四月の半ば、僕と七罪は空中艦フラクシナスに呼び出されていた。どうやら、新入りに僕たちのことを紹介するみたいだ。その新人、最終兵器の主人公なんだけど。
僕たちが協力関係にある組織ラタトスクは、科学によって魔術を再現した。ラタトスクの母体であるアスガルド・エレクトロニクスは
部屋を出てマンションの共用スペースに行くと、転送装置が置いてある。その中に入るとフラクシナスに転送されるのだ。
転送された先はSFチックな秘密基地と言った空間だ。宙に浮かぶモニターがその非日常的な技術力を示している。
「久しぶりね、愛、七罪。」
周囲より一段高い位置から声が聞こえる。声のする方を向くと回転椅子をくるりと回して少女が歓迎してくれた。
赤みがかった髪を黒いリボンで結んだツインテール。それが彼女のトレードマークだ。
口にはお気に入りのチッパチャップスを咥えている。肩にかけた赤い軍服が彼女の偉そうな態度に拍車をかけている。
彼女こそ、この空中艦フラクシナスの艦長にして、ラタトスクの司令官。五河琴里だ。
因みに身長は百四十四センチ。大体十歳の平均身長と同じくらい。
どう見ても秘密結社の幹部になれるような見た目ではない。彼女こそラタトスクに見出された、正真正銘の司令官様だ。
「久しぶりだな、琴里。変わりないようで。」
「私は中学生よ。成長期なんだから、変わっているに決まっているじゃない。レディにそんなことを言うなんて。デリカシーが無いようじゃ、モテないわよ。」
何気ない一言が不満だったようで、不満を突き付ける。そういえば、中学生にしてはロリロリしい体型を気にしていたのだった。主に胸部装甲に関して。
でも、子供っぽい外見も趣味も変わっていない。にじみ出るお子様感を全く隠そうとしていない。それでよくあの台詞が言えたものだ。
「レディに見えない程、お子様体型だからじゃない。私の事はちゃんとレディ扱いしてくれているわよ。」
琴里の発言にカウンターを入れたのは七罪だ。うっかり踏んでしまった僕と違って、的確に相手の地雷を分かった上で思いっきり踏み抜いている。
七罪はそういう対象と判断したら容赦なく悪戯を仕掛ける。琴里も七罪の中で遊んで良い枠に入れられてしまったようだ。
七罪は長い髪をかき上げて、抜群のプロポーションをアピールしている。私は大人のレディだと言わんばかりだ。
普段の姿なら七罪も負けず劣らず子供体型なのだ。しかし、ラタトスク相手には大人モードの姿しか見せていない。本人が素の姿のコンプレックスを解消できていないから。
つまり、この場では七罪はナイスバディの美女と認識されている。煽りは効果的に働いてしまうのだ。
琴里は隠しもせず舌打ちをしている。相当苛ついたのだろう。指令官の役割を忘れて素が出ている。
「琴里、止めためえ。七罪も、愛を侮辱したことは謝罪するから矛を収めてくれ。」
仲裁に入ったのは令音さんだ。大人の対応で両者を宥めて場を収める。この人が居なかったら、真面目にやばかったかもしれない。
令音さんの言葉を聞いた二人は、心のこもっていない謝罪を行った。これで形だけは収まったから、後は見て見ぬふりをしよう。
「琴里、来たぞ。会わせたい人って誰なんだ。」
自動ドアが開いて、青髪の中性的な少年が入ってくる。琴里の義理の兄にして、デート・ア・ライブの主人公である五河士道だ。
平凡な高校生に見えるが、精霊の力を封印する能力を持っている。
デート・ア・ライブは士道と精霊の出会いから始まる。四月十日に識別名《プリンセス》と出会う。士道はそこで精霊とラタトスクの存在を知り、精霊を救うために動くことになる。
現在は四月十日を過ぎている。精霊との初めての出会いは済ませているのだろう。
フラクシナスの中を平気で歩いている。精霊やAST、ラタトスクの説明は既に受けていると想像できる。
士道の姿を見たことで、琴里と七罪はひとまず険悪な雰囲気を収める。士道は少し不思議そうに二人のことを見る。
「何かあったのか?」
「五月蠅いわね。細かいことを気にしていると禿げるわよ。」
士道は困った顔で琴里の事を見ている。八つ当たりをされた士道は訳が分からないのだろう。
誰も説明する気は無いのでスルーして頂きたい。
「それで、そこの二人が紹介したい人なのか?」
雰囲気を変えるために士道は僕と七罪の方を見る。初見の人間が居るから、そう思うだろう。
「その通りだよ、シン。彼らが君の作戦を陰からサポートするメンバーだ。」
琴里に代わって令音さんが僕たちの事を紹介する。
「私は七罪。ラタトスクの協力者よ。よろしくね、士道君。」
「鳶一愛です。よろしくお願いします、士道さん。」
「こちらこそよろしくお願いします。その白い髪に鳶一ってもしかして……。」
士道は少し緊張しながらも挨拶を返す。そして、士道は僕の事を見て姉の鳶一折紙のことを思い出したのだろう。
性格はともかく、見た目はそこそこ似ている。面影を見ても不思議ではない。
「お察しの通り、鳶一折紙は僕の姉です。でも、色々有って一年程会っていません。姉に会っても僕に会ったことは秘密にしてください。」
「そ、そうですか。事情も知らずに不躾なことを言ってすみません。」
士道は申し訳なさそうに謝罪する。一年前の事件がきっかけで僕はASTを抜け、日本を出た。
それ以来、姉さんとは会っていない。七罪の為には必要なことだと判断したし、後悔もしていない。けれど、姉さんに対しては思うところが有るのも事実だ。
しかし、それと士道は全く関係ない。悪いのは自分勝手に動いた僕であり、彼が罪悪感を感じる必要はない。
「謝らないでください。姉にさえ黙ってくれたらそれで良いので。敬語も止めてください。僕の方が年下ですから。」
謝罪をする士道を止める。原作のファンとしても鳶一愛としても士道に気を遣われるのは心苦しい。士道にはフランクに接して貰いたいものである。
「それじゃあよろしく、愛。」
「こちらこそ。」
士道と握手を交わして初対面の挨拶は終わった。
「二人には士道の戦闘面でのサポートをして貰う。」
「戦闘面でのサポートですか?」
令音さんの説明を士道がオウム返しする。どうやら意味が分かっていないようだ。
つい先日まで一般人だったのだから仕方が無い。突然非日常に放り込まれたのだから、順応にはまだ時間がかかる。
「士道のミジンコ未満の戦闘力じゃ、精霊はおろかASTの足元にも及ばない。だから、護衛役をつけるの。精霊との交渉時は二人が少し離れた場所で見ているわ。だから、もしもの時は助けを求めなさい。」
琴里が暴言を交えつつ事実を告げる。士道は現状、戦闘力が皆無に近い。
原作では護衛なんて居なかったが、丁度良い人財が居るから有効活用しようとしたのだろう。
こちらとしても、その方が色々と都合が良い。異存は無い。
「やろうと思えばASTを基地ごとを無力化できます。ご安心ください。」
嘘でも誇張でもないただの事実だ。CRユニットの性能面から考えても、運用技術の面から考えても、ASTより僕の方が圧倒的に上だ。
僕にはアスガルド・エレクトロニクス製の
そして、精霊である七罪は僕よりも強い。士道の護衛として不足は無いだろう。
どこぞの世界最強と違って、精霊と対面するなんてことは無理だ。けど、時間稼ぎならできる。
「俺より年下の子がそんなに強いなんて。」
士道は驚いて呆けた顔になっている。信じられないのも仕方がない。
通ってはいないが僕は中学生だ。そんな年齢の子が大人相手に無双するなんて、中二病の妄想と思われても仕方がない。僕も他人事だったら疑っていただろう。
挨拶も済んだからお開きとなった。
士道は恋愛シミュレーションゲーム「恋してマイリトルシドー」の続きをやらされるそうだ。
あのクソゲーをやらされる羽目になるとは可哀そうに。手を合わせて士道の幸福を祈った。
♦♦♦
学校に通っていない僕と七罪は基本暇だ。ラタトスクで訓練をすることも有るが、そんな時間は一日数時間程度。
すると、必然的に時間は結構余るのだ。その間何をしているかと言うと。
「愛、取り巻きが何体かそっちに行ったわ。」
「了解。適当に拘束して時間稼ぐ。そっちは回復必要か?」
「まだ、安全。もうちょっと削れてから。」
七罪と二人でパソコンのモニターに全力で向かっていた。慣れた手さばきでキーボードを操作する。二人でネトゲをしていたのである。
家の中だから七罪は変身したお姉さんモードではなく、素の姿だ。
彼女のイメージである星のデザインが入っている黒のトップスを着ている。よく着ている姿を見るから、一番気に入っている服なのだろう。
僕たちはそこそこな頻度でネトゲをしている。バトルに、収集、クラフトと色々な要素を持っているMMORPGだ。
無限に時間を消費できるから、リミットを決めないととんでもないことになる。二人とも一時期は徹夜でゲームして道を踏み外しかけた。
今七罪はメインアタッカーとしてボスに攻撃を仕掛けている。七罪は結構器用だから割と何でもできる。僕が攻撃よりも支援や妨害が好きなタイプだから、七罪はアタッカーの役割になっている。僕は七罪へのバフや回復をこなしつつ、ボスへデバフを与える便利屋だ。
ボスのHPが削れて、モーションの変化も無くなった。集中力を切らさなかったらこのまま勝ちだ。
「討伐完了。疲れたー。」
「お疲れ七罪。」
隣に座っている七罪とハイタッチでお祝いする。七罪は椅子の背もたれに全力で寄りかかっている。本当に疲れたようだ。
今倒したボスはそこそこ強い部類に入る。だから軌道に乗るまでは結構大変だった。
その分かなり達成感が有る。僕たちのキャラは高レベルでなかなか上がらないのにレベルが上がった。レアアイテムも沢山ドロップした。
「それで、愛。何か悩みが有るんじゃないの?」
七罪がだらりとした体勢のままで尋ねる。その姿に二つの意味でどきりとした。
一つは単純に好きな相手の無防備な姿に見惚れたという意味で。もう一つは核心を突かれたという意味で。
七罪はかなり頭が回るし、気が利く。七罪自身が忘れている過去の影響だろう。
七罪は観察眼が優れている。
「どうしてそう思った?」
「あんたがネトゲやる時は大体暇すぎて仕方がないときか、悩みを忘れたい時でしょ。」
七罪の言葉を聞いて、自分の内心を振り返ってみる。そして、正解だと思えた。やはり、よく人を見ている。
「話すも話さないも好きにすればいいけど、私はいつでも聞くわよ。」
七罪は力を抜いた状態のまま首だけこちらに向ける。その顔はとても優しげだった。僕だけに向けるその顔を見て、黙っておくことなどできなかった。
「姉さんのことで少し悩んでた。」
「あー、鳶一折紙だったっけ?」
七罪はこめかみを押さえてうなりながら記憶を探る。七罪には精霊に関係している組織、人物のことを大体話している。
姉さんもデート・ア・ライブの重要人物の一人だ。だから、現時点で分かる範囲の事実は伝えている。未来のことは伏せているが。
「そうだよ。ASTに所属している僕の実の姉。」
「精霊にお父さんを殺されて精霊を恨むようになった、ね。」
七罪は俯いて何か考え込んでいる。 七罪自身も精霊だから思う所が有るのだろう。
七罪は僕と出会ってからは、明確に人を傷つけるようなことはほとんどしていない。だけど、それ以前のことを僕は知らない。
でも、空間震を何度も起こしている。大勢の人に被害を与えているのだろう。
姉さんも精霊の被害者の一人だ。目の前で親を殺されたせいで豹変してしまった。
表情筋は凍ったように動かなくなった。日々の生活から娯楽と呼べるものを取り除いて、復讐のために人生を捧げた。
それだけ、姉さんにとって家族は大事な存在であり、精霊は憎い存在なのだ。
「精霊は悪くない。むしろ望まぬ力を与えられた被害者だ。」
「それで納得してくれることは無いのでしょうね。」
七罪は自嘲気味に呟く。彼女のネガティブな考え方は相変わらずだが、姉さんという実例が有るから、杞憂と言うことは出来ない。
「そもそも、お姉さんの事ばかり言っているけど、あんたもお父さんを亡くしたことに変わりないでしょう。精霊の事が憎くないの?」
七罪は心配するようにこちらを見る。実の姉が父親を亡くしているということは、当然僕も同じ立場にある。
僕も肉親を精霊に殺された。七罪はその状況で姉よりも精霊である七罪を選ぶことが不思議なのだろう。
「僕は姉さんとは違うから。僕は酷い人間だから。」
姉さんは父さんの事を大事に思っていた。母さんが僕の出産時に無くなって以来、父さんは男手一つで育児してきた。
姉さんはそんな父さんに心の底から感謝していた。だから、父さんを奪った精霊を許せないでいる。
僕は違う。父さんに感謝はしていても、強い激情は無い。原作の知識を得た今、なおさらその傾向が強まっている。本当に酷い人間だ。
「あんたは酷い人間なんかじゃない。あんたが酷い人間だったら私はここに居ない。あんたは優しい人間なんだから胸を張りなさい。」
七罪は無理矢理僕の顔を七罪の方に向けながらそう言う。七罪はそう言いながら微笑みかける。その言葉に涙が出そうになる。
「ありがとう、七罪。」
そのまま僕は七罪の胸に抱いてもらった。七罪こそ優しい人間だろう。
「いつか姉さんと七罪と仲良くできたらなって思っている。」
精霊を殺すために生きている姉さんが七罪と仲良くするのは難しい。原作では最終的に精霊を受け入れたけど、この世界でどうなるか分からない。
でも、成し遂げたい。それが、七罪以外に求める唯一だから。
「できるわよ。」
七罪は子供のように僕の事を撫でてくれる。今は誰も見ていない。七罪に甘えてしまおう。
そうして僕は決意を新たにした。七罪と姉さんと一緒に暮らせる平和な世界にする。それだけが僕の願いだ。
つまらないの一言でも構いませんので感想を頂けたら幸いです。
12月28日追記
裏話のない話に裏話を追記します。今回は愛君の士道の呼び方について。
愛君は士道を内心では呼び捨てにして、会話ではさん付けしています。これは前世の記憶が影響しています。
前世では高校を卒業している記憶が有るので、内心では高校生の士道を呼び捨てにしています。しかし、現在彼は中学生なので士道の年下です。それで呼び捨てにするのは不自然だと考え、敬称をつけています。