Side 七罪
今日は愛の休み明け。いつもならペンかなんか変身してこっそり紛れるところなんだけど、そうもいかないわ。
今日は私の初登校日でもあるから。なんだかんだ私まで通うことになっちゃったのよね。
「はぁ、なんであんな監獄に」
溜息を吐きながら鞄を持ちあげる。教科書が入ってないのにやたら重く感じるわ。
「いろいろ言う割にはしっかり準備してるよね。今朝六時には起きてたでしょ?」
隣を見ると既に愛がニコニコしている。
とっくに着替えて準備万端。なんなら
そりゃ愛にとっては願ったり叶ったりでしょうね。大手を振って私と歩けるんだから。
本当にこいつは。
「いきなりやらかしたら目立つじゃない。今後の平和のためよ」
学校ってのは他人の粗を探す獣で溢れている。
転校生が初日に失敗なんてしてみなさい。卒業式までそのネタで馬鹿にされて、挙句同窓会でも吊るし上げられるのよ。
「似合っているよ、七罪。かわいいじゃないか」
令音を見ると白いブラウスの上にベージュのコートを羽織っているわ。珍しくローヒールまで履いてる。
元々ラフな格好はあまりしないタイプだけど、今日は一段と落ち着いた印象ね。
引率としての顔ってことかしら。書類上は一応私の保護者になってるし、今日も朝だけは一緒だから。
「どうせ制服なんて誰が来ても一緒でしょ。個性を潰すための衣装なんだから」
白のセーラーっていうのが気に入らないわ。もうちょっと私みたいな陰キャにも配慮してくれないかしら?
「着崩しや小物で個性を出したらいい。校則の範囲内でおしゃれをするのも女の子のたしなみだ」
「別にそんなこと言ってないんだけど」
嫌味を言ったのに令音は全く動じない。むしろ微笑みを浮かべる余裕すらある。
なんでこういうとこは大人なのよ。世界を滅ぼすラスボスの癖に。
「君たちは同じクラスだ。四糸乃は琴里のクラス、七罪が愛のクラス。そうなるように手を回しておいた」
「ふーん、二人を固めないんだ?」
令音のフライング情報を愛が当たり前のように聞いてる。
今更だけどラタトスクって好き勝手してるわね。当たり前のようにクラスを弄って。
いや、別に文句はないんだけど。
「そもそも愛と琴里が別クラスだ。片方に集めるのは寂しいだろう?」
「そうだね。違うクラスだったら休み時間しか会えないし」
冗談ぽい雰囲気がなくてちょっと怖くなる。
こいつなら平気で私の教室に来るわよね。全部の休み時間。
「それに、新しい友達を作ってほしいと思っているよ。七罪も、四糸乃も、愛も」
令音は私たちを見ながら語ったわ。後ろから見守るような顔で。
仕方ないわね。
「面倒だけど、わかったわ。適当に愛をフォローしながら頑張ってみるわよ」
どっちにしろ逃げられないんだもの。少しはマシになった方がいいでしょ。
「逆じゃない?なんで、転校生が在校生のフォローしてるの?」
愛は心外とばかりに私の方を見る。
何言ってるのかしら、この馬鹿は。今までどれだけフォローさせられてきたと思ってるのよ。
「令音、こいつの通知表どうなってる?」
どうせ担任の悲鳴が書いてあるに決まってるわ。
「……ふむ、非常に優秀と書いてあったよ。学業については」
明らかに言いよどんだわね。つまりそういうことでしょ。
「やっぱり、普段の行動に難ありってことじゃない」
「ちょっと待って。それはおかしい」
何がおかしいんだか。一日十個は問題行動するんだから。
「まあ、否定はできない」
「ちょっと、令音さん」
ほら、やっぱり。
令音が目頭を揉んでるわ。令音も苦労してるんでしょ。
「普段の自分を省みなさいよ。どうせ学校でも好き勝手してるんでしょ?」
「そんなことないって」
愛は無駄な自己弁護をしてるわ。
「自覚なしと。先が大変そうね」
さっきより少し軽いため息が出たわ。
♦♦♦
「鏡野さんは今までどのような街で生活されていたんですか?」
「えっと、身体が弱くてずっと病院で……」
「それは大変でしたね」
「は、はい」
職員室で令音と別れて若い担任と二人。教室までの道のりはただただ気まずかったわ。
コミュ障にトークスキルを求めないでくれない。私は身内以外とほぼ喋れないんだから。
「クラスのみんないい子だから、すぐに仲良くできますよ~」
「あ、ありがとうございます」
担任の後ろについて教室にのそのそ入っていく。
教室中の視線がこっちに突き刺さってるのを感じるわ。あいつ誰だって。
二度目だけど、慣れることなんてなさそうね。
心臓をバクバクさせていると、変な音が聞こえてきた。カシャカシャってシャッターを切る音が。
「ええと、鳶一君。何をしてるんですか?」
「お気になさらず。一度しかない瞬間を記録しているだけなので」
担任の言葉に全くひるまない。それどころか堂々とした態度で逆に困惑させてるわ。
言うまでもなく愛よ。
カメラマンのごとくポジションや角度を変えて連写。学校で何やってるのかしら、この馬鹿は。
「ええと、ホームルームなので席に戻ってくれませんか?」
「お構いなく。話の邪魔はしないので」
「そういう問題じゃなくって。というか学校にカメラを持ってきてはダメですよ」
ほら、やっぱり問題児じゃない。どこがフォローいらないのよ。
「止めなさい、この馬鹿」
「いてっ」
いつもみたいに殴ってカメラを取り上げる。どうしてこいつは学習しないのかしら?
「今すぐ席に戻りなさい。あとカメラは没収」
「あ~、僕のカメラが」
愛はカメラをしまった鞄に向けて手を伸ばす。その手を払って一睨み。
「返事は?」
「……はい」
愛はようやく自分の席に戻っていったわ。全く、これだから。
「鳶一君が、言うことを聞いた?」
「初めて見た」
「なんか手馴れてない?」
周囲の声が聞こえてくる。同時に自分がやらかしたことを悟った。
明らかにさっきとは違う視線が集まってる。少なくとも、転校生がただ気になってる顔じゃないわよね。
初日から何してんのよ、私は。愛と絡んだら目立つに決まってるじゃない。
ついいつもの調子で。
頭を抱えるけどもう遅い。遅過ぎるのよ。
さよなら平和な学校生活。
「先生、ホームルーム始めて下さい」
「大丈夫?」
「……はい」
全然大丈夫じゃないけど、そう返すしかなかったわ。
♦♦♦
ホームルームが終わって十分の休み時間。話をする余裕なんてないのに、人が集まってくる。
それも私を取り囲むみたいに。
「ねぇ、鏡野さんは鳶一君とはどういう関係なの?」
「明らかに距離近かったよね?」
先頭の女子二人が机に手を置いて身を乗り出す。目を輝かせて興味津々って感じ。
その後ろの連中も似たようなもの。私と愛の関係を知りたがってる。
「えっと、昔からの知り合いで……」
本当のことなんて言えるわけないじゃない。
恋人同士ですって。一緒の家に住んでますって。
こいつらは飢えた獣よ。こんな美味しそうなネタ吊るしてみなさい。
絶対に根掘り葉掘り聞かれるわ。
何とか乗り切るのよ。これ以上余計なこと言わずに。
「七罪は僕の彼女だよ」
「愛~~~⁉」
そんな私の考えを無視して平然と暴露しやがったわ。憎き私の彼氏は。
こいつ、いつの間に私の隣に。さっきまでいなかったのに。
「彼女⁉鏡野さん、鳶一君と付き合ってるの⁉」
「付き合ってるよ」
平然と燃料を注ぎ続ける愛。その口を無理やり塞いで顔を引きずり下ろす。
「ちょっと黙りなさいよ」
「なんでさ?」
不満そうに私のことを見る愛。その言葉、そのまま返してやりたい。
「そんなこと言ったら目立つに決まってるじゃない」
「もう手遅れだと思うけど」
「誰のせいよ、誰の!」
既に女子を中心として色めき立ってる。これからの質問攻撃を考えるともう頭が痛い。
「転校前から付き合ってたらややこしいでしょうが。せめて三か月待つとかできなかったの?」
「ヤダ、七罪に悪い虫が付いたら困る」
愛は子供みたいに即答。本当にこいつは。
「つくわけないでしょ。私なんかを狙うゲテモノ好き、あんた以外存在しないわよ」
「そんなことないって。七罪みたいな有能美少女は需要あるって」
「ないわよ」
「あるって」
愛の頑固が出てきたわ。こうなったら絶対に言うこと聞かないんだから。
こいつの中で私はどれだけ美化されてるのよ。
「同じ家に住んでるんだから、そのうちバレるって」
愛は不満そうにつぶやいた。最後の起爆剤を。
「それをここで言うな、馬鹿!」
愛の口を塞いだけどもう遅い。突き刺さる視線が熱量を増してる。
ギギギッと横を見ると女子たちが目を輝かせていたわ。
「一緒の家⁉同じ家に住んでるの⁉」
「いや、同じマンションってだけで……」
何とか誤魔化さないと。マジで格好の餌食に。
「何言ってるの、七罪?今朝も一緒にトースト食べたじゃん?」
「もう本当黙ってくれない!私の邪魔ばっかりして!」
今わかったわ。こいつ端から私の敵だったのね。
愛に『待て』を求めた私が馬鹿だった。犬より堪え性ないんだから。
「同じ家?付き合ってる?」
「鳶一くんと鏡野さん。違う名字だよね?」
ああ、もうチクショウ。めちゃくちゃ目立ってる。愛に引けを取らないくらいに。
どうして初日からこんなに疲れないといけないのよ。
「よかったね、七罪。初日から人気者だよ」
サムズアップする愛が憎たらしくて仕方ない。ぶん殴ってやろうかしら。
――止めときましょう。また目立つだけだから。
「今日から一週間添い寝禁止ね」
「そんなぁ」
でも罰は与えておかないと。駄犬は飴と鞭で躾けるのよ。
♦♦♦
昼休み。群がってくるクラスの奴らから何とか逃げてきたわ。
ここは四糸乃のクラス。丁度いい
「――ってことがあって。本当、愛の馬鹿は!」
「大変そうだなぁ、七罪」
白いリボンをつけた琴里は壁にもたれかかりながら話を聞き流してる。窓の外ばっか見て風を浴びてる。
明らかにどうでもよさそうね。
「一応、私も精霊なんだけど。心配とかしないの?」
精霊のフォローするのがラタトスクの仕事でしょ。
「今更心配なんてしてないのだ。七罪のことを信じてるぞ♪」
「へーそう」
ウインクする琴里がとっても嘘臭い。さっきから誤魔化してばかりだし。
「惚気なんて聞いてられないのだ。七罪は機嫌とっても霊力使えるし」
琴里はボソッとつぶやいた。
明らかにそっちが本音でしょ。言いなりにならないからって放置しやがって。
「まったく、どうして私の周りはこんなのばっかなのよ」
教室の内側に目をやると愛と四糸乃が向き合ってる。正確には愛とよしのんだけど。
「僕は七罪の素晴らしさを伝える使命があるんだ。こっちのクラスの広報担当をお願いできない?」
「おお、いいね。よしのんも手を貸してあげるよ」
愛がよしのんの小さな手を握って握手してる。とってもいい笑顔で。
「ねえ、琴里。どうにかできないの?」
私、マスコットなんかなりたくないんだけど。
「あはは、七罪が無理なのに私にできるわけないのだ~」
琴里は大きく手を振って無理だってアピールしてる。全く考えるそぶりがない。
完全に他人事ね。ムカつく。
「学校は楽しいか、七罪?」
琴里は窓枠に手をかけてくるっと半回転。ようやくこっちに顔を向けた。
「この顔見て楽しそうに見える?私もう帰りたいんだけど」
きっとゾンビみたいな顔をしてるに決まってるわ。お化け屋敷で出てきたら悲鳴が上がるでしょうね。
「なるほど、元気にやれそうだな」
「あんたの目節穴?」
「私にはいつもの七罪に見えるんだけどなー」
琴里は人差し指をあごに当てて首を傾ける。無駄なぶりっ子ポーズでイラっとする。
「ねえ、七罪。ファンクラブの会員証に使う写真はどれがいい?」
「ちょっと待って⁉何がどうなってそうなったの⁉」
愛が晩御飯の献立でも聞くようなノリでとんでもないこと言ってきた。
ファンクラブ?会員証?意味がわからない。
「もう、愛くんたらちゃんと説明してあげないと」
「そうだね、ごめんごめん」
愛はよしのんと楽しそうに話してる。どこの舵取り間違えたらそんな方向に飛んでいくよ。
「七罪がかわいくて素敵な子だって広めるでしょ。そしたら七罪のファンがいっぱいできるでしょ」
「うん、もうツッコみたいけど一旦黙っておくわ。続けて」
いちいちツッコんでたら休み時間終わりそうだから。あと私の体力が持たない。
「それで増え過ぎたら統制が取れなくなるでしょ。だったら最初からちゃんとルール作りしておいた方がいいじゃん」
「いい考えね。現実味が一切ないことを除けば」
私のファンクラブ?そんな狂人一人で十分よ。
「だから僕が会員ナンバー1になって会員証を発行しようと思ってね」
「アホなの?」
前提も考え方も何もかも間違ってる。
「大丈夫。心配してることはわかってるよ。偽造されたらどうするんだって思ってるんでしょ?」
「誰もそんな心配はしてないわよ」
というか会員証の偽造って何?アイドルじゃないんだから。
「心配ご無用。ちゃんと個別にシリアルナンバーを振ってICチップで管理するから」
「誰よ馬鹿に技術力を与えちゃったのは」
実際にできるから性質悪いわ。
こいつなら片手間にやるでしょうね。世界最高レベルの技術者の弟子だし。
「良かったな~、七罪。愛されてて、うりうり」
琴里が人差し指で頬を突いてくる。結構真面目にイラっと来た。
「琴里にもこの胃痛を分けてあげるわよ」
「遠慮するのだ~」
学校生活一日目。私の苦労は留まることを知らない。
九割方馬鹿な恋人のせいで。
愛くんあんま成長してない?うん、色々あって成長してるはずなんだけど。
今回の裏話は精霊たちの苗字について。
原作だと結構後になってから調べられていた七罪や四糸乃の本名。既に琴里が調べ終わった後です。精霊たちが元人間って折紙編で公開されましたからね。四糸乃も氷芽川姓を名乗っています。
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