ヒロインは七罪   作:羽国

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感想で質問が有りました。封印の為に七罪と士道はキスをするのかと。感想にはお返事したのですが、ここでも改めて読者の皆様にお伝えしておきます。

そのような展開は考えておりません。愛君と七罪ちゃんのハッピーエンドがこの作品のゴールです。

それと第五話:鳶一愛の印象 by琴里の内容を大幅に修正しました。最早別物です。しかし、話を読んでわかる情報自体は変えていません。なので、このまま新しい話を追って頂いても特に問題はないと思います。わざわざ、誤字報告をして頂いた方にはこの場でお詫び申し上げます。

報告が多くなりました。本編をどうぞ


宣戦布告

 僕と七罪は琴里に来禅高校へ来るように言われた。不登校中学生と身分不詳を高校に呼び出すのとは、何を考えているんだ。

 見つかったら一発で問題になるぞ。僕も七罪も、見つからずに物理準備室まで行くことなんて容易いけど。

 わざわざ僕をこんな場所に呼び出すということは緊急事態なのだろう。例えば、狂三に()()あったとか。

「来たぞー、琴里。」

 扉を開けると士道、琴里、令音さんが勢揃いだ。令音さんが何やらパソコンをいじっている。ギャルゲーのような音楽が聞こえたのは気のせいということにしよう。

「丁度全員揃ったわね。これを見て頂戴。」

 挨拶も省略して琴里が画面を見るように促す。全員が画面を見ることができる状態になったことを確認して、令音さんが映像を流し始める。

 見なくても内容は大体予想できるが、一応確認しておいた方が良いだろう。僕も七罪も腕を組んで後方傍観者面で映像を見る。

「ん?これって……真那?」

 士道の言う通り画面には青いポニーテールの少女、崇宮真那が映っている。中学生らしいパーカーにミニスカートスタイルだ。彼女の活発な性格を表している。

 その対面に誰か居る。真那とは対照的におしとやかな()()()をしている少女、狂三だ。

 大人しそうなのは見た目だけ。彼女の周りにおびただしい量の血液が飛び散り、コンクリートの道路を赤い絨毯のように染め上げている。

「ええ、昨日の映像よ。周りをよく見て。」

「なっ、AST?」

 向かい合う二人をASTの隊員が取り囲んでいる。完全に武装状態だ。画面の端には姉さんの姿も有る。

「ええ。なぜか昨日、急にASTの反応が街中に現れたらしいの。クルーの一人が念のためカメラを飛ばしてみたらしいんだけど、確認しみて驚いたわ。」

「な、なんでASTが」

「そりゃあ、精霊がいるからでしょうよ。」

 士道の疑問を琴里が事もなげに答える。元々そういう組織だから、むしろ当たり前の業務をしているだけだ。民間人が全く避難していない、特異な状況を無視すればだけど。

「な、なんで真那が――」

 士道のその疑問の答えは映像がすぐに示してくれた。真那がCRユニットを着装する。明らかにASTのよりも高性能なものだ。

 これを見たら、崇宮真那が何者かはおおよそ分かるだろう。DEMの出向社員という真実まではたどり着けないだろうけど。

 真那に応じるように狂三が霊装を纏う。深い闇を思わせる黒と血のように紅いドレス。彼女以外は着ることができないような一品だ。

「霊、装……」

 士道は茫然としている。そう言えば士道が狂三の霊装を見るのはこれが初めてだった。

 普段、七罪とばかり話しているから士道の視点を忘れてしまう。気を付けないと。

 画面の中の状況は素早く変化する。二人の睨み合いはほんの一瞬で終わった。

 真那の兵装から放たれた光線によって心臓付近を撃ち抜かれる。狂三は武器を構える暇も与えられなかった。

「え?」

 士道の理解が追い付いていない。画面の中で起こったことが唐突過ぎて飲み込めないのだ。それでも、映像の状況はさらに変化する。

 狂三は攻撃による負傷で呆気なく倒れる。そして、最後は真那のレイザーエッジによって首を切断された。

「ぐっ……」

 士道は映像の凄惨さに口元を抑え込み、えずいている。僕の様な()()()()と違って、こんなものを見せられたら平常ではいられないだろう。七罪も大きなリアクションは見せないが、眉が寄っている。

 脇道は狂三の血によって塗り替えられた。狂三はそれから起き上がることは無かった。

「これって……」

 士道は酷い声色で会話を続ける。ショックは受けているが会話を続けられるようだ。

「見ての通りだ。昨日、時崎狂三はAST・崇宮真那に殺害された。重傷とか瀕死とかではなく、完全に、完璧に、一部の疑いを抱く余地もなく、その存在を消し潰された。」

「そん、な――」

 士道は言葉を継ぐことができない。しかし、映像を見れば嫌でも狂三が死んでいると分かる。

「でも狂三は今日、普通に学校に……」

「……そう。我々もそこがわからないんだ。」

 それだけ言うと、琴里と令音さんが僕の方を見る。示し合わせたかのような二人の視線は僕を糾弾している様だ。

「……こんな映像を見ても、君はほとんど反応をみせないね。――狂三の能力は時間に関係している。間違いないかな、愛?」

 確認を装っているが、その本質は揺さぶりだ。僕が渡していない情報を持っていることを半ば確信していて、提供を求めている。

「時間……だって。」

 士道が驚く。別に驚くほどのものではないだろう。能力バトルものでは定番の能力だ。天使の一つにそのような能力が入るのは妥当に思える。

「確信はないけどね。でも、狂三が時間に関係する能力を持っているなら、この状況になった理由もいくつか想像できるわ。例えば、狂三は死んだ後に時間を巻き戻して蘇生したとか。」

 琴里の予想は間違っているが、完全に外れてもいない。刻々帝(ザフキエル)の能力には回帰も含まれる。だが、恐らく死者の蘇生はできない。

 今、狂三が使っているのは分身体を創造する能力。死んで蘇ったのではなく、そもそも死んでいないと言う方が正しい。

 時間の能力から分身体という想像はちょっと出てこないだろう。

「別にそれ位なら教えてあげても良いんじゃない?」

 会話に参加していなかった七罪が琴里たちに助け舟を出す。分身体のことくらいは教えてやれとのお達しだ。

 確かに七罪の言う通り、狂三の分身体はそこまで重要な情報ではない。狂三とまともに戦闘していればそのうち知ることになる。僕が教えても問題はない。

 刻々帝(ザフキエル)の能力を全部話したり、狂三の目的を話したりすると令音さん(ラスボス)に疑われそうだ。でも、この能力だけなら良いか。

「そうだな、話しておこうか。士道さん、狂三は能力によって過去の自分自身をトレースした分身体を創造することができます。映像の中で殺された狂三は分身体ですよ。」

「なっ……!」

 士道一人が驚いている。琴里や令音さんは士道ほど露骨な反応は見せないが、眼を鋭くさせている。

「確かにそれなら狂三が死んでも平気で学校に来た理由が説明できるわね。」

「……初めから分身体を身代わりにして、本体には会えてすらいなかったということか。」

 僕は首を縦に振って肯定しておく。

「だったら狂三の攻略は……」

「全くできていなかった、ということになるね」

 士道は令音さんの言葉を聞いて項垂れる。色々と思う所があるだろう。

「士道さん。時崎狂三を攻略したいのなら、まず本体を引きずり出すところからですよ。」

 僕は士道に狂三攻略の難しさの一端を説明した。この程度で困っているようでは狂三の攻略は一生できない。

 

♦♦♦

 

 この日、学校ではもう一つの出来事が起こっていた。今の今まで忘れていたけど、狂三と姉さんのやり取りも同日だったようだ。

 やって来たのは学校の屋上の扉前。姉さんと狂三のやり取りはもう終盤も終盤。 

 姉さんは影から伸びる無数の腕によって動きを抑え込まれている。時喰みの城に隠れている分身体のものだろう。

「折紙さん。鳶一、折紙さん。あなたもとても、いい、ですわよ。すごく、美味しそうですわ。ああ、たまりませんわ。たまりませんわ。今すぐにでも食べてしまいたい。」

 狂三は頬を上気させて姉さんに迫っている。何も知らなければ、()()()()趣味の人間に見えるかもしれない。でも、実際は味見している肉食動物だ。

 凄く不快だから今すぐにでも止めさせる。《ノルン》を緊急着装して衛星(サテライト)を展開する。衛星(サテライト)からレーザーを放って、狂三の首を焼き飛ばす。

 頭の無くなった身体は、スプリンクラーのように血を噴き出してばたりと倒れる。しかし、死体はすぐに影に飲み込まれ、新しい狂三が現れる。

「随分な挨拶ではありませんの。指揮者(コンダクター)さん。いえ、鳶一愛さんとお呼びした方が良いでしょうか?」

「そっちが人の家族を食べようとしたからだろう。それに、分身体の一体や二体殺してもノックみたなものだろ。お前に相手なら。」

 狂三は無礼な相手を窘めるように僕を責める。しかし、この場はそんな糾弾が通じるほど、社交的な場所ではない。容赦なく皮肉で返してやる。

 それよりも狂三は重要なことを言っていた。アメリカではほとんど知られていなかった僕の本名を知っている。

 水面下で情報収集してたのだろう。侮れない相手だな。

「あ……い。」

 姉さんが拘束状態のままこっちを見る。あの腕をこの距離から攻撃したら姉さんを傷つけかねない。近づいて狂三だけを正確に攻撃しなければならない。隙を見つけないと。

「うふふ、やっぱりわたくしの力についてお詳しいのですね。本当にどこで調べてきたのでしょうか。」

「教えてやる義理は無いな。情報が欲しかったら士道さんに封印されてから出直せ。」

 会話をしながらチャンスを待つ。七罪がこっそり屋上側から回り込んでいる。僕に注意を引き付ることができたら、後はなんとかしてくれる。

「あらあら、手厳しいのですね。わたくしがそれをできないこともご存じなのでしょう?」

「そうだな、お前の目的のために刻々帝(ザフキエル)は必須だもんな。」

「分かっておられるのに、そんなことをおっしゃるなんて。酷い方ですわ。」

 狂三は泣き真似をして見せる。余裕綽々の態度だ。狂三は人を苛つかせる天才だな。

「愛さん、わたくしあなたとは戦いたくありませんの。ですから、身を引いていただけないでしょうか?」

 狂三は変なことを言い始めた。こちらを油断させるためのブラフか?

「お前の言うことを信じられるわけないだろ。搦め手が得意な狂三さんよ。」

「身を引いていただけると言うのでしたら、あなたと七罪さん、それから、折紙さんにも手を出さないことを約束しますわ。神など信じていませんので、わたくしの霊結晶(セフィラ)に誓って。」

 狂三はこれ以上ないくらい真剣な表情で言ってのける。狂三は正々堂々とした人間ではないが、立てた誓いを破るような人間でもない。本当に手を出さない気か?

「人質を取りながら言う台詞じゃないぞ。姉さんを離したら考慮してやるよ。」

「そう言って、離したら攻撃するのでしょう。申し訳ございませんが、約束してくれないと折紙さんを解放することはできません。それで、お返事を聞かせていただいてもよろしくて?」

 僕の要求は無視して狂三は返答を尋ねる。これにYESと言ったら本当に襲って来ない可能性は高い。

「確認だが、僕と七罪、姉さんの三人に手を出さない。でも、他は士道を含めて全員()()()。そうだな?」

「ええ、そうですわ。愛さんは七罪さんを相当大事に想っていらっしゃるようですし、無駄な争いを避けたいのではありませんの?少しくらいの犠牲を払ってでも。」

 狂三の言う事は正しい。この世界は残酷で冷淡だ。全員守るなんて欲をかいたら一番大切な人さえ失うことになる。

 そして、僕は士道と違って精霊全員を救おうとするほどお人好しじゃない。全員好きだけどそれとはまた別の話。誰か一人選べと言われたら七罪を選ぶ。それでも……。

「七罪の友達くらい守れる人間じゃないと、あいつの隣に立てないんだよ。」

 狂三に向かって啖呵を切る。僕の命は七罪のもの。七罪の願いを叶えてやれないようでは生きている意味が無い。

 自分から喧嘩を売った。このままでは姉さんがどうなるか分からない。だから、同時に対処を講じる。

 衛星(サテライト)の補助を使って狂三や姉さんを丸ごと収める大きな随意領域(テリトリー)を展開する。目的は狂三の行動の妨害だ。この中では好き勝手には動けない。

 狂三は数秒動きが止まる。対抗するには霊力を込める溜めが必要だ。本体ならともかく、分身体では動くことすらままならない。

「よく言ったわ。」

 屋上の扉を蹴破って七罪が現れる。扉があんなに簡単に壊れるとは思えないから、贋造魔女(ハニエル)で何かしたのだろう。

 留め具が壊れた扉はそのまま吹っ飛んで、先ほどまで交渉していた狂三にぶつかる。

 今回は大人モードでの霊装だ。既に一度姿を見せている狂三に合わせて変身したのだろう。本来の姿でも行動するようになっただけで、別に大人モードを捨てた訳じゃないからな。

 影の中に潜む狂三たちが姉さんを影に取り込もうとする。それを防ぐために七罪が奥の手を使う。

千変万化鏡(カリドスクーペ)――氷結傀儡(ザドキエル)!」

 七罪に無限の可能性を与える、贋造魔女(ハニエル)の真骨頂。他の天使の能力を限定的に使うことのできる千変万化鏡(カリドスクーペ)だ。

 七罪は兎と怪獣を足したような天使、氷結傀儡(ザドキエル)に変身させる。氷結傀儡(ザドキエル)の放つ冷気は狂三たちの腕を凍てつかせる。姉さんも少し巻き込まれているけど、大けがはしていない。

千変万化鏡(カリドスクーペ)――颶風騎士(ラファエル)縛める者(エル・ナハシュ)】」

 流れるように天使を切り替える。新たに表れるのは片翼の翼と鎖につながれたペンデュラム。風を起こす天使、颶風騎士だ。

 七罪は鎖を操って姉さんに巻き付け、凍り付いた狂三たちの腕を砕いて姉さんを引き寄せる。引き寄せられた姉さんは七罪にお姫様抱っこされる形になる。

 姉さんが微妙に抵抗しようとしたが、七罪が抑え込んだ。こんなときくらい、我慢して欲しい。

「きひひ、素晴らしいですわ。素晴らしいですわ。」

 狂三は血のように紅く、闇のように暗い霊装を顕現させる。先ほどまで倒れていたのに影の手を借り、不気味な挙動で立ち上がる。ホラー映画も逃げ出すような恐怖映像だ。

 七罪は颶風騎士(ラファエル)の風の力で大きく跳び、僕の隣に逃げる。あれの隣には居たくなかったのだろう。

「あなたたちは本当に素晴らしい。今すぐにでも食べてしまいたいですわ。」

 狂三は狂気に満ちた笑みで僕たちを見つめる。底知れない恐怖を感じさせる不気味な笑顔だ。本能が警鐘を鳴らしている。

「それで手を出さないなんてよく言えたな。食べる気満々じゃないか。」

「あら、わたくし本当に戦いたくなかったのですわよ。でも、そっちがその気ならわたくしも容赦しませんわ。」

 狂三は銃を出して構える。臨戦態勢だ。

「あなたの好きにさせるわけないじゃない。DEMの社員辺りでお腹を満たすのがあなたにはお似合いよ。」

「そうはいきませんわ。精霊さんたちの霊力を集めて、わたくしは願いを叶えますの。そのための礎になってくださいまし。」

 七罪の言葉を聞いてなお一層狂三の狂気は深みを増す。その熱烈な視線に呑まれそうになる。深呼吸をして頭をクールに保て。

「僕たちはお前を倒して平和を手に入れる。覚悟しろ、時崎狂三。」

 狂三に向けて刃を掲げて決意を宣言する。これは宣戦布告だ。時崎狂三を絶対に撃退する。

「士道さんも愛さんもわたくしのものですわ。精々短い余生を楽しんでくださいまし。」

 そう言うと狂三は影の中にゆっくりと呑まれていった。狂三たちの死体も一緒に呑み込まれ、僕たちだけが残された。

 今日この場で戦う気はないようだ。僕としては今この場で戦う気だったけど。

 狂三が完全に消えたのを確認して姉さんは七罪から離れた。かなり強引な離れ方だった。本当に嫌だったようだ。

 姉さんは七罪から離れてすぐに僕のことをじっと見る。じーっという効果音が聞こえてきそうだ。

「あなた本当に愛?」

 姉さんは僕のことを訝しんでいる。負の感情ではないと思うが、強い疑念を覚えているのは間違いない。

 先程の会話で話した言葉は、姉さんと暮らした日々からは到底出てくることが無い。疑われても仕方ない。

「正真正銘、鳶一愛だよ。姉さんとの思い出でも話そうか?」

 全く解決にならないことを承知の上で、姉さんに向けて言葉を発した。




愛君と狂三の対面です。狂三は頭が回る精霊だから作者好みの展開になって嬉しいです。彼女も色々考えて行動しているので注意してみてください。

さて今回の裏話です。前回、狂三が十香編の終わりに動き出したと言いました。では、そもそも何故狂三はそんなに早く動いたのかについて。

原作では、《ファントム》にそそのかされて天宮市に来ていました。しかし、この世界では《ファントム》に出会っていません。それよりも早く自分で天宮市に向けて動き出したから。

狂三は半年前に愛君と戦闘した時点から、彼を見張る専用の分身体を何体か用意しています。それで半年間ずっと監視していました。そして、愛君が日本に帰国したことも、分身体からの報告で聞きます。そこで、天宮市に来て調査をして、士道を見つけました。

真那よりも前に天宮市に来ているので、入念に情報収集しています。随分と警戒していますね。

オリジナルの天使を登場させても良い?

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