ヒロインは七罪   作:羽国

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ようやく章の本当の名前が公開です。その名も二亜&六喰編。

というわけで最後の精霊に登場してもらいましょう。


最後の一人

Side ■

 

 DEM日本支社セントラルビルの最上階。貴人のために整えましたと言わんばかりの広い部屋。

 私のような者が入るのは少々気が引けるが仕方ない。ここは我々が悪事を企てるための部屋だ。

 

「やあ、帰ったようだね」

 男は薄っぺらい笑みを浮かべ、私を迎えた。

 

 くすんだアッシュブロンドの奥から覗く鋭い相貌。一挙手一投足に危機感を抱かせる老獪な振舞い。

 彼こそ私の協力者にしてDEMの首魁。アイザック・ウェストコット。

 

 明らかに私の同類だ。救いようのない悪党という意味で。

 

「作戦は上手く行ったのですか?」

 

 その隣に立つのはオフィススーツに身を包んだ少女、エレン・M・メイザース。

 番犬のようにウェストコットの隣に立ち、その碧眼で私のことをじっと見つめている。

 

 変なことをすれば首を落とす。言葉にせずともそう伝わってくるようだ。

 

「細工は流々仕上げを御覧じろ。焦らずとも、霊結晶(セフィラ)はごろごろと転がり落ちてくるでしょう」

 私は私の流儀に則って恭しく頭を下げる。まるで舞台に立つ道化のように。

 

「相変わらず、気取った言い方をしますね」

 エレンは不満げなご様子。残念だが、彼女のお気に召さないようだ。

 

「くくく、心配していないとも。

 貼り付けた笑顔と目の奥に宿る復讐の炎。君は私たちと同じだ」

 

 一方、ウェストコットは満面の笑みを浮かべている。私を好ましいと思っているようだ。

 私が言うのも変な話だが、変わった人間だ。私の腹の底は透けているだろうに。

 

「一緒に願いを叶えようじゃないか、同胞よ」

「もちろんですとも、Mr.ウェストコット」

 

 私たちは隙間風の吹くような言葉を交わした。

 

♦♦♦

 

Side 七罪

 

 ぶっちゃけ私と琴里の関係は微妙。ラタトスクがあんま好きじゃないだけで別に琴里がどうこう思ってないけど、仲がいいかと言われるとねぇ。

 

「七罪、一緒にお花摘みに行かないか~?」

 だからこういうのは本当に怖い。琴里の笑顔に影のトーンが貼ってあるようにしか見えない。

 

「私、花を愛でる趣味とかないから」

 回れ右してさっと逃げようとする。でも琴里に肩を掴まれた。

 

「そんな古典的なボケかまさなくていいんだぞ。ほら早く」

「あ、ちょっと待ちなさいって。いや、離して」

 

 琴里はそのままズルズルとトイレに連れて行った。因みに愛は手を出すかどうか躊躇ってたわ。

 こういうときは助けなさいよ。

 

 二人で一緒に個室に入って鍵を閉められる。琴里がドア側に立ってるから逃げられない。

 

「全く、トイレくらい素直について来てくれてもいいじゃない」

 琴里はリボンを変えて目を鋭くさせる。

 白いリボンは学校用のぶりっ子キャラ。で、黒いリボンはラタトスクの司令官。

 

「ああ、そういう話?」

 これから精霊関係の話をするってことね。大っぴらに話すわけにいかないからわざわざトイレの個室で。

 

「そういうことよ。むしろなんだと思ったの?」

「いや、『一緒にお花摘み』って『これからお前に陰湿なイジメをするから覚悟しろブス』の隠語じゃないの?」

 

 トイレに行ったら琴里の取り巻きがいて囲まれるとか。個室の上から水ぶっかけられるとか。

 そういうのを想像してたわ。

 

「ねじ曲がり過ぎでしょ⁉……ったく、誰かにイジメられたの?」

()()されてないけど」

 

 昔はいっぱいあったわね。遠巻きに暴言浴びせられた記憶が腐るほど。

 

「深くは聞かないわ。本題に移りましょう」

 琴里はパンパンと手を叩いて切り替える。

 

「二亜の攻略、順調に進んでるわよ。同人誌も無事完成したし」

「ああ、なんか令音が言ってたわね。二亜が吹っ切れるためにわざわざ同人描くって」

 

 基本丸投げするつもりだったけど、一応事情は知ってる。当事者が家の中にいるし。

 

「七罪も協力してくれたみたいじゃない」

「いや別に、そんな覚えないんだけど」

 

「同人制作の間、愛が一度も来なかったわ。あなたのおかげでしょう?」

「折紙と令音に言われた通りにしただけなんだけど」

 

 休日の度に愛を誘って出かけただけ。冬服を見たいとか、一緒にスイーツ食べたいとか適当な理由をつけて。

 

「十分よ。あいつがいないことがどれだけ重要なことか」

 琴里のテンションが何故か高い。全然そういう状況じゃないと思うんだけど。

 

「愛はゴキブリか何かなの?」

「ある意味もっと性質が悪いわ。頑張って立ち直ろうとしてる所に元凶が来るだなんて」

「うわぁ……」

 私の彼氏、信じられないくらい扱いが酷い。否定できないけど。

 

「ここまで来たらあとはどうにでもなるでしょう。元々二亜自身が協力的だし、士道も上手くやってるわ」

「ま、その辺は任せたわよ。愛は近づけさせないから」

 適当に切り上げてお開きにしようとしたらぎゅっと手を握られた。身体が一瞬びくっとなる。

 

「本気で頼んだわよ。あいつが邪魔するのが一番最悪なんだから」

「わかった、わかったからそんな強く握らないで」

 

 やたらぎ強く握られた琴里の手が怖い。あと目がマジ。

 

「二亜が元気そうで良かっ——」

 トイレを出ようとしたそのとき、全身が泡立つような嫌な感じがした。

 

「今の何?」

 琴里も感じたみたい。

 

 この霊力、間違いない。あいつが来た。

 それに、この方向って——

 

「琴里、今すぐフラクシナスに通信しなさい!」

「何があったの?」

「精霊が来るわよ。それも、ものすごく強いのが」

 

「どういうことなの?」

「喋ってる暇なんてない。琴里はとにかく応援を呼んで!多分私たちの教室だから」

 

 それと同時に駆け出した。力を感じた方向に向かって。

 細くて走りにくい足を無理やり回して教室へ。予想を後押しするかのように霊力をはっきりと感じるようになる。

 

「愛!」

 叩くように教室のドアを開く。四糸乃、花音、紀子の他にクラスの奴らがちらほらと。

 そして中心。愛と一人の女の子が向き合っていた。

 

「ほぅ、ぬしも来たか七罪」

 予想通り、精霊がそこにいたわ。

 

 チャイナドレスみたいな霊装。揺蕩う長い黄金色(こがね)の髪。

 眠たげな目は私をしっかり捉えてる。

 

「星宮六喰、どうして⁉」

 

 学校という私の日常。そこに非日常が土足で乗り込んできた。

 ここから事態は私の日常を呑み込んでいく。

 

♦♦♦

 

Side 愛

 

 改変する前の世界で狂三と手を組みDEMを襲撃した。二か月足らずで数万人単位の犠牲者を出した大事件。

 その目的の一つ。宇宙艦を奪い、宇宙にいる六喰を引き入れること。

 

 最後の霊結晶(セフィラ)を宿す精霊、星宮六喰。

 あいつの持つ天使は封解主(ミカエル)。始原の精霊の天使を除けば間違いなく最強格だ。

 

 攻略は欠かせない精霊だった。何とか六喰に接触し、協力を依頼したが――

 

『どうしてむくが貴様らに協力せねばならない?』

 

 にべもなく断られた。素っ気ないというか、完全に無感情で。

 

 六喰は僕が出会ったときは既に自分の心に鍵をかけている状態。交渉に行ったのに感情を封じた贋物にしか出会えなかった。

 インターホン越しですら取り合ってもらえなかったようなものだ。

 

 はいそうですかって帰る気もない。

 だから、無理矢理心をこじ開けた。六喰自身の天使をコピーして。

 

♦♦♦

 

 あれから数か月。世界改変やら七罪の再攻略やら色々あって、すっかり存在を忘れていた。

 どうせ改変の影響で心の鍵を開いたこともなかったことになっている。そう高を括っていたのだけど。

 

「ここか、道化の言っていた場所は」

 

 六喰は教室にいきなり現れた。

 四糸乃や花音とおしゃべりしている最中。空間に大穴を開けて、よその家に訪問するような調子で。

 

「むく……ろ?」

 流石に思考停止してしまった。完全に予想外のタイミングで出てきたから。

 七罪たちより少し背が高い女の子。桃色のチャイナ服と大きな鍵の天使は見間違えようがない。

 

「おぉ、本当におるとは。久しいのぅ、鳶一愛」

 

 六喰は僕を捉えた瞬間、獰猛な視線を送ってくる。

 

「愛!」

 タッチの差で七罪も教室に駆け込んでくる。

 

「ほぅ、ぬしも来たか七罪」

 六喰の意識は七罪にも向いているようだ。七罪を見て再び目を細めている。

 

「星宮六喰、どうして⁉」

「簡単な話じゃ。むくが受けた屈辱、返しに来たぞ」

 七罪の質問に六喰は端的に答えた。静かな怒りが不気味に映る。

 

 六喰の怒りは正当なものだ。僕は殺されてもあんまり大きく反論できない。

 でもここはまずい。生徒が大勢いる教室のど真ん中なんだから。

 

「愛さん、お知合いですか?」

 四糸乃は状況がわからず困惑しているん。このままじゃ四糸乃を巻き込みかねない。

 

 ——いや四糸乃はまだいい。身を守る力があるんだから。

 もっとヤバいのはそれ以外のみんなだ。

 

「ねえ、この子は誰なの?七罪さんとお友達だったりするの?」

「今、何もない所から出てきませんでした?マジックですか?」

 

 ここには花音や紀子、精霊関連のことを何も知らない奴らがいる。巻き込まれたら本当に(まず)い。

 

「あー、六喰。寝てたお前を叩き起こしたことも、心を無理やり開いたことも悪いと思って――」

 どうにかしろ。嘘でもハッタリでも何でもいいから、この場をどうにかする策を考えろ。

 

「『作戦にはお前の力が必要だ。洗脳してでも味方にする』じゃったか?」

 

 六喰は僕の言葉を遮って話す。その言葉には聞き覚えがある。

 ——というか言った覚えがある。

 

「鳶一愛。貴様の言葉、覚えておるぞ。

 よくあそこまでむくを愚弄できたものじゃ。むしろ尊敬すらしておる」

 

 あ、これはヤバイ。六喰は今イラついているどころの騒ぎじゃない。

 

「霊装を顕現させよ。むくが貴様らを打ち滅ぼしてくれよう」

 六喰は本気で切れている。あの封解主(ミカエル)を人に本気で振るおうとするくらいには。

 

「えーと、それは……」

 色々メンタルヤバい時期だったけど、明らかに最悪の言動だ。自分でも擁護できない。

 

「七罪、今すぐ逃げるぞ!」

「あっ、ちょ待ちなさいって!」

 

 即座に窓を飛び越えて外に出る僕たち。多分これが最善手だ。

 

「逃がさん」

 六喰は僕たちにしか興味がない。まっすぐに追いかけてくる。

 若干賭けだったけど上手く行ったみたいだ。今のうちに策を考えろ。

 

「あんたいつも敵作り過ぎなのよ」

「反省してる。本当に申し訳ない。以後、絶対改める」

 

 逃げながら七罪に詰められる。

 もう反論の余地が一切ない。全面的に僕が悪いとしか言いようがない。

 

「それで、どうすんの?」

「とりあえずグラウンドまで逃げる。校舎の中で暴れられるよりマシだ」

「それはそうね」

 

 緊急着装をしながら忙しなく作戦会議をする。悠長に考えてる余裕なんてない。

 

「でも、迎え撃つ気?こんな全く準備できてない状況で?」

 七罪が天使を顕現させて飛び乗る。魔女箒スタイルだ。

 

「どうせ逃げても意味なんてない。向こうはこっちの教室にいきなり転移してきたんだから」

 距離を空けたらさっきみたいに転移してくるだけ。転移すら面倒と思わせるこの距離感だから鬼ごっこが成立している。

 

「琴里にはフラクシナスに連絡するよう言っておいたわ」

「それは本当にナイス。だったら、必要なのは時間だ」

 

「適当に相手しながら応援を待つの?」

「そういうこと」

 

 方針をまとめてる間にグラウンドに辿り着いた。当然だけど、昼錬してる運動部やら遊んでる奴らがちらほらと。

 逃がさないと被害が出る。どうすればいい?

 

「愛、これでみんなが逃げる理由は作れた?」

 振り返ると七罪の隣には大きな火柱が立っている。その手には灼爛殲鬼(カマエル)が握られている。

 

「愛してる、七罪。——火事だ、今すぐ逃げろ!」

 これで理由が作れた。今すぐこの場から逃げないといけない、わかりやすい理由が。

 

「え、火事?」

「何、あの炎ヤバいって!」

 

 グラウンドにいた連中が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。消火器が近くにないのも幸いした。

 初期消火をしようなんて奴も出てこない。

 

「これでとりあえず大丈夫ね」

 七罪は灼爛殲鬼をくるりと回して贋造魔女に戻す。本当に頼れる相棒だ。

 

「なるほど、邪魔が入らぬようにしたかったのか。うぬらにしては殊勝な心掛けじゃのう」

 六喰も追いついてきた。間合いの少し外で僕たちの動きを警戒している。

 

「さてどうだろうな?逃げてる間に罠を用意するためかもよ?」

 そんな余裕あるわけない。でも、ブラフが成立する。

 それで一瞬でも戸惑ってくれたら上々。

 

「そんな隙を作った覚えはないのじゃが、あったとしても踏みつぶしてやろう」

 

 わーお、とても漢らしい。六喰、本当に武人肌だな。

 僕と違って。

 

「二人まとめてで構わぬ。かかってくるのじゃ」

 その殺戮振りまく天使を僕たちに真っすぐと向ける。

 

「あーもう、面倒臭いけどやるしかないわね。千変万化鏡(カリドスクーペ)――【鏖殺公(サンダルフォン)】」

 七罪も戦う覚悟を決めた。天使を剣に変えて構える。

 

「愛、あのモードは使える?エレンを倒したときの」

衛星(サテライト)との百パーセントシンクロね」

 

 あの世界最強の魔術師(ウィザード)を追い詰めた力。魔力の量も制御も大幅に向上させる。

 禁止されてる精霊化を除けば最強の手札だ。でも——

 

「使えるけど使わない。使うのは殺すと決めたときだ」

「……そう」

 

 あれは殺意が強すぎる。加減をする余裕もない。

 勢いあまって六喰を殺しかねない。だから、本当に最後の手段だ。

 

「だったら私が前に出る」

 七罪は一歩踏み出して構え直す。丁度僕をかばうような形だ。

 

「七罪、大丈夫?」

 元々七罪は戦闘が好きでも得意でもない。仕方なしにやってるだけだ。

 無理をしているように見える。

 

「仕方ないじゃない。あんたはそれだけ弱くなってるんだから」

 それでも七罪は退かない。頬に伝う汗を払って六喰と対峙する。

 

「昔に戻っただけよ。私が強いのを相手して、あんたは後ろからサポート。いいわね?」

 強がりなのはわかってる。でも、七罪に反論できるほど今の僕は強くない。

 

「……わかった。じゃあ僕も昔と同じように、徹底的に敵の嫌がることをしようじゃないか」

 僕は七罪から一歩引いた位置に立ち衛星(サテライト)を展開する。総数十二機の僕の手足が六喰を取り囲む。

 

「面妖な戦い方は変わらぬか」

「性根がひん曲がってるからな。天使を持とうが顕現装置を持とうがこういう戦い方になるんだよ」

「なるほどのぅ」

 

 六喰は衛星(サテライト)を見回し、にらみを利かせる。

 警戒はするけど怯えてはくれない。やりにくい相手だな。

 

「行くぞ!」

 六喰は天使を中段に構え一気に駆け出した。

 

「七罪、それを受けたら一巻の終わりだ。絶対に避けて」

「本当に面倒ね!」

 

 攻撃が当たる直前。上手く刃先を当てて攻撃を逸らす。

 六喰はすぐに体勢を立て直して連続で突きを繰り出す。でも七罪は器用に避けるか捌いている。

 

「なんで私がこんな武闘派の真似事しないといけないのよ!」

 

 金属の擦れあう音が響き渡る。

 七罪は文句を言いながらも堅実な戦いを続けている。その甲斐あってなんとか六喰相手に無傷でしのいでいる。

 まあ、一撃食らったら終わりなんだけど。

 

 六喰の攻撃の合間を縫いレーザーでチクチクと攻撃する。下手すると七罪に当たるからバカスカ撃つのは無理。霊装を辛うじて穿つ程度の嫌がらせだ。

 

「鬱陶しいのぅ」

 六喰は蝿でも振り払うように僕の攻撃を振り払う。

 

 ダメージはほぼなし。集中を阻害するので精一杯。

 二人がかりで完全なジリ貧。この綱渡りがいつまで続くかわからない。

 

 だけどそれでいい。殺す気もないのに六喰を倒すのは現実的じゃない。

 このまま応援が来るのを待つ。誰か一人でも来てくれたらやりようはいくらでもある。




すごい不穏な感じですね。これからどうなるんでしょうか?

今回の裏話は愛くんたちと六喰の出会いについて。

実はDEMから奪った宇宙船で会いに行ってました。狂三は二亜、愛くんと七罪は六喰で手分けしていたんですね。

結論として接触には成功。心のカギを開けるところまでは成功したけど、六喰には逃げられてしまった。これが結末です。

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