楽しんでいただけたら幸いです。それではどうぞ。
エレンと姉さんの相手は四糸乃たちに任せた。僕は瀕死の七罪をフラクシナスへ届けることに集中したらいい。
フラクシナスに転送してもらうには敵と距離をとらないといけない。つまり、今目の前にいる雑魚共を蹴散らさないといけない。
DEMの
でも、今は少しでも魔力が惜しい。全部相手にするのはダメだ。
「令音さん、先に
「既に待機済みだ。いつでも治療を始められる。」
「ありがとうございます。」
令音さんの仕事は早かった。後は僕が送り届けるだけだ。もう少し耐えてくれ、七罪。
勝利条件はフラクシナスに転送することではない。転送に拘らなくても、フラクシナスのハッチから直接入っても問題ない。
とにかくフラクシナスに近づく。方針は決まった。
「
意思のないバンダースナッチはともかく、人間である
実力差がわかっていないのか、ウェストコットを盲目的に信望しているのかは知らないけど、現実を教えてやらないといけないな。それで数が減ったら万々歳だ。
「ヴァルハラの業火。」
そのまま、
敵の
どうやら強者は全くいないようだ。この感覚だとまともな死体はほとんど残らないな。
下手に高火力をぶっ放すより効率よく処理できるから、前はよく使っていた。難易度もそこまで高くない上、魔力消費も抑えている。
唯一の難点は残骸がグロテスクなことだ。完全に死体が残らないならまだいい。中途半端に強いと、生焼けの肉塊になる。七罪は初めて見た時に吐かせてしまった。
でも今は都合がいい。恐怖の演出としては効果的だ。
攻撃が終わった後も
「あーあー、聞こえるか?お前たち?」
「見ての通り、お前たちなんて簡単に殺せる。かかってくるなら、家族の元に死体は届かないと思え。まずまともな死に方はできないぞ。」
相手の恐怖を増幅させるように言葉を選ぶ。怒らせてはいけない。冷徹で残酷な理解できない存在だと思わせないといけない。
こいつらの命はどうでもいい。DEMの人間がいくら死のうと、痛痒にも感じない。
でも、今は一秒でも時間が惜しい。少しでも逃げてくれるとありがたい。逃げないまでも、戦意を削げたらよしとしよう。
「ふざけるな、我らはウェストコット様の……。」
「じゃあ、次はお前な。」
女の反論を途中で遮って
胴体を中心に身体が半分ほどなくなっている。残してやった顔は、痛ましい死に様を表している。
「さて、次はどいつが燃え滓になりたいんだ?」
魔術師《ウィザード》たちは無様な姿を晒した。泣き叫ぶ者や命を懇願する者。ガタガタ震える手で刃を握る者など。
怖いなら早く逃げ出ればいいのに。馬鹿な奴らだ。だから死ぬことになる。
七罪に意識がなくてよかったかもしれないな。少し死体が積み上がった。
♦♦♦
だいぶ削った。あと少し数を減らしてやればいい。それで敵から距離をとれるようになる。
『愛、ミストルティンで一気に片付ける。君はタイミングを合わせて避けるんだ。』
「了解しました。」
このタイミングで朗報だ。ミストルティンで一気に数を減らせたら、もう転送できるようになる。
フラクシナスの挙動をよく見ろ。敵がミストルティンの射線に多く集まるよう誘導しろ。
甘い攻撃を増やして攻撃を避けさせる。徐々に密度を上げて自滅に向かっている。
これで七罪が助かる――そう思った瞬間だった。急に僕の
飛行能力を失い、抱えていた七罪ごと自由落下を始める。このままでは七罪が地面に叩きつけられる。
何が起きたか分からない。とにかく、七罪だけでも衝撃から守れ。
「ぐぁぁっ!」
僕は何とか七罪を抱え込んだ。僕は骨が折れたけど、七罪は影響がなさそうだ。新しい外傷はない。
空を見上げて考える。一体何が起こった?
CRユニットを動かそうとするけど全く動かない。魔力の生成ができていない。
……活動限界を迎えてしまったのか。こんなときに。
いや、エレンとの戦闘に七罪の生命維持、一斉掃討と無理をし過ぎた。まだ戦えていたのがおかしかったのか。
相変わらず、この身体は危険信号もなしで活動限界が来る。厄介だ。
普通なら活動限界より前に鼻血のような危険信号が出る。なのに、僕の場合は何故かそれがない。急に魔力の生成ができなくなる。
理由は分からない。アスガルド・エレクトロニクスですらお手上げと言われた。
僕は自分で限界を把握しないといけない。でも、今はそんな余裕がなかった。
結果がこのざまか。情けない。
あと少しなのに。あと少しで七罪をフラクシナスに送れたのに。
奥歯を噛み締めても状況はよくならない。むしろ、悪化する。
「よくもやってくれたな、
どうすればいい?何か策はないか?
こいつらを格闘術で倒すなんて無理だ。
四糸乃たちに増援を頼むのも間に合わない。頼んでいる間に七罪が死んでしまう。
「何か、何か、何か、ないのか。」
異物の証拠である原作知識でも、得意げに自慢していた発想でも何でもいい。この状況を打開できる何かは。
今まで散々考えてきたじゃないか。七罪に呆れられながら策を練ってきたじゃないか。
できるだろ。できなきゃいけないだろ。でないと、僕のやって来たことなんて無意味だろ。
でも――何も思いつかない。どうあがいても七罪を助ける手段が見つからない。
知識も発想も、策も。何も出てこない。
こいつらを倒す方法はある。僕が助かる方法はいくらでも思いつく。でも、七罪を救う方法は出てこない。
こんな時に役に立たなくて僕に何の意味があるんだよ。七罪を守れないなら、僕に存在価値なんてないだろ。
七罪を幸せにしたいから物語に余計なちょっかいをかけたんだろ。それで七罪を殺したなら、僕なんて存在しない方がまだいいじゃないか。
思いつけよ。皆をあっと言わせるような打開策を。頼むから……。
「七罪……。」
意味もないのに七罪に縋る。
身体を二つに分ける断面からはあまり血が流れていない。既に身体を巡る血のほとんどを流してしまった。
このままでは、五分と待たずに七罪は死んでしまう。嫌というほど見てきた過去の
嫌だ嫌だ嫌だ。やっと進めそうなんだ。ここからってところなんだ。
これで終わりかよ。七罪を救いたい、幸せにしたいなんてただの出まかせかよ。
何を差し出してもいい。僕がどうなろうと一切文句は言わない。だから……
「誰か、七罪を助けて……。」
遂には他人に助けを乞う。神頼みにも等しい無意味な行為。
空しく響くはずだった言葉は拾い上げられた。
『――不甲斐ないなぁ。それでも本当に鳶一愛なの?情けなくて格好悪いなぁ。』
「え?」
突然、どこからか声が聞こえる。幼さを感じる無邪気な少女の声。
エコーがかかったかのような不自然な響き方。とてもじゃないけど人間のものとは思えない。
『まぁ、相手が悪かったか。エレンがいたし、お姉ちゃんまで敵に回っちゃった。あれは流石に反則だよね。』
「一体どこにいるんだ⁉誰なんだ⁉」
周囲を見渡すけどそれらしい人影はない。いるのは
『本当はもうちょっとマシな出来になるのを待つつもりだったけど、仕方がないなぁ。私の力を貸してあげるよ。あ、七罪のピンチに無理して力を出すって、ヒーローみたいで格好良くない?』
「この声、頭の中から……?」
声は鼓膜を通して聞こえるのではなく、頭の中で響いているとやっと気づいた。脳に何かを送り込まれ、それを声として認識している。
「……一体何を言っている?」
その証拠に
『いいね、やる気出てきた。細かい調整はしてあげるから、君は力を振るうだけでいい。私の手足として精々役に立ってよ。……ねぇ、君も七罪を助けたいでしょ?』
「調整?力?役に立つ?」
こいつは何を言っているんだ?何をしようとしているんだ?
……でも七罪を助けてくれるのか?こんな絶望的な状況を打開できる力を貸してくれるって言うのか?
だったら、細かいことはどうでもいい。七罪を救えるなら、他のことは全部後回しだ。
「力を貸してくれ。七罪を助けたい。」
『ただの器にしては悪くないね。力を貸してあげよう。
少女の声が聞こえたと同時に視界全てが光に満たされる。全てを滅する白の光と全てを呑み込む黒の光。それらが混沌と混ざり合った不気味な輝き。
眩しくて目を開けていられない。目を閉じるても尚、瞼の奥を焼きつける。
そして、変化が始まる。心臓がどくんと跳ね、ひと際強い鼓動を鳴らす。
それを合図に、全身にふわりと暖かいものが広がる。魔力のような合理に縛られた感じじゃない。
法則そのものを捻じ曲げてしまうような、神秘的で圧倒的な力。疲れ切っていた身体に力がみなぎる。いや、そんな次元の話じゃない。
何かが僕を作り変えている。初めから大きな力を持っている身体になっている。
存在そのものを書き換えられているような、不思議な感覚がする。でも、不快感は全くない。初めからそういう存在であったような気さえする。
筋繊維の一本一本、皮膚の一枚一枚が張り替えられ、骨が粘土のように形を変える。
僕の身体が僕の身体じゃなっていく。具体的にどうというのは分からないけど、明らかに普段の僕の身体ではなくなっている。
でも、痛みも気持ち悪さも感じない。むしろ心地よくて、いい気分だ。まるでこの姿こそ本当の自分だと言われているみたい。
「これが……僕?」
目を開けたとき、僕は別の存在に成っていた。僕自身が普段の僕とは違う存在だと認識していた。
一番目立つ変化は服装だろうか。イメージは混沌と螺旋。
黒と白が絡み合う、不思議なデザインのマーメイドドレス。でも服というより、肉体の一部という方がしっくりくる。
首に豪華な装飾が色々ついている。これ一つで車や家を買えそうな美しいものだ。
豪華な見た目と莫大な力を兼ね備えている。大きな舞台の主役にでもなったかのようだ。
そして僕は今、明らかに女性用の服を着ている。では僕が女装をしているのか?そういうわけではない。
僕自身が女になっている。股の間の感触がないし、僅かながら胸の起伏もある。
うなじに触れる感触からして、髪も少し伸びている。姉さんと同じくらいの長さだろうか?
『やった、やったよ。私は賭けに勝った。勝ったんだ。
器は壊れてない。霊装もちゃんと顕現できてる。
うん、これなら少し戦うくらいできそう。』
謎の存在の飛び跳ねて喜んでいそうな声が響く。何か怖いことを言っている。
聞き逃しちゃいけない重要なことを言っていると思う。でも、それを考えている余裕はない。
何故なら目の前に一番驚くべき光景が広がっていたから。
僕自身の変化は重要だけど一番ではない。正直、そんなことはおまけでしかない。
何故なら僕の目の前には天使が浮いていたから。僕はそれが信じられなかった。
見知らぬ天使を見たから驚いたわけではない。
それは普段何度も見ている形をしていた。魔女が持つ箒のようなデザイン。
「
雰囲気が七罪のものとは全然違う。まがまがしいオーラを放っている。
白と黒の粒子が周囲を舞い、別物であると主張しているかのようだ。でも、それは間違いなく七罪の天使、
『さぁ、七罪を救うよ。』
不気味さと幼さが同居する声は僕の背中を強く押した。
逆転の一手は盤面に打ち込まれた。ここからが本当の戦いだ。
かなり匂わせをしていたので、気づいている人も多いと思います。愛君は精霊の力を持っていました。でもこの展開が予想できた人は、いないのではないでしょうか?
創作者は読者の想像を軽く超えるべきだと思っています。この作品は読者の想像を越えられたでしょうか?
ここから琴里編はクライマックスに入ります。どうかお付き合いお願いします。
今回の裏話は謎の天使について。
あんまり話しても面白くないので簡単に説明しておきます。今回の技は応用技です。この天使には大きく分けて三つの技があります。一つは基本能力。一つは基本能力を攻撃に応用するもの。そして最後の一つがこれです。一体どんな能力でしょうね?