ヒロインは七罪   作:羽国

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色々なキャラが活躍してこそのデート・ア・ライブですよね。それではどうぞ。


四糸乃の覚悟

「なつみィィィィィィーーーー!」

 七罪の身体から溢れ出した血は既に湖のように広がっている。出血は少なくなり始めており、これ以上七罪の身体に血が残っていないことを示している。

 七罪の命は風前の灯火。いつ死んでもおかしくない。今この瞬間にも。

「どうして《ウィッチ》がそのような姿に?――いえ、そういうことですか。今までの姿が《ウィッチ》の能力による仮初の姿。そっちが本当の《ウィッチ》の姿ですか。」

「エレン・メイザース……。」

 エレンは余裕そうな態度で状況を分析している。元々、傲岸不遜な性格だ。これほどの有利状況ならそのような態度になるだろう。

 そのつもりがあったのかは知らない。しかし、僕の頭は怒りで満ちている。

指揮者(コンダクター)の手足を落として、捕縛しやすくするつもりでしたが。まさかこうなるとは……。残念です、折角の反転しやすそうな精霊が。」

「今すぐ殺してやる!エレン・メイザース!」

 エレンに向かって衛星を三機送り込み、全力の魔力砲を用意する。

 これは非人道的で、安易に使えない技だ。でも、この女を相手に躊躇う理由も余裕もない。

「ならば、実行してみなさい。口だけじゃないことを願います。」

 しかし、エレンは余裕綽々の態度だ。エレンはレイザーエッジを構えなおし、戦闘狂の笑みを浮かべている。

「グングニル!」

 言葉と同時に必殺の魔力砲が発射される。太陽光のように眩しく光る魔力は世界最強の魔術師(ウィザード)の防御すら貫く。その筈だった。

「なるほど、魔力を極限まで集中させましたか。定番の技ですが、針先ほどの細さまで収束させる魔術師(ウィザード)は見たことがありません。何も対策をしなければ、私にすら通用したでしょう。」

 エレンは技の詳細について高説を垂れる。わざわざ敵の攻撃を完全に理解して、格の違いを見せつけてきた。

 エレンの取った行動は至極単純。防性随意領域(プロテクト・テリトリー)の展開領域を狭くして、同じように魔力の収束を行っただけ。

 子供でも思いつく簡単な対策だ。しかし、言葉と裏腹にその技術は信じられないくらい難易度が高い。

 攻撃に使うのなら単純に魔力を集中すればいい。これなら程度の差はあれど誰でもできる。

 しかし、防御の場合は必要範囲を正確に割り出し、防性随意領域(プロテクト・テリトリー)を凝縮して展開しないといけない。それを攻撃に追いつく速度で。軽く攻撃の二倍以上の技術が要求される。

 この女は練習もなしでいきなりやってのけた。心臓に毛が生えているとかそういうレベルではない。

「激情のままの攻撃ですが、正確に目や心臓、肺といった重要な臓器を狙っている。超一流と言って差し支えないでしょう。」

「化け物が……。」

 この圧倒的な実力差は絶望と同時に少しの冷静さを与えてくれた。この女は僕が全てをかなぐり捨てて全力で挑んでも勝てない。

 仮に勝てたとしても何の意味もない。全力とはつまり、七罪の命を諦めるということなのだから。

 敵を全て殺したとしても、七罪のいない世界なら意味はない。そんな世界で僕が生きることなんてできない。

 冷静になれ。七罪はまだ生きている。フラクシナスで治療すれば何とかなるかもしれない。

 それならば、必要なのはフラクシナスまで七罪を送り届けること。そして、それまで七罪の命を紡ぐこと。

 新たに衛星(サテライト)を追加して、合計八機を展開する。戦闘に回せるのは三機。残りは最も重要なことに使う。

「イメージしろ。人体を生存させるために必要な要素を。血液の流れ、欠けている細胞の補填、臓器の活動の代用。」

 五機の衛星(サテライト)の力を使って、僕にできる限界のスペックを持つ随意領域(テリトリー)を展開する。

「ほう、CRユニットで生命維持装置の代わりをしますか。面白いですね。」

 エレンは興味深そうな声をあげる。

戦術顕現装置(コンバット・リアライザ)医療用顕現装置(メディカル・リアライザ)の代用をする。それだけでも十分高度な技術です。

 しかし、あなたがやっているのはその数段上。随意領域(テリトリー)の中に集中治療室を作り出してしまうようなものです。

 ジェシカは勿論、真那やアルテミシアでさえ、そんなことができるかはわかりません。」

 まるで、自分ができるのは前提とでも言いたげな口ぶりだ。いや、実際できるのだろう。この顕現装置(リアライザ)しか取り柄のない女は。

「あなたの力は素晴らしい。DEMに来なさい。そうすれば《ウィッチ》の命は保障しましょう。」

 エレンは仰々しく僕に向けて手を差し伸べる。だから、その汚らしい手に相応しい返事を送る。

「グングニル――神裂(グスクリュヴニング)。」

 エレンの手を身体ごと真っ二つにするため、収束魔力砲を放つ。貫通力に特化したグングニルで相手を切り裂く軌道を描く。

 エレンの身体に当たればいいと、乱雑に何度も何度も光の刃を振るう。

 軌道上の全ての生物をバラバラの肉片にしてしまう。人の尊厳を踏みにじる刃を。

 これなら先ほどと違って、魔力の集中で防ぐことはできない。体全体を狙っているのだから。

「その状態で戦闘の続行までできるとは。末恐ろしい才能ですね。」

 エレンは傷一つ負っていない状態で歩み寄ってくる。今度は随意領域(テリトリー)を圧縮した様子すらない。

「……馬鹿……な。」

「せっかくよいアイディアを貰ったので、真似させていただきました。思ったよりも簡単な技ですね。」

 エレンはサブウェポンと思われる小さな魔力砲を見せつけつつ、邪悪な笑みを浮かべる。最強の魔術師(ウィザード)はその名に恥じぬ実力を見せつけた。

 あれだけ収束させるために、一月近く練習したんだぞ。それをその場で成功させたのか?しかもあんな小さな武器で。

 その上で、僕の攻撃に合わせて相殺したと言うのか?どれだけふざけた操作技術が必要だと思っているんだ?

 こいつに勝てるビジョンが見えない。同じステージに立てていない。

 僕の強みは器用さと発想力。この女は僕より遥かに器用で、僕の発想を見てさらに強くなる。

 真那と戦った時とは全然違う。空に浮かぶ雲を掴むような無謀さ。そうとしか思えない。

 しかもこいつは、僕に圧倒的な実力差と絶望的な状況を見せつけるためにこんなことをしている。こんな曲劇みたいな真似をしなくても、こいつなら回避することはできた筈だ。

 僕を屈服させようとしている。完全な敗北を叩きつけようとしている。

「ところで、私ばかりに集中していていいのですか?」

 エレンは僕の後ろの方に視線を向ける。その誘導は敵を欺く小細工ではない。あまりにも圧倒的な戦況で、相手に与えるハンデだ。

「ウィッチィィィーーー。」

 姉さんが殺意に満ちた砲撃を放つ。先ほどと違い、一発の大きな砲撃ではない。数えるのも馬鹿らしくなるような絨毯爆撃だ。

 ヴェルザンディの輪は使えない。七罪にリソースを割き過ぎて、あんな複雑な技を使う余裕はない。

 七罪のための随意領域(テリトリー)に被せるように、防性随意領域(プロテクト・テリトリー)を展開するしかない。

「ぐあっ!」

 攻撃によって防性随意領域(プロテクト・テリトリー)は簡単に破られた。何とか七罪の治療は維持できている。でも、こんな状況ではどうしようもない。

 七罪だけでも転送してもらわないと。フラクシナスに通信を試みる。

「令音さん、七罪だけでも転送できませんか?」

『そのような戦闘の真っただ中では不可能だ。最低限、敵の攻撃が届かない距離まで離れてくれないと。』

「ちっ。随分とふざけた条件ですね。」

『……申し訳なく思う。どうにか逃げてくれ。』

 あまりにも過酷な条件に舌打ちしてしまう。

 格上含む敵二人から逃げ切れだって?どれだけ難しいと思っているんだ?

 ……いや、令音さんは事実を言っただけだ。怒っても仕方ない。

「逃がすと思いますか?あなた相手に雑魚は邪魔かと思っていましたが、念のため用意しておいてよかったです。」

 空には大量の影が現れる。全方位から現れる無数の軍団。

「嘘……だろ……?」

 その正体はDEMの実行部隊とバンダースナッチ。一人一人が練度の高い魔術師(ウィザード)と、無数に存在する殺戮兵器の混合部隊だ。

 普段ならこれの倍の数いても、うるさい蠅と変わらない。でも、この状況では最悪の一押しとなる。

 これでは敵から離れることができない。フラクシナスに転送できない。

 恐らく戦闘力としての役割は期待していない。これは僕を逃がさないための檻だ。

「あなたと真っ向勝負をしたら、万に一つも私が負けることはないでしょう。しかし、その油断が前回あなたたちを逃す原因となりました。

 同じ轍は二度と踏みません。今度こそ、あなたと《ウィッチ》を確実に捕らえます。」

 窮鼠の反撃すら完全に叩き潰すため、猫は全力を尽くす。世界最強が最悪の高評価を見せつけた。

 

♦♦♦

 

「殺す……殺す……ウィッチを、殺す!」

 姉さんは荒ぶる猛獣のように髪を振り乱しながら殺意を込めた砲撃を繰り出す。その目に理性はなく、純粋な殺意だけが溢れている。

 あれだけ暴走しながらも戦術的な行動を忘れていない。僕の逃げ道を塞ぐように、範囲を広げながら攻撃する。

 一発一発殺意を込めた攻撃は、確実に僕の随意領域(テリトリー)を削ってくる。今の姉さんと僕がいい勝負になる塩梅だろう。

 しかし、僕は七罪の治療をしながらというハンデつき。しかも、姉さんには世界最強の魔術師(ウィザード)がついている。

 はっきり言って勝負になっていない。エレンが姉さんに攻撃を任せてあまり介入していないから、辛うじて状況を保てている。

 しかし、時間の問題だ。いつ崩れてもおかしくない。

「うっ、動けない!」

 突如として、空間に固定されたかのように身体が動かなくなる。前にも後ろにも一歩も進めない。

 これは随意領域(テリトリー)?……そうか、動かなかったんじゃなくてタイミングを図っていたのか。これをするために。

「流石にあなたほどの魔術師(ウィザード)を拘束するのは骨が折れますね。でも、これで詰み(チェックメイト)です。」

 涼しい顔をしてどれだけ高度なことをしているんだよ。他人の随意領域(テリトリー)を上書きするなんて、普通出来ないぞ。

「こ、ろ、すゥゥゥーーー。」

 そして、その隙を姉さんが逃してくれる筈がない。あの姉さんが怒りを露わにして、攻撃を放った。砲撃は僕の手の中の七罪を狙っている。

 避けることもテリトリーの属性を変えることもできない。これで終わりなのか。

氷結傀儡(ザドキエル)

 奥歯を噛み締めた瞬間、小さくもはっきりとした声が響いた。その声と同時に光線が姉さんの砲撃と衝突する。

 弾丸は凍り付いて機能を失った。ぼとぼとと落下して、僕には一発も届かなかった。

「ごめんね~、遅くなっちゃった。」

「大丈夫……ですか?」

 攻撃を防いだのは四糸乃とよしのんだ。限定霊装を装着している。

「《ハーミット》?どうしてここに?」

 エレンは不思議そうにている。そうか、僕たちがラタトスクの関係者と知らないのか。

「テメーの相手はそっちじゃねーですよ!」

 高速でエレンの背後から接近した真那は、そのままの勢いでレイザーエッジを振り下ろす。

「真那⁉あなたまで⁉」

 エレンは攻撃を受けながら驚愕している。真那が離反してラタトスク所属になったのはつい先日。これも、エレンにとっては完全に想定外の出来事なのか。

「私もいるぞ!」

「今度は《プリンセス》⁉一体どういう組み合わせですか⁉」

 今後は限定霊装を纏った十香が攻撃を繰り出す。鏖殺公(サンダルフォン)とエレンの随意領域(テリトリー)がぶつかかり合っている。

 次から次に現れる増援にエレンは戸惑いを隠せない。圧倒的な実力を持つ筈のエレンが若干押されている。

 フラクシナスにいた皆が来てくれたようだ。これで何とか希望が見える。

「愛さん、七罪さんフラクシナスまで……お願いします。」

 四糸乃が僕に逃げるよう促す。その()()()()言葉はとてもありがたい。でもダメだ。

「四糸乃、それは無理だ。このままじゃ全員殺される。」

 エレンも姉さんも抑えらえられている。これならどうにかなる――そんな幻想抱く気はない。

 確かに先ほどよりいい状況になった。でも、五分にすらなっていない。

 エレンは驚いて戦闘に集中できていないだけだ。冷静さを取り戻したら、真那相手に負けることはない。十香がセットで五分の勝負がギリギリできるかどうかだ。

 姉さんと四糸乃の方はもっと状況が悪い。原作では、《ホワイト・リコリス》を装備した姉さん相手に十香と二人がかりで相手をしていた。今は姉さんが魔力処理で強化されている上、四糸乃一人だ。

 僕が離脱したら、どちらかの戦況が崩れて全員殺されるだけだ。それよりも僕が参加して、姉さんだけでもどうにかする方がいい。

「行ってください。」

「四糸乃……。」

 珍しく強情な四糸乃に、状況をちゃんと説明しようとする。こんな状況でこんなことをしないといけないことに、苛立ちすら覚える。

「もう、足手まといは……嫌です。」

 小さくはっきりと言った言葉は。戦場でもよく響いた。その声を聞いて僕も閉口する。

「ずっと、迷惑をかけてばかり……でした。みんなに、守ってもらってばかり……でした。七罪さんにも……助けてもらいました。」

 四糸乃は少し前に狂三に誘拐され、七罪の交渉の出汁にされた。そのことを思ったよりも深く気にしていようだ。

「次は、私が七罪さんを守る番です。力を貸して、よしのん!」

「勿論だよ、四糸乃。」

 四糸乃から冷たい力の奔流が流れる。四糸乃の放つ力が急激に増大する。

神威霊装・四番(エル)!」

 吹雪のような霊力が霧散して、()()()()()を纏った四糸乃が現れる。氷結傀儡(ザドキエル)の背に乗った姿からは、圧倒的な力を感じる。

「四糸乃……。」

 封印を解いて、士道から霊力を取り戻したというのか⁉

 初めて霊力を取り戻すには、強い覚悟が必要な筈だ。それを優しい四糸乃がやってのけるなんて。

 どれほどの悔しさを感じていたのか。どれほど自身の不甲斐なさに涙を流していたのか。

 そして、そんなにも七罪と友情を育んでいたのか。少し涙が出そうだ。

「邪魔を、するなーーー。」

 姉さんが声を張り上げながら、四糸乃に向けて乱射する。しかし、その攻撃な四糸乃が作った吹雪の壁によって、完全に防がれた。

 四糸乃はこんなにも強かったのか。ポテンシャルがあると知っていたけど、これほどとは思わなかった。

 姉さんを全く寄せつけない。あれだけの吹雪を出してまだ余裕が見える。

 追加で冷気を操って、姉さんを拘束しようとしている。爆撃で何とか逃げているけど、いずれ氷漬けにされるだろう。

「行ってください。」

「大丈夫、よしのんもついてるから。」

 僕を安心させるために再び声をかける。その目には強い意志が宿っていた。それを見て僕も行動を変える。

 四糸乃はもう守られるお姫様じゃない。僕を越える戦士だ。それだけの力と意志を示した。

 僕は七罪の心配をしよう。この戦場は四糸乃たちに預ける。

「姉さんの装備は強力だけど、活動時間が短い。無理せずに安全に立ち回れ。

 エレンは真那を中心に戦うんだ。十香では打ち合えない。十香はサポートに徹しろ。」

 原作知識を元に詳細な指示を出す。明らかにラインを越えてしまった。

 メッキがどんどん剥がれている自覚がある。でも、それを気にしている余裕はない。

「後は頼んだ。必ず生きて帰れ!」

「……はい。」

「とうぜ~ん。」

「勿論でいやがります!」

「うむ。」

 全員生きて帰る。それが唯一にして絶対の勝利条件だ。




前回の絶望感の継続と四糸乃の覚醒を詰め込んだお気に入りお話です。愛君は強いのにエレンが化け物過ぎて弱く見える。これでも愛君かなり強いんですよ。

さて今回の裏話。愛君の魔力生成について。
愛君は魔力の生成量が少ない――わけではないです。現時点での愛君の顕現装置(リアライザ)の適性は折紙より少し上です。普通に考えて、魔力の生成量が少ない方が不自然です。これは自分自身で作ってしまった枷のようなものです。

顕現装置(リアライザ)を使い始めた頃は愛君が幼過ぎました。自身の操作技術に未発達の身体が追い付かず、簡単にスタミナ切れを起こしていました。なので、少ない魔力で戦う術ばかり考えるようになりました。今でもその癖が抜けていません。この事実を自覚できれば、愛君は魔術師(ウィザード)としてもう少し強くなります。
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