ヒロインは七罪   作:羽国

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この章終わるまであと何話かかるんだろうか?秋までかかるとか言わないよね?


同人誌を描こう③

Side 二亜

 

 さて二亜ちゃんからクエスチョン。

 普段からコツコツと積み上げた原稿作業があります。ライバルの作品調査に時間をかけていたからもうどっさりと。

 ここに同人の作業を加えると現場はどうなるでしょうか?

 

 制限時間は三秒。3、2、1――

 はい、正解はこちら。

 

「おら、三徹目突入じゃー!」

 修羅場になる、でした。どうかな当たったかな?

 当たった良い子には徹夜の権利をあげよう。一緒にハイになろうぜ、ベイビー。

 

 エナドリキメてお目目バッキバキ。脳はドーパミンとかそんなのでフルスロットル。

 今のアタシは最高だ、ヒャッハー!

 

「二亜、うるさい!気が散るでしょ!」

「鈍痛。頭に響きます」

 

 一緒に徹夜してるかぐやんとゆづるんは死にそうな顔をしてる。ゾンビみたいな動きだけど手だけはそこら辺のアマチュアよりてきぱきしてる。

 順調に成長してるね。ようこそ、こちら側の世界へ。

 

「折紙はよく平気な顔してるな」

「慣れている」

 

 オリリンは既に猛者の域だ。徹夜でも動きがほとんど鈍らない。

 恐ろしい子。アタシがあの域に達したのは二十代の後半だったのに。

 

「無理のない計画を立てていたのにどうしてこうなっているのでしょう?」

 ロボ子は頭を抱えて唸ってる。何を当たり前のことを。

 

「クオリティアップのために決まってるでしょ!

 妥協は死!中途半端な同人なんてクソ食らえよ!」

 

「イベントに参加するわけでもないのにどうしてこんなに焦っているのですか?理解に苦しみます」

「この胸の情熱が冷めないうちに早く漫画にしたいのよ。ロボ子にはわかんない?」

 

 のんびりゆったり描いてると最初の描きたいって気持ちすら融けて消えていくのよ。

 鉄と一緒。熱いうちに打ちまくらないと。

 

「人の気持ちは学習したいと思っています。ですが、これは理解していいものか……」

「じゃあその無駄に容量食ってるHDDに記録しておきな。人間はそういうもんだと」

「私の記憶媒体はHDDではありません。あと、自分が人類代表みたいな言い方は止めてください」

 ロボ子は一体何が不満なんだか。そういうものだと呑み込んじゃえば早いのに。

 

「さあ、仕事の原稿上げたら同人に戻るよ!」

「二亜、少しは休憩を……」

 

 身体はズタボロ。体力はすっからかん。

 でも気力は尽きないし減らない。心は燃えたままだ。

 

「少年がアタシの心に火を点けたんだから。これは少年が始めた物語でしょ」

 みんなを地獄に巻き込みながら、同人制作は佳境にもつれ込む。

 

♦♦♦

 

「ふふふ、遂に、遂にできたぞー!」

 インクで汚れまくった手を上げて勝利を宣言する。

 

「終わった?終わったの?」

「脱力。ようやく夕弦たちは解放されたのですね」

 

 全員が椅子の上で崩れ落ちる。体力が残ってる奴なんて誰もいない。

 

「本当にみんなよく頑張ってくれたな」

 気力だけで今この瞬間まで繋いできたんだ。

 

「いい作品ができた」

 アタシは遂に終わらせた。地獄の日々を。

 

「はっはっは、二亜ちゃん大勝利(しょーり)!」

 描き上げたんだ。最高の同人誌を。

 

「皆が命を削って描いた同人誌がこれですね」

 ロボ子が最後の原稿を拾い上げ、残りのページとまとめる。そこには綴じてすらいない本当に出来立てほやほやの原稿がある。

 

「ロボ子、一部でいいから製本してよ」

「……今読むのですか?」

 

 ロボ子が『こいつ正気か?』って顔してる。

 

「アタシは()読みたいの」

「……わかりました」

 ロボ子は呆れた様子でコピー機に向かった。

 

 ロボ子の言うことは別に間違っちゃいない。

 頭はフラフラ。身体はズタボロ。胃の中はエナドリでタポタポ。

 一瞬気を抜いたら夢の世界へ直行できる。

 

 でも、それはちょっともったいない気がする。

 

♦♦♦

 

Side 二亜(?)

 

「これDEM?ヤバいって」

 DEMがヤバい組織だってのは知ってた。精霊を狙ってるのも知ってた。

 でも空間震なんてずっと起こしてないアタシが見つかるなんて思ってなかった。完全に舐めてた。

 

 アタシを取り囲むおねーさんたち。そのSF紛いなぴっちりスーツは魔術師(ウィザード)の武装だった。

 

「初めまして、シスター。あなたを捕えさせていただきます」

 そして、その中でもひと際強そうな衣装の女。それこそエレン・M(ミラ)・メイザース。

 

「マジかよ、エレンって⁉」

「おや、私のことをご存知ですか。ならば話は早い」

 純正魔術師(メイガス)の生き残りにして最強の魔術師(ウィザード)。戦闘能力皆無のアタシがどうにかできる相手じゃない。

 

「抵抗したければどうぞ。ただし、手足の一、二本は覚悟してもらいますが」

 エレンの武器がブォンと輝く。絶体絶命。そんな言葉が頭をよぎったときだった。

 

「じゃあ、お前も覚悟できてるよな」

 刹那。エレンの背後で何かが煌めいた。

 ずっと見ていたはずなのに何が起こったかわからない。

 

 ――エレンが攻撃された。それがわかったのは地面に大きな血飛沫ができてからだった。

 

「何者です⁉」

 エレンはアタシのことなんて無視して飛びのく。押さえている左肩からはべったりと血が出ている。

 

「敵に教える馬鹿がどこにいるんだ?少しは頭を使えよ、脳筋」

 それは大きな剣を持った高校生くらいの女の子だった。白い髪を肩くらいまで伸ばした透明感のある青眼の女の子。

 口調とのギャップがすごい。

 

「精霊……でしょうか?見たことない個体です」

 エレンは武器を構え直して観察している。

 

 あのエレンですら油断できない相手ってこと?

 そんなのがなんか助けに来てくれてる?アタシってすっごいラッキー?

 

 確かにあの白黒ドレスは霊装っぽいし、アタシの知らない精霊かも。

 

「尻尾巻いて逃げるなら追わないでおいてやるぞ。どうした、世界最強?」

「舐めた口を。そのよく回る舌から切り落としてあげましょう!」

 

 そうして災害みたいな戦争が始まった。一撃一撃で衝撃波が出てる。

 アタシの出る幕じゃない。今のうちに逃げよーっと。

 

「こっち。ついて来て」

「へ?あ、ちょっと」

 いつの間にか背後にいたもう一人の女の子に手を引かれる。

 

「いや、ちょっと?君だれ?」

 剣を持った女の子とよく似た子。こっちの子はボブカットで無表情の綾波タイプ。

 多分姉妹だと思うけど。

 

「話はあと。捕まりたくなかったら素直に言うことを聞いて」

「あー、もうわかったよ」

 

 いつの間にか他の魔術師(ウィザード)たちも倒れてる。あの精霊がエレンを引き付けてるうちにこの子がやったんだと思う。

 どっちにしろアタシに選択肢なんてない。素直に全力ダッシュを決めた。

 

「一体どこまで走るの?」

「もう少し」

 

 あれから何キロ走ったんだか?もうアタシの膝はガクガクいってる。

 漫画家の足腰舐めてもらっちゃ困るって。小学生に負けかねないんだから。

 

「ここ」

 女の子に連れてこられたのはボロボロのビル。閉まらなくなってるシャッターをめくって中に入っていく。

 アタシもしゃーなしで入っていった。

 

「待って、誰かいない?」

 薄暗い建物の中に人影を感じた。静かだけど確かに聞こえる呼吸の音。

 さっきのDEMが先回りしてた?だとしたら拙い。

 

「問題ない。待ち合わせ」

 女の子は警戒せずにつかつかと歩いていく。その先には、エレンと戦っていた女の子が待っていた。

 

「エレンはどうしたの?」

「逃げてったよ。忠犬らしく、ウェストコットの言うことは聞くみたいだね」

 

 並んでみると本当によく似てる。違うのは髪の長さと胸の大きさくらい。

 

「それは良かった」

「なにも良くないよ。せっかく、エレンを殺すチャンスだったのに」

「ううん、よかった。あなたが傷つかなくて」

 

 ボブカットの子がミディアムの子を抱きしめてる。

 なんかいいね、こういうの。姉妹の絆って感じでさ。

 アタシは放置されてるけど。

 

「そろそろ疲れたよ、お姉ちゃん」

「わかってる、警戒は任せて」

 

 その言葉と同時にミディアムの子が輝き始めた。白と黒のドレスが光のように消えていく。

 そして、後に残ったのは――白髪青眼の男の子だった。

 

 さっきまで完全に女の子だったのに。今は中性的な男の子。

 胸もえぐれてるし、髪もお姉ちゃん(?)より短くなっちゃった。

 

「え、マジ?そういうパターン?君TSっ子なの?」

「あなた、やたら元気ですね。捕まりかけてたくせに」

 

 男の子はお姉ちゃんに支えられながらアタシ見つめる。随分冷めた目をしてるけどそんなことはどうでもいい。

 この子のこといろいろ知りたい。

 

「ねえ、教えてくれない!色々全部!」

「ええ、いいですよ。教えてあげます、本条二亜さん」

 それがアタシと愛くんとオリリンのファーストコンタクトだったのだ。

 

♦♦♦

 

Side 二亜

 

「はっはっは、流石我らの作品よ。隠しきれぬ漆黒のオーラが作品からも溢れおるわ」

「共感。耶倶矢と夕弦が死ぬ気で手伝ったのです。そうでなくては困ります」

「ふむ、悪くない」

「なんか恥ずかしいな」

「なるほど、これが同人誌の醍醐味なのですね」

 

 いや、結局全員読むんかい!別にいいけどさ。

 一冊の本に全員で群がってる。アタシの後ろから覗き込んでるから肩が重い。

 

 ロボ子は自分でもう一冊刷ってくんないかな?

 つーかAIなら要らなくない?全てのページ記録してるよね?

 

「妙に解像度が高いですね。エレンのCR‐ユニットまで完全に再現されています」

 ロボ子は驚いてるのか呆れてるのか溜息を吐いてる。

 その辺にも結構時間を割いたからね。描き込みは勿論、元となるラフにも。

 

囁告篇帙(ラジエル)先生による資料提供のおかげよ。DEMの秘匿情報くらい筒抜けなんだから」

「天使の力をそんなことに……」

「最高の使い方でしょうが。これで最高の漫画が描けるんだから」

 

 どんな資料もものの数分で用意。全知の天使はアタシの手に!

 

「私もチェックしている」

「いやー、オリリンにはマジ感謝してるよ。天使も顕現装置(リアライザ)も使えるし、愛くんの言動もチェックしてくれた」

 

 大筋はアタシが決めたけど、オリリン無しじゃネームすら描けなかった。多分、原作:本条蒼二・鳶一折紙ってなると思う。

 ……本名はないか。まあ、とりあえずオリリンには足向けて寝られない。

 

「礼は不要。私もいい夢を見させてもらった」

「んじゃ、ウィンウィンということで」

 

 拳と拳をぶつけて楽しみを分かちあう。こういうのがあるからプロになっても同人止められないんだよ。

 

「なあ、これって五年前なんだよな?折紙も愛も今と同じくらい見た目してるけど」

 少年もいい所に気づいたね。その辺の微妙なIF設定がこの同人のアクセントだからね。

 

「なんだかんだあって二人とも五年早く生まれたことにしてるよ」

 そうじゃないと流石に厳しかったからね。

 

「じゃあ、この中の折紙は俺たちよりも年上なんだな」

「そう、同級生というアドバンテージを失った代わりに年上属性を手に入れた」

「……何の話をしてるんだ?」

 

 そりゃオリリンだよ。少年をいただく話に決まってるじゃん。

 無垢な振りしても意味ないよ。

 

「DEMを倒すために精霊集めをしてる二人。その最初の仲間がアタシというわけだよ」

 割と世界観設定に時間かけちゃった。続編描ける程度には作り込んである。

 機密盛々だから身内しか読めないけど。

 

「折紙と愛のチームに二亜が入るわけですか」

 ロボ子はふむふむ言ってる。この同人はバランスまで調整してあるのだ。

 

「そうだよ。シンプルに強いオリリン。器用で何でもできる愛くん。最強の軍師たるアタシ。

 完璧なチームでしょ?」

「それ、二亜必要ですか?」

「何を言うか、ロボ子!」

 相変わらず人の地雷でタップダンス踊るの好きだな。温厚な二亜ちゃんだって怒っちゃうぞ。

 

「その二人なら自分で戦術的行動がとれるじゃないですか。下手な軍師をつけても邪魔なだけです」

「誰が下手な軍師じゃ!囁告篇帙(ラジエル)の力を舐めるんじゃないよ、もう」

「結局天使頼りではないですか」

 本当、喧嘩ばっかり売ってくるなこのロボットは。もうちょっと人の心に寄り添うことを覚えてくれないもんかね。

 

「さあ、我らの作り上げた大地に新たな足跡を刻もうぞ」

「翻訳。ページをめくります」

 そんなこと言ってたらかぐやんとゆづるんが待ちきれなくなってる。

 

「ああ、ちょい待ち」

 本をひったくってもう一度アタシが中心になる。

 物語は序盤から中盤へ。恋愛パートに移る。




というわけで同人誌描いてる二亜たちでした。MARIAとの絡みが書いてて楽しいですね。こいつもうレギュラーだろ。

今回の裏話は同人誌の設定について。転生まで知ってる折紙が監修してるからほぼ年が違うだけのIFストーリーなんですよね。だから戦術的に二亜を最初に狙うわけです。

こう言うIF妄想するの大好き。

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