ヒロインは七罪   作:羽国

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ついに琴里編がスタートしました。投稿を始めた時点で、最終章の次に書きたかった章です。凄い嬉しい。

狂三編で番外編が無い理由の一つとして、琴里編を早く書きたかったというものが有ります。今まで急ぎ目に話を書いていたのも、この章を書くためです。

読者の皆様が気に入るものになるかは分かりませんが、精一杯書きます。それではどうぞ。


琴里編
叶えたい恋


 狂三との決戦から一夜が明けた。狂三が起こした事件で死者は出なかったものの、被害は決して小さくない。

 世界樹の葉(ユグド・フォリウム)を遠隔操作していただけの僕と、一方的に立ち回った七罪はほぼ無傷だった。でも、他のメンバーは大体数日入院するほどの怪我を負っている。

 士道もまだ起きていない。十香と令音さんが看病しているようだ。

 起きてすぐに僕と七罪はフラクシナスに呼び出された。恐らく今回の事件で一番大きな問題を抱えてしまったであろう人物に。

「来たか、愛、七罪。」

 集合場所に向かうと案内役の令音さんが待っていた。

 今から行く部屋はセキュリティレベルが段違いだから、僕の権限では入ることができない。そして、呼び出した当人は部屋から出られない。

 だから、わざわざ別の部屋で待ち合わせをする必要があった。

 令音さんと一緒に部屋を移動して、厳重な扉の前に立つ。令音さんがパネルを操作してパスワードと生体認証の二重ロックを解除する。

 そして、促されるままに僕と七罪は部屋に入った。

 そこにあるのは異質な空間。手前側には大量の計測機器が置いてあり、常にモニタリングしている。

 そして、奥にはマンションの一室のような空間がある。人一人が生活しても不自由しないような場所。そこにはこの船の代表である五河琴里その人が座ってお茶を飲んでいた。

 令音さんがこちらとあちらを遮る扉を開く。特に躊躇することもなく、僕と七罪は琴里の居る檻の中に入った。

「来たわね、愛、七罪。」

「上司に呼ばれたから来てみましたよっと。」

 冗談めかして言う。普段から大概な扱いをしているけど、一応上司だ。命令を聞くのは本来普通のことだと思う。

「普段からそれくらい素直だと嬉しいのだけどね。」

「あはははは。」

 琴里の皮肉に何も返せない。嫌な部下の自覚はあるから、反論はない。

「パッションフラワーのハーブティーよ。」

 琴里はカップを用意して僕と七罪の分の紅茶を注ぐ。紅茶には全く詳しくないけど、良いものであるということは分かる。

「ふ~ん、随分と余裕がないじゃない。」

 七罪が指摘した。僕が気づかない何かに気づいたようだ。

 「ええ、そうね。気休めだけど、ないよりマシよ。」

 それを琴里が素直に認めた。七罪の指摘は合っていたようだ。

 よく分からないけど、二人で何か通じ合っている様子だ。後で七罪に聞いてみよう。

「七罪の言う通り余裕がないのよ。だから、単刀直入に聞かせて貰うわ。私の破壊衝動をどうにかできないかしら?」

 琴里は胸に手を当てて聞いている。琴里は真剣だ。

「あなたたちとの契約の範囲を逸脱していることは重々承知しているわ。それでも、これだけは答えてくれないかしら?私に差し出せるものなら何でも差し出すから。」

 琴里はつい昨日破壊衝動に呑まれて暴走した。大雑把な内容は聞いたけど、大体原作と変わらなかった。

 精霊を殺さずに保護する組織、ラタトスク。その司令官ともあろう人間が精霊の狂三どころか士道すら殺しかけた。

 琴里の焦りはもっともだ。なりふり構わず僕を頼っても仕方ない。

 琴里は精霊として活動する度、破壊衝動と戦わなくてはならない。その危険を再認識して僕に一縷の望みをかけているのだろう。

 僕が琴里に隠し事をしているのは周知の事実だ。琴里から見て何かヒントを持っていると思ったのだろう。

「どうなのよ、愛?」

 七罪がこちらを見ている。今回は琴里の味方のようだ。

 琴里に同情したのか、それとも単純に危険を排除したいのか。どっちにしろ、七罪が言うなら情報を出すのもやぶさかではない。

 七罪もデート・ア・ライブの知識を持っているけど、あくまで僕の伝聞だ。可能な限り伝えているけど伝えきれていない情報もある。

 琴里の破壊衝動をどうにかする手段は僕しか知らないのだ。

 確かに琴里の破壊衝動をどうにかする手段はある。しかし残念ながら、実行不可能だ。

「悪いけど、現状では本当にどうしようもない。対策手段が思いつかないでもないけど、必要なピースが足りないな。」

 琴里の破壊衝動を抑える方法として思いつくのは、誘宵美九の破軍歌姫(ガブリエル)、狂三の刻々帝(ザフキエル)辺りだろうか。

 ただ、こいつらは攻略難易度が高すぎる。琴里のために、危険を冒す気にはなれない。よって実行不可能だ。

「手段があるのね?」

「使えそうな天使が、いくつかある。」

「今はそれだけで十分よ。ありがとう。」

 僕は否定のつもりで言った。でも僕の言葉を聞いて琴里はむしろ希望を持っていた。琴里からしたら光明が見えただけで祝福に思えたのだろう。

 傲岸不遜な琴里にしては珍しく、頭を下げてお礼を言った。

「それで、琴里。あんたの破壊衝動が今すぐどうにかできないことは確実よ。寝ている士道を襲ってでも、キスした方が良いんじゃない?」

 七罪は話題を変えて琴里に問いかける。琴里の破壊衝動を抑える方法が封印しかない以上、七罪の意見は合理的に考えれば正しい。

「いいえ。それはしないわ。」

「流石に同意なしじゃ嫌?だったら、士道が起きてきてすぐにすればいいけど。」

 七罪は琴里の心情の予想を大きく外した発言をする。分かっているのか、いないのか。

「そうじゃないわ。デートして好感度を上げてからじゃないとキスしても意味が……。」

「それ本気で言ってる?」

 琴里の言葉を遮って、七罪が低い声で問いかける。

 いつも琴里に刺々しい態度をとる七罪だけど、今回は意味合いが違う。

 普段は背中を預けられない相手を警戒しているだけだ。でも、今は琴里の発言に明確な怒りを覚えている。

「どうせ琴里の好感度なんて封印できるレベルに達しているでしょう?いつ爆発するか分からない爆弾を解除する手立てがあるのに、どうしてすぐにやらないのかしら?」

 七罪は琴里を糾弾する。事態の危険性を理解しているから、七罪は怒っている。

 正当性の話をするなら、圧倒的に七罪の方に分がある。理由はどうあれ、琴里は個人的な我儘で危険を冒そうとしているのだから。

「あんたたちは本当に何でも知っているのね。」

「そんなもの、普段の琴里を見ていたら嫌でも分かるわ。私は鈍感な男どもじゃないから。」

 七罪の言葉は琴里のついでに士道と僕まで殴る。まあ、否定はできない。

 僕も原作知識がなかったら、琴里の想いに気付けなかったかもしれない。僕に恋愛感情を察する能力はないのだ。

「それで、納得のいく説明をして貰えるのでしょうね?返答次第では、寝ている士道と無理矢理キスさせるわよ。」

 七罪は真剣な表情をしている。だけど、無理矢理キスさせる絵面を想像すると、大変シュールだ。

「……士道は私のことを妹として大事にしてくれているの。捨てられた士道を受け入れた家族として。」

「まあ、そうだろうな。」

 僕は琴里の言葉を肯定する。

 士道は家族愛が強いキャラクターとして描写されていた。それは幼少期に五河家へ引き取られた、士道の経歴が要因となっている。

 孤独だった士道は家族をとても大事にしている。妹の琴里にも結構甘い部分がある。

「でも、私を女としては見ていないのよ。大事な妹と思っても、キスしたり恋人にしようとは思ってくれない。」

「女として……ね。」

 七罪が小さく呟く。琴里の言葉に何を思ったのかは分からない。でも先ほどの怒りとは違う感情に思える。

「これから先、士道は何人もの精霊を攻略するでしょう。そうしたら、私の気持ちなんて埋もれてしまって、叶う機会は二度と訪れないしれない。だから、士道が私をキスしないといけなくなった、この機会に……意識させたいの。私を女として。」

 琴里の悲痛な独白は完全に密閉された空間の中で静かに響いた。琴里に同情しないでもない。

 その上でこの行動は身勝手な感情に過ぎない。仲間を危険に晒してまで叶えたい願いとは到底言えない。

「それはどうしてもやりたいの?指令としての立場を危うくしてでも。」

 七罪は試すように問いかける。琴里のやろうとしていることが、議長以外の円卓会議(ラウンズ)メンバーにばれたら、本当にそうなるかもしれない。それほどに琴里の行動は愚かなものだ。

「……浅はかな考えよね。笑って頂戴。」

 琴里は自嘲気味に卑下する。頭のいい琴里がその程度のことを理解できない筈ない。

 分かっていて、士道への想いを諦めきれずにいるのだ。

「……仕方ないわね。」

「えっ……。」

 七罪の言葉を聞いて、琴里が顔を上げる。僕も驚いた。自分の耳が信じられない。

「中学生の癖に頑張っている普段に免じて、今回だけは見逃してあげるわ。」

 七罪は偉そうな格好で宣言する。でも、偉そうにできるだけのことは言っている。

 どうやら琴里の恋を応援する気のようだ。普段あれだけ嫌っているのに、どういう風の吹き回しだろうか?

 七罪はこの後、起こることを知っている。それを知っているなら、普通は琴里を止める。

 それなのに、琴里を後押ししている。未来のことを忘れるほど、七罪が抜けているとは思えない。

 つまり、危険を押して応援しているのだ。普段の七罪からは考えられない大サービスだ。

「七罪、分かっているんだよな。」

 念のため確認を行う。これでとぼけた返事をするなら、即座に七罪を止めるつもりだ。

「ええ、分かっているわ。分かった上でそう言っているの。」

 やはり、僕の考えは間違っていなかった。今回、七罪はかなり琴里に肩入れしている。

「はぁ、士道さんには黙っておくよ。臨時収入くらい出して貰うぞ、琴里。」

 七罪がそう言うなら、僕も応援しよう。僕としては、どちらでもいいと思っていたし。

「ありがとう、二人とも。」

 珍しく、琴里はしおらしい様子を見せた。

 

♦♦♦

 

 琴里と話を終えた僕たちは家に戻った。どうしても七罪と二人きりで聞きたいことがあったから。

「なあ七罪、どうして琴里の話を呑んだんだ?姉さんの襲撃は別の手段で取って代えられる。防いでしまった方が楽だぞ。」

 琴里がオーシャンパークでデートをするその日。原作では、姉さんがやってくる。

 一般人のいる中で容赦なく《ホワイト・リコリス》を使って、周囲の被害も考えずに暴れまわる。かなり危険なイベントだ。

 なるべく原作通りにするなら、起こしておいた方が良い。でも、重要なのは姉さんがDEMの目に留まることだ。

 《ホワイト・リコリス》を使える魔術師(ウィザード)は世界中探しても、数えるほどしかいない。だから、ウェストコットは姉さんに興味を持つ。

 そこから姉さんの精霊化に繋がる。だから、重要なイベントだ。

 けれど、別に手段は何でもいい。

 姉さんの魔術師(ウィザード)としての資質さえ伝われば問題ない。代替手段なんていくらでもあるから、わざわざ起こさなくても別にいいと思っている。

 七罪に一体どういう意図があるのだろうか?

「どうしてって言われたら、琴里に同情したからでしょうね。」

 七罪はバツが悪そうに言った。自分でも危ない道を進もうとしていることが分かっているのだろう。

 同情とはどういうことだ?琴里に同情する要素を僕は見つけられない。

「同情?別に良いんだけど、七罪にしては感情的な判断だな。」

 七罪は感情豊かで思いやりのある人間だ。だけど、同時に感情を抑えて冷静な判断を下す人間でもある。

 僕としては、違和感がある。今まで見てきた七罪の人物像と微妙に合致しない。

「ちょっと前に、似たような状況を見たから。」

 七罪は目を閉じて、何かを思い出すように話す。

「似たような状況?」

「そうよ。『女として見られていない。』どこかであった話だと思わない?ねえ、愛?」

「……。」

 七罪は察しの悪い僕を答えに促す。そこまで言われてようやく何を言っているのか分かった。

 本当に人の気持ちを察するのが不得意だ。こんなにも身近な話題を思い出せないのだから。

 

――どうして、私の事を恋愛対象として見ていないのかしら?――

 

 思い出されるのは七罪の言葉。僕は七罪を異性として()()()()()()()

 大体二か月前のことだ。あれから、僕はなあなあな態度で七罪と一緒に暮らしている。

「少し前に似たようなことを思ったのよね。」

 七罪は口に笑みを浮かべている。その顔に焦りはない。その原因を僕は知っている。

()()()自分と似ていたから、協力してやろうかと思っただけ。」

 七罪は自らの癖っ毛を弄りながら、そう追加する。

「愛が反対だって言うなら、今すぐフラクシナスに戻って撤回するけど。愛は反対?」

 強い意志を持っているわけでなないようだ。僕が反対するなら、簡単に意見を翻すだろう。

「いや、良いよ。全部わかった上で大丈夫だと思ったなら。」

 僕もそこまで強く反対する気はない。微妙に反対寄りくらいだから、七罪のしたいようにしていいと思っている。

 僅かな沈黙が部屋を支配する。これ以上話題を広げることも、自分の部屋に戻ることも僕にはできない。

「ねえ、愛。琴里の恋はうまくいくと思う?」

 七罪が唐突に話題を変える。いや、本当に変えているのだろうか?

「……結構厳しいんじゃないかな。」

 僕は少し考えて、何も取り繕わない返事をした。

「それはどうして?一度義理の兄妹として、関係ができてしまっているから?」

 七罪は突っ込んだ質問をする。琴里の恋路に興味がある――そう思うほど鈍感にはなれない。

「兄妹として関係は本質的な問題じゃない。仮に恋敵が存在しなかったら、琴里にも十分チャンスはあったと思う。」

 士道の意識を改める必要はあるけど、分の悪い勝負ではない。琴里は十分に魅力的な女の子だ。推しに弱い士道なら、準備すれば落とすことは難しくない。

「問題は優柔不断な士道さんに、甲乙付けがたい択を与えてしまったことだよ。」

 士道は誰か一人を選び取ることができないタイプだ。それは士道の美点であると同時に問題点でもある。

「あー、言いたいことは分からないでもないわ。」

 七罪は僕の言葉に同調する。僕よりも周りが見えている七罪なら、その程度言うまでもなく分る筈だ。

 七罪は琴里の恋の行く末を知りたいわけじゃない。僕の考えを聞きたいのだと思う。

「琴里が本気で士道さんと結ばれたいと思うのなら、一歩進んだ関係になるべきだった。士道さんが十香さんと出会う前に。」

 優柔不断な士道でも、関係が進んでいればフラフラした態度は取らないと思う。チャンスは無数にあったのだから、早めに仕掛けていればよかったのだ。

 まあ、ラタトスクの司令官としての立場ではできなかっただろう。もしくは、単純に勇気が出なかったか。

 どっちにしろ、琴里はアプローチをしなかった。

「別の関係から恋人になることは、できると思っているのね?」

「……全然、できると思うよ。」

 同僚から恋仲、友情から恋仲への昇格はありふれた話だ。義兄妹から恋仲になるのは珍しい例だけど、ない話ではないと思う。

 勿論、相棒の関係からも簡単になれる。互いの同意さえあれば。

「……そう、それは良かったわ。あんたからその言葉を引き出せただけでも、琴里に味方して意味はあったわね。」

 七罪は満足げに言った。七罪にとって僕の言葉は随分価値が高いようだ。

「……私は別に返事を急いでいないから。」

 七罪は自室に戻って扉を閉めた。勢いよくベッドにダイブした音が聞こえた。

 ……どういう感情での行動だろうか。恐らく僕の予想は大きく間違えていない。

 そろそろ、返事をしなくてはいけないな。今日は六月二十四日。

 今月中に返事をしよう。七罪のご機嫌そうな声を聞きつつ、僕は覚悟を決めた。




最近、七罪は意識しなくても話の中心に来ることが分かりました。なので、章のヒロインにスポットライトを当てるよう、話の構成を考えました。琴里編では琴里の想いをしっかり書きたいと思っています。

さて裏話をしましょう。今回は愛君と七罪の現状の関係について。

四月の終わりに七罪が告白をして、愛君は二か月近く返事を保留しています。普通なら怒りそうなものですが、七罪は余り気にしていません。何故なら、愛君が七罪のことを意識していると実感しているから。

プロローグの時点で、信頼度が上限に近い関係ができていました。その関係に色が混ざり始めています。押せば押し切れそうだから、急いでいないのです。
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