ヒロインは七罪   作:羽国

145 / 147
二亜■■■編は長くなりそう。多分。


初詣と魔術師たち 後編

Side 愛

 

 本堂に行くため坂道を上る。約束をしていたミケさんや偶然出会ったアルテミシア組と一緒に。

 ミケさんが元気に前を進み、アシュリーがその後に続く。少し距離を空けてお姉ちゃんやアルテミシアが後に続く。

 

 そして、七罪は最後尾で息を切らしていた。

 

「なんで無駄に高い所を選んだのよ」

 元々運動が苦手な上に慣れない着物だ。既に疲れている。

 

「耶倶矢と夕弦の要望だってさ」

「煙となんとかは高い所が好きよね」

 あの二人の扱い酷いな。別に否定しないけど。

 

「愛、背負いなさい」

 七罪は端的に命令を下す。

 

「……りょーかい」

 僕は大人しくそれに従った。これくらいのわがままはすっと聞くのが甲斐性だ。

 そのまま七罪の背中に右腕を回す。

 

「はい、力を抜いて」

「え、あ……うん」

 

 僕の右手に体重が預けられる。右手でしっかりと支えて、逆の手を膝裏に差し込んだ。

 そして、バランスを取りつつ七罪の身体を持ちあげる。お姫様抱っこの形で。

 

「あんた、意外と力あるのね」

 七罪は僕の腕を見ながら少し感心する。持ち上げられると思ってなかったみたいだ。

 

「前に言ったでしょ。オリンピック選手より体力あるよ」

 女の子一人くらい簡単に持ち上げられる。小柄な七罪なら数十分は余裕だ。

 

「どうですか、お嬢様?」

「悪くない気分ね」

 冗談めかした調子で聞いてみると七罪は鼻を鳴らした。赤くなっちゃってかわいい。

 

「あけましておめでとう。新年から見せつけてくれるわね」

 頂上では偉そうに腕を組んだ琴里が待っていた。琴里らしく赤の晴れ着を着ている。

 僕たちを見て呆れた様子だ。

 

「おめでとう、琴里。僕たちラブラブだから」

「あけましておめでとう、琴里。これがこいつの平常運転よ」

 七罪を下ろしながら挨拶をする。

 

「次からコーヒー片手に待たないといけないかしら?砂糖もミルクも入っていない苦いのを」

 そんな僕たちを見て琴里は肩を竦めた。

 

「体力がねーでいやがりますね、七罪。身体は全ての資本ですよ?」

 その隣には真那もいる。こっちは普通にコート姿だ。

 鳥居に背中を預け僕たちを見て鼻を鳴らす。

 

「僕が好きでやってるんだから、別にいいでしょ」

「これくらいの坂でへばってるようじゃ、先が思いやられますねー。まあ、その肉のない身体じゃ仕方ねーですけど」

 真那はぷぷぷと口を押えて笑う。どうもこいつとは馬が合わない。

 

「何にもわかってないな。細い身体にも良さがある。少なくとも僕は七罪のミニマムボディが大好きだ!」

「今テメーの趣味の話はしてねーんですよ。このロリコン!」

「残念でした。僕自身が未成年だからロリコンでも何でもありません~。ただの男女交際です~」

 真那とおでこをぶつけ合い、火花を散らす。

 

「そんな男勝りな性格してるから、ビジュは良いのに男が寄り付かないんじゃないの?七罪みたいに守ってあげたくなるしおらしさを見せたら?」

「軽い男に興味はねーです。最低でも真那に勝つ男じゃねーと」

 

 おでこを押し合って力比べをする。随意領域を使った高度な技術の押し付け合いだ。

 見た目は学生の喧嘩。でも実際のところは象が潰れるような力が出ている。

 

「アデプタスナンバー2に勝てる男がどこに存在するんだよ!」

「少なくとも兄様は勝てるでしょう!」

「人外の身内出してるんじゃねーよ、このブラコンが!」

 

 周囲にバレず、余波も出さない。その上で相手をねじ伏せるために馬力を上げ続ける。

 こいつに負けてたまるか。

 

「ねえ、こいつら一周回って仲良いでしょ」

「放っときなさい。そのうち終わるから」

 

 琴里と七罪が背後で見ている。その冷たい視線をスルーして勝負は続いた。

 なお結果は引き分け。チクショウ。

 

♦♦♦

 

 真那と僕はふらふらになりながら本堂の方へ歩いていく。その少し先を琴里と七罪が歩いていた。

 

「ねえ、琴里。あいつらもラタトスクにスカウトしたの?」

 七罪が既に賽銭箱の方にいるアルテミシアたちへ視線を送る。アシュリーがじゃらじゃらと鐘を鳴らし、他の面子が手を合わせている。

 

「相手はDEMよ。戦力はいくらあってもたりないわ」

 琴里が少し目を鋭くさせる。琴里も先を見て準備を進めているようだ。

 

「だから真那のようにスカウトしたんでいやがりますか?」

 真那が後ろから会話に入る。真那もあの面子には興味はあるみたいだ。

 

「そういうことよ。幸い、本人たちもやる気みたいだし」

「まあ、DEMを恨んでるでしょうし。敵の敵は味方ってことね」

 七罪も納得したみたいだ。そりゃ、洗脳なんかされたら恨むよね。

 

「動いてるのはそれだけじゃないわ。はい、コレ」

 琴里が差し出した金属のアクセサリのようなものを受け取る。タグの部分を見てみると予想通り、慣れ親しんだ名前が書いてある。

 僕の専用兵装《ノルン》の緊急着装デバイスだ。

 

「もうできたんだ」

「ウッドマン卿が急いでくれたわ。大変だったらしいわよ」

「へー、流石師匠(せんせい)

 

 太陽に当てると刻印が輝く。こうして見ているだけでも少し楽しい。

 世界の改変で失った僕の兵装。それが遂に戻ってきた。

 

「それ渡したんだから、もう絶対精霊化するんじゃないわよ」

「わかってるよ」

 

 琴里の話を流して手をひらひらと振った。それよりもデバイスだ。

 手首につけるとすごくしっくりくる。最近は精霊の力ばかりだったけど、僕はやっぱり魔術師(ウィザード)なんだ。

 

「本当、あんたは顕現装置(リアライザ)好きよね」

 七罪は困った顔で僕のことを見る。七罪自身はあんまり興味がなさそうだ。

 

「だって超高度技術の結晶だよ。このデバイス一つとっても凄まじい。こんな小さなデバイスで最新兵装を呼び出せるなんて、楽しくならない?」

 人間の脳波で現実を捻じ曲げるオーバーテクノロジー。スマホよりも手軽に魔法を実現させる。

 顕現装置(リアライザ)には夢が詰まってる。一生触っていたい。

 

「はいはい、その話は後で聞いてあげるから。今はみんなと集合するわよ」

 七罪は会話を途中で止めて僕の背中を押す。まだ語り足りないけど、七罪の顔を見て諦めた。

 小さな子供でも見てるみたいだもん。

 

「あっ、愛くん、七罪ちゃん。こっちですよ、こっち」

 ミケさんが大きく手を振って呼んでいる。その近くにはアルテミシアたちやお姉ちゃん、それに精霊たちも待っていた。

 ミケさんは十香や耶倶矢、夕弦たちと仲良くしている。そういえば同級生だった。

 

「岡峰美紀恵を連れて来てくれたのは助かったわ」

 琴里がミケさんを見ながら呟く。その目は思惑を孕んでいるように見えた。

 

「勧誘するの?」

 琴里はこくりとうなずく。

 琴里に教えたつもりはないけど、隠してもいない。最初からここで話をするつもりだったんだろう。

 

「ASTは優秀な人格者が多い。それが私の考えよ。できるならば引き抜いておきたいわね」

「同意するよ。僕も、お世話になった人たちを殺したくない」

 珍しく琴里と方針が完全に一致した。

 

「彼女を足掛かりにできれば勧誘は手っ取り早くなるわ。なにせ現役のAST隊員だもの」

 なるほど、流石司令官様。根回しのやり方が上手い。

 

「愛、前の世界の記憶って思い出させることはできる?」

 ミケさんは前の世界で琴里たちと協力していた。その記憶があれば手っ取り早い。

 

「僕は無理だね。流石に霊力ゼロじゃ無理だ」

 でも、それには天使の力が必要だ。霊力を使うなと言われている今、それはできない。

 

「でも、七罪ならできるよ」

「……千変万化鏡(カリドスクーペ)ね」

 七罪なら全ての天使を扱える。その力があれば、前の世界の記憶を呼び出すくらい容易い。

 

「頼めるかしら、七罪?」

「人を便利ツールみたいに扱って。まあ、いいけど」

 

 七罪はぶつくさ言いながらも天使を顕現させる。そのまま黒い洋書のような姿へ。

 二亜さんの天使、囁告篇帙。これで前の世界の情報を呼び出すことができる。

 

「愛くん、どうしたんですか?」

 ミケさんは険しい顔をしている僕たちを見て首をかしげる。その顔を見ると少し罪悪感が湧く。でも仕方がない。

 

「美紀恵、ちょっと耳貸しなさい」

「どうしたんですか、七罪ちゃん。内緒話なんて」

 無警戒に耳を七罪の口元に近づけるミケさん。そして、七罪はぼそぼそと何かをつぶやいた。

 

「あうっ!」

 同時にミケさんが頭を押さえて崩れる。急な体調不良に見舞われたみたいに。

 

「大丈夫、ミケ?」

 その肩を抱いて支えるお姉ちゃん。少し不安そうな顔でミケさんの顔を見る。

 

「なんですか、これは?愛くんが精霊?」

 どうやら成功したみたいだ。ミケさんは前の世界の記憶思い出した。

 今は混乱しているけど、しばらくしたら落ち着くだろう。

 

「……そう、あなたも思い出したの。前の世界のことを」

 お姉ちゃんはミケさんの頭を優しくなでる。

 

「これは一体何なんですか?愛くんが精霊だなんて。それに、十香さんまで?」

「心配しなくていい。思い出しただけだから」

 ミケさんが落ち着くまでしばらくそうしていた。

 

「説明してください。どういうことですか?」

 ミケさんはまっすぐ立って僕たちのことを見る。正面に立つのは僕とお姉ちゃんだ。

 

「それは前の世界の記憶ですよ。イフの世界線って言えば伝わりますか?」

「イフの世界線、ですか?」

 ミケさんはあまりよくわかっていないようだ。元々いいとこのお嬢さんだし、そういうワードに親しみはないのかもしれない。

 

「もしも、僕がASTを裏切ったら。そういう世界のお話ですよ」

 

 実際には他にもいろいろ違いがある。でも一番わかりやすいのはここだろう。

 

 僕が七罪と出会ってお姉ちゃんたちを裏切るか。それとも出会うことなくASTに居続けるか。

 そこが一番大きい。

 

「そんなこと、あるわけないじゃないですか。愛くんが私たちを裏切るなんて――」

「実際にやったんですよ。この世界じゃそうならなかっただけで、僕がそうした世界があるんです」

 ミケさんの言葉を遮って自分の悪事を白状する。

 

「時崎狂三、《ナイトメア》の天使の力で世界を変えたんです。この世界はそういう世界なんですよ」

「そんな――」

 ミケさんは落ち込んだ様子で下を見る。いきなりそんなこと言われても、処理しきれないだろう。

 

「コラ、無駄に空気悪くするんじゃないの。あんたのそういうところがダメなのよ」

 七罪が僕の頭をこつんと叩く。そしてそのままミケさんとの間に入った。

 

「七罪ちゃん……」

「悪いわね、こいつ馬鹿で。知ってると思うけど」

 ミケさんは七罪のことを不安そうな顔で見る。その顔を見て七罪は困ったように笑った。

 

「愛くん、悪い子なんですか?」

「まあ、悪い子っちゃ悪い子ね。一人で勝手に突っ走るし、迷惑かけてばっかだし、我が儘だし」

 心配そうに問うミケさん。七罪はミケさんの言葉を否定しなかった。

 

「そうですか……」

 落ち込むミケさん。七罪はその肩に軽く手をかけた。

 

「でも、あんまり変わらないわよ。どっちの世界だろうと」

「そう、なんですか?」

 ミケさんは七罪の言葉に首をかしげる。

 

「ええ、そうよ。こいつはずっとシスコンで愛が重い寂しがり屋よ。ときどきアホみたいなことするのは、美紀恵のイメージと変わらないと思うけど」

「そう、ですね。愛くんは折紙さんが大好きな悪戯っ子ですね」

 ミケさんは指で目じりをなぞって少し笑った。その顔を見てさっきの自分の言葉にもやっとした。

 

「愛くんは愛くんですよね。人間だろうと、精霊だろうと」

 ミケさんは立ち上がって元気になる。いつものマスコットに戻ったようだ。

 

「まあ、そうですね。僕はミケさんに隠し事をしていました。でも、本性を偽ったことはありません」

「わかりました。信じます、愛くんのことを」

 ミケさんは僕のことをまっすぐ見て頷いた。本当に強い人だな。

 

「ミケ、言わなければいけないことはまだある」

「どうしたんですか、折紙さん。改まって」

 お姉ちゃんはミケさんの肩に手を置く。

 

「私も精霊」

 お姉ちゃんは天使を顕現させる。白い羽たちはふわふわとミケさんな周りを舞っていた。

 

「はい?」

 ミケさんは首を九十度傾ける。

 

「今まで黙っていてごめんなさい。少し前、私は精霊になった」

「え、ちょっと、折紙さんも精霊?精霊になった?」

 ミケさんがショートしている。新情報に頭が追い付けなくなったみたいだ。

 

「あ、私も精霊よ」

「七罪ちゃんも?」

 七罪も天使を顕現させる。それを見てミケさんは再び目を丸めた。

 

「実はミケさんの周り、精霊がいっぱいいたんですよ」

「そうだったんですかー⁉」

 ミケさんが驚いている。この人は元気だな。

 

「はっ、ということはもしかして真那さんも?」

「ちげーですよ。真那はれっきとした人間でいやがります」

 

 真那は不満そうに半目になる。一体、何が不満なんだか。

 大好きな兄様もカテゴリとしては精霊だぞ。そもそも、お前も純粋な人間かどうかは怪しいし。

 

「そ、そうですか。みんな精霊なのかと」

「そんなことありませんよ。ただ、ちょっと打率が高かっただけで」

 知り合った人の半分くらいが精霊か。立場上、仕方ないけど。

 

「はぁ、本題に入るまで長かったわね」

 ようやく言い出しっぺの琴里が前に出る。ここまで長かった。

 誰ののせいだって?知らないな~。

 

「岡峰美紀恵さん、あなたをスカウトしたいの。ラタトスクの職員にならないかしら?」

 なお、このあとスカウトは保留になった。情報量増やし過ぎたね。




美紀恵がいいキャラしてるんですよ。本編で出番ほぼないのが本当にもったいない。

今回の裏話は美紀恵の奮闘について。

憧れの折紙も仲の良かった愛くんも出て行ったAST.その中で彼女はめきめきと実力を伸ばしています。ここでイベント発生がなければ、いずれ誰かさんの目に留まっていたでしょうね。

投稿日はいつがいい?

  • 月曜夜
  • 火曜夜
  • 水曜夜
  • 木曜夜
  • 金曜夜
  • 土曜昼
  • 土曜夜
  • 日曜昼
  • 日曜夜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。