ヒロインは七罪   作:羽国

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何とか間に合わせたぞー!


七罪の学校生活②

Side 七罪

 

 転校してから一週間ちょっと。そろそろ転校生扱いも落ち着いてきたわ。

 移動教室がどこかとか、前の授業でどんなことやってたかとか。そういう面倒なことで気を遣われる必要もない。

 

 クラスの奴らとも適度に距離を置いてるし。その内クラスメイトからも『え、鏡野さんって誰?あの喋らない妖怪みたいな子?』って言われるようになるでしょ。

 

「ぼっちのモブ。いいわね」

「いや、七罪さんがモブは無理じゃないでしょうか」

 

 私の言葉に無粋なツッコミが入る。隣を見ると気だるげな同級生が立ってた。

 小槻紀子。色々似たところがあったから、つるむようになった子ね。

 

「四糸乃と違って可愛くも優しくもないし。転校生って属性なくしたら埋もれるだけでしょ」

「確かに四糸乃さんとタイプは違いますけど、七罪さんも可愛いし優しいと思いますよ」

「そういう社交辞令は良いから」

 

 同級生に対して敬語を使うちょっと変わったやつ。

 そして中学生の癖に俯瞰してるような視点を持ってる。その斜に構えた姿勢が少し心地いい。

 

「社交辞令じゃないんですけど。――百歩譲って七罪さんが没個性だとして、愛くんの彼女が目立たないのは無理じゃないでしょうか」

「うっ」

 そうそう、こういう感じで本質を突いてる。今は鬱陶しいと思ったけど。

 

「彼、この学年一の有名人ですから。シバいて言うこと聞かせてる七罪さんも、負けず劣らず有名人ですよ」

 

 紀子は淡々とそう話す。認めたくないけど、紀子の言葉はたぶん事実。

 愛は毎日のように何か馬鹿するし、その度に私が叩いてる。

 

 放っておけばいいって?かえって面倒なことになるから毎回躾けるのが最善なのよ。

 

「最近クラスの奴らが生暖かい目で見てる気がするのよね」

 一回もしゃべったことないクラスメイトがほとんどなのに。ほぼ全員が似たような目で。

 

「気がする、じゃなくて実際に見てると思いますよ。私のクラスでも有名ですから。お似合いのカップルだって」

「なんでそんな好意的に受け入れられてんのよ?思うところないの?」

 

 転校生が既にカップリング済みとか、普通やっかみの対象になりそうなんだけど。

 

「ないですね。相手はあの愛くんですから」

「どういうことよ?」

 紀子は一瞬の迷いもなく即答したわ。考える余地もないってこと?

 

「元サッカー部顧問の事件を知ってたら手を出しません。同じ目に遭いたくないので」

「あいつ何やったの⁉」

 怖い話が出てきたんだけど。

 

「私も詳しく知ってるわけじゃないんですけど、臨時の保護者会が開かれて先生が顧問から外されました」

「絶対教師とガチバトルしたでしょ!そんなことしたら腫物扱いされるに決まってるじゃない」

 

 頭が重くなってきた。どうしてあいつの過去って爆弾ばっか埋まってんのよ。

 

「いや、嫌われてるわけじゃないんですよ。むしろサッカー部からは感謝されてましたから」

「そうなの?」

 

 紀子からフォローが入る。少しは期待していいのかしら。

 

「ただ、彼を敵に回してはいけないというのが暗黙の了解です」

「でしょうねえ!」

 

 今度調べておかないと。後から巻き込まれても嫌だし。

 

「みんな内心では()()()()を静めてくれたって感謝してるんですよ」

「それ天の災害の方でしょ!私は捧げられた生贄か何か?」

「歯に衣着せぬ言い方をすると、そうですね」

「チクショウ!」

 

 なんでいつもいつも貧乏くじ引いてるのよ。教室の隅に転がる埃みたいにひっそりと暮らしたかっただけなのに。

 

「大変そうですね」

「マジで苦労するわよ、あの馬鹿の彼女って」

 

 教室の対角で楽しく喋ってる愛を見る。何となく、また面倒の種を蒔いてるような気がする。

 

「でも、好きなんでしょう?」

「まあね」

 

 反射で返事が出てきたわ。私もそれくらいあの馬鹿に毒されてるみたいね。

 

「あんたも私と似たようなものでしょ。花音の付き人みたいなことしてるんだから」

 

 愛の対面に立ってる似非お嬢様を見る。

 綾小路花音。少し優秀だけど、自慢が多くて、強引で、変な奴。

 でも根が寂しがり屋の善人で憎めない。そんな面倒なタイプ。

 

 紀子はいつもあいつの面倒を見てる。だから私たちは仲良くなった。

 

「否定はしません」

 紀子は花音の方を見ながら小さく笑った。

 

「ねえ、七罪。花音が勉強会しようってさ」

「文武両道たるこの私が勉強を教えて差し上げてもよろしくてよ」

 

 早速話題の二人が面倒ごとを運んで来る。誰が好き好んでマウント合戦に参加したがるんだか。

 

「この通りでさ。七罪に勉強を教えようだなんて無謀なこと考えてるから」

「誰が無謀よ!これでも私はテストで満点を取ったこともあるんだから」

 

 花音は偉そうに胸を張ってる。あんたはどこの舞台俳優だって言いたくなるくらい堂々と。

 別に悪い奴じゃないんだけど。なんというか、ねぇ。

 

「花音さん、それを学年一位の前で自慢しますか?」

 

 紀子が鋭いツッコミを入れる。だから、元々痛い花音の言動がもっと酷くなってるのよね。

 愛って成績だけはマジでいいから。普段の言動は馬鹿だけど。

 

「べ、別にいいでしょう。七罪さんに教えるには十分じゃない」

 負けじと話を続ける花音。そこに愛はさらに余計な言葉を付け加えた。

 

「七罪、僕より頭いいよ」

「え?」

 

 花音はとぼけた顔になる。そしてのっそりとした動きで私の方を見てきた。

 いや、こっち見ないでよ。

 

「身体弱くて学校通ってなかったんじゃ?」

「一応、勉強してないわけじゃないわよ」

 

 花音を紀子にパスする。花音のお守りは任せときましょう。

 

「でも、私が愛より頭いいわけないじゃない。変にハードル上げるの止めなさいよ」

 私は愛の対処をする。これ以上デマを流させないように。

 

「少なくとも中学レベルなら僕よりできるでしょ。前僕より高い点取ってたじゃん」

 また余計な情報を追加して。それ、面白半分でやったやつでしょ。

 

「あんたが勉強してなかっただけじゃない。直前に詰め込んだ方が有利なんて当たり前でしょ」

「でも、僕同じような勉強でいつも一位取ってるよ。少なくとも同学年の誰より優秀じゃん」

 

 こいつ、いつもそんな舐めプしてたの?進学校じゃないからって舐め過ぎでしょ。

 

「七罪さん、あなたも『そっち側』だったんですか」

 

 紀子まで変な目で私を見てくる。

 止めてくれない?こいつと同じ扱いは嫌なんだけど。

 

「もう、何でもいいのよ。私は勉強会って理由で七罪さんと遊びたいだけなんだから」

 

 あ、遂に花音が切れた。思いっきり地団太踏んでこっちにつかつか歩いてくる。

 

「七罪さん、私と一緒にお勉強しましょう?」

 

 花音は手を取ってじっと見つめてくる。なんで私なんかを必死に誘うのよ。

 別に私を誘っても面白くもなんともないでしょ。勉強会に座敷童が増えるだけよ。

 

「四糸乃さんや琴里さんも誘うから一緒に来て頂戴」

「……ああ、そういうこと」

 

 私をだしにして四糸乃と琴里を呼びたかったと。なるほど、それなら理解できるわ。

 

「というわけだからさ。今度の土曜はお勉強会ね」

「……わかったわよ」

「やりましたわ!」

 

 ため息交じりの私の返事で花音は喜んだ。本当、学校って面倒ばっかよ。

 

♦♦♦

 

 早速土曜日。花音の家で勉強会は開かれたわ。

 面子は四糸乃、愛、紀子、花音、琴里、私。各々好きな勉強道具を持って集まった。

 

「四糸乃は英語やるの?」

「はい、わからないことがいっぱいなので」

「よしのんもまだまだお勉強中~」

 

 手に握っているのは『Yoshino Himekawa』と書かれたノート。たどたどしく書かれたブロック体がかわいらしい。

 流石四糸乃。ノートの文字まで可愛いのね。

 

「琴里は理科ね」

「イオンとか等速直線運動とか理科って頭おかしくなりそうだよな~」

 

 こいつは絶対に猫被ってる。ラタトスクの司令官が覚えられないわけないでしょ。

 どうせ周りの女子から目立たないよう馬鹿の振りしているのよ。

 

「紀子は数学」

「暗記はできるんですが。計算は苦手で」

 

「花音は……」

「全部よ。教えて欲しかったらいつでも言って頂戴!」

 

 教科書抱えて目を輝かせてる。こいつの家なんだからそりゃ全部あるわよね。

 教えたいのかしら?多分そうよね。

 

「七罪、僕は何するか気にならないの?」

 全員が何やるか確認してたら愛が袖を引っ張ってきた。聞いてほしいんでしょうね。

 

「あんたは教師役でもしてたらいいんじゃない?」

「えー、扱い酷くない!」

 

 だから敢えて無視したわ。雑に適当に。

 

「中学の勉強なんて興味ないんでしょ。好きにしたらいいじゃない」

 こいつ『脳科学入門』って書いてある専門書持ってこようとしてたのよ。

 馬鹿でしょ。勉強できるけど度しようもない馬鹿。

 

「ちゃんと教えるから機嫌直してよ、七罪」

「もうその言葉が舐め腐ってるじゃない」

 自分はできてる前提だし。なんで天はこいつに二物与えちゃったのかしら?

 

 早速始まった勉強会。結局愛はルーズリーフ片手に教師役をやってる。今は四糸乃の担当。

 

「並び替えがよくわかりません」

 四糸乃が挑んでるのは単語を並び替えて英文にする問題。中学校の英語で典型的なやつね。

 学校にほとんど通っていない四糸乃にとってはかなりの難問。頭を抱えて唸ってるわ。

 

「大事なのは最低限の文章を作ることだよ」

「最低限の文章ですか?」

 

「大事なのは主語と述語。誰が何をした。それさえあったら最低限文章は成立する。他は全部おまけなんだよ」

「そうなんですか?」

 四糸乃はあんまりわかってないみたい。そりゃ意味わかんないわよね、そんなこと言われても。

 

「日本語で考えた方がわかりやすいでしょ。例えば『よしのんが昨日、畑で人参を食べた』って文章にしようか」

「ちょっと、愛くん。よしのんはそんなことしないよ!」

「どうどう、ただの例えだから」

 急に野生にされたウサギは猛反発をしている。でも、愛の手で抑え込まれたわ。

 

「この中でないと文章が成立しないものはどれでしょう?」

「えーっと、わかりません」

 四糸乃は愛の殴り書きを見て少しうつむく。それを見て愛はさらにヒントを出した。

 

「品詞ごとに区切っていこうか。この文章は『よしのんが/昨日/畑で/人参を/食べた』こうやってわけることができる」

 愛はその中の二つに丸をした。

 

「『よしのんが昨日』これは文章として成立してる?」

「してません」

 四糸乃は首を横に振った。真面目に勉強してるし、これがおかしいのはすぐに気づいたみたい。

 

「そう。これはよしのんが何をしたか書かれていない。誰が何をしたか。主語と述語が書いてないと最低限の文章が成立しないんだよ」

「この中だと最低限必要なのは?」

「『よしのんが食べた』ですか?」

「そう。これだけでも文章は成立する。他は全部おまけなんだよ」

 

「それじゃあ問題に戻るよ。同じように主語と述語を探してあげよう」

「はい!」

 四糸乃の手がよどみなく動くようになったわ。同時に笑顔すら見せてる。

 

「教えるの上手いな~」

 隣で見ていた琴里がつぶやいた。考えることは同じみたいね。

 

「悔しいけどあいつ教えるの結構得意よ。いろいろ知ってるし、相手に合わせるのも得意だから」

 要点抜き出して丸めるのを息するみたいにやるから。

 

「そういえば十香にも教えてたな~」

「そんなこともあったわね」

 

 私と違って本当に人間社会を何も知らなかった十香。愛と二人で色々教えたけど、本当に大変だった。

 足し算引き算も知らない。電車の乗り方も知らない。

 なのに高校生やるってんだから。

 

「七罪さん、琴里さん!手が止まってますけどお困りかしら?」

 二人で無駄話してたら花音が入ってきた。

 

「わからない問題があるなら、この綾小路花音が教えてあげるわ」

 目には『教えたい』って書いてある。

 別に教えて欲しい所はないんだけど、どうしよう。

 

「七罪がこの問題わかんないみたいだぞ」

「ちょっ」

 琴里の奴、面倒だからって私を売りやがった。

 

「七罪さん、この私が教えてあげますわ」

 獲物を見つけた花音は目を輝かせて私の隣に座った。もう逃げだすのは無理そう。

 

「あー、じゃあお願い」

「任せてください」

 そうして、私は花音から解き方を教わることになった。昨日解いたばかりの問題の解き方を。




今回の裏話はサッカー部顧問の事件について。

当時、まだASTに所属していた愛くん。帰宅部に入るつもりでいたのに、サッカー部顧問に目をつけられました。

入部届を偽造した顧問にぶち切れて不正の調査に乗り出した愛くん。過去の不正まで含めてまとめ上げて教育委員会に報告。

教師は懲戒免職寸前まで行きましたとさ。ちゃんちゃん。

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