ヒロインは七罪   作:羽国

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現在書いているのはここまでです。
次回の投稿が何時になるかは分かりませんが、可能な限り頑張りますのでお付き合いいただけると幸いです。


作戦開始

 今日は来たる出撃の日。《プリンセス》が現界したから、僕と七罪は呼び出された。

 《プリンセス》の出現場所は来禅高校。士道や姉さんが通っている学校だ。

 《プリンセス》は現界した後に校舎の中に入ってしまった。屋内では動きにくいASTは学校の付近で待機状態にある。

 士道は学校の中に入って直接交渉を試みる。僕と七罪は《プリンセス》が見える位置で見守る事になった。当然、《プリンセス》には見つからないようにこっそりと。

 僕は白と銀を基調としたCRユニット《ノルン》を装着して出撃した。

 色々と兵装が備えられていることの多いCRユニット。その中では比較的シンプルなものだ。

 《ノルン》にはレイザーエッジ一本とメイン兵装しかない。メイン兵装のためにリソースをほとんど使ってしまったから。

 白い球状の兵装があちこちに付いている。見た目はかなり異色だ。

 《プリンセス》のかなり近くに陣取っているが、光学迷彩を使っているから簡単には見つからないだろう。

 隣には霊装を纏った七罪も居る。箒型の天使である贋造魔女(ハニエル)は邪魔だから仕舞っている。アイコンタクトで合図を取って《プリンセス》の観察を続ける。

 暫くすると士道が来たようだ。士道は《プリンセス》に話しかけようとするが、衝撃波で牽制されて近づくことができない。一発受けたら人間が真っ二つになりそうな威力だが、彼女にとっては挨拶代わりだ。ASTにしか会ったことがないから、基本的に人間に敵対的だ。

 それでも辛うじて《プリンセス》との会話を始める。何者かという質問に対する士道の回答がこちらだ。

「人に名を訪ねるときは、まず自分から名乗れ~。」

 喧嘩を売っているとしか思えない文言だ。どう考えても、敵意を剥き出しにした相手へ言うべき言葉ではない。

 やけくそ気味に放った士道の言葉への返答は、先ほどより強くなった衝撃波で返された。空間震の被害を受けていなかった教室が、衝撃波の影響で半壊してしまった。

「何言ってんのかしら。」

 隣の七罪はジト目で呆れている。僕もその言葉には苦笑いするしかない。

 あれで精霊を攻略するとか本気で言っている。本当に困ったものだ。

 士道の名誉のために言うなら、彼の今の発言はラタトスクのメンバーが言わせたものだ。士道の選択ではない。

 そもそもメンバーの選択自体を間違えている。離婚経験五回の人とか、夜のお店で大人気な人とか、二次元ガチ勢な人とか、恋人に近づくことを法律で禁止された人とか、好きな人に近づく女を呪いまくった人とか。

 このメンバーのプランで精霊を口説くこと自体が正気じゃないと思う。優秀な人たちではあるんだけど。

「これが最後だ。答える気が無いなら敵と判断する。」

 《プリンセス》は手にエネルギーを集めて士道に攻撃できる体勢を取っている。士道が答えなかったら本気で殺す気だろう。

 しかしながら、琴里、僕、七罪の誰も動く気はない。この程度の事は士道にとっては危機ではないからだ。

 多少痛い目には遭うかもしれないが、その程度は勘弁して欲しい。

「俺は五河士道。ここの生徒だ。敵対する意思はない。」

 士道自身は能力の事を知らないから慌てている。死なないため、上ずった声で必死にアピールしている。ようやくラタトスクの傀儡を抜け出して、自分の意思で喋り始めたようだ。

「お前、前に一度会ったことが有るな。」

 《プリンセス》は士道の顔をしばらく見た後、気付いたようだ。士道と既に出会っていることに。

 映像で確認したが、士道と《プリンセス》は四月十日に顔を合わせている。

 その後すぐに姉さんの襲撃が有ったから、長い時間の接触ではなかった。しかし、会話をしている。

「あぁ、今月の十日。街で。」

「思い出したぞ。おかしなことを言っていた奴だ。」

 《プリンセス》の言葉を聞いて士道は安心する。しかし、すぐに頭を掴まれて再び苦悶の表情に戻る。

「私を殺すつもりは無いと言っていたな。見え透いた手を。」

 《プリンセス》は士道を詰問する。士道を、いや人間を端から信じていない目だ。

 期待したら傷つくだけだから、初めから期待しない。そういう彼女の今までを想起させる目。

「何でそんな顔するんだよ。何も狙ってなんてない。人間はお前を殺そうとするやつばかりじゃないんだ。」

 《プリンセス》の哀しい顔を見て、士道は否定する。自身が敵であることを。人間に対する諦めを。

 今度は士道自身の安全の為、必死になっているのではない。何も信じられない《プリンセス》の為だ。

 こういう精神が五河士道を主人公足らしめている。孤独に寄り添い、誰かのために命を懸けられる人間性こそ、彼の最大の武器だ。

「嘘だ。私の会った人間は皆、私は死なねばならないと言っていたぞ。」

「そんな訳ないだろう。」

「では聞くがお前は何をしに現れたのだ。」

 《プリンセス》は士道のことを信用していない。しかし、簡単に切り捨てることもできないようだ。今は士道を試している。

「君に会うためだ」

「私に?何のために。」

「君と愛し合う為に。」

「冗談は要らない。」

 《プリンセス》は士道に向けて衝撃波を放つ。嘘臭い言葉を受け入れる気はないのだろう。

 しかし、先ほどまでと違い明確に狙いを外している。それだけ士道が興味を持たれている。だが、信用できない発言は却下される。

 そもそも、《プリンセス》には恋愛感情を処理するだけの情緒が育っていない。彼女に伝えるなら飾った言葉ではだめだ。本音でシンプルに言葉をぶつけないといけない。

「俺はお前と話をするためにここに来た。内容は何だって良い。気に入らないなら無視してくれたって構わない。でも、一つだけ分かってくれ。俺はお前を否定しない。」

 士道は《プリンセス》の一番の心の影に光を当てる。《プリンセス》は存在そのものを、生まれてきたことを否定され続けてきた。そんな《プリンセス》の存在を肯定する。心の空白に敏感な士道だからこそできることだ。

「なるほどね。これから沢山の精霊を虜にするって聞いて信じられなかった。けれど、少し納得したわ。」

 隣の七罪も微笑みながら士道の事を肯定する。士道は七罪のお眼鏡に適ったようだ。僕も主人公の器を確認できて嬉しくなる。

「さて、そろそろ出番かな。」

 ここまで全部原作通り。違ったのは僕と言うお邪魔虫が近くで見ていたことだけだ。だったら、ここから少しは活躍しないといけない。

「私も行くわよ。」

「七罪はここに居てくれ。今の実力を試したいし、ASTの皆に言っておかなければいけないことが有る。」

 一緒に行こうとする七罪を制して告げる。その言葉に少し不服そうではあるが、納得してくれたようだ。僕はASTの方に向けて飛び出した。

 山の向こうからはASTの部隊が学校に向けて来ている。狙いは当然、《プリンセス》だろう。だから、僕は丁度山と学校の中間で待ち構えた。

 光学迷彩も学校から離れた時点で解除している。だから、向こうも簡単に僕の存在を認識できたのだろう。ASTの部隊も僕の前で立ち止まった。

「あなたはどこの所属の人間?私たちは任務中だから邪魔しないで。」

 部隊の先頭に立つ日下部隊長が言い放つ。CRユニットを装備しているから、只者でないことは分かっている筈。しかし、どういう立場か図りかねているのだろう。

「あなた、まさか愛なの?」

「愛って。まさか鳶一愛!」

 最初に気付いたのは姉さんだ。やっぱり家族だから一番最初に気付くのだろう。あの姉さんが珍しく驚愕している。

 続いて隊長、他の隊員へと波及していく。ASTを辞めてから一年程しか経っていないから、ほぼ全員誰の事か直ぐに分かったようだ。

「お久しぶりです、皆さん。」

 努めて丁寧に冷たく接する。これから敵対関係になるのだ。友好を温めても良いことは無いだろう。

「愛、どこに行ってたの。お願いだから戻ってきて。」

 姉さんが必死に叫ぶ。突然居なくなった弟が急に目の前に現れたのだ。当然の反応だろう。しかし、応える訳にはいかない。

「残念ですが、僕は精霊の味方をすることにしました。つまり、皆さんの敵です。《プリンセス》の所に行きたかったら、僕を倒して行ってください。」

 僕は周りに五つの白い球を展開して戦闘態勢を取る。ASTの皆は困惑の声を上げている。情報の処理が間に合っていないのだろう。

 酷い裏切り者だ。いきなり組織を抜けて、今度は敵として立ち塞がる。これ以上ない位の悪役っぷりだ。

 でも、これは僕が選んだ道だ。やり始めたからには最後まで貫き通せ。この程度の事は淡々とこなせ。

「愛、本気なの?」

「本気です。」

「今なら見なかったことにしてあげるけれど。」

「ご心配頂きありがとうございます。けれど、自分で決めたことなので。」

 隊長との問答が続く。何だかんだで優しい人だ。

 僕のことを心配してくれているのだろう。ASTの妨害をしたら、普通ただでは済まないから。

 それでも僕は隊長の気遣いを無碍にしないといけない。でなければ、僕の望みはかなえられないから。

「そう、分かったわ。総員、散開。妨害者を取り囲みなさい。」

 隊長の指令に合わせて隊員が網を張る様に展開する。部隊を三次元的に展開しているから狙いを絞ることができない。対処しにくい陣形だ。

 しかし、部隊の動きが少しぎこちない。僕のことを見据えながらも、銃を握る手に迷いが有る。

「愛、これが最後の忠告よ。ASTに戻ってきなさい。どんな処分が下るかは分からないけれど、可能な限り減刑嘆願してあげる。」

 隊長はかなり甘い。ここまで来ても僕を許してくれようとしているのだから。

「お断りします。」

「そう。残念だわ。」

 その言葉と同時に隊長が僕に向けて銃を撃ち始める。それを皮切りに他の隊員も銃を撃ち始める。

 流石に自衛隊の特殊部隊だけあって訓練されている。敵に当たりつつ味方に当たらないよう、綺麗な弾幕となっている。

 その弾幕を僕はバリアを貼って防ぐ。先ほどの白い球を四つ使って四面体型のバリアを展開する。バリアは全く壊れる様子が無く、一時間同じことをされてもびくともしないだろう。

「撃ち続けなさい。あれほどのバリアそう長くは持たないわ。」

 しかし、隊長は撃ち続ける指示を出す。AST基準で考えたら、この出力のバリアの展開は長時間維持できない。だからガス欠を狙っているのだろう。

 そんな未来は訪れない。しかし、いつまでも僕に集中しているとも限らない。

 手っ取り早く終わらせよう。僕は兵装を動かした。

「きゃあ~。」

 部隊の後ろから轟音が鳴り響く。ASTの隊員が吹き飛ばされて陣形が崩れる。

「他にも敵が……」

 隊長が振り向いて、何が起こったのかを確認する。僕以外の伏兵が居ると考えたのだろう。

 確かにその考えは間違っていない。実際に七罪が控えている。

 しかし、今回攻撃したのは僕自身。正確に言うと僕の遠隔兵装だ。白い球状のそれは強力な駒として働いている。

 これが《ノルン》のメイン武装、衛星(サテライト)だ。この白い球は攻撃、防御、支援、妨害と何でもできる。

 言ってしまえば一人の魔術師(ウィザード)だ。しかも、僕のイメージ通りに動かすことができる。

 その武装が常に僕の周囲を衛星の様に回っている。僕がバリアに四つ使ったが、もう一つは自由に動かせる状態だった。だから、残りの一つで攻撃を仕掛けたのだ。

「そろそろこちらからも攻めますよ。」

 僕は先ほどまで防御に使っていた衛星(サテライト)を一つ残して攻撃に回す。先程の攻撃で分かったが、ASTの攻撃は衛星(サテライト)一つで防げる。だったら攻撃に回してた方が良い。

 なるべく身体ではなく武装やCRユニットを攻撃する。ASTの隊員たちは一人、また一人と撃墜されていった。

「あいーーーー。」

 余り動きを見せていなかった姉さんが単身突撃してくる。姉さんはASTの中ではトップクラスに強いが、衛星《サテライト》で撃墜できるレベルだ。しかし、ここは敢えて近接戦で迎え撃つ。

 レイザーエッジ同士がぶつかり合って、鈍い音が響く。そして、鍔迫り合いの状態となった。これで誰にも邪魔されずに会話できる。

「どうして私の前から居なくなったの?」

「姉さんには話しただろう。僕は七罪を幸せにしたい。ただそれだけだ。姉さんが精霊に手を出さないと約束してくれるならいつでも戻るよ。」

「精霊の味方をするの?父さんを殺した精霊の。」

 一年前と同じ会話が繰り返される。精霊である七罪を守りたい僕と精霊を滅ぼしたい姉さん。

 僕らの意見は水と油だ。交わることは決してない。だから、僕は姉さんの元から去った。

「そうだよ。僕は七罪を守るためなら、姉さんの敵にだってなる。」

 有言実行の為にレーザーエッジの出力を上げる。姉さんも出力を上げるがASTの武装では、僕と同じ出力を出せない。当然、姉さんは押し負ける。

 そして、体勢が崩れた瞬間を狙ってCRユニットを破損させる。飛行を続けられなくなった姉さんは堕ちていった。

 姉さんは空に向かって手を伸ばす。その手を取ることを僕はしなかった。

 

 その後、僕は七罪と一緒に撤退した。士道の方も無事《プリンセス》に十香と言う原作通りの名前を与えてデートの約束をすることができたようだ。

 《プリンセス》改め、十香は士道に心を許し始めている。ASTも問題なく対処できると分かった。これで今回の作戦は言うこと無しの完遂だ。

 僕が感じる後味の悪さを除けば。これで良い。これが僕の選んだ道だ。




細々と裏話を書いていこうと思います。

原作をちゃんと見ている人は気付いていると思いますが、原作では折紙の両親が殺されています。しかし、本作では父親のみが殺されています。作中でも書いている通り、母親が先に亡くなっています。その為、父親しか精霊の手にはかからなかったのです。

これはミスでは有りません。母親が亡くなったのには理由があります。しかし、その理由が語られるのはかなり先の話になると思います。

1月6日追記
愛君のCRユニットに名前を付けました。命名は《ノルン》。過去、現在、未来の三人で構成された運命を司る神の名前です。
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