ヒロインは七罪   作:羽国

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連続投稿の途中でパソコンが使いにくくなるので、感想やDM等の返信が遅くなると思います。必ず全て見て返信するので、ゆっくり待ってください。

ここまで酷くするつもりはなかったんです。GPTに協力を頼んだら無限に酷いアイディアが湧いたんです。それではどうぞ。


地獄の始まり

 衛星(サテライト)のカメラを通して見る視界。そこでは、士道と琴里が甘酸っぱい雰囲気を出していた。

 僕と七罪が話をしている間に露天風呂やジャグジーなどを楽しんでいたようだ。今は普通のお風呂に使って身体を癒している。

「いいわね、こういうのも。普段の疲れが取れるわ。」

 琴里は中学生の癖に、くたびれたOLみたいなことを言っている。琴里は司令官として大の大人に指示を出しているから、ある意味OLか?

「楽しかったか、琴里?」

「そうね。偶には来てみましょうか。今度は十香や四糸乃も誘って。」

 琴里は溶けたような声で返事する。随分リラックスしているようだ。

「なあ、琴里?」

「何?」

 士道が声を少し引き締めて琴里に問うている。琴里は察しているのかいないのか、やる気のない返事をする。

「間違っていたら悪いけど、そのリボン選んだのってもしかして……俺か?」

 士道は、琴里のツインテールに結ばれた黒いリボンを見ながら確認する。どうやら思い出したようだ。

 琴里が大事にしている黒いリボン。それを購入し琴里にプレゼントしたのは、五年前の士道だ。

「……やっと思い出したの?どうして私の兄は記憶力が悪いんだか?」

「面目ない。」

 士道は申し訳なさそうにしている。

 記憶に干渉した存在がいるから士道のせいではない。けれど、何も知らない琴里からすれば、情けない兄に見えるだろう。

「士道が言ったんじゃない。強い私になれって。」

「そう……だな。思い出してきた。泣き虫な琴里に少しでも強くなって欲しくて、そのリボンを買ったんだったな。」

 士道は記憶を思い出していく。不必要になった記憶の鍵は簡単に壊れて、どんどんあるべきものを取り戻していく。

 僕も一度経験がある。あの奇妙な感じはなかなか忘れられない。

「それが、こんなになっちまうとはな。」

「士道はこっちの私は嫌?」

 琴里は不安そうに聞いている。琴里の不安は容易く想像できる。

 確かに黒いリボンの琴里の行動は酷い。義兄の士道を尊敬するどころか虐げて楽しんでいる。

 背負った責務の重さと素直になれない照れ隠しが琴里をそうさせている。しかし、度を越しているのは琴里自身分かっているのだろう。

「どっちも俺の可愛い妹だ。嫌なんてあり得ないな。」

「士道……。」

 士道は琴里の不安を拭う。ここで文句ひとつ言わずに肯定するとは。士道は男だな。

 いい雰囲気だ。あと一押しでキスまでもっていけるかな。

「琴里。兄ちゃん失格かもしれないけど、俺は今……お前にドキドキしている。」

 士道は独白を始めた。琴里が一番望んでいただろう内容を。

「士道、それ本当?」

「本当なんだよ。……幻滅したか?」

 士道は寂しそうな顔で琴里を見る。

「そんなことない。そんなわけない。だって……。」

 琴里は全力で否定する。しかし、その先の言葉が出てこない。

 未だ最後の一線を踏み出す勇気を持てない。仲良し兄妹の関係を壊せない。

「琴里、俺たちは兄妹だ。」

 士道は、隣に座る琴里の肩に手を置く。ここまでなら、琴里の希望を砕く言葉に聞こえる。

「だから、こういうのは今日だけだ。」

 士道は、琴里の顔を自身に向けさせる。もう少しで唇が触れ合う距離だ。

「し……どう?」

「琴里、目を閉じてくれ。」

「……。」

 琴里は期待に胸を膨らませながら目蓋を下ろす。士道は数秒琴里の顔見て、覚悟を決めた。

 二人の唇が触れかどうか分からないほど僅かに重なる。純情な士道らしいものだ。

 衛星(サテライト)のカメラでは、決定的な瞬間を見ることができなかった。霊力を観測できない僕は、キスをした確証を得られない。

 しかし、琴里がキスされたことはすぐに分かった。リンゴのように紅くなった琴里の幸せそうな顔が、何よりの証拠だった。

「幸せ……。」

 琴里は惚けた顔で幸せを噛み締めた。恋を実らせた乙女の顔だ。

 しかし、琴里はもう限界だったようだ。次の瞬間、琴里は士道に倒れかかった。

「琴里……?大丈夫か、琴里!」

士道は肩を揺すってみるが、琴里が目を覚ます様子はない。

『士道さん、人目を避けられる場所まで移動してください。フラクシナスに回収してもらいます。』

 僕は衛星(サテライト)を通じて士道に呼びかける。士道だけに聞こえる声量で。

「愛か?琴里は一体どうしちまったんだ?」

 鬼気迫る様子の士道は僕に聞いてくる。少しくらいは説明しておくか。

『緊張の糸が切れただけです。琴里は危ない状態だって聞いてませんか?琴里はそういう状態で頑張ってデートしていたんですよ。』

「……そうだったのか。」

 士道は琴里を見ながら考えている。思うところはあるだろうけど、今は行動して欲しい。

『今は早くフラクシナスへ。あの壁の角なら人目を避けられます。』

「分かった。今日はありがとうな、愛。」

『礼には及びません。』

 士道は僕が見つけた場所に移動して、フラクシナスへ転送された。これにて琴里の攻略完了だ。

 

◆◆◆

 

「終わった〜。」

 フードコートの椅子に持たれながら、伸びを行う。これにて今日の仕事は一段落した。

「無事封印できたみたいね。」

 七罪もインカム越しに令音さんから聞いたのだろう。子供の成長を見届けた保護者のような顔をしている。

「うん、後は姉さんだけだ。」

「来なかったら嬉しいんだけど。」

 七罪は半分諦めた顔で空を見る。今は平和な青が広がっている。

「来なかったらどうする?」

「……このまま二人で楽しむのもいいかもしれないわね。今のどっちつかずな愛を見られるのも、最後かもしれないし。」

 七罪は皮肉を利かせながら僕の方を見る。

 まるで付き合うのは前提のような言い方だ。確かにそのつもりなのだけど。

「琴里を楽しませるって縛りもなくなった。七罪はどういうデートがしたい?」

「あんまり激しくはしゃぐのは好みじゃないわね。そういうのは十香がいるときだけで十分。今はゆっくりしたい気分よ。」

 七罪は緩やかな風を浴びながら希望を話す。その願いは七罪らしく、控えめで日陰を望んでいる。

「いいね。士道さんと琴里もいなくなったし、浴場エリアとかどう?」

「それもいいけど、そろそろプールを出てアミューズメントエリアに向かうのもいいと思うわ。観覧車とか。」

 七罪はスリルも迫力もないアトラクションを真っ先に挙げる。そこが七罪らしい。

「ジェットコースターとかフリーフォールとかは?」

「自分の命を危険に晒して何が楽しいのかしらね?あんなのは男の前で叫んで、私可愛いアピールするためのものよ。」

 意地悪をしてみたが、いつもの七罪節が返ってくる。ここでさらっと出てくる辺り、相当偏見を持っているな。

「愛は観覧車……嫌?」

 七罪は不安そうな上目遣いをしている。よくここまで僕を誘う技術を身につけたものだ。

「二人で観覧車……。とても魅力的な展開だと思う。――実現しなくて残念だよ。」

 本当に魅力的な提案だ。衛星(サテライト)の捉えた敵の反応が残念で仕方ない。

 敵は凄いスピードでオーシャンパークに接近している。数分もしたら到着するだろう。

「……そうね。礼儀のなってない女には、躾が必要かしら?」

 七罪は贋造魔女(ハニエル)を取り出し、全身が光で包まれる。光が消えた後、霊装を纏い大人モードへ変身していた。

「姉さんに躾が必要なのは事実だけど、少し加減して欲しいかな。」

 僕も《ノルン》を緊急着装する。姉さんらしき敵の速度を考えたら、人目を気にしている余裕はない。

 後で琴里には一般人の誤魔化しを頑張ってもらう。今日の我儘の必要経費だ。

「さあ――僕たちの」

「ええ――私たちの」

 本来言う筈の二人に変わって声を合わせる。

戦争(デート)を始めよう。」

戦争(デート)を始めましょう。」

 目視できるようになった敵を見据えて、力強く宣言した。

 

♦♦♦

 

 オーシャンパークに接近した敵は、予想通り姉さんだった。見たこともない、殺意に満ちた顔をしている。

「死ねー!」

 《ホワイト・リコリス》から馬鹿みたいな火力の砲撃が放たれる。AST部隊の攻撃よりもこっちの方が恐ろしい。

 しかし、馬鹿みたいな火力の攻撃で、少し前に痛い目を見ている。何の対策もしないほど、僕は暢気じゃない。

「ヴェルザンディの輪。」

 衛星(サテライト)を円環状に並べて、それぞれが小規模な防性随意領域(プロテクト・テリトリー)を展開する。そして、衛星(サテライト)たちが星のように自転を始める。

 ぶつかったら、少ない魔力でも攻撃の威力を減衰させることができる。そして、これからがこの技の本領だ。

 星が行うのは自転だけじゃない。公転も星の重要な機能だ。

 敵の攻撃を軸にして、円環状に並んだ衛星(サテライト)が公転を始める。これによって、攻撃の軌道を散らすことができる。

 自転と公転による二重の無力化。これが新技、ヴェルザンディの輪だ。

 ヴェルザンディの輪に触れた砲撃は、簡単に防ぐことができた。実戦での使用は初めてだけど、上手く言ったようだ。

「随分と手荒い挨拶ね、鳶一折紙。弟がいることすら分からなかったのかしら?」

 七罪は結構怒っている。デートの邪魔をされた上、僕も巻き込まれかねない攻撃を行った。相手を挑発する口調になっている。

「殺す……殺す……殺す、殺す、殺す!!」

「あら、そんなに頭に血を上らせても私は倒せないわよ。」

 七罪は姉さんが挑発に乗ったと思っている。調子に乗って煽りを追加する。

 しかし、僕には不自然さしか感じられない。どう見てもおかしい。

 今の姉さんはまともな思考ができていない。姉さんは怒りに呑まれても、思考力が消えないタイプの人だった。

 これはどういうことだ?

「殺す、殺す……絶対殺してやる……ッ!」

 嫌な予想が脳裏に浮かぶ。一つあるではないか。思考力を奪う方法が。

 顕現装置(リアライザ)による洗脳。DEMの常套手段だ。

 都合のいい駒にする代わりに、姉さんの人格を破壊したって言うのか?

 だとしたらウェストコットが関わっている。あの最悪の男が。

 それにあの砲撃の威力。間違いない。姉さんは処理を施されている。

 魔術師(ウィザード)として強大な力を手に入れる代わりに、残りの寿命を大きく削る禁忌の術。魔力処理を。

「お前をこの世から消し去ってやる、《ウィッチ》。」

 姉さんの口から放たれた言葉。その言葉は僕を思考の渦に呑み込んだ。

「どうして、姉さん……。」

 なんで、気が付かなかった。姉さんがこんなことになってしまうまで。

 ヒントは無数にあった。気づけるはずだった。

 

 この世界が原作と同じでないことは、自分自身で何度も確認していた。どうして、姉さんが原作と同じように動くと考えてしまった?

 DEMが、ウェスコットが救いようのない邪悪だって知っていたじゃないか。なんで、姉さんに手が及ぶ可能性を考えなかった?

 真那は原作より早く来ていた。どうして、ウェスコットも早く来るかもと思わなかった?

 姉さんは精霊化した琴里を見ても反応が薄かったらしい。なんで、もっと深く考えなかった?

 姉さんは水着選びに来なかった。どうして不自然だと思わなかった?

 理由は分からない。どういう経緯か想像もつかない。でも、間違いない。

 姉さんはウェストコットに利用された。そして、七罪を殺すように誘導された。

 そして、こんな取り返しがつかないことになってしまった。姉さんの人生は、ウェストコットに喰いつぶされてしまった。

 どうすればよかった?どうすればこの事態を対処できた?

 姉さんの変化を見逃さなければ。DEMの動きにもっと注意していたら。

 いや、そもそも僕が家を出なかったら。姉さんを一人にしなかったら。

 一人にしたら危なっかしい人だって知っていた。原作知識があるからと甘えたことを考えてしまった。

 もっとできることはあった筈だ。これは全部僕のせいで起こったことだ。

 もっとうまく立ち回るべきだった。もっと、姉さんにも目を向けるべきだった。

 

 僕の脳は勝手に今までを顧みてしまった。反省してしまった。

 ウェストコットが関わっている。それならば、()()()()()()()()()()()()と気づかなければいけなかった。

 

「戦闘中に放心するとは。あなたらしくないですね、指揮者(コンダクター)。」

 

 かつてないほど強烈な寒気を感じた。体の芯まで凍てつかせるような冷たい殺意。

 その瞬間まで接近に全く気づかなかった。声もかけられずに攻撃されていたら、僕はそのまま死んでいたかもしれない。

 それはあまりにも無様な姿を晒した敵への、せめてもの情けだった。振り返るとそこでは、世界最強の魔術師(ウィザード)が巨大なレイザーエッジを静かに振り上げていた。

 世界最強の魔術師(ウィザード)、エレン・メイザース。ウェストコットの忠臣にして懐刀である彼女は、精霊にとって最悪の敵だ。彼女に間合いを許したら、僕は絶対に助からない。

 戦場に立つものとしてあってはならない隙。その隙を最悪の敵に晒してしまった。

 僕は無意識の随意領域(テリトリー)の展開しかしていない。この女にとって、紙のように切り裂ける薄い膜だろう。

 回避も不可能だ。この距離では、随意領域(テリトリー)で身体を無理矢理動かすことすら間に合わない。

 超一流の技術で気配を隠蔽したとはいえ、気づけるはずだった。思考に囚われてさえいなければ。

 僕は戦場でやってはいけない愚行を犯した。その代償には()()()()()()()()()()を請求される。

「どきなさい、愛!」

 全く力が入っていなかった身体は、七罪の手によって簡単に突き飛ばされる。非力な七罪とは到底思えない力強さ。

 その力は七罪が僕のために絞り出したもの。その甲斐あって、僕は刃から逃れることができた。

 そして、強化された感覚は全てをゆっくりと捉えた。七罪が斬られるその瞬間の全てを。

 振り下ろされていた刃は、七罪の身体と十センチも離れていなかった。既に七罪の長い髪に刃が入っている。

 続いて、光を帯びた刃が七罪の肩口に沈み込む。耐久力の低い霊装など、簡単に貫く。刃が肉を焼き、骨を断つ鈍い音が耳に響く。

 七罪の身体から血飛沫が飛び散り、僕の顔にかかる。暖かいというより、熱いと感じた。その熱は命の熱だ。

 僕の身体が転がった後に、七罪の身体は真っ二つにされて地面に落ちる。生々しい切断面がしっかりと目に映る。

 胴体からはバケツをひっくり返したように血が溢れる。床に広がる血が、赤黒い絵の具のように流れていく。

 プールの水と混ざってなお紅い血だまり。七罪の命を奪うのには過剰すぎるものだった。

「……なつ……み……?」

 喉が渇いて声がかすれる。まともに喋ることができない。

 動悸が激しい。肺から絞り出すような無理矢理な呼吸しかできない。

 それでも身体を引きずって七罪の顔を見る。

「よかっ……た……あん……たが……無事……で。」

 僕を見て七罪は激痛に顔を歪めながらも、笑おうとする。口の端からは赤いしずくが垂れる。

 七罪が僕に力なく手を伸ばす。その手を掴む前に力を失って崩れ落ちる。

 同時に七罪の変身が解け、元の小柄な姿に戻る。しかし、胴体の断面は消えない。

 血と混ざり合った唾液が零れ続ける。最早、唾液を飲み込む力すら残っていない。

 七罪の瞳から意志の光が消える。今にも消えそうな呼吸音だけが、完全に零れ落ちていないことを教えてくれる。

「なつみィィィィィィーーーー!」

 この日、僕はかつてないほどの地獄を味わうことになった。

 僕の地獄は僕に降りかからない。僕の大事な人に降りかかる。




折紙が洗脳されて愛君の前に立ちはだかる。これが地獄のピークではありません。大事な人二人を一気に失う危機。これが真の地獄です。楽しんでいただけたでしょうか?

まだ地獄は続きます。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

今回の裏話をしましょう。愛君の技について。
愛君は真那に負けた後から、色々な新技を開発していました。今回の決戦では未登場の技をいくつか披露してもらいます。楽しみにしていてください。
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