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これにて戦いは決着です。それではどうぞ。
四糸乃たちが戦う戦場に戻ってきた。パッと見ただけで戦況が大きく変わっていると分かる。
一番大きな変化は、姉さんが磔刑のような状態になっていることだ。氷の塊に四肢が埋まっている。四糸乃がやったのだろう。
暴れているから生きていることは分かる。その上、《ホワイト・リコリス》まで外させている。
《ホワイト・リコリス》の残骸が氷漬けになっている。姉さんはもう戦闘に参加できないだろう。
姉さんを殺さずに完全に無力化している。四糸乃の優しさと実力がよくわかる。
そして、戦闘はエレンを倒すものになっている。雑魚はいるけど、四糸乃の戦闘に参加などできない。
四糸乃は精霊の中でも上位の戦闘能力を持っている。危険度が低いのは本人の優しい性格故だ。
本気で戦ったら、DEMの雑魚なんて余波で倒してしまう。命を懸けた上で妨害にすらならない。
だから、ただの傍観者になっている。しかし、結果的にそれで正解だったな。
僕の妨害になっている。こいつらがいなかったらエレンに不意打ちができたのに。
……いや待て。上手くこいつらを使ったら、エレンに不意打ちできるか?
「
砂に変えて殺すことが目的――ではない。目的はそれによって発生する砂煙だ。
「一体何が起きたのですか?」
エレンは混乱している。砂煙を煙幕のように使用したのだ。
これでエレンの視界を塞ぐことができた。僕はエレンの位置を確認しているし、砂煙の動きからある程度移動も察知できる。
これなら不意打ちも通用するだろう。改めて
大量いた雑魚を全部砂にしたからかなり大きな砂煙ができている。無風だから、砂煙はあまり流されない。しっかり狙って確実に当てる。
「
エレンに向けて放った攻撃は何かに当たる感触があった。誤射を考えて石像に変身させたけど、どうだ?
「このような目くらましは無駄です。攻撃が来ると分かっていれば、避けるのは容易い。」
いつの間にか、エレンは大きく移動していたようだ。全然違う場所から現れた。
確かに僕がイメージした石像はあった。でも、エレンが何か身代わりを立てたのだろう。
多分、
しかし、それを僕に一切悟らせずにやるとは。相変わらず厄介な奴だ。
「確かに、世界最強の
一番のチャンスである不意打ちは避けられた。間違いなく、エレンは強敵だ。
「……あなたは何者ですか?見たことがない個体ですね。」
やはり、今の僕は鳶一愛として認識されないようだ。こいつに情報を与えるのも癪だから、適当に言っておくか。
「別に何者でもいいだろう。ただただ、エレン・メイザースを……殺したいだけの精霊だよ。」
殺意と共に霊力が湧き上がってくる。シンプルに応えてくれる力は便利だ。僕はこの力でエレン・メイザースを殺す。
「そうですか、ではあなたも狩らせていただきます。」
エレンはレイザーエッジを構えて僕を睨む。お前はそうするだろうな。
本当に腹立たしい女だ。血管が切れそうになる。
『この女、本当にむかつくね。生まれたことを後悔するまで、苦しめてやろうよ。』
頭の中で謎の存在の殺意に満ちた声が響く。先ほどの
明確に敵に向ける殺意。エレンに届かないのが残念だ。
でも、僕も負けていない。僕も殺意が抑えきれないのだ。
「殺すぞ、エレン・メイザース。」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。これほど人を殺したいと思ったのは初めてだ。殺意が無限に溢れてくる。
応えるように
やはりこれは七罪の天使ではない。七罪の天使ならこんな応え方はしない。
「……あなたは危険ですね。《プリンセス》や《ハーミット》よりもずっと。」
エレンは警戒を強めた。僕を脅威として認識したようだ。
ただでさえ状況はこちら寄りだ。エレンに余裕などない。
エレンは既に真那、十香、四糸乃と戦闘中。その上僕まで加わるのだから、あのエレンですら苦戦は免れない。
「そこの三人。僕はエレンの敵だ。別に信用しなくていいから、エレンを倒すまで協力しろ。」
ここでバトルロワイヤルが始まったらエレンに勝てるか分からない。味方と認識されなくてもいいから、敵だと思われないようにしないと。
今の僕は四糸乃たちにとって、いきなり現れた謎の精霊だ。どちらかというと敵寄りになる。
エレンに比べたら相対的にマシと思わせないといけない。少なくともエレンを殺すまでは。
「分かりました、協力します。なんとなく、信頼できる気がします。」
「そうだね、よしのんも一緒に戦ってあげるよ~。」
いの一番に四糸乃とよしのんが協力を受け入れる。
「分かったぞ。お前は嫌な感じがしない。一緒に戦おうじゃないか。」
十香が追従するように協力の意思を示す。本能型の十香らしい判定法だ。
「正気でいやがりますか?背後からバッサリいかれるかもしれませんよ。」
真那だけは強い難色を示す。まあ、三人中二人信じてくれただけ十分だ。
「背中を預けなければいいだろ。エレンを倒すために互いを利用する。それだけだ。」
あくまで関係はビジネスライクに。向こうが信用してくれるなら、連携を取ればいい。この三人なら変な騙し討ちはしないだろう。
「……仕方ねーです。エレンの首を取るまで、テメーは狙わないでやりましょう。」
真那は妥協で僕のことを認めた。これで背中の心配は要らない。さあ、今度こそ僕たちの
♦♦♦
僕の戦闘能力は大幅に向上した。今の僕と《ノルン》を装備した僕が戦ったら、今の僕が圧勝するだろう。
それでもエレン相手に接近戦ができるほど強くない。だから、前衛は真那と十香に任せている。
僕は隙を見て
「ちっ、面倒な相手ですね。」
エレンにとってはかなりストレスだろう。真那レベルの相手をしながら、僕の警戒もしないといけないのだから。
だから、僕の攻撃は絶対に当たってはいけない。極限の戦闘中はこういうのが一番嫌がられるのだ。
別に何度も雑な攻撃をしなくてもいい。
「
四糸乃が氷塊を連射して攻撃する。地味に厄介な攻撃だ。
四糸乃の攻撃は当たれば終わりということはない。でも、範囲が広く簡単には防げない威力だ。
四糸乃は純粋に総合力が高い。僕とは違う意味で厄介だ。
「はぁっ!」
「甘い。」
エレンは十香の攻撃をかわす。どうして
限定霊装の十香は火力不足でエレンに攻撃が届かない。はっきり言って脅威になっていない。エレンの
だから、僕が無視できないものにしている。十香を遮蔽物にして攻撃を仕掛けるように工夫している。
エレンは十香を無視すると、僕の攻撃が当たってしまうのだ。時折そう言った攻撃を混ぜることで十香も厄介にしている。
さっきの肢を全部引きちぎられた虫のような気分ではない。ちゃんと手ごたえがある。
確実にエレンを追い詰めている。このままならエレンを殺せる。
でも、いつまでもこの状況が続くと限らない。あのウェストコットなら何か策を打ってくる可能性もある。
早く決着をつけたい。もう一手何か欲しいな。何か利用できそうなものはないか?
視界の端に荒れたプールが見える。姉さんの攻撃のせいだろう。半分瓦礫の山になっている。
水か。利用できるな。
「四糸乃、水を操れるか?あのプールの水を全部。」
四糸乃の能力で操れるのは氷だけではない。水も能力の範囲だ。
霊力を使用して、雨を呼んでいた。どちらかというと、四糸乃の能力は水分操作と言った方が正しいかもしれない。
「大丈夫です。」
「だったら、エレンに向けてぶっかけるんだ。そのまま氷漬けにしてしまえばいい。」
単純で効果的な作戦を提案する。馬鹿でも思いつく作戦だけど、四糸乃がやると洒落にならない規模となる。
「分かりました。」
「おっけ~。おいたをする子はお仕置きしちゃうよ~。」
四糸乃もよしのんも迷わず攻撃を決断した。よしのんはふざけた言い方をしているけど、結構怒気が込められている。
人に向けていい攻撃じゃないと理解している筈だ。それでも躊躇わない。
よしのんだけじゃなく、四糸乃も怒っている。
「行きます!」
四糸乃はプールの水を龍のようにうねらせて、エレンに差し向ける。その攻撃が当たったらそのまま四糸乃の氷結の餌食だ。
「そんな露骨な攻撃を喰らうとでも?」
エレンは易々と避ける。そうだな、お前はそうすると思っていたよ。
「
避けた隙を狙って攻撃する。わざわざ大声で作戦会議していたのも警戒させるためだ。
四糸乃には悪いけど、今の攻撃はただの囮だ。目的はエレンの隙を作ることにある。
「くっ!」
エレンは僕の攻撃も避ける。これで行けたらと思っていたけど、やっぱり厳しいか。
強敵が相手なら、一手目二手目は避けられて当たり前と思わないといけない。
二手目に一番厄介な攻撃を持ってきたのもわざとだ。僕の攻撃を本命と
この攻撃まで含めてエレンの隙を作るためのものだ。本命は別にある。
「その首を頂きます、エレン。」
「真那⁉」
真那が既にエレンに接近している。 真那なら事前にあれこれ言わなくても、この隙を逃さないと思っていた。
本命はお前だ、真那。決めろ。
「はぁっ!」
真那の刃が体勢の崩れたエレンに振り下ろされる。エレンは避けようとするけど、今度こそ避けきれない。
エレンの胸元を大きく切り裂いた。エレンの血が飛び散る。
首を狙って避けられてしまった。でも、確かなダメージを与えた。
今までエレンは苦戦しつつも無傷だった。そのエレンに攻撃が届いたのだ。
真那は追い打ちをかけようとするけど、エレンはすぐさま距離を取った。
CRユニットについた血痕を見て顔を歪める。いい顔だ。
「やってくれましたね、真那。私の身体に傷をつけた人間は二人目です。いずれあなたの刃は私に届き得る――そう思っていましたが、想像より早かったですね。」
「ふん、上から目線の評価なんて嬉しくもなんともねーですよ。」
エレンは高慢な評価を下す。真那は嫌そうな顔で受取拒否した。
「そして、未確認個体。今の攻撃の立役者はあなただ。警戒が足りていなかったようです。あなたはこの世で二番目に危険な精霊です。」
二番目か。一番危険な精霊は崇宮澪だろうな。
実質的に、最も警戒される精霊になったと思っていい。崇宮澪は最後まで出てこないのだから。
でも、その言葉に意味はない。
「これから死ぬ奴に警戒されて何が怖いんだ?」
エレンを逃す気はない。こいつはここで殺す。
「言ってくれますね。」
煽りに弱そうなエレンは、青筋立ててレイザーエッジを構えなおす。これで逃げずに戦ってくれそうだ。
『そこまでだ、エレン。』
戦場に場違いな声が響いた。人間味を感じない不気味な声。
「アイク⁉」
エレンの視線の先にはバンダースナッチが立っている。そいつからアイザック・ウェストコットの声が流れている。
DEMの代表にして、今回の事件の黒幕。延いてはデート・ア・ライブの全ての事件の元凶でもある。
『今日のところはここまでだ。得るものは十分に得た。戻っておいで、エレン。』
「しかし……」
ウェストコットはエレンが退却するように促している。折角煽って戦闘を継続させるよう、思考を狭めたのに。
『これだけの精霊を相手にするには準備不足だ。ここまで精霊が集まっているとは、完全に想定外だった。真那が裏切ってしまうことも。
今無理をするより、しっかり準備をするべきとは思わないかい?――それに手は既に打っている。』
「……わかりました。」
ウェストコットはエレンを丸め込んでしまった。本当に気持ち悪い手腕だ。
エレンよりもおぞましい、この世に存在しちゃいけない邪悪だ。どうせ姉さんを騙したのもこいつだろう。
少し同情していた自分が馬鹿らしくなる。こいつは生きてちゃいけない。
『ねえ、殺そう。あいつを殺そう。
七罪もお姉ちゃんも、あいつのせいで苦しんだんだよ。何億倍、何兆倍にもして返してやらないと、気が済まないよ。
謎の存在がエレンのときより何段も強い殺意を放つ。言葉から遊びが消えた。
こいつもウェスコットを殺す相手として意識している。エレンのように害虫扱いしていない。
こいつとは妙に気が合う。僕も賛成だ。
「ウェストコット、エレンの次はお前だ。姉さんに手を出したってことは、殺されたいんだよな?その望み叶えてやるよ。」
『姉さん、か。くっくっくっ、やっぱり君は
僕の言葉を聞いて笑っているなんて。やっぱりこいつは狂っている。
見るからに激怒している相手を煽り倒すなんて。余程苦しんで死にたいのだろう。
こいつの処刑のアイディアが無限に湧いてくる。どれがいいだろうか?
古代ローマの処刑なんてお似合いじゃないだろうか。残酷なものが色々揃っている。
こいつに楽な死に方をさせないのは決定だ。精々苦しめてやろう。
……しかし、今なんと言った?僕が鳶一愛だと認識できているということか?
「バンダースナッチにカメラでも仕掛けていたか?部下が殺されるシーンをこんなに早く確認するなんて、趣味が悪いな。」
『その察しの良さ。間違いないようだ。簡単に騙された君の姉とは大違いだ。』
皮肉を言ったつもりが、それ以上の皮肉で返された。
姉さんを愚弄するなんて。こいつやっぱり頭がおかしいな。
『ふざけてるよね。きっと死にたいんだよね。お姉ちゃんを馬鹿にするなんて。』
謎の存在も同じように切れている。どうせDEMの支社にいるだろうから、そのまま乗り込んでやろうか?
『ふふふ、君とお喋りに興じるのも悪くない。だが、生憎私は忙しい。本題に移らせてもらうよ。』
忙しいなら僕の前に来ればいいのに。永久の休みを与えてやるぞ。
『結論から言うと、君の姉オリガミはこのままだと一週間ほどで死ぬ。』
「……は?」
こいつは今なんと言った?姉さんが死ぬ?
『Ms.オリガミには不完全な魔力処理を施した。そのままでは一週間ほどで脳死状態になる。』
こいつは何を言っている?いや、言っている意味が理解できないわけではない。
魔力処理は脳に特殊な処理を施して、
ましてウェスコットは脳に関する実験を山ほどやっている筈だ。実行するだけの技術力も持っていて、何も不思議ではない。
頭の中がどうなっているのか解剖したいだけだ。どうしたら、こんなふざけたことを実行できてしまうのか。
『助けたければ、DEMに来たまえ。適切な魔力処理をやり直せば、君の姉の寿命を延ばすことができる。』
「……自分で削っておいて、何を言っている?それに、適切な魔力処理とやらを施した上で姉さんは
助けるようなことを言っているけど、姉さんに変な処理をしたのはこいつら自身だ。マッチポンプに過ぎない。
それに、姉さんは既に魔力処理で寿命を削っている可能性が高い。寿命が延びると言って、一週間が一年になりましたとかやりかねない。
『それでも、君の姉を助けられるのは私だけだ。魔力処理の仕様書がなければ、エリオットでも治せないだろう。』
先回りして、手を潰してくる。僕らの背後にウッドマン議長がいるなんて把握済みか。
『君であればDEMの門は開いている。何時でも訪ねてくるといい。』
それを合図にエレンは撤収を始めた。
「待……。」
エレンを止めようとすると身体に激痛が走った。身体が割れるかのような、経験したことない痛みだ。
存在そのものが否定されているかのような気すらする。一体何が起きている?
誤ってラインを越えてしまったのではない。気づいたら既にラインを越えていたって感じだ。こんなに急に来るものか?
『ちっ、こんなときに限界が来たのか。……いや、無理してやったにしては持った方か。』
謎の存在はこの痛みについて、何か知っているようだ。ずっと不穏なことを言い続けていたけど、やはり危ないことをしていたな。
『ここから先、天使は絶対使わないでね。使ったら多分死ぬよ。』
「……そうか。」
リスクがあることは薄々察していた。ただの人間がいきなり精霊の力を使って、何の代償もない方がおかしい。
恐らく僕は既に何かを支払っている。とんでもない何かを。
なんとか、エレンが見えなくなるまで耐える。エレンが見えなくなったと同時に、僕は意識を失った。
これで決戦はひとまず終わりました。しかし、琴里編はまだ続きます。第一部の終わりはすっきりとしないと。
今回の裏話をしましょう。愛君の真那の印象について。
愛君は結構真那のことを好意的に思っています。シビアな考え、
味方サイドに入ってからは受け入れたいと思っています。しかし、今までの関係から面倒なことに。真那からの好感度は未だマイナスです。