狂三編も終盤です。いきなりピンチでスタートします。頑張って切り抜けて貰いましょう。
今回は愛君と七罪ちゃんの視点が交互に切り替わります。
今僕はフラクシナスの中から空を見ている。黒く染まった空を。夜になったわけでも日食が起こったわけでもない。
まるで蝗害のように、狂三の軍勢が空を覆いつくしているのだ。
どうやって存在を知って、場所を特定したのか分からないが、フラクシナスを本気で堕としに来ている。
数える気が失せる程の狂三の分身体。何百体、或いは何千体の狂三が襲い掛かってくる。
あいつの識別名らしく悪夢のような光景だ。
「分身体がこんなにいるとはね……。」
琴里は目の前の光景に戦慄している。僕も同意見だ。完全に狂三を舐めていた。
琴里と違って分身体が大量にいることは知っていたけど、この数をこのタイミングで使うとは思わなかった。
「しかも、来禅高校でも狂三は結界を張っているなんて。これは不味い状況ね。」
一番の問題はフラクシナスと来禅高校が同時に襲撃されていることだ。狂三はフラクシナスに夥しい戦力を送っておきながら、来禅高校でも暴れている。
むしろ、原作のことを考えたら、来禅高校の方が本命だと思う。現在、ラタトスクが管理している精霊の霊力は、ほとんど士道が保有しているのだから。
今、来禅高校にいるメンバーでは狂三に勝てない。負けたら士道は食べられてしまう。そうなればチェックメイトだ。
「どうすれば良いの。」
琴里が歯噛みしている。ラタトスクの中で一対多の戦闘ができるのは琴里だけだ。
十香や四糸乃も完全に霊力を取り戻したら広域殲滅戦ができる。けど、今すぐに霊力を全部引き出すようにはなれない。
おまけに四糸乃は医務室で眠っている最中だ。とても戦闘に出せる状態ではない。
つまり、狂三たちと戦える戦力は琴里一人しかいない。そして、当然琴里はどちらか一つの戦場でしか戦えない。
一体どうすればいい。
「何を迷っているの。士道君の所に行きなさい、琴里。」
僕もラタトスクの機関員たちも振り返る。
そこには凛とした佇まいの七罪がいた。大人モードで霊装をまとっている。
「士道君こそ替えが利かない存在よ。狂三に士道君を食べられたら全てお終い。ラタトスクは精霊を救う手段を失うわ。」
七罪は
しかし、残酷な選択でもある。それはここにいるメンバーを見捨てるに等しい。
「でも、あの狂三たちを放置して行くなんて……」
「あいつらは私がどうにかして見せるわ。フラクシナスのサポートがあったら時間稼ぎできる。最悪、フラクシナスが堕とされてもこの部屋のメンバーくらいは守ってあげるわ。」
七罪は周囲をぐるりと見渡す。ここにいるのは僕、神無月さん、川越さん、幹本さん、中津川さん、箕輪さん、椎崎さんの七名。
追い詰められたこの状況で、これだけの人数を守ると言っている。相当なことだ。
「だから、行きなさい。ここは私に任せて。」
「……分かったわ。
琴里も霊装を顕現させる。琴里の身体から霊力が炎となって溢れ出す。トレードマークのツインテールが解かれ、炎に包まれる。
炎の中から現れた琴里は白い和装をその身にまとい、天女の羽衣のように炎の帯が舞っている。頭には鬼のような角が生えており、黒いリボンはそこに結ばれた。
「総員戦闘準備に取り掛かりなさい。私はすぐに来禅高校へ向かうわ。フラクシナスの前に私と七罪を転送。」
『了解』
琴里の指示で全員が動く。それに合わせて僕も準備に取り掛かる。
これが間違いなく日本に戻って来てから、一番の戦いになる。
「さあ、私たちの
♦♦♦
私と琴里はフラクシナスの外に転送されたわ。目の前に見えるのは狂三の大群。
こんなことになるなら、昨日少しでも数を減らしておくべきだったわね。
「正直、あんたたちは逃げると思っていたわ。」
隣に立つ琴里が急に話を始めるわ。最期の会話みたいで辛気臭いわね。
「……考えなかったわけじゃないわ。私たちは別に、ラタトスクが潰れてもなんとかなるもの」
私たちは、ラタトスクに付いていた方が都合が良いからそうしているだけ。ラタトスクに頼らなくても、生活くらいどうにでもなるわ。
実際、愛に会う前から人間社会で遊んでいたし。
「でも、四糸乃にはラタトスクが必要なのよ。」
私と愛はどうにでもなるわ。それだけの力と経験は持っている。でも、四糸乃はそういかないのよ。
あの子には安心できる後ろ盾が必要になる。そして、ラタトスク以外にそんな奇特な組織は存在しない。
だからこそ、ある程度の勝算がある内はラタトスクを守っておきたいのよ。多少の危険を覚悟してでも。
「だったら、四糸乃には優しくしておかないといけないわね。」
琴里は冗談めかしてそう言う。ラタトスクは元々精霊をかなり厚遇しているわ。四糸乃も十分に良い生活をしていることは知っている。
「その通りよ。しっかりもてなしなさい。」
でも、まだ足りないわね。四糸乃のようないい子はもっと幸せになるべきなのよ。
「じゃあ、行くわ。死ぬんじゃないわよ。」
「私は誰かさんと違って自分の命が大事だから。安心しなさい。」
私は自己犠牲なんて絶対ごめんよ。全部、自分の命があってこそだもの。
「あなたの相棒のことかしら?」
「あなたの兄のことよ。」
皮肉を言った琴里は私の言葉を聞いて、トップスピードで飛び出した。狂三たちは来禅高校の方角から来ているから、当然正面衝突することになるわね。
「
その前に琴里は自らの天使を顕現させる。灼熱の戦斧を横薙ぎに振るうと、辺り一帯を焼き尽くす灼熱の津波が巻き起こる。狂三の分身体は成す術もなく、消し炭にされた。
炎によってできた道を通って琴里は狂三の包囲網を抜ける。狂三たちは琴里を追いかけない。琴里は特に苦労することもなく、来禅高校へ向かったようね。
「随分とあっさり通してくれたわね。」
狂三に向かって問いかける。敵にお喋りを持ちかけるなんてどうかしているけど、どうしても気になったのよ。
「きひひ、わたくしのすべきことは決まっていますもの。あの精霊さんは『わたくし』にお任せします。欲張って本来の役割を果たせないようでは『わたくし』に申しわけが立ちませんもの。」
狂三の考えははっきりしないけど、今ここにいる狂三の分身体は、琴里を標的としていないみたいね。
まあそんなことはどうでも良いわ。狂三の好きなようにさせるわけには行かない。狂三たちは私が撃退する。
私は自分が戦闘に向いていないことを自覚している。愛の記憶している限りの情報からも、私は精霊の中で下から数えて一、二を争うほどに弱いらしいわ。
そして、今まで何人もの精霊を見てきた経験から納得するしかないわね。私は間違いなく精霊の中で弱い。
純粋な戦闘能力だけが精霊の価値じゃないことは分かっているわ。そもそも、天使の能力が戦闘に特化している八舞姉妹や十香、四糸乃と比較しても仕方がない。
でも、それで腐っていられない。これから強い敵は山ほど出てくるもの。
必死に考えた。どうやったら強くなれるか。
だから、思いついた方法が
所詮は贋物。本物には遠く及ばない。どれだけ上手く使えるようになった所で、間違いなく本物を相手にしたら負ける。
それでも、何もしない理由にはならない。未来を掴むって決めたから。
そのためだったら、できることはなんだってやるわよ。
「
顕現させるのは耶倶矢の天使。片翼の羽と身の丈を越える巨大な槍が現れる。
風の力が身体を羽のように軽くする。これで狂三たちを討つ。
「はぁーっ」
槍を構えて風の勢いに乗って狂三たちに向けて突撃する。狂三たちは避ける間もなく、ミキサーに入った食材のような有様になった。
最初はこの速度に振り回されたけど、今は何とか使えている。
狂三たちは反撃しようとするけど、全く反応が追い付いていない。
本物の八舞姉妹は数時間で地球を一周できるほどの速さを誇る。贋物を使っている私ですら、新幹線や飛行機が比較にならない速度が出せる。
そして思った通り、私は狂三と相性が良い。今のところノーダメージで戦闘を続行できているもの。
実線なんて久しぶりだったから心配だったけど、どうにかなっている。相手が弱過ぎるという部分が大きいけれど。
愛の話を聞く限り、狂三の戦闘能力は分身体に大きく依存しているわ。そして、分身体の基本戦術は圧倒的な数の暴力で押し潰すこと。
単純だけど、それ故に対策が取りにくい。戦争だって基本は数が多い方勝つと歴史が証明しているもの。
だからこそ、狂三は圧倒的な殲滅力を持つ精霊に弱い。一人で大量の分身体を屠ることができる、琴里のような精霊を恐れている。
色々と策を練って誤魔化しているようだけど、私から見たら面倒な相手を避けているようにしか思えない。
本体はもうちょっとやるでしょうけど、分身体なら贋物でも十分に戦える。
これならフラクシナスを、四糸乃と愛を守り切れる。
狂三たちは間隔を大きく空けて、一網打尽にされないようにする。
一番嫌な状況ね。これだと分身体を倒す効率が悪くなる。
このままの展開が続いたら、勝負の分かれ目は私の霊力と狂三の分身体、どっちが先に尽きるか。
今までの戦闘から考えて、私の霊力が無くなるまでに半分倒せたら良い方。ここで効率を下げられると、本当にどうしようもなくなる。
そんな時に狂三たちが急に爆発した。私は攻撃を仕掛けていない。完全に意識の外の出来事。
爆発した方向を見ると、小さな葉のようなシルエットが見える。フラクシナスの独立ユニット、
「愛……」
♦♦♦
外で七罪が戦闘をしている間、フラクシナスはてんやわんやだった。
メインで指示を出すのは神無月さん。冷静に狂三の攻撃を見極めて
おかげで、今のところ船はほとんど損傷していない。
しかも、神無月さんはこの船の
加えて
僕は
元々、
「あー、はいはい。そうすれば良いのね。」
独り言を呟きながら、少しずつイメージ通りに動かせるように調整する。神無月さんほど上手くなれる気はしないけど、十分実践投入できるレベルになりつつある。
イメージ的に普段より大雑把な操作で問題ないな。
「ミストルティンの用意お願いします。」
それだけ言って、狂三に対する
細かい指示は神無月さんにお任せだ。あの人なら上手くやってくれるでしょう。
ミストルティンの射線に集まるように、
大事なのは攻撃の正確さ。狂三たちが逃げられないように、攻撃の間や角度を調整する。相手が嫌がるように的確に。
そして大量の狂三が一か所に集まる。密度が高すぎて身動きが取れなくなっている。
「ミストルティン発射。」
神無月さんの指示で魔力砲が放たれる。一直線に伸びる光は狂三たちを焼き払って消滅させる。
「やっと感覚が戻って来たかな。次はもうちょっと色々やってみようか。」
先程と同じように、狂三たちを一か所に集める
完全に無防備だった狂三たちはあっさりと攻撃を受ける。単純に攻撃を仕掛けるよりも一気に撃墜できた。ちょっとした小細工だ。
次は操作している
近くにばかり気が行っているから、遠くからの攻撃にまで注意が回らない。既に
『
狂三たちに向かって巨大な斬撃が放たれる。瞬きする間に斬撃は仮初の命を刈り取った。
斬撃を放ったのは当然七罪だ。狂三たちの隙を逃さずに攻撃してくれた。
やっぱりこういうのが性に合っている。僕が得意なのは攻撃ではなくて、支援だ。
味方が動きやすいようにしたり、敵を妨害するのが楽しい。
「さて、狂三たちを追い詰めるぞ。」
狂三たちの数は目に見えて減ってきている。こっちの損傷は軽微。このまま狂三を殲滅してやろう。
七罪が大立ち回りしていますね。彼女の強さは十香たちの限定霊装より強く、完全霊装よりは弱いといった所でしょうか。本人も言っている通り、相性が良いから狂三の分身体相手には有利になっています。ガチの戦闘職と戦ったら瞬殺はされないけど、確実に負けます。
アンケートも琴里編が始まるまでは置いておくのでゆっくり答えてください。なお、狂三編は番外編をやりません。
さて裏話です。七罪ちゃんはアメリカで八舞姉妹に会って、暫く一緒に過ごしました。その間、勝負の手伝いをさせられ、代わりに
オリジナルの天使を登場させても良い?
-
良い
-
駄目
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作者の好きなように
-
タグを付けるのなら