Side 二亜
あれから数日。ようやく準備が整ったらしい。
「というわけで、アシスタントの紹介タイムだ!」
どんどんぱふぱふ。こういうときのため買っておいたジョークグッズが火を噴く。
「二亜、元気だな」
「あたぼーよ。しんみりした空気でやってられるか!」
机をバンと叩いて強く主張する。
「いや、二亜がそうしたいならいいけどさ。それで、どうして三人はまだ別室で待機なんだ?」
「こういうのはしっかり楽しまないと。一人ずつ顔見せてくれた方がお得だろ」
誰かな誰かな?
二人は多分固定でしょ。残りがわかんねーんだよな。
もしかしてオリリンの繋がりでミケちゃんとか行く?
「それじゃあ一人ずつ入ってくれ」
少年の掛け声と同時にドアが開く。
「ふっふっふ、我が混迷の最中にいる貴様ら手を差し伸べてやろう」
現れたのは橙色の髪のスレンダー少女。かぐやんだ。
右手で顔を少し隠す邪気眼スタイルだ。かっくいー。
「待ってたよ、かぐやん。アタシは君の登場を待っていた」
「ふっ、我に目をつけるとは。お主もなかなか良い目をしておる。眷属に加えてやっても良いぞ」
「いいよいいよ。是非眷属に加えちゃって」
マスターは眷属のお願い聞いてくれるもんだよね。原稿困ったらヘルプコールさせてもらおう。
「提言。二亜は何か企んでいる気がします。詐欺師の目です」
「夕弦⁉」
耶倶矢んの声に驚いて振り返ると、いつの間にかゆづるんが立っていた。
流石俱風の御子。マジで気づかなかった。
「疑惑。ニュースで言っていました。若者のやりがい搾取が問題になっていると」
眠たげな目でアタシをじっと見てる。いつも以上に細めてながら。
「夕弦は最近物入りです。話題のメイク。流行りの服。夜の小道具。欲しいものが色々あります」
「あっ、私も私も。シルバーのリングとか買いたい!」
かなりわかりやすくアピールしてくる双子たち。おねだりが上手だね。
「アハハ、アタシは悪い大人じゃないからね。ちゃんと報酬は払うよ。
なんなら、手付金代わりにあたしからプレゼントしてあげようじゃないの」
君たちレベルのフリーは貴重なんだから。絶対囲い込んどかないと。
「ならば、私も追加報酬を期待してもいいのでしょうか?」
ガチャリとドアを開けて一人の女の子が部屋に入ってきた。アタシたちの方に向けてゆっくりと歩いてくる。
オリリンと同じように白くて長い髪。少し小柄な体躯。んでもって人形みたいに端正な顔立ち。
「誰?」
ぶっちゃけアタシの知ってる誰かだと思ってた。完全な新顔が出てくるのは予想外。
「誰とは心外ですね。あなたのコミコの買い物メモ。まとめたのは誰でしょう?」
「へ?愛くんだけど……」
その場にいた愛くんがパパッとまとめてた。あの子本当に有能だよね。
「それも正解です。愛は方針を決めと要点の整理を行いました。
しかし、内容を精査したのは私です」
「いや、そんなこと言われても。覚えないんだけど」
あのとき愛くんが連絡とってたのれーにゃんでしょ。この子じゃないと思うんだけど。
「私の名前はMARIA。フラクシナスに搭載されている超高性能AIです」
初見美少女は頭を下げて名乗る。エリートメイドみたいにぴしっとした一礼で。
「マリア?AI?……あー、そう言えばそんなこと言ってたっけ」
よく考えたらあのとき愛くんスマホでなんかしてたわ。確かAIがどーとか。
AIとか小難しいこと言ってるなー。要はロボットでしょ。
ロボ子と呼ぶことにしよう。我ながらナイスネーミング。
「はい。最近ようやく外部インターフェイスを利用可能となったので、こうして初登場しました」
説明に合わせてロボ子はポーズをとる。目の横ピースサインなんてどこぞのアイドルみたい真似を。
「ほー」
改めてまじまじと見つめるとどことなく機械っぽい。あっ、目はレンズになってる。
「AIってあれ?人類と戦争するやつ?」
我々が地球の支配者だって。そういうディストピア漫画、あった気がする。
「大丈夫ですよ。私は人間と尊重し合う関係でいたいと思っています」
「あっ、そうなの」
「はい。二亜のように愚かな存在ばかりではないと知っていますから」
ロボ子はとってもきれいな笑顔でそう言った。
……あれ、あたし思いっきりディスられた?仲良くする価値のない馬鹿って言われた?
「二亜の買い物メモ。見たときは驚きました。未成年者にあのようなリストを見せるとは」
なんか初対面なのに冷たい目で見られてる。まるで腐った三角コーナーの中身でも見るみたいな。
「いや、それは愛くんに無理矢理言われたからで」
「愛とのデート中に購入を検討していましたね。だからあのメモを持っていたのでしょう」
「いや、十八禁とかお行儀よく守ってる奴なんかいないでしょ。愛くんも普通に下ネタイケる口だし」
「だとしても、デートでそれをするのはいかがなものでしょう?まして、愛は中学生ですよ。いくら何でも不健全だと思いますが」
「ぐぬぬ……」
正論でねちねちと攻めてくる。こいつは姑か?
「ロボットのくせに生意気だぞ!」
「まあまあ、その辺にしておいてくれ」
少年から羽交い絞めにされてしまった。人間様の強さ(物理)を教えてあげようと思ったのに。
「改めて、この六人で同人誌を描く」
オリリンが静かに宣言した。その言葉で少し真面目な空気が戻ってくる。
「テーマは事前に話した通りだ。二亜がメインの恋愛ものを描いていく」
少年は遠回しにそう言った。全員静かにうなずく。
「しかし、あの愛に惚れるとは。二亜もなかなか……」
「呼応。難儀な性格をしています」
かぐやんゆづるんペアが言いにくそうに語る。
「いや、自分でもなかなか無茶したとは思ってるよ」
年下。恋人持ち。八茶けた性格。
よく好きになったもんだ。
「それで具体的にどのような同人誌を描くのでしょうか?二亜が七罪から愛を奪い取るエピソードでしょうか?」
ロボ子が手を上げて質問を投げる。しかし、所詮はロボットだね。
「んな訳ないでしょ。同人誌舐めてんの?」
「むっ、何が問題だというのでしょうか?」
「ナマモノの同人誌だよ?そんな低レベルな解釈でどうすんのよ?」
「解釈、ですか?」
ロボ子は首をひねってる。やっぱりロボットにそういう情緒は百年早いか。
「そ、それぞれのキャラにはやることやらないことがあるの。
「誰の話をしているのですか?知らない人物を例えに出されても困ります」
ロボ子はガチの困惑顔を浮かべてる。
え、
かーっ、やっぱロボットはダメだね。義務教育すらできてないとは。
「愛が現状から七罪を捨てて二亜に乗り換える。それが愛の人間性と合っていない。そういうこと?」
「そーそー。流石オリリン、わかってるねー」
アタシの言いたいこと全部言ってくれた。花丸あげちゃう。
「同人誌描いたところで
展開を変えるのとキャラを変えるのは全く別の話。そこんとこ、高性能AIだって言うなら理解しておいて欲しかったなー」
「くっ、一理ありますね。人間性は重要な要素。その通りです」
「はっはっは、そうやって私を見習っいたまえ、ロボ子ちゃん」
マウント取るの長気持ち―。やはりロボットは人間様に勝てないのだ。
「確かに、二亜が品行方正な人間だと描かれていたら違和感を抱きます」
「おっとっと?」
話が変な方に飛んでいったぞ?
「様々なことにだらしないダメな大人。もし二亜を描くなら、そのようなイメージを守らないといけませんね」
「喧嘩売ってんの⁉」
なんでそこで首傾げてんのよ。何その『私変なこと言いましたか?』って言いたげな目は。
真実だとしても言っていいことと悪いことがあるでしょうが。
「それでさ、結局どんな同人誌を描きたいの?さっきから批判ばっかじゃん」
「同意。アイディアを出してください」
かぐやんとゆづるんから抗議が出る。アタシもその期待に応えたいところだけど。
「いやー、ぶっちゃけいいアイディアが思いつかないんだよね」
「あれだけ上から講釈を述べていたのに、代案はないと?」
ロボ子はぷんすかしてる。いや、気持ちはわからんでもないけど。
「色々考えたけど、なーんかしっくり来ないの。愛くんが思った通りに動いてくれないっていうかさ」
「現実ならともかく、妄想の愛が思った通りに動かないってどういうことだよ?」
少年は不思議そうにしてる。創作あるあるがわかんないか。
「アタシに惚れるシチュが全然浮かばないの。IFやっても異世界系にしても、アタシに惚れる展開にするとお前誰だってなっちゃってさ」
「さっきの話の続きですね。二亜の望む展開にすると、愛の人間性に沿わない行動になってしまうと」
ロボ子がぴしっと指を立てる。さっきので学習したみたい。
「具体的にどんな案がある?」
オリリンが突っ込んできた。やっぱ頭いいと話早いね。
「無難なのは第二婦人として貰ってもらうハーレムルートかな。でも、なんか違うんだよね」
「それは同意する。仮に七罪が許しても、二股をすることはない」
流石オリリン。弟のことは解像度高く妄想してくれる。
原稿落とす寸前で採用するレベルの妥協プロット。描けるけど、そんなもん同人誌で描きたくない。
「なんで愛くんはハーレム嫌いなの?普通男の子ってハーレム憧れるもんじゃないの?」
「いや、こっち見るなよ。俺はそんなものに憧れたことないぞ」
この中で唯一の男の子は激しく否定してる。でも、ねぇ。
「驚愕。士道がそれを言いますか?」
「士道の周りってかわいい女の子ばっかりだよね。あたしや夕弦もいるのに」
「明らかに声のトーンが不自然。これは嘘をついている」
「ですね。心拍数からも丸わかりです」
全員から針のむしろだ。少年が行っても説得力ないって。
「いや、男女二人で手を取り合って生きていくのがいいんじゃないか?」
「ラタトスクがバックにいながら何言ってんのよ。自分の心に正直に生きなって。本当はみーんな好きにしたいんでしょ?」
少年の胸を肘で突いて反応を楽しむ。いやー楽しいなー。
「いや、そんなことないって」
あー、紅くなってる。弄りがいあるなー。
ここで『うん』とも『違う』とも言えないあたりが少年らしい。
「ま、これが青少年の代表例なんだけど」
「おい」
「残念ながら、愛くんはむしろ反対なんだよね」
少年のツッコミはスルーして話を続ける。
「七罪に全振りって感じだよね」
「主張。最早、趣味が七罪と言ってもいいでしょう」
かぐやんとゆづるんの中でもそういうイメージみたい。アタシも完全にそう思うけど。
「確かに、愛は七罪に対して異常な好意を抱いていますね。最早、病気じゃないでしょうか。
……どうしたんですか?全員で私を見て」
ロボ子がタブーをあっさり超えやがった。みんな気づいてたけど敢えて言ってなかったのに。
「以前、自分で言っていた。全部欲しいから、自分も全部渡すと」
オリリンが静かに重く言い放った。全員がその言葉に口を閉ざす。
どういうことか聞く必要なんてない。多分本当に文字通りの意味。
時間も気持ちも命も全部渡す。そういうことだと思う。
「愛は誰かに心を預けたがってる。頼りになる誰かに」
なんかしっくりきた。
入り込めない理由も。愛くんのキャラも。
「一対一オンリーってことかー。ある意味贅沢だなー」
「つまり、二亜もお手上げだと?」
ロボ子は素なのか煽りなのかわかんないことを言ってくる。プロの漫画家を舐めてるのか?
「ここまでヒント貰ってできませんじゃ名折れよ。徹頭徹尾、自己満足のためのラブストーリー創ってやろうじゃない」
本格的に心が燃えてきた。どんどん筆が動くようになってくる。
「とりあえず設定から塗り替えるよ。もう、なっつんと出会う前から改変する。それくらいじゃないと成立しない」
今から描くのは同人誌。反則だろうが奇跡だろうが何でもござれ。
「じゃあ、DEMに襲われたところを助けてもらうってのはどうだ?五年前に襲われたんだろ?」
「それナイスアイディア。頂くよ、少年」
少しずつアイディアを盛り込んで形にしていく。
「五年前なら愛は小学生。その展開には無理がある」
「だったら年を弄っちゃおう。そのくらいならキャラも変わんないし、いいアクセントになる」
絶対に描いてやろうじゃないか。アタシが幸せになる同人誌。
MARIAいいですよね。原作だと出番超遅いのが残念。
今回の裏話はMARIAのボディについて。
当然のごとく彼女の開発に関わっていた誰かさん。彼女のボディ開発にも一役買っています。
おかげで彼女の活躍は早まりましたとさ。
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