時間が巻き戻って来禅高校で何が有ったか語られます。基本は原作通りだけどそこそこ違います。
初めての士道視点です。それではどうぞ。
教室に入って、狂三の姿がないことを確認した瞬間から、嫌な予感はしていた。
昨日までは毎日学校に来て、授業を受けていた。なのに、今日だけ急に連絡もなく休んだみたいだ。休み時間になったら琴里に連絡して、備えて貰うつもりだった。
行動が一歩遅れた。狂三の行動は予想以上に早かった。
始業のチャイムが鳴ると同時に、学校は暗くなり、虚脱感と倦怠感が襲ってきた。空気が粘ついているように身体が重くなり、手足に絡みつく。
動けない――ほどではないけど、かなり動きにくい。水中にいるみたいだ。
周囲を見渡すとクラスメイトと先生が全員倒れこんでいる。皆意識を失っているようだ。
「シドー……」
辛うじて十香は気絶していなかった。でも身体にかかる重力が数倍になったように動きにくそうにしている。
「大丈夫か、十香。」
「うむ……。だが、どうも身体が重い……どうしたのだ、これは……」
駆け寄ってみると、俺の方に倒れこむ。一体どうなっているんだ。
携帯が鳴ったから手に取る。相手を確認すると琴里からだ。授業中だけど、緊急事態だからすぐに出る。
『士道、無事⁉急な霊波が観測されたけど何が有ったの?』
鬼気迫る様子で琴里は俺に聞いてくる。琴里もこの事態を把握しているみたいだ。
「俺は何とか無事だ。でも、先生もクラスの奴らも倒れこんで動かない。十香は意識があるけど辛そうだ。一体何が起こっているんだ?」
「……観測機の反応から考えて狂三の仕業ね。広域結界の類を学校全体に張っているみたい。士道の話から考えて、範囲内の人間を衰弱させる類のものでしょう。」
琴里は推測を話す。琴里自身動揺しているみたいだ。狂三が急にこんなことをするなんて思いもしなかった。
「どうしてそんなことを?」
「狙いはほぼ間違いなく士道よ。注意しなさい。」
琴里の言葉を聞いて生唾を飲む。今までの精霊とは違うと思っていたけど、こんなことをするなんて。
突如として、ピンポンパンポーンと場違いな電子音が流れる。校内放送が流れるときのメロディだ。
『あーあー、聞こえていますか、士道さん?屋上までいらしてください。逃げたら、校内の皆様の命は……保障しかねますわ。』
再び電子音が流れて、校内放送は止まった。流れた校内放送は俺に向けたメッセージだ。学校の皆を人質にとって脅迫している。
「琴里、狂三が屋上に来いって。」
『聞いていたわ。厄介なことになったわね。士道は屋上に向かって、少しでも時間を稼いで頂戴。その間に策を考えるわ。』
「……分かった。」
通話の切れたスマホを仕舞って、代わりにインカムを耳に付ける。そして、立ち上がって教室の入り口に向かう。
「シドー……?」
「行ってくる。ここで休んでてくれ。」
十香は重い身体を引きずって、俺の方に寄ろうとする。軽く声をかけてもう一度教室を出ようとする。
「シドー、行っては駄目。」
それを止めるのは折紙だ。足首を掴んで止めようとする。しかし、力が入っていない。
「心配してくれてありがとうな。でも、行かなくちゃ。」
なるべく優しく手を外し、声をかける。折紙は納得していないが、身体を思うように動かせないようだ。
悪いけど、この間に行かせて貰う。心配する二人を置いて教室を出た。
屋上への階段を上ると、だんだん身体が重くなる。屋上へ繋がる扉の前に立ったとき、息が切れていた。
屋上の扉を見ると、ドアノブの下の部分が銃で撃たれたように壊されている。狂三がやったのだろう。
「琴里、今から屋上に出るぞ。何か思いついたか?」
狂三と顔を合わせる前に琴里に確認しよう。そんなに時間はなかったから期待はできない。でも琴里なら……。
『ああ、士道君。指令は単身でそっちに向かいました。』
「えっ、どういうことですか?」
薄い希望を頼りに通信を入れた。しかし、インカムに反応したのは琴里ではなく、神無月さんだ。しかも、琴里はこっちに来ていると言う。
フラクシナスで来るなら分かるけど、単身でこっちに向かっているってどういうことだ?
まさか、琴里も
「話は後です。士道君は指令が向かうまで、時間を稼いでください。こっちも少々厄介なことになっているので、サポートは厳しいです。」
「神無月さん何があったんですか?」
「頼みましたよ、士道君。」
通信は一方的に切られてしまった。本当に何が起こっているんだ。
少しの間立ち尽くしていたけど、ここにいても仕方がない。意を決して扉を開けた。
背の高いフェンスに囲まれた殺風景な空間。その中心で。
「――ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん。」
狂三がフリルに飾られた霊装の裾を摘まみ上げてお辞儀をした。
「狂三……おまえ、一体なにをしたんだ!?何なんだ、この結界は……!」
「うふふ、素敵でしょう?これは時喰みの城。わたくしの影を踏んでいる方の『時間』を吸い上げる結界ですわ。」
狂三は楽しくて仕方がないという様子で笑みを濃くする。
「時間を……吸い上げる……?な……。」
前髪で隠されていた左目が露わになっていることに気付いた。右目と違う金色の瞳には文字盤と針があった。変わっているとかそういう次元ではない、明らかに異様なものだ。
「ふふ、これはわたくしの『時間』ですの。命――寿命と言い換えても構いませんわ。わたくしの天使は、それはそれは素晴らしい力を持っているのですけれど……一度力を使うたびに膨大なわたくしの『時間』を喰らっていきますの。だから――時折こうして、外から補充することにしておりますのよ。」
狂三は楽しそうに説明している。俺に今起こっていることを理解させるために。
「……そうか、狂三の能力が時間に関係しているっていうのは本当だったのか。」
「……愛さんですか。あの方もお喋りですね。まあいいですわ。」
狂三はばっと手を上げる。どこからともなく手が現れて体中あちこちを掴まれる。
「な――」
「本当はもう少し士道さんとお話したかったのですけど、時間に限りが有るので、もう頂いてしまいますわ。わたくしは士道さんを食べるため、この街に来ましたの。士道さん、わたくしと一つになりましょう。」
狂三は俺の頬に手を添えて、優しくなでる。うっとりとした表情は、底冷えするような恐怖を掻き立てる。
「あなたを頂いたら、次は愛さんと七罪さん。それだけ食べることができたらきっと……。」
「止めろ、狂三。お願いだ。俺はまだお前の事を……」
身体が影に呑まれてく。足から徐々に感触が消えていき、存在そのものが薄れていくような虚無感が襲う。
もう駄目なのかと思った――その時。目の前の狂三が胴体を真っ二つにされて倒れこんだ。
後ろから急襲されたのだ。高速で飛んできた真那の斬撃によって。
「人の兄様に何をしてくれていますか!」
俺を無理やり引きずり出して、捕まえていた大量の腕を一気に斬り落とす。拘束を外れた俺は影から引き抜かれた。
「真那!」
「はい。――また、危ねーところでしたね。」
真那が俺に手をかけながら答える。真那が来なかったら本当に危なかった。
「――く、ひひ、ひひ、いつもながら、さすがですわね。わたくしをこうも簡単に殺すだなんて。」
真っ二つになった狂三に代わって、どこからともなく新たな狂三が現れる。
「ちっ、分身体でいやがりましたか。」
真那は狂三の方を見ながら毒づく。……本体を殺すつもりで斬っていたのか。
「あらあら、愛さんは本当にお喋りですね。乙女の秘密をこんなにぺらぺらと。」
「そうでいやがりますね。あいつは人の秘密をぺらぺら喋ってしまうような奴ですから。……
狂三のおどけた態度を見て真那も同調する。真那は愛ととにかく仲が悪い。狂三の前で悪口を言う位には。
「……真那さん、あなたまさか?」
俺から見たら不自然な点はなかった。でも狂三は真那の様子を見て、何かに気付いたようだ。狂った笑いを止め、真剣な表情で真那を見ている。
「……別に真那はテメーの目的が何であろうと、大して興味はねーです。テメーが死んで償わなきゃいけないことに、変わりねーですから。」
真那はそう言っている。以前と同じで言葉には容赦がない。
ただ少し、狂三のことを憐れんでいるように見えたのは俺の気のせいだろうか?
「本当にあの方は……。随分と舐めたことをしてくれたようですね!」
どうしてかは分からないけど、狂三は怒っている。苛立ちとかそういうレベルの話ではなく、龍の逆鱗に触れたかのような激しい怒りだ。
「本気で戦う気になりやがりましたか?本体でねーと真那は倒せねーですよ。」
「そうですわね。このくそったれな感情は真那さんにぶつけるとしましょう。おいでなさい、
狂三は時喰みの城を解除して、怒りのままに天使を顕現させる。精霊の力の象徴であり、形を成した奇跡。
狂三のそれは身の丈を超える、機械仕掛けの大きな時計。十二の文字盤が並んだアンティーク時計のような代物だ。
「
七の文字盤から狂三の銃に力が吸い込まれていく。狂三はその弾を真那に向けて放った。
「あめ-です。」
真那はその弾を過剰なほどに大きく避ける。絶対当たらないぞと言わんばかりに。真那は狂三の弾を相当警戒しているみたいだ。
「厄介ですわね。ではこうしましょう。
再び文字盤から狂三の銃に力が流れ込む。そして、その銃を今度は自分のこめかみに向けて撃つ。
「何を……」
俺は狂三が自殺をしたんじゃないかと驚いていたが、狂三の姿がすぐに掻き消えた。そして、急に真那の方から激しい打撃音が聞こえる。
「それが加速する力ですか。確かに厄介でいやがりますね。」
「あらあら、本当にわたくしの能力を知っておられるようで。」
音のする方を見ると、狂三が真那を蹴り飛ばしていた。真那は防御しているけど、ノーダメージではなさそうだ。
一体何が起きているんだ。加速って真那は言っているけど。もしかして、狂三は倍の速度で動くことができるのか?
「全部知っていやがりますよ。ご自慢の弾に当たらなければ、ほとんど能力が使えないことも。」
「あら、それはそれは。じゃあこうしましょう。行きなさい、わたくしたち。」
狂三は芝居がかった様子で手を空に掲げる。すると地面のあちこちから狂三が現れる。何十体、或いは何百体もの狂三が学校の屋上を埋め尽くす。
「雑魚をいくら集めたところで意味はねーですよ。全部殺し尽くせばいいだけですから。」
「きひ、ひひ、やれるものならやってごらんなさい。」
真那の殺意と狂三の狂気が一層強くなる。二人の争いは激しさを増していく。
俺は何もできないのか。ただここで突っ立っていることしかできないのか。
何か考えろ。これ以上狂三にも真那にも誰も殺させない方法を。狂三を救う方法を。
今までの記憶が頭の中を駆け巡る。狂三との出会い、デート、今日の言葉。全てをヒントだと思え。
ふと、頭の中をかすめた疑問を無視できなかった。じっくり考えてみて、これしかないと思った。
「狂三!お前の目的は何だ?」
戦闘中の狂三に届くように大声で叫ぶ。
「わたくしの話を聞いていませんの?士道さんを食べること……」
分身体の一人が足を止めて俺の方を見る。俺の言葉に返事をするために寄こしたんだろう。
本体も聞いている。これで十分だ。
「そうじゃない。その先だ。お前は俺を食べて何をしようとしているんだ?」
「……。」
狂三は黙っている。その表情は厳しい。
「狂三、俺はお前が悪い人間を演じているように見える。お前が酷いことをするのも、何か理由が有るんじゃないか?」
これは半ば妄想に近い推測だ。狂三の興味を引くため、こんな言葉しか出てこなかった。
「……それを聞いてどういたしますの?」
狂三は反応を示した。糸口を掴めた。後は賭けだ。
「俺がお前の悩みを解決してやる。これ以上お前が誰も傷つけなくて済むように、俺が協力する。」
「本気で言っていますの?」
狂三の低い声が響く。聞いた者を竦ませる冷淡な声だ。
でも、さっきよりマシだ。狂三の視界に俺が映っているのだから。
「ああ、本気だ。俺がお前を救ってやる。お前の悩みも苦しみも俺に全部預けろ。一人で抱え込むな。」
「そんな事今更仰られても……。」
狂三は戸惑っている。俺の考えは的外れじゃなかったみたいだ。
「お前は救われたいんじゃないのか?ASTに怯えずに、平和に暮らすことを望んでいないのか?」
「士道さん……。」
狂三は俺を迷いながら見ている。後一押しだ。
「手を取ってくれ。今はそれだけでいい。」
狂三は俺の手を見ながら迷っている。頼む狂三。
しかし、その手が取られることは無かった。何故なら、俺と話していた狂三は背後から撃ち抜かれたから。
一瞬の静寂が訪れる。そして、戦っていた狂三の本体がこちらを向く。
「一度ならず二度までも。しかも、今度はわたくしの悲願を解決するだなんて……。士道さんも真那さんも、本当にわたくしを馬鹿にするがお好きなようで。」
今までと雰囲気が違う。狂気的に振る舞い、人をいたぶる今までの態度じゃない。
静かだけど、圧倒的な存在感が有る。
「では、これでも同じことが言えますか?」
狂三の影から現れたのは合計十人ほどの狂三たち。そして、狂三たちは十香と折紙を捕まえている。
「十香、折紙。」
「姉さま」
二人には銃が向けら。引き金を引いたら蜂の巣にされてしまう。
真那と一緒に呼びかける。
「シドー。」
「士道。」
二人ともボロボロだけど意識がある。死んではいないようだ。良かった。
「お二人とも動かないでくださいまし。動いたらお二人の身体は風通しのいい穴が開くことになりますわよ。」
「な――」
狂三は本気だ。本気で十香と折紙を殺そうとしている。
そう確信させるだけの
「士道さん、先ほどの言葉を撤回してくださいまし。急を要するので我慢していましたが、さっきの発言には反吐がでますわね。」
「狂三……。」
「撤回していただけないのなら、引き金を引きますわ。五秒差し上げますので、よく考えて決断してくださいまし。」
狂三は十香の方に歩み寄って、十香のこめかみに銃を押し当てる。
「五。」
狂三はカウントダウンを始めた。狂三は十香に銃を向けたまま、俺の方をじっと見ている。
「四。」
どうすればいい。十香と折紙を見殺しになんてできない。
かといって、狂三を見捨てることも。どうすれば。
「三。」
何かないのか。この状況を打開するような手段は。
何でもいい。俺に差し出せるものなら何でも差し出す。
「二。」
狂三の表情に落胆が混じり始める。俺に何かを期待して、見込み違いだったと断じる。そんな表情。
「一」
「俺は……」
諦めを絞り出すように言葉にする。もう何も思いつかない。俺は狂三を諦めるしか。
「諦めちゃ駄目よ、士道。」
どこからともなく声が響く。その声と同時に狂三たちの立っていた場所が崩落した。
十香も折紙も一緒に落ちていく。手を伸ばすが全く届かない。
落ちた穴に駆け寄ると、炎を纏った精霊が十香と折紙を抱いていた。
「こと……り?」
「何とか間に合ったわね。」
俺にはその精霊が琴里にしか見えなかった。
士道もうちょっと活躍しないかなって思い付きで書きました。案外良い感じにまとまったのではないでしょうか。彼は甘い理想を抱いたまま大人になるのです。是非、物語をかき乱して欲しいですね。
さて、今回の裏話を。以前七罪を除いて影響力の強い二大ヒロインが居ると言いました。もう一人は狂三です。
設定的に活躍する役割を持っている七罪、折紙と違って狂三は何故か重要な役割を獲得していました。設定の根の深い部分に絡んでいて、狂三なしでは物語が成立しません。それくらい重要なキャラです。
次の琴里編から折紙編までの全部の章で重要な役割を持っています。その次の名前の言えない章も、更にその次も登場は確定しています。狂三のキャラと能力が便利すぎるのが悪い。
オリジナルの天使を登場させても良い?
-
良い
-
駄目
-
作者の好きなように
-
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