伏線は既に散りばめているし、今後もポンポン出てきます。何か気がついたら教えてくれると嬉しいです。その記述が伏線かどうかくらいはお答えします。
今回はがっつりシリアス回です。それではどうぞ。
その後も士道(七罪)は姉さんの衣装選びに付き合い続けた。ラインナップは凄かったとだけ言っておく。
珍しく平和な時間が流れる。姉さんの姿をこんなに長く見たのはいつ以来だろうか。しかし、平穏は長く続かない。
想定していたイベントが発生する。狂三を監視していたカメラの映像が途絶え、狂三の霊波が観測されたのだ。
霊波の観測自体は左程不自然ではない。むしろよくここまで、ことを起こさなかったものだ。
問題はカメラの対策をされたこと。これでは何が起こったか分からない。狂三の元に向かった士道の身に何が起きるかも。
このままでもどうにかなるだろう。でも、念のため僕たちも動かないといけない。
「七罪、狂三が動き出したみたいだ。適当に理由を付けて抜け出してくれ。」
『了解。』
七罪はぼそりと呟く。
『ちょっとトイレに行ってくるな。』
『わかった。』
試着室のカーテン越しに姉さんは返事をして了承した。人目から避ける場所に移動した七罪をフラクシナスに転送させる。
「あー疲れたわ。こんな役割二度と御免ね。」
七罪は変身を解いていつもの姿に戻る。そして、疲れた表情で今回の仕事の苦情を言う。本当に疲れたのだろう。
「お疲れ様。僕はこれから狂三の元に行くけど七罪はどうする?疲れたなら休むか?」
「時崎狂三相手にそんな悠長なことできないじゃない。一緒に行くわよ。」
七罪は霊装と
疲れているのに無理させて申し訳ない。後でお礼をしなくては。
僕と七罪は士道と狂三の元へ向かった。
士道と狂三が合流する予定だったベンチを見るが、当然士道も狂三も居ない、でも、近くにいる筈だ。
「うわぁぁぁぁぁ。」
『愛、七罪、お願い。すぐに向かって。』
「言われなくても。」
琴里に支持されるより先に動き出している。数秒もすれば士道のもとに辿り着く。しかし、想定通りに面倒な奴がいることも分かった。
木々を抜けると狂三の手に捕まっている士道が居る。そしてすぐ傍に狂三と崇宮真那がいる。
崇宮真那は既に狂三に攻撃を仕掛けている。下手に手を出すと巻き込まれかねない。崇宮真那と士道の間に割って入るように着地した。
「鳶一愛、《ウィッチ》、兄様に何をしようってんですか?」
僕たちの存在に気付いた崇宮真那は剣を向ける。しかし、狂三に士道と気をまわさなくてはいけない存在が多すぎる。集中できていない。
「僕たちは士道さんの味方側だ。お前が手を出さなかったら、悪いようにはしないよ。」
「そんな言葉、信じられるわけねーでいやがります。」
「だったら、私たち二人をまとめて相手する?勝てる自信が有るならだけど。」
七罪の煽りに崇宮真那は歯ぎしりしている。狂三、僕、七罪と誰か一人相手するだけでも大変だ。それが全員一堂に会する状況。
崇宮真那にとって考え得る限り最悪の状況だろう。
「とりあえず、あの狂三を処理するぞ。話はそれからだ。」
「てめーは手を出さないでください。あいつは真那が仕留めます。」
「お好きにどうぞ。」
その言葉を聞いて崇宮真那は一歩前に出る。分身体を殺すために。
「話は終わりましたか?わたくしと士道さんの逢瀬を邪魔して勝手にお喋りだなんて。マナー違反が過ぎませんこと?」
「すぐに終わらせやがります。」
言い終わらない内に崇宮真那と狂三の空中戦が開始される。真那は光線を繰り出して狂三はそれを辛うじて躱す。
三次元的な動きをする狂三を捉え切れていない。あと少し何かが必要そうだ。
「ちっ。」
崇宮真那は舌打ちすると攻撃を少し工夫する。光線を折り曲げて狂三が躱せないように追い立てる。
狂三は避けきれず、閃光が胸元を一直線に貫いた。肉が焼ける音と共にぽっかりと大穴が開いた。血が勢いよく噴き出し、地面は赤く染まった。
「狂三!」
士道が肺の空気を全て絞り出すような、悲痛な叫びを上げる。しかし、その声に対して誰も反応しない。まるで聞こえなかったかのように。
「駄目だ!殺しちゃ――」
「そういえばこの女、兄様のクラスに人間として転校してきやがったのでしたね。詳しいことは言えねーですが、この女のことは忘れやがってください。この女は人間ではありません。生きてはいけねー存在なのです。」
「そういう問題じゃない。やめろ!やめてくれ。そうだ、愛。真那を止めてくれ。」
思い出したように僕を見つめる士道だったが、僕は何もしなかった。
ただ、士道を少し見返して狂三の方へ向き直った。
「ふふ……やっぱ、り、士道さん、は、優しい……お方。」
その言葉を最後に、崇宮真那の刃は振り下ろされた。
動揺しているのは士道だけだ。崇宮真那と僕は表情が変わってすらいない。
七罪も少し眉を顰めるが、感情的になることは無い。
「なんで……おまえたちはそこまで平然としていられるんだよ。分身体だからって命を奪っても、何も問題ない。そんな風に思っているのかよ。」
「分……身……体。兄様、一体何を言って言いやがりますか?」
士道の訴えよりも前に、知らない情報に意識が行った。長年追っている真那からしたら、一般人に見える士道の口から新情報が出るとは想像もしなかっただろう。
「あーそうなったか。」
「ちょっと面倒なことになったんじゃない?」
七罪の言う通り面倒な状況だ。
狂三の死に動揺している士道。情報に興味を持っている崇宮真那。死んだ狂三の分身体。その他、狂三の的にされた一般人数名。
状況は混沌としている。
士道に状況説明をせず、口止めしていなかったことも悪かった。崇宮真那にこの情報がばれるのはいいけど、口外されたら困る。
「はー、一旦話をするしかないか。そこの兄妹。全部話してやるから、ちょっと移動するぞ。」
手をパンパンと叩いて話を強引に押し通す。
「誰がてめーの言うことなんかを……」
「時崎狂三の情報をやるって言っているんだ。悪い話じゃないだろ。」
「……仕方ねーですね。」
崇宮真那は頭の後ろを掻きながら不満そうに答える。
「士道さんもそれで良いですね。」
「……分かった。」
士道さんも一旦文句を呑み込んだ。と言うよりも、呑み込ませた。
自分の表情がどんな風になっているのか、士道の顔からある程度察することができた。
「崇宮真那、この現場の後片付けは任せたぞ。情報代変わりだ。別に出向先でも出向元でも好きな方を手配しろよ。」
「……。」
崇宮真那は返事の代わりにどこかへ連絡をした。漏れ聞こえる会話を聞く感じ、ASTの方だろう。
僕はそれを見ながら琴里に状況を説明した。
♦♦♦
場所を移して、個室の有る飲食店。僕と七罪、士道と崇宮真那に分かれて座っている。
簡単な飲み物と軽食を頼んで、話し合い開始した。
「まずは互いの立場を明らかにしましょうか。バックボーンがないと話を理解にしくいでしょうし。僕はラタトスク所属の
僕が司会進行を務める。僕は欲しい情報も糾弾したいこともないから丁度良い。聞き役に回ろうと思う。
「ASTの裏切り者って情報もつけやがってください。」
崇宮真那が頬杖を突きながら、いらんことを言う。こいつ本当に僕のことが嫌いだな。
「嫌ねえお子様は。余計なことを言わないと、話し合いもまともにできないなんて。」
「図星を突かれたから、話題を逸らさないといけねーとは。大変でいやがりますね。」
七罪と崇宮真那の間でバチバチと火花が散っている。こいつら一緒にさせたのは、ミスだっただろうか?
「それはどうでもいいだろ。話とは関係ないし、この場に居る全員が知っている。本題に戻るぞ。次は七罪の自己紹介。」
このままでは埒が明かない。多少強引にでも話を進めないといけない。
「精霊、七罪。ラタトスクの協力者。以上。」
七罪はそっぽ向きながら、簡潔に答える。必要最低限の説明は入っているけど、もうちょっと無いのかよ。
「崇宮真那。ASTの所属で
崇宮真那は対面に座っている僕たちではなく、隣に座る士道の方を向いて自己紹介をしている。『お前らなんかに紹介してやらねーです』って声が聞こえてきそうだ。
「五河士道。所属はラタトスクってことになるかな。精霊でも
一般人とは中々なファインプレーだ。ここで下手なことを言われるより、一般人として振舞ってくれた方が良い。
「さっきから、ラタトスクって言っていますね。私の認識と合っているのか確認したいので説明していただけますか、兄様?」
崇宮真那は不思議そうに尋ねる。そう言えば、ラタトスクはASTにも存在を秘匿されている秘密組織だ。いきなり言われても分からないだろう。
士道がこちらに視線を送るが、僕は士道に任せるジェスチャーをする。
僕の方が詳しいけど、僕が話すとまた面倒なことになりそうだ。士道に説明させよう。
「えーっと、ラタトスクは精霊を殺すんじゃなくて、この世界を好きになって貰って、対話をして空間震を解決する組織だ。」
「対話……でいやがりますか。」
崇宮真那は考え込んでいる。士道の言葉に拒否や嘲りを示していない。
ラタトスク以外の精霊を知っている人間の反応としては、珍しい反応だな。
「噂で聞いたことはありますが。ラタトスク機関、本当に存在したとは……。」
崇宮真那は驚いているが、不審に思っている訳では無い。少なくとも崇宮真那はラタトスクの存在を認知していたようだ。
「ラタトスクの理念は理解できます。そういう組織が有っても悪くはねーと思います。ただ、少なくとも《ナイトメア》と対話をしよう――なんて考えねー方がいいです。」
「なんで、そんなことを言うんだ。狂三だって空間震に振り回されて苦しんでいるかもしれないじゃないか。」
崇宮真那は案外肯定的だ。ラタトスクのことを頭から否定せずに、ある程度受け入れている。
しかし、狂三を救うことは明確に否定する。長年相手してきた者としての意見だろう。
対して、それに士道は納得できていない。狂三を切り捨てる発言を安易に許容できない。
「他の精霊がどうかは知らねーですが、《ナイトメア》時崎狂三に限っては有り得ねーです。あの女は自らの意思で一万人以上の人を手にかけていやがりますから。兄様も見たでしょう、あの惨状を。」
「っ……。」
士道は黙り込む。狂三が人を殺して楽しんでいる所を思い出したのだろう。その光景を見たのなら、崇宮真那の言葉を安易に否定できない。
「それで、分身体とはどういうことですか?兄様はそうおっしゃっていやがりましたね。」
「それについては僕が説明しようか。士道さんはほとんど知らないし。」
口で言った理由も事実だが、それよりも感情的になっている士道に冷静な説明ができると思えない。
僕が説明役を代わるべきだ。
「精霊は全員天使を保有していて、それぞれで個別の特殊能力を持っていることは知っているな。」
「そうですね。先日の《ハーミット》が氷を操っていたように、精霊は何かしらの能力を持っていやがります。」
ここまでは基本知識だ。精霊を知っている者なら誰でも知っている、空間震よりも恐ろしい精霊の脅威。奇跡の具現化である天使。
「狂三は自身の能力で霊力から分身体を創造することができる。いくら分身体を殺しても、本体を殺さない限り意味はない。」
「……なるほど、そういうことでしたか。今まで影を操る能力があの女の能力だと思っていやがりました。――それが全てじゃなかったと。」
崇宮真那は得心が行ったという様子で、椅子に背中を預けた。長年苦しんできた疑問が解消したから、少し気が緩んだのだろう。
「それで、その分身体は無限に生み出されるのでいやがりますか?」
「そんなことは無い。狂三の能力にはコストが必要だ。分身体のストックが百あるか千あるかは知らないが、限りがある。」
狂三の分身体は存在するだけで、寿命か霊力を消費する。それを大量の分身体の分確保するのは容易なことでない。
殺し続ければ、狂三に少なくないダメージが与えられる。真那の行為は無駄じゃない。
「あの女を殺すにはどうしたらいいってんでしょう?」
真那は続けて聞いてくる。大方予想はできているだろうが、もう一押し欲しいのか。
「本体が無視できなくなるまで、分身体を殺し続ければいい。後は、本体でないと対処できないような状況を用意するなんてのもいいな。分身体は狂三の能力のほんの一部しか使えないから。」
「そうでいやがりますか。いいことを聞きました。じゃあ、本体が出てくるまで、分身体を殺し続けてやりますよ。何度でも何度でも……。」
崇宮真那は淀んだ目で殺意を滾らせる。彼女は宣言通り、狂三を殺し続けることを決意したのだろう。
しかし、それを許容できない人間が一人。
「もう止めてくれ!分身体だから殺すとか、精霊だから殺すとか――もう沢山だ。」
士道だ。士道は大声で僕らの会話を遮る。この会話は一般人の士道にはきつかったな。
「なあ真那。狂三は許されないことをしてきたかもしれない。でも罪を償わせることもなく、殺して終わりでいいのかよ?」
「……あの女はそれだけのことをしました。仮に今反省したとしても、許されることなんてねーんですよ。」
士道の説得も崇宮真那には響かない。崇宮真那は自分の信念に従って狂三を殺している。彼女の心に波を起こすことはできても、覆すのは難しい。
「なあ、愛。精霊を殺さずに、解決するのがラタトスクなんだろ。狂三を殺すのは理念に反するんじゃないか?」
崇宮真那に断られた士道は僕の方を向く。すがるような視線で僕に向かって訴えかけている。
「勘違いしないで頂戴、士道君。私たちは都合が良いから、ラタトスクに協力しているだけ。積極的に命を狙う気は無いけど、自分たちの身が危なくなれば容赦はしないわよ。精霊だろうと人間だろうと。」
その言葉に七罪が冷たく答える。七罪も過酷な世界を知っている人間だ。そうやすやすと殺さないなんて言えるわけがない。
「士道さん、殺さないっていうのは贅沢なことなんですよ。力があるから相手を殺すか殺さないか選ぶことができる。弱っちい僕にはそんな贅沢できないんですよ。」
僕は士道を否定する気は無いから、棘が刺さらないように言葉を選ぶ。でも、明確な否定の意思を示す。
「俺は……納得できない。精霊だからって、悪人だからって、殺して終わりになんて……したくない。」
聞き分けの悪い子供を見るような視線が士道に集まる。士道の思想は甘ったれた子供の思想だ。現実を知らない子供の描く夢だ。でもそれで良い。
今は未熟な思想でも、持ち続けることができたなら強固な武器になる。そのまま折れずに成長して欲しい。
♦♦♦
士道は僕たちと別れて街を歩いていた。今はもう夕暮れ。人々が家に帰り始める時間帯だ。
これ以上何かあるとは思えないけど一応見張っている。何せ、相手はあの狂三だからな。油断してパクリってことが無いとも言い切れない。
「シドー、どこに行っていたのだ!」
「無事でよかった。何が有ったの?」
士道を見かけた十香と姉さんが駆け寄る。二人ともデート中にすっぽかされて困っていたのだろう。
「……ごめん。」
士道は絞り出すように答える。しかし、あの出来事の後だ。会話を続ける元気も残っていない。
「シドー、怪我をしているではないか!」
十香が士道の手を取る。衝撃的な出来事の連続で、士道自身が気付いていなかったのだろう。
しかし、士道は十香に手を取られた瞬間に十香の手を払いのける。トラウマがよみがえったのだろう。
「す、すまん痛かったか?」
「……悪い。」
士道は十香に謝罪する。しかし、事情を知らない十香相手には容量を得ていない。
「士道、
姉さんも士道に駆け寄る。姉さんは狂三のことを少し知っているからな。士道のことを心配していたのだろう。
「何?シドー、大丈夫だったか?」
十香も姉さんの言葉を聞いて士道を心配する。
「いや、何でもない。」
それだけ言って士道は家の方に走り出した。二人に顔を見せ続けるのがつらかったのだろう。
胸に秘めた思いを打ち明けることできず、家に向かう道を駆け出した。そして、フラクシナスに回収された。
それを見届けて僕たちは家に帰った。
♦♦♦
「七罪、人参と玉ねぎ切れたぞ。」
「じゃあ、鍋に入れちゃって。」
帰宅したら夕食を作らなくてはいけない時間だった。今日は七罪の当番だ。でも、疲れているだろうから二人で一緒にすることにした。
「……一体何考えているのよ?」
七罪は鍋に水を入れながら問いかける。僕が考え事をしているとばれてしまったようだ。
「そんなにわかりやすかった?」
「アレの後だとね。」
かなり重い話だったから、推測するのは簡単だったか。やはり、七罪に隠し事はできないな。
「……僕は士道さんみたいに甘くないし、そうなりたいとも思わない。これまで何人も殺してきたし、これからも必要だったら何人でも殺す。」
「……そうね。」
日本に戻って来てからはそうでも無かったけど、精霊や
僕も七罪も既に手を汚している。それも一度や二度ではない。
「僕は別に良いんだ。……人を殺しても何も思わない
「……。」
初めて人を殺したとき、興奮も後悔も無かった。あったのは難しい作業を終わらせ、仕事を達成したという実感のみ。
人を殺して何も思っていない自分にこそショックを受けた。
僕はどこかおかしいのだと思う。初めからどこか壊れていたのだと思う。
でも、こんな僕しかできないこともあると思う。
「だけど、七罪を巻き込んだことはダメだったかもって、思ってる。」
七罪は僕のような
だから、七罪が手を汚さないように立ち回るべきじゃなかったのかって思う。多少効率が悪くなっても、七罪が傷つかないようにするべきじゃなかったかって。
「ふざけたことを考えてるんじゃないわよ。」
七罪は鍋の準備を終わらせて放置できる状態にする。そしてくるりと僕の方を向いて、怒った顔を見せる。
「確かに私は人殺しなんて……したくないわよ。初めてこの手で命を奪ったとき……胃がひっくり返るくらい吐きまくった。久しぶりに生き死にの無い生活が続いて……ほっとしている。誰も殺さずに平和に過ごせるなら……それ以上はない。当たり前じゃない。」
七罪は僕の胸倉を掴んで本音を綴る。それは僕とは違って、他人のために苦しむことのできる苦悩だ。人間の苦悩だ。
「でも、そんなに上手くいかない。誰かがやらないといけない。誰かが手を汚さないと……平和は訪れない。DEMも崇宮澪も殺さないと、
「それをお前がやらなくても良いんだぞ。殺しが嫌なら僕に任せても良い。……僕は、何も感じない。だから……。」
七罪は真面目で責任感のある人間だ。やらなければいけないことを理解して、嫌々ながらもできてしまう人間だ。
そんな性分だから苦しむことになる。
そんなことをしなくていいと思う。辛いなら辛くない誰かが肩代わりすればいいと思う。
むしろ僕は喜んでやる。七罪の心が軽くなるなら。
「だから、見ない振りしていろって言うの?あんたに罪を押し付けて、目も耳も塞いでろって……そう言うの?」
「それで……いいじゃないか。誰にも向き不向きがある。適材適所で分業すればいい。」
七罪は七罪にしかできないことがある。だから、七罪に向いていないことは僕がすればいい。これで苦しみの総量は少なくなる。
「そんなものは適材適所とは言わない。ただ、責任から逃げただけ。人殺しになりたくないから、誰かに代わりをさせるなんて。それこそ
七罪は僕の考えを呑む気は無い。それを残念に思いながらも、嬉しく思っている自分がいる。
殺すことに少しでも抵抗があるわけじゃない。七罪が僕と違っていい子であると確認できたから。
「流された部分はある。最初は成り行きだった。でも、私が選んだのよ。あんたと一緒に戦うことも。人の……命を奪うことも。全部、私が選んでやったことなのよ。これは私の罪。誰にも……愛にも渡す気はない。これからも……絶対に。」
七罪は涙を流している。とても綺麗で高潔な涙だ。
好きになったのが、この子で本当に良かった。僕を止めてくれる子で良かった。
「これから、もっと辛くなるぞ。」
「分かっていたことよ。あんたが地獄に堕ちるっていうなら……私は一緒に堕ちるわ。大事な人の人生を踏み台にして、幸せになんて……なりたくない。」
「悪かったよ、七罪。」
七罪の覚悟は決まっている。これ以上の言葉は侮辱でしかない。
僕は七罪の気持ちを尊重しよう。
「悪かったと思っているなら、言う事一つ聞きなさい。」
「内容次第だけど、ある程度は叶えたいと思っているよ。」
七罪は泣き腫らした目をこすって要求する。僕も謝意は有るから、償いはしたい。
でも、付き合えとか言われても、気持ちが固まっていないからできない。中途半端な気持ちで七罪の想いに答えたくはない。
「今日の夜、あんたが私の抱き枕になりなさい。それが罰よ。」
「……?多分お前の部屋のぬいぐるみより抱き心地悪いぞ。」
七罪はベッドの周辺を少女趣味のぬいぐるみで固めている。中には抱き枕代わりになるようなものも沢山ある。そっちの方が抱き心地はいいと思う。
「いいから、言うことを聞きなさい。罰を受ける側が文句なんて言わないの。」
七罪は楽しそうにそう言っていた。別に拒否する理由はないから、僕は受け入れた。
その夜、僕は七罪に抱き着かれたまま一夜を過ごした。ずっと、七罪の柔らかな感触がパジャマ越しに伝わってきた。
作者は定期的に主人公の罪悪感を煽らないといけない病気です。なので、こういう話がちょこちょこ入ります。お許しください。
さて今回の裏話に入りましょう。流石に今回の内容は愛君の精神面についてです。彼は初めから精神に問題のある人間でした。それが、アメリカでの辛い経験を経て一層歪みました。今回は深く突っ込むことはしませんが、「大事でない人を殺すことを一切躊躇しない」「必要だと判断したら何でもする」という二点を理解して頂ければ十分です。
現在は平和志向なラタトスクにいるから、抑えられています。しかし、彼がラタトスクから離れるようなことがあれば、凄惨なことが起こるでしょうね。
オリジナルの天使を登場させても良い?
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良い
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駄目
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作者の好きなように
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タグを付けるのなら