ヒロインは七罪   作:羽国

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アキバデート

 俺はアキバでオタクの街のデートに誘われた。

 駅の時点でアニメやゲームの広告に溢れてる。待ち合わせの改札近くもポスターがいっぱいだ。

 

『士道、準備は良いわね?』

「ああ、大丈夫だ」

 

 インカムから聞こえてくる琴里の声に身が引きしまる。

 この日のために準備してきたんだ。二亜の好きなアニメをひたすら視聴。

 

「本当に辛い日々だった」

 お正月。特番の代わりにアニメの一気見。

 毎日毎日モニターに向き合う日々。そのうちキャラが夢枕に立つようになった。

 

 『恋してマイリトルシドー』とは違う意味の辛さがあった。

 

『何言ってんのよ?予定の半分も見られなかったのよ』

「いや無理だろ。二亜が何年オタクやってると思ってるんだよ?」

 

 ここ十日くらいで無理矢理詰め込んだけど。それでも毎日一作品が限界だった。

 一生かけても追いつけそうにない。

 

『大丈夫よ。睡眠時間と食事の時間を削れば一日十時間は確保できるわ』

「俺に死ねって言ってるのか?」

 それができたら人間じゃないだろ。

 

『泣き言言ってる暇があったらデートに集中しなさい。そろそろ二亜が来るわよ』

「わかったよ」

 釈然としないけど改札の方に向き直る。丁度、特徴的な赤ブチ眼鏡が目に入った。

 

「おっす少年久しぶりぃ」

 二亜は改札を出ながら軽く手を上げる。

 

「久しぶりだな、二亜。元気にしてたか?」

「元気元気。お正月はコミコの戦利品で楽しんでたからさ」

 二亜は親指を立ててキメ顔をしている。少しは立ち直ったみたいだ。

 

『ふ~ん、お洒落してくれたみたいね』

 琴里が二亜の服装を吟味してつぶやいた。つられて俺も改めて見てみる。

 ユニセックスな服を着ることが多い二亜。でも今日の服は明らかに違う。

 

 白いニットの上に羽織った薄手のカーディガン。そして、ふわりと揺れる黒のロングスカート。

 肩にかけたショルダーポーチ。

 

 十香や琴里みたいに主張の強いものじゃない。でも、明らかに『女の子』の服装だ。

 

「お洒落してくれたんだな。とてもかわいいよ、二亜」

 

 自然とその言葉が口から出てきた。自分でも少し気障になったと思う

 

「……まあね。私の方から言い出したんだし、少年にも役得がないとさ」

 二亜は茶化すように笑う。言葉こそいつもの調子だけど少し元気がない。

 

「頼むぜ、少年。傷心につけこんで、二亜ちゃんを堕としちゃおう」

 

 俺の肩に手を回す二亜。まるで男友達のような気安さだ。

 それにこの自虐をネタにするような口ぶり。

 

 全部俺のためなんだろう。変な気を遣わせないように。

 

「任せろよ、二亜。メロメロにさせてみせるよ」

「おぅ、その意気だ」

 

 こうして戦争(デート)は始まった。

 

♦♦♦

 

 色々な店が集まっている大通り。この時間帯は歩行者天国になっていて、ゆっくりと店を選ぶことができる。

 二亜はあちこち店を見ながら歩いている。アキバでもウィンドウショッピングってあるんだな。

 

「二亜、何か見たい店とかあるのか?」

「うんにゃ、出先の選択肢がアキバしか出てこなかっただけ。アキバはあたしのホームだからさ」

 

 二亜は歩きながら俺の方を向いて首を振った。琴里が買いたいものなくても服屋に寄るのと一緒か。

 

「どうせならさ、少年のオススメを教えてよ」

「え、俺の?いいのか、俺ほとんど来たことないけど」

 デート前に一度下見で来たくらいだ。

 

「いいのいいの。あたしが選んでも同じところ行っちゃうし。デートなんだからエスコートしてよ」

「そうだな」

 

 あごに手を当てて考える。

 二亜は新しい刺激を求めてるみたいだし。何かいい場所はあるだろうか?

 

『士道、選択肢よ』

 考えていると琴里から指示が飛んだ。久々の選択肢だ。

 

①コスプレショップでかっこいい所を見せ合おう

②中古ショップでお宝さがし

③TCGショップでレンタルデッキ勝負

 

 どれもここならではのデートプランだ。

 とりあえず変な選択肢がなくてよかった。いつもスカートをめくれとか変な選択肢が絶対一個はあるから。

 

『①と②がほぼ同率。③を選んだのが一人だけね』

 琴里が神無月さんたちの意見を総括する。みんな順当な選択肢を選んでいるみたいだ。

 

『神無月、あんたはどうして③を選んだの?』

 ③を選んだのは神無月さんだったみたいだ。

 

『没頭して冷たい目で罵られたいなんて思っていませんとも』

 ポロッと本音が出た。やっぱり神無月さんは神無月さんだった。

 

『そういうことね。――ふんっ』

『ありがとうございますー!』

 神無月さんの悲鳴が響いた。琴里が何かしたんだろう。

 

『じゃあやっぱり①か②ね。双方意見を聞かせて頂戴』

 

『はい、二亜ちゃんは刺激を求めています。コスプレは一人だとキツイですがデートならテンションに任せて着れちゃうんです。自分が自分じゃなくなったみたいで楽しいですよ』

 中津川さんが①の良さについて語っている。オタク気質なあの人だし、実際にコスプレしたこともあるんだろう。

 

『いやいや、二亜ちゃんは今日おしゃれしてくれてるんですよ。いきなり脱げって、それはないでしょう』

 それに箕輪さんが反論している。確かに、二亜の心遣いを無碍にするようなことはしたくないな。

 

『士道、②よ。店は選んでおいたからそこに向かって頂戴』

 琴里の指示が下った。スマホに送られてきたマップを参考に目的地へ向かう。

 

「二亜、行こうぜ」

「少年のセレクト期待してるよ」

 

♦♦♦

 

 辿り着いたのは少し外れたビルの三階。こじんまりとした店が静かに客を待っている。

 中に入ってみると奥で店主が新聞を読んでいる。明らかに個人店って雰囲気だ。

 

「少年もなかなか渋い店を選ぶね」

「二亜は来たことあるのか?」

「ぶっちゃけわかんない。あるような気もするし、なくてもおかしくないし」

 

 新しい刺激という関門は突破したみたいだ。少なくとも、二亜のいつも行く店からは外れている。

 

「これは、高城先生の本⁉」

 二亜は陳列棚に並んでいる本を手に取る。まるで信じられないものでも見たかのように震えている。

 

「同人誌、だよな?そんなに珍しいのか?」

 本屋に並ぶには不似合いな薄い冊子。この前二亜が買っていたものと同じだ。

 

「珍しいなんてものじゃないよ。あたしがDEMに捕まる前に出た本なんだから」

「ってことは五年以上前か。それってすごいことなのか」

 

「すごいに決まってるじゃん。一部の超人気作品を除いたら五年前の同人誌なんてどこにも売ってないよ。古代の遺物みたいなものだって」

 二亜は本を持ちながら熱く語っている。同人誌はそいういうものなのか。

 

「こっちは時空綺譚(クロノクル)の二次⁉こっちは一昨年の本じゃん。やっべー、興奮してきた!」

 二亜は並んでいる本を見ながら目を輝かせている。満足してくれたみたいだ。

 

「二亜、こっちにはSILVER BULLETの同人誌もあるぞ」

 

 適当に探っていると二亜が喜びそうな本が見つかった。二亜の作品の同人誌だ。

 裏を見ると三年前の日付が書いてある。二亜が捕まってる間にSILVER BULLETのファンが創ったみたいだ。

 

「ふぉー、マジかよ!待たせてごめんね、ファンちゃん。あたし、続き描くからね!」

 二亜は本を抱きしめて頬ずりしている。やっぱりこういうのは嬉しいものなんだろうな。

 

「こりゃ鞄にちまちまつめてらんないな。箱に詰めて帰りたい気分だ」

「すごい量だな」

 

 既に二亜の手にはとんでもない量の本が収まっている。そのまま持って帰ったら腰をやってしまいそうだ。

 

「へい、店主。配送サービスはやってるかい?」

「……別料金だ。それでいいなら」

 険しい顔をした店主は新聞から顔を上げてそう言った。全然客商売らしくない。

 

「勿論オッケーよ。こんなお宝キープしてくれたんだもの。お礼はさせてもらうよ」

 二亜はそんな態度にも機嫌が良いままだ。欲しいものが見つかって嬉しいんだろう。

 

「そうか。選び終わったら持って来い」

 店主は言い切るとまた新聞に目を通し始めた。あそこまで来ると威厳があるな。

 

「んほーっ、たまんねー!この店買い取りたい気分」

 二亜は再び本を物色し始めた。この店だけで二時間は使ったと思う。

 

♦♦♦

 

「いやー満足満足」

 二亜はスキップをしながら紙袋を抱きしめている。大半は段ボールに詰めて送っちまったから、手元にあるのはお気に入りだ。

 

「二亜が喜んでくれてよかったよ」

「ああ、少年愛してる。もう足向けて寝られないよ」

 二亜は見ての通りご満悦。滑り出しは悪くないだろう。

 

『二亜の機嫌は良い感じよ。ここらで積極的にアプローチを仕掛けていきたいわね』

「そうだな」

 琴里も同じことを思ったようだ。次の行先はもうちょっと攻めたものにしたいな。

 

『――と思ったら選択肢よ』

 

①コラボカフェで楽しくティータイム

②神社に参拝して聖地巡礼

③ゲーセンでレジャーデート

 

 いいタイミングだ。これでデートに刺激を加えることができる。

 

『見事に割れたわね。どうしたものかしら』

 琴里の困り声が聞こえる。どの選択肢も僅差のようだ。

 

『二亜ちゃんは新しい刺激を求めているとのことでした。ここは聖地巡礼で刺激を与えましょう。

 アニメと同じ構図で同じポーズをとる。あの何とも言えない感動がたまらないのです』

 

 中津川さんが再び熱く語っている。

 

『いやいや、二亜ちゃんはずっと本を見て頭が疲れているはずです。丁度いい時間ですし、甘いもので休憩しましょう』

 それに対抗するのは椎崎さん。カフェデートを押しているようだ。

 

『いいえ、ここはゲーセンがベストです。案外難しくて苦戦。それをさっそうとクリアする男の子の腕前。ぐっとくるはずです』

 最後にゲーセンを押しているのは川越さん。情感たっぷりに語ってのけた。

 

 意見は見事にばらばらで甲乙つけがたい。さて、琴里はどれを選ぶのか。

 

『二亜って漫画一筋だったのよね』

『おそらくね』

 令音さんが琴里の予想を支持した。

 

『だったらゲーセンはあまり経験ないんじゃないかしら。士道、③よ』

 琴里の一声で行先が決定した。

 

♦♦♦

 

「いいね、少年。ゲーセンとはこれまた面白いチョイスじゃない」

 二亜はゲーセンの入り口でターンして親指を立てた。相変わらずテンション高いな。

 

「ははは、そりゃよかったよ。ゲーセン、そんなに好きなのか?」

「当たり前よ。ゲーセンにしか置いてないフィギュアもあるんだから。限定コスとか逃したらオクで探す羽目になってさ――」

 

 クレーンゲームの景品狙いか。ある意味とても二亜らしい。

 

「なんか欲しいのあるのか?」

「そ・う・だ・ね~、今日のラインナップだとこの子かな」

 

 二亜はぐるっと辺りを見回して一つの美少女フィギュアを指さした。

 

 青髪の女の子が大きめのジャージを着ている。

 ただ、太ももがほとんど見えてしまっているし、ファスナーも結構空いている。少し直視しづらいフィギュアだ。

 

「に、二亜ってそういうのも好きなんだな」

「この程度で何恥ずかしがってんのさ、少年。局部どころか下着も見えてないのよ。完璧に全年齢向けだってさ」

 二亜は背中をバンバン叩いて笑っている。これ、普通男女逆じゃないか?

 

「あれはね、ヒロインが主人公のジャージ着てるところなのよ」

「なんか大きいなとは思ってたけど、そういうことだったのか」

 彼シャツと同じようなものかな?たしかにフィギュアの顔もちょっと恥ずかしがってる。

 

「原作にはそんなシーンないんだけど、公式がイラスト出しててね。そこをチョイスする造形師のセンスが光ってるのよ」

「なるほど」

 どうしてそんなフィギュアを選んだのかと思っていたけど、ちゃんと理由があったんだな。

 

「あとエロい」

「やっぱそこかよ!」

 やっぱり二亜は二亜だった。

 

「大事よ、エロは。性癖叩きこんだら売り上げ跳ねた事案もあるんだから」

「生々しくて嫌だよ!」

 

 そんな会話をしつつ俺はクレーンゲームに挑んだ。店員さんにお願いしつつ、なんとか五千円札が持っていかれる前に回収できた。




案外楽しそうですね。さて成功か失敗か。

今回の裏話はMARIAについて。

七罪編終盤でサラッと撃墜されてたフラクシナス。なんやかんやあって修理&改造中です。

その内、MARIAもしゃべり出すでしょう。

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