ヒロインは七罪   作:羽国

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まだ数話しか書いてないくせに大分空いてしまってすみません。
『一人でも読んでくれる人がいるかな』と思ったら感想二つも頂けて大変嬉しく思っています。
自分も読む側で作品が急に更新を止めてしまって哀しい思いを何度もしました。読者の皆様がそんな思いをしないように、応援してくださる方がいる間は頑張ります。



初めてのデート

「ここが来禅高校ね。校舎は広いし、建物は新しい。結構良い学校だと思うわ。」

 七罪が楽しそうに来禅高校の校舎を眺めている。昨日空間震で半壊した校舎を。

 本来、七罪が学校を楽しそうに眺めることなどない。何故なら、七罪は過去のトラウマで学校が大嫌いだから。

 本人に記憶はないが、苦手意識は根底に残っている。学校に行くか聞いたら、猫のように威嚇するくらいには。

 実は琴里と同じ学校に通うことを以前考えた。僕も籍だけは残っているから。その時、びっくりするほど拒絶された。

 中学校に通うメリットが薄いから、特に支障はない。しかし、七罪の学校嫌いは相当だ。

 その七罪が学校にわざわざ来ている。変身してポジティブになっているとはいえ、これはどういうことなのか。それには理由が有る。

 今朝僕はこっそりと家を出ようとしていた。原作通りなら今日は重要なイベントが起こるからだ。それは《プリンセス》改め十香と士道の初めてのデート。

 士道とデートの約束をした十香は、空間震を起こさずに来禅高校に現れる。休校である事を知らずに学校に来た士道は、十香と再び出会いデートすることになる。

 そして、徐々に仲を深めていく。原作一巻の中でもかなり大事なイベントだ。

 わざわざ起こると知っているイベントを逃したくはない。そう判断してこっそり来禅高校に行くと決めていた。フラっと寄って偶然二人を見かけた体で。

 いきなり来禅高校に行ったら、七罪や琴里に未来を知っていることを予測されかねない。壊れた高校を見に行く不登校の中学生なんて不自然でしか無い。

 絶対に秘密という訳ではないが、可能なら未来を知っていることは伏せておきたい。多少の思惑も有って、未来の出来事は七罪にも秘密にしている。

 だから、朝七時に家を出て来禅高校で士道が来るまで待つつもりでいた。しかし、どういう訳か七罪がお出かけの準備万端で待ち構えていた。大人モードに変身して、何時でも外出出来ますよと言わんばかりに。

 同じ部屋に住んでいるから、こっそり行くことはできない。何かと理由をつけて一人で行こうとしたが、口から出まかせは全部ねじ伏せられた。そんな訳で、諦めて一緒に来禅高校へ来た。

「あら、士道君が来たわね。」

 七罪は学校に来た士道を見つけたようだ。制服を着ている。原作通り、臨時休校になっていることに気付かなかったのだろう。校舎が半分無いから、絶対授業は無理なのに。

 七罪は士道を見ていると、驚いて目を丸めた。幻想的な鎧を纏った少女、十香が現れたからだ。

「あれって十香ちゃんよね?」

 七罪は僕と十香を交互に見ながら目をぱちぱちさせている。

 静粛現界は知っているから、十香が空間震を起こさずに登場したことに驚く筈がない。自分自身が頻繁に静粛現界しているのだし。

 多分、十香が静粛現界するタイミングでここに居合わせた僕に驚いているんだろうな。と言うか、それしかない思いつかない。

 十香は士道と何かを話している。ここからでは内容は聞こえない。だが、原作通りならデートに行きたいと十香がごねている筈だ。

「割って入ったらデートの邪魔になる。程々の距離を保つぞ。」

「……ふ~ん。まあ、良いわ。」

 僕の言葉に七罪は意味ありげな返答をする。とりあえず言う事を聞いてくれそうだ。しかし、後で追及は免れないかもしれない。

 十香に引きずられるように士道は連れて行かれた。僕たちは距離を空けつつ付いて行った。

 

♦♦♦

 

 健啖家である十香は目に映る食べ物を全て胃袋に収める。お祭りでもやっているのか、フランクフルトや焼きイカのような出店もある。

 僕らもそれらを少しつまみながら二人を追いかけた。

 この辺まで来たら、偶然見かけたという理由も通る。琴里に連絡して士道と十香がデートしていることを伝えた。

 琴里はたっぷりとした沈黙の後に「は?」という一言を溢していた。あの司令官様にしては珍しい驚きようだった。ぜひその時の顔を拝みたかった。

 霊力観測装置で確認をした後、琴里は即座に行動した。ラタトスクメンバーに指示して、士道の支援を全力で行った。

 高級レストランを貸し切り、出店を用意して十香のご機嫌取りに勤しんでいる。大人のホテルとかいうとんでもないサポートまで混ぜていた。勿論士道(チキン)は建物にすら入らなかった。

 そして、このデートを監視するラタトスク以外の影も見つけた。僕の姉、鳶一折紙だ。

 姉さん以外のASTも動き始めている筈だ。

 さて、ここからが問題だ。原作ではこの後、士道と十香が展望台に行って十香の封印を試みる。

 そのタイミングでASTに十香が撃たれて士道が身代わりになる。士道を撃たれて激怒した十香がAST、姉さんを蹂躙しようとする。

 しかし、実は精霊の力を秘めている士道は一回の致命傷は修復できる。士道が十香を止めて、無事封印と言う展開だ。

 ここでの問題はASTの妨害をするか否かだ。昨日は妨害をした。それはASTの介入が有ろうと無かろうと、特に変わりないと判断したからだ。今回は事情が異なる。

 ここで士道が撃たれることには二つの重要な意味が有る。

 一つは十香にショックを与えて士道への好意を強く自覚させること。メインヒロインの十香の行動は物語の展開にも大きく影響するから、士道への好感度を下げることは可能な限りしたくない。

 と言っても現時点でかなり好感度が高いから、こちらの問題は最悪無視できる。

 欠かせないのはもう一つ。それは、士道に自身の再生能力を自覚させることだ。

 士道はこの日初めて再生能力を使用する。この能力は次の精霊攻略で必要だ。士道が知っておかないといけない。だから、今回はASTの妨害はしない。

 姉さんが先ほどから二人の後を尾行している。琴里は些事だと考えて、実力行使はしていないのだろう。

 だから、こちらも無視する。そうしたいのだが。

「あれって鳶一折紙よね。さっきからずっと付いて来ていないかしら?」

 七罪がひっそりと伝えてくる。僕は始めから付いて来ていると知っていた。だから、気付くことができた。

 教えても居ないのに、どうして七罪は気付くことができたのだろうか?

「そうだね。姉さんだと思うよ。」

 僕は平静を装って適当に答える。しかし、嫌な予感は消えない。

「士道君達のデートを邪魔しに来たのかしら?面倒だけど相手してあげましょう。」

 これは不味い。七罪は邪魔できないようにASTの相手をするつもりだ。

 七罪が動けば、ASTは確実に撃退される。そうなれば原作通りにならない。致命的ではないが、できれば原作と違う展開は避けたい。

「待ってくれ、七罪。」

「どうしたのかしら?」

「ここで妨害はしたくない。」

「……どうして?」

 七罪は訝しんでいる。当然だろう。僕と七罪は士道をサポートすることで話がついている。ここでASTを野放しにすることはその逆の行為だ。

 かと言ってここでその理由を話せば、七罪に未来のことを話さなければいけなくなる。そうすれば、七罪を危険に晒すことになりかねない。

「言えない。けど、それが士道の為になるから。」

「……士道の為ね。愛、あなた私に何を隠しているの?」

 顔を俯けて話す僕に対して、七罪は目を細めて追及する。

 今朝から思っていたが、七罪には僕に思う所が有るのだろう。だから、蚊帳の外にされないように、僕の事を注視していた。

「少しだけ時間をくれ。必ず七罪には話すから。」

 返答になっていない。それでも、今はこうするしかない。

 僕の持っている情報は重要で危険だ。うっかり敵側に漏れてしまえば即チェックメイトになる可能性も十分有る。

「……この街をエスコートして欲しいわね。遊べるところや美味しいお店とか。」

「何を言って……?」

 突然関係のないことを話し始めた七罪に困惑する。

「それで一旦目を瞑ってあげる。今回のだんまりには。」

 七罪は人差し指を唇に当てながら微笑む。今の彼女に先ほどまでの険しい雰囲気はない。

「それってデートってこと?」

 目の前にデートをしているカップルが居たから、つい言葉にしてしまった。だが、定義的にあっているだろうか?僕と七罪は恋仲ではないけれど。

「そうね。デートに連れて行ってくれるのかしら?」

「勿論いつでも。ありがとう、七罪。」

 何とか七罪の機嫌を取り戻すことができた。七罪は軽やかにスキップして、上機嫌だった。

 

♦♦♦

 

 その後、士道と十香とのデートは無事続いた。今二人が居るのは士道の選んだベストポジションの展望台だ。街を一望することができる。

 現実的に考えても、リーズナブルで移動で時間も稼ぐことができる。学生のデートスポットとしては良いのではないだろうか。

 十香はゲーセンで手に入れた黄な粉パンのクッションを宝物のように抱えている。士道はチェリーボーイらしく、戸惑いながらも十香といい雰囲気を作っている。

 恋愛初心者と純粋無垢の組み合わせがベストカップルだったのだろう。

 デート中の二人は気付いていないが、ASTも構えている。姉さんが隠れながら狙撃銃で狙っている。

 琴里も気付いている。だが、ASTは動かないと判断して戦闘行為は行っていない。

 そして、ついに時は訪れる。十香は世界の素晴らしさを知って、自分が死んだ方が良いのではないかと考える。そんな十香に士道が救いの手を差し伸べる。

「他の奴らがお前を否定するなら俺はそれりずっと強くお前を肯定する。握れ、今はそれだけでいい。」

 十香が嬉しそうに士道の手を取ろうとする。これで終わればハッピーエンドだ。しかし、そうは行かない。

「十香!」

 十香の手が士道の手に触れようとしたその瞬間、姉さんの持つ狙撃銃から弾丸が放たれる。

 弾道は十香を貫くようにまっすぐ伸びている。このままでは十香を撃ち抜くだろう。

 しかし、その前に士道が気付く。士道が十香の身体を強く押して危機を回避する。代わりに士道の身体が弾道に晒されることになった。

 突然の士道の行動に尻もちをつく羽目になった十香。文句を言おうとした十香の目に移ったのは、胴体が貫かれた士道の無残な姿だった。

「シドー。」

 十香の小さく悲しい声が静かな展望台に木霊する。

「シドーが居てくれたらもしかしたらと思った。凄く大変で難しくても、できるかもしれないと。でも、駄目だった。やはり駄目だった。」

 十香は制服の上着を脱いで倒れている士道にかける。死者を悼み弔うように。

「世界は私を否定した。」

 そして、少女の悲しみは復讐心へと転ずる。十香の霊力が災害となって世界に降り注ぐ。

神威霊装・十番(アドナイ・メレク)

 十香から溢れ出す霊力が形を成して霊装へと変換される。圧倒的な霊力が物理的な威圧となる。

鏖殺公(サンダルフォン)

 十香が弾丸の飛んできた方向をちらりと見る。姉さんのいる方向だ。十香は士道の命を奪った相手を見つけ出し、殺す対象に狙いを定めた。

 地面を蹴ると地割れが起こり中から玉座が現れる。そして、玉座から武器を引き抜く。

最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)

 引き抜いた鏖殺公(サンダルフォン)で玉座を切り裂く。切り裂いた玉座の欠片が鏖殺公(サンダルフォン)に吸収されて本来の性能を取り戻す。

「よくもよくも、よくもよくもよくもよくもよくも」

 十香が破壊の権化たるその力を開放する。その力は文字通りに山を切り裂き地形を変える。

「貴様だな。わが友を。我が親友を。シドーを殺したのは貴様だな。」

 十香は姉さんの元まで移動して姉さんを睨んでいる。士道を殺した姉さんを殺すまでその怒りを収めることはないだろう。

 逆に姉さんは茫然としている。十香と言う化け物に怯えているから、ではない。

 姉さんは士道を殺した。自分を救ってくれた恩人を。自らの手で殺した事実に絶望している。

「殺して壊して消し尽くす。死んで絶んで滅に尽くせ。」

 遂にその力が人間に向かって放たれる。あんな力が人に向けられたら塵一つ残さず消滅するだろう。そんなことをさせる訳にはいかない。

 十香(ヒロイン)にこれ以上の罪を犯させないために。何より姉さん(家族)を守るために。

衛星(サテライト)、シールド展開。」

 姉さんの前にシールドを展開する。衛星《サテライト》は正六角形を描くように平面的にシールドを貼る。正面から受けず、攻撃を斜めに逸らすように。

 頭をハンマーで殴られたような衝撃が何度も襲う。顕現装置(リアライザ)を動かしている脳に負荷がかかっているのだろう。

 人の身で精霊に抗っているのだから当然だ。むしろ、精霊の中で最強格の破壊力を前にして、これで済んでいるなら御の字だ。

「手を貸すわよ、愛。」

 七罪が《ノルン》に手をかける。その手からは暖かい力が送り込まれて来る。その力が全身を包んで、負担を和らげて力を漲らせる。

 これが、《ノルン》のもう一つの能力だ。霊力与えることで霊力を顕現装置(リアライザ)のエネルギーに変換することができる。

 《ノルン》に特別に付けて貰った能力だ。この能力を使えば性能は倍増する。

 これで何とか十香の攻撃を耐えられるだけのバリアを貼ることができた。十分も持たないだろうけど、それだけ有れば主人公が駆けつけて来てくれる。

「あーーーーー。」

 士道が泣き叫びながら墜落している。シールドに精一杯で士道まで気が回らなかった。けれど、再生してフラクシナスに回収されて再転送されたのだろう。

 上空に転送されたせいで飛行能力の無い士道は情けない姿を晒している。お兄ちゃん大好きっ子な癖に天邪鬼な妹様だ。

「シ、シドー!」

 十香は驚嘆する。胴体に風穴を開けられた人間が生きていたら驚くだろう。

 姉さんを放置して士道をキャッチしに行く。元々、士道を殺されたことに対する復讐なのだ。士道が生きていたら士道を優先するだろう。

「シドー、本物か?」

「ああ、だと思う。」

「シドー、シドー。」

 困惑しながらも苦笑いする士道に十香は泣きじゃくる。士道も姉さんも十香も無事でハッピーエンド、と言いたい所だけどそうは問屋が卸さない。

「十香、これは!」

最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)の制御を誤った。どこかに放出するしかない。」

「それは駄目だ。絶対駄目だ。」

「どうしろと言うのだ。もう臨界状態なのだぞ。」

 最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)からは霊力が溢れていて今にも爆発しそうな勢いだ。その力を放ったら民間人への甚大な被害は免れないだろう。

「十香、俺とキスしよう。」

「何?」

 大変気まずそうな顔で士道が言葉を放つ。インカムの向こうで琴里が楽しそうにしている姿が簡単に思い浮かぶ。

「あっ、いややっぱ忘れてくれ。別の方法を。」

 十香の言葉を疑念だと思った士道は自らの言葉を恥じて撤回する。

「キスとは何だ?教えろ。」

 しかし、十香は疑念を覚えたのではない。そもそも、キスを知らない程に知識が不足しているだけだ。

「は?」

「早く教えろ!」

「その、唇と唇を合わせて……」

 有無を言わさずに問いただす十香。その勢いに負けて説明を始める士道。士道の言葉が言い終わらない内に十香はキスを実行した。

 知らないとは恐ろしいものである。キスをあんな風にできてしまうのだから。

 十香がキスをするとあれだけ周囲を飽和していた霊力が霧散する。

 最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)も消え去り、同時に十香の霊装も消滅した。封印成功だ。

「すまん。これしか方法が無いって言われて、それで。」

「離れるな。見えてしまうではないか。」

 封印されて霊装が消えた十香は全裸になる。知識としては知っているが、僕がそれを見ることは無かった。何故なら。

「女の子の裸を見ていいのは恋人だけって相場が決まっているのよ。」

 七罪によって目を塞がれているからだ。十香の霊装が消え始めた辺りで、七罪は先回りして僕の目を塞いだ。七罪には予め精霊の力を封印したら全裸になると伝えていた。だから、初めから封印したら、そうするつもりだったのだろう。

 別に十香の裸を拝見したい訳でも無かった。だから、僕は抵抗せずに七罪の目隠しを受け入れた。

 周囲の警戒は衛星(サテライト)を使ったら十分だし。

 これにて、最初の精霊攻略完了。士道の物語の序章は終わりを迎えた。




やっと一巻の話が終わりました。小説を書くのって大変ですね。ストーリーは思いついても実際に書いてみると全然進まない。考えているプロットを全部書き起こせるのはいつの話になるのでしょうか。

ここから、原作と違う展開が増えていきます。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

1月6日追記
裏話を追加します。今回は愛君の持っている情報について。彼は原作知識を持っていますが、その危険性を理解しています。だから、情報を三段階に分けています。

一段階目がそこまで重要ではない情報。精霊の能力の概要や本条二亜がDEMに捕まっていることなど、頑張ったら調べられるレベルの内容です。これでも他の人からしたら重要なので、ラタトスクとはこの情報を取引材料にしています。

二段階目が確定している事実。精霊の能力の詳細や精霊の精神面について。一段階目だと狂三の能力の説明は「時間に関係している」。しかし、二段階目に入ると刻々帝(ザフキエル)の十二の能力と時喰みの城の詳細の説明が入ります。また、四糸乃がよしのんという特殊な多重人格もこれに入ります。この情報は七罪には共有しています。それと、交渉材料として利用することが有ります。

最後に三段階目は未来の出来事と始原の精霊関連。折紙が精霊になることや始原の精霊がやったことが該当します。ウェストコットとか始原の精霊にばれると危険なので、誰にも話していません。
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