで令音の方を見る。令音はその顔を数秒見て察した。
「ああ、七罪には身寄りがないからね。どうせなら早い方が良いだろう?」
「親・公・認!」
美紀恵は殴られたように吹っ飛んでいく。そして地面の上で魚みたいにぴくぴくしてる。
何これ?
「七罪さん」
「何?」
今度はゆっくりと地面に手をつかずに起き上がる。逆再生みたいで怖い。
「お話を聞かせてください。恋バナしましょう」
美紀恵は私の手を握ったまま熱い視線を向けてた。目をらんらんと輝かせて。
「ああうん、別にいいけど」
それを拒否する度胸は私にないわ。私はノーと言えない精霊だから。
あの姉弟に負けず劣らず変な奴ね。類友ってやつかしら。
♦♦♦
「七罪さんは愛くんのどんなところが好きなんですか?」
「えっと、それは……」
両腕をぎゅっと握って答えを待つ美紀恵。その後ろで聞き耳建ててる愛と折紙。
こいつら楽しそうにして。
「私のこと大好きだって、嫌がっても伝えてくるところ……」
下手に隠してると、長引くわ。さっさと終わらせましょう。
「おお、語ってくれますねぇ」
「ま、まあね」
我慢我慢。ここは虚勢でも胸を張っておくのが大事。
「照れてもちゃんと教えてくれる七罪が大好きだよ」
こいつ、人前で堂々と抱きついて。あとで覚えてなさいよ。
「折紙さん、恋愛っていいですね」
「そう、恋は素晴らしいもの。ミケにも素敵な人が現れるよう願っている」
折紙は美紀恵とうなずき合ってる。
折紙は士道と付き合ってないわよね?なんでそんな先輩面できるの?
「おい、アルテミシア。この『凶』ってのは何番目にいい結果なんだよ?なんか響きがかっこいいぞ」
そうしていたらやけに騒がしい声が聞こえてきた。新年の神社でもひときわ目立つ外国人集団。
その中の一人がおみくじを片手にくるくると回っている。ガキ大将の女版みたいな奴ね。
「とっても珍しいそうよ。良かったね、アシュリー」
それを微笑ましく見る金髪の女。年が離れてそうだけど、家族か何かかしら?
「そうか、それはいいな。新年早々ラッキーだぜ」
そのまま勘違いしたちびっこはコマみたいに回り続ける。
「ふぎゃっ!」
「あだっ!」
そして、同じく背後を見ていなかった美紀恵とぶつかった。
「いててっ」
「アシュリー、周りをちゃんと見ないと……」
今度はさっきと違う背の高い女がちびっこの元に寄る。
「ううっ、痛いですぅ」
「ミケ、大丈夫?」
「申し訳ありません。連れが失礼をしたようで」
ちびっこの連れの最後の一人。茶髪の車椅子の女。
そいつが頭を下げる。
「こちらこそ……」
そいつに対応しようとした愛の動きが止まった。数秒遅れて茶髪の女も同じように固まる。
え、何?こいつ知り合い?
「セシル・オブライエン?」
顔を見て確かめるように首をひねる愛。
「鳶一、愛!」
嫌そうに顔を歪める茶髪の女。
互いに見つめ合う二人。その雰囲気は全体に広がったわ。
「ん?テメー美紀恵じゃねーか」
「アシュリーさん?」
「久しぶり、鳶一折紙」
「あなたたちにまた会えるなんて」
「……日本は狭いわね」
それぞれ顔を見て驚く面々。新年早々、騒がしい雰囲気は留まることを知らないみたい。
♦♦♦
愛を
んで、その色々に愛たちASTが関わっていたと。
洗脳されて折紙たちと戦ってた
「いやー、またアルテミシア親衛隊に会えるとは」
メンバーを見てからからと笑う愛。
「誰が親衛隊だコラ?舐めるのも大概にしろよ」
そんな愛を見てちびっこことアシュリー・シンクレアがすごんだ。でも、愛は意にも介さない。
「はっはっは、仲間を救うためにDEMと戦争した人たちが何言ってるんだか?嫌いじゃないよ、そういう馬鹿は」
愛って地雷原でタップダンスするの好きよね。何の意味もないのに。
「テメー、表出ろ。今度こそぶちのめしてやるよ」
アシュリーが青筋立てて拳を鳴らす。完全に乗せられてるわね。
「止めなさい、アシュリー」
その肩を押さえて止める車椅子女、セシル・オブライエン。喧嘩っ早そうなアシュリーのストッパーをしてる。
「でもよー、セシル」
「叩くなら背中から不意を突いて。じゃないと、そいつは倒せないわ」
前言撤回。本性はアシュリーと大して変わらないわね。
「安心しなよ、ちゃんと手加減して――」
「煽ってるんじゃないわよ、この馬鹿」
挑発する愛を拳で黙らせる。なんでこういうときは上手く立ち回れないのよ。
「折紙さん、あなたにはお礼を言いたいと思っていたの。ありがとう、私たちを助けてくれて」
一歩前に出て丁寧に頭を下げる金髪女ことアルテミシア。
「……あなたたちが無事でよかった」
それに対して折紙は少し柔らかい表情で返した。
折紙はアルテミシアを救った張本人。そのおかげで今こいつらは元気に暮らせてるってわけね。
「みなさん、
元気よく駆け寄る美紀恵。その動物みたいな距離感に長身の女、レオノーラ・シアーズは困った顔を見せる。
「色々、あった。もうイギリスに戻れないかも……」
うつむきがちにぼそりと答える。かなり深刻そうな顔で。
「どういうことですか、国に帰れないって」
「DEMのせいよ」
詰め寄る美紀恵。レオノーラに代わり、セシルが前に出て答えた。
「まさか、またアルテミシアさんを狙って?」
美紀恵の言葉にセシルはこくりとうなずく。
「そういうこと。最近、DEMは血眼になって魔術師をかき集めてる。何か事を起こそうとしているみたいよ」
「元々手段を選ばない連中だったんだけどよー。最近のあいつらはやべーぜ。おちおちコンビニに行くことすらできねー」
セシルの言葉にアシュリーが付け足す。かなり面倒な状況になってるみたいね。
問題はDEMというよりウェストコット。
あいつは精霊の力を欲しがってる。特に、世界を書き換えることのできる始原の精霊の力を。
その力を愛が持ってるって知っちゃったんだもの。そりゃ派手に動き出すわよ。
「本拠地のイギリスはどうなってると思う?」
考えるまでもないわね。警察までグルになっててもおかしくないわ。
「ごめんなさい、みんなを巻き込んでしまって」
アルテミシアがしゅんとした顔をする。その姿にお仲間三人は一斉に反応した。
「そんなことねーよ」
「アルテミシアは悪く、ない」
「どちらにしろ私たちも魔術師よ。アルテミシアがいなくてもDEMに狙われていたの同じ」
アルテミシアを囲んで励ます奴ら。案外、悪い奴らじゃないのね。
「だったらあんたたちどうしてるの?廃墟で野宿?」
あれは辛いわよ。特に今の時期は寒いでしょうし。
「ま、それも考えたんだけどよー。生活を支援するって言ってきたからな」
アシュリーが頭を後ろに手を回しながら答える。
「生活を支援?」
「優しい人たちがいてね。ビザの用意から家の手配、仕事の斡旋まで全部やってくれたの」
アルテミシアはが嬉しそうに応える。
「……妙ね」
見ず知らずの外国人を支援?そんな夢みたいな話、裏があるに決まってるわ。
「ねえ、愛」
「多分合ってると思うよ」
愛はにやっと笑って答える。同じことを考えたみたいね。
そんだけ金と権力を持ったDEMと対立してる組織。どう考えてもこの世に一つしかないでしょ。
「因みに、その親切な人の名前って?」
「確かイツカさんだったかな?ずいぶんとお若い人だったよ」
アルテミシアはあごに指をあてて思い出した。若すぎる司令官の名前を。
やっぱり、ラタトスクじゃないの。
今回の裏話は愛くんとストライク組の関係について。
改変後の世界では愛くんはASTやってました。だから、アシュクロフト事件にも関わっています。
色々やったのですが、結果はストライクとほぼ一緒です。
ちなみに愛くんは好みに合わないからアシュクロフトに興味ゼロ。中途半端にサポートされるのは嫌いとのことです。
投稿日はいつがいい?
-
月曜夜
-
火曜夜
-
水曜夜
-
木曜夜
-
金曜夜
-
土曜昼
-
土曜夜
-
日曜昼
-
日曜夜