ヒロインは七罪   作:羽国

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狂三さん大活躍の話です。やっぱりこの人は看板ですね。それではどうぞ。


狂三との交渉

「行かせられるわけないでしょ。」

 琴里はデスクを叩いて、僕たちの意見を全力で拒否している。

 デートの途中で気絶したけど、その日のうちに起きていたようだ。現在、休みを返上して全力で仕事に当たっている。

 その一環で僕と七罪の会話も聞いていた。そして、狂三のところへ行こうとする僕たちを止めに来た。

「あんたたち、本当に分かってるの?相手は時崎狂三よ。あの女は、あんたたちの霊力を狙っている危険な相手なのよ。」

 琴里は僕たちを睨みつけている。ちょっときついけど、これが琴里なりの優しさなのだろう。

「でも、狂三しか姉さんを救えない。」

「だから行くって?許可できないわ。」

 琴里が強い否定をする。僕たちの行動が無謀なものに見えるのかもしれない。

「琴里、何か勘違いしてない?」

「……何ですって?」

 七罪が琴里に冷たい視線を送る。普段よりも険悪な雰囲気だ。

「愛が決めて、私が同意した。もう決まったことよ。あんたが止める権利なんて、どこにもないわ。」

「……ふざけてるの?それが心配している相手への言い分?」

 七罪の言葉を聞いて琴里は声を震わせている。本気で怒っている。

「互いに利益があるから、私たちはラタトスクと手を組んでいるだけ。ラタトスクが鳶一折紙を治せない以上、自分たちで動くしかないわ。例え、ラタトスクを離反してでも。」

「……それ本気なの?」

 怒りを越えて訝しげな顔になった琴里。そこまで不思議だろうか?

「姉さんの治療は最優先事項だ。多少の危険は承知してでも、狂三と交渉しないといけない。」

「多少じゃないって言ってるのよ!何考えてるか分からない相手なんだから。」

 僕たちと琴里の間で認識のずれがある。僕たちは狂三の目的を知っているから、行動方針を思い描ける。

 対して、琴里は狂三が何を考えているか理解できていない。琴里は何故か士道を殺そうとした精霊としか認識できていない。

 この認識のずれは大きい。人間関係に溝を作るのに十分だ。

「勝算はある。狂三が交渉のテーブルに乗る可能性は高い。七罪も同じ意見だ。」

「だったら、その中身を説明しなさいよ。二人だけで納得されてもこっちは困るの。

 この際、始原の精霊について、何で知っているかはもう聞かない。でも、どうしてそれを狂三が欲しがるって分かるのよ!」

 琴里は安心の材料を求める。でも、それはラインを越えている。

「ラタトスクと協力をするとき決めただろ。僕たちの詮索をしないって。」

 僕はラタトスクに協力する代わりに、条件をいくつか提示した。その一つが僕たちの詮索をしないことだ。

 今の発言はそれを侵している。許容できない。

「普段なら黙ってるわよ。でも、あんたは普段通りじゃない。自分に何があったか理解しているの?」

 琴里は状況が違うと言っている。僕が精霊化した直後で危ないことをさせられないと。

「わかってるよ。でも、今動かないと姉さんは助からない。」

「だったらせめて、ラタトスクに協力させなさいよ。」

 琴里は懇願する。しかし、それすら聞き入れられない。

「これからする話はラタトスクには聞かせられない。協力は勿論、監視すらさせられない。」

 狂三に協力を頼む代価として支払うものは、始原の精霊に関する情報。当然、ラタトスクに聞かせられない。

 狂三に話すことすらかなりの危険を背負っている。琴里に聞かせるなんて論外だ。

「行かせた方がいいのではないかな、琴里?」

 手を差し伸べたのは令音さんだ。意外なことに僕たちの味方をしてくれる。

「止めても二人は行くだろう。ここで関係性を終わらせるよりも、目を瞑った方がいいと思うよ。」

「……。」

 琴里は奥歯を噛み締め、拳を強く握っている。反論できないのか。

「君たちも無理を言っていることは自覚しているのだろう?」

「それは勿論。」

 僕たちも積極的に喧嘩したいわけじゃない。譲れないから、ぶつかっているだけだ。

「君たちの我儘を聞くんだ。今度は琴里の我儘を聞いてあげるべきじゃないかな?」

「……内容次第ですが、それくらいなら。」

 上手い感じで妥協点を探したな。流石令音さんだ。

 僕たちばかりが我を通していてはしこりが残る。それを解消するため、僕たちに条件を課したのか。

 問題解決とは言えないけど、少しマシになった。

「……精々面倒な仕事を押しつけてやるから、そのつもりでいなさい。あと、絶対生きて帰って来なさいよ。」

 琴里は顔を背けながら言っている。何だかんだで甘い司令官様だ。

 早速、僕たちは狂三を探すため街に出た。

 

♦♦♦

 

 時崎狂三は常に情報収集のために分身体を放っている。だから、簡単に辿れると思っていた。

 原作で精霊化した姉さんは、そうやって狂三を見つけ出していた。僕も狂三の分身体を見つけたことがある。

 しかし、狂三側から接触して来るのは完全に想定外だった。

「お久しぶりですわ、愛さん、七罪さん。」

 霊装の狂三はスカートの裾を摘まんで、優雅に一礼する。見た目だけなら、まるで社交界のどこぞの令嬢だ。

「どうして?」

「どうして、とはご挨拶ですわね。わたくしを探していたのは、そちらでしょう。だから、わたくしの方から出向いて差し上げましたの。」

 さらりと言ってのける。しかし、僕たちはつい最近命のやり取りをした関係だ。

 狂三の意図が分からない。罠にかけようとしているのか?

 ……その上で僕たちは誘いに乗るしかないな。

「だったら案内してくれよ、本体のところまで。」

「ええ、ええ、勿論ですわ。」

 七罪とアイコンタクトを取る。頷き合って狂三の後を辿った。

 

 その先には廃ビルがあった。戦いになっても周囲を気にせず済む。おあつらえ向きな場所だ。

「ようこそ、愛さん、七罪さん。少し埃っぽい場所ですが、寛いでくださいませ。」

 狂三は楽しそうな笑みを浮かべる。あれが本体なのだろう。

「しかし、残念ですわ。今日はあの美しきお姿ではございませんのね?」

「……見てたのか。」

 美しきお姿というのは僕の精霊化した姿で間違いない。きっとどこかから分身体で見ていたのだ。

「うふふ、あんな面白いものを見逃すわけにはまいりませんわ。」

 狂三は笑みを深める。狂三のお気に召したようだ。

「ねえ狂三、一つ聞いて良いかしら?」

「なんでしょう?」

 七罪が質問を投げかける。この状況で何を聞きたいんだ?

「あんたもしかして、愛が精霊だって知ってたんじゃない?」

「え?」

 七罪の質問は驚くべきものだった。

 狂三が僕の力について知っていた⁉どういうことだ?

「どうしてそう思われたのでしょうか?」

 狂三は試すように聞き返す。七罪は目を鋭くしながら追及する。

「あんたの行動が不自然なのよ。異常なほど、愛を警戒していた。でも、愛が精霊だって知っていたなら……納得できる。」

 そういえば、狂三は僕の装備を念入りに壊していた。僕を戦場に出させないことが目的だった?

 それに、原作では見せなかったフラクシナスへの攻撃。僕を来禅高校に近づけさせないためのものだとすれば。

 狂三は前から知っていた?いつ、どうやって?

「ご想像にお任せしますわ。」

 答えは教えてくれない。でも、意味深な顔が答えを示している。

 想定外の情報だ。狂三が僕の精霊の力を知っていたなんて。

 狂三にその話を聞くべきか?……いや、今は姉さんが優先だ。

「狂三、お喋りは後にしよう。」

「あら、そうですの?もう少しお話してもよろしかったのですが。」

 狂三は飄々としている。どうしてこんなに余裕があるんだ?

 狂三は先の戦いで大量の分身体を失った。そして、僕たちと対面している。

 決して狂三にとっていい状況じゃない筈だ。それなのに、楽しんでいる節すらある。

「悪いが、時間が惜しい。本題に移らせてもらうぞ。」

「それは、それは。確かに時間は大事にしないといけませんわ。」

 自分のアイデンティティである『時間』という言葉を聞いて納得する。

 とにかく交渉開始だ。

「僕たちの要求はただ一つ。姉さんを治して欲しい。お前のことだから、状況は大体把握しているんだろ。」

 狂三はオーシャンパークに分身体を送り込んでいた。恐らく、概要は把握している。

 必要ならば説明をするけど、省略できるならその方が楽だ。

「存じております。折紙さんがアイザック・ウェストコットの姦計に嵌ってしまわれたのですね。本当に、あの男は碌なことをしませんわ。」

 狂三はウェストコットへの不快感を露わにする。ウェストコットは狂三の怨敵の生みの親になる。

 当然、恨みの対象だ。今の僕と同じで、殺せるなら喜んで殺すだろう。

「それで、わたくしに四の弾(ダレット)を使って欲しいと?」

「そうだ。」

 狂三は具体的な願いに辿り着く。この状況なら、すぐわかるか。

「それは構いません。ですが、慈善事業をするほどわたくしは優しくありませんわよ。愛さんにも何かして頂かないと。」

 普通なら厄介な一手だったのだろう。何を差し出さないといけないか、考えないといけないから。

 でも、僕は既に代価を用意している。争いを避けて代価を提供する方法ばかり考えていた。

 だから、想定を遥かに越えて僕に都合のいい状況だ。狂三の方からそういう話を持ち掛けてくれることは。

「こちらからは、始原の精霊に関する情報を提供する。」

「……なんですって?」

 狂三の顔が一瞬で変わる。今までの掴みどころのない態度ではない。

「知っているというのですか?始原の精霊について。」

「知っている。お前よりもずっと詳しく。」

 やはり、反応を示した。狂三は僕の一挙手一投足を見逃さんとしている。

 真偽を確かめたいのだろう。真実だとしたら、計り知れない価値を持つ情報について。

「一体どのような情報でしょうか?」

 狂三は震える声で確かめている。半信半疑というところか。

「崇宮澪の目的について。」

「……その名前を知っているのですね。」

 崇宮澪という名前を知っている人間は少ない。知っているのは三十年前の当事者と相当な情報通だけ。

 これだけで僕の立ち位置をある程度示している。少なくとも、口から出まかせではないと。

「二言はありませんわね?」

「ない。僕がこの場ではったりを言う人間に見えるか?」

 少しの間緊迫した視線のやり取りが続く。何とか繕った虚勢は、狂三のお眼鏡に適った。

「ふふ、ふふふふふ。素晴らしいですわ、素晴らしいですわ。こんなことが起こるなんて。想定外の事態ですが、これはこれで悪くありませんわ。」

 狂三は恍惚とした顔で、不気味な独り言を呟く。何やら企んでいたようだ。

 狂三の企みを打ち砕いた上で、機嫌を損ねなかった。上々ではないだろうか?

「それで狂三、引き受けてくれるの?」

「ええ、ええ、勿論ですわ。その取引、喜んでお受けします。」

 七罪の問いかけに狂三はご機嫌な様子で答えた。これで一段落だ。

「じゃあ、具体的な話を詰めないとな。」

「今晩はいかがでしょう?わたくしも早い方が好ましいですわ。遅いほど時間が無駄に消費されてしまいますから。」

 狂三は早急な対応を求めた。まあ、四の弾(ダレット)の使用を考えたら、早いほどいいだろう。

「それでいい、早速準備しよう。場所はどこがいい?」

「そうですわね……。病床の折紙さんを連れていくなら、ベッドのある場所が好ましいでしょう。来禅高校の保健室、などどう思われます?」

 狂三は意外ながらも、合理的な場所を選ぶ。来禅高校は狂三が起こした事件のせいで休校中だ。

 夜には誰もいなくなる。セキュリティもしっかりしていないだろうから、簡単に忍び込める。

 密会をするには案外適した場所かもしれない。

「それでいい。何か他に要望はあるか?」

「学校の立ち入りを許可するのは、愛さんと七罪さん、そして折紙さんの三人のみ。()()()()()()は止めて頂きたいですわね。」

 狂三が言っているのはラタトスクの介入のことだろう。本当に誰にも聞かれたくないということか。

「それは僕も望むところだ。今も無粋な覗き見はないだろう。」

「ええ、珍しく。」

 狂三はラタトスクの目に気づいている。気づいたうえで無視していた。今までは。

 でも、今日の話は口外できるものじゃない。狂三もその価値を重々承知している。

「今日の二十二時、来禅高校の保健室。それでいいな?」

「ええ、お待ちしておりますわ。」

 狂三は綺麗な笑みを浮かべた。

 

♦♦♦

 

 時刻は二十一時半。狂三との約束まで三十分ほど。

 既に学校に入り、目的地まで向かっている。姉さんを背負っての隠密は少し難易度が高い。

 でも、公立高校の夜中の警備なんてたかが知れている。大した障害もなく保健室に辿り着いた。

「お早い到着で感心しますわ。他人の時間を無駄にするのはよくありませんもの。」

 狂三は優雅に座って待っていた。紅茶でも入れていそうな余裕だ。

「そういうあんたもね。入念な準備までしているようだし、珍しくはしゃいでいるの?」

「……そうかもしれません。」

 七罪の指摘は学校の警戒態勢を言っている。狂三は分身体を使って校内を見張らせている。

 蟻の子一匹は入れないだろう。随分と念入りな対処だ。

「さて、話を始めようか。」

 姉さんを保健室のベッドに寝かせながら開始を促す。

「いえ、その前に折紙さんの治療を早く終わらせてしまいましょう。おいでなさい、刻々帝(ザフキエル)。」

 狂三は僕の返事も待たずに、自らの天使を顕現させる。時間を操る天使、刻々帝(ザフキエル)

 空間に溶け込む巨大なアンティーク時計。その姿を惜しみなく晒す。

「愛さん、どいてくださいまし。折紙さんを狙いにくいですわ。」

「あ、ああ。」

 狂三は既に撃つ気満々だ。その様子に気圧されながらも、姉さんから距離を取った。

四の弾(ダレット)。」

 文字盤から闇の力が狂三の銃身に流れ込む。そして、躊躇いなく姉さんに撃ち込んだ。姉さんに大きな変化が巻き起こる。

「わたくしとの戦いの直前まで、時間を巻き戻しました。」

 狂三は銃を仕舞いながら効果の内容を告げる。絶対に怪我をしていない、戦いの前まで戻すとは……。

「確認してもいいか?」

「どうぞ。」

 顕現装置(リアライザ)を使って確認すると、姉さんの状態は明らかに良くなっている。詳しい状態までは検査しないと分からないけど、きっと治療は終わった。

「交渉の前に天使を使うなんて。随分と気前がいいじゃない。」

 七罪は訝し気に問いかける。七罪の言う通り狂三の行動はこちらに有利な行動だ。

 僕たちが約束を反故にする可能性がゼロとは言えないのに。

「結果が同じなら、早い方が良いではありませんか。わたくし、あなたたちのことを信じておりますの。」

 狂三の言葉は薄っぺらい。騙し欺くのが大好きなのによく言う。

「まあ、いいわ。約束通り報酬を支払いましょう。」

 七罪は目を閉じて椅子に座った。

「ええ、ええ、ゆっくりお聞かせください。あの崇宮澪の目的とやらを。」

 狂三は喜色満面の顔で報酬を楽しみに待つ。誕生日のプレゼントを待つ少女のようだ。

 何の憂いもなくなり、僕はつつがなく話を始めた。

「まずは、狂三が三十年前の出来事についてどれだけ知っているか確認させてくれ。DEM創始者の四人、アイザック・ウェストコット、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン、エレン・メイザース、カレン・メイザースが始原の精霊を召喚したことは知っているな?」

 まずはこちらから状況の整理をする。情報を対価にしているのだ。相手に情報を出させず、こちらから話すのが筋だ。

「それは勿論。あの女を召喚した唾棄すべき事件ですわ。」

 狂三は珍しく言葉が汚い。狂三がこうなる時は始原の精霊関連が主だ。

「そして、崇宮澪が霊結晶(セフィラ)を人間に与えて、精霊を生み出していることも知っているな?」

「ええ、あの女の謎の行動。その意味を教えて頂けるのでしょう?」

 嘘は許さないと瞳が言っている。狂三が疑念を抱いたら戦いになるだろう。

「死んだ恋人に精霊の力を与えて復活させること。それが崇宮澪の目的だ。」

「……どういうことでしょう?」

 狂三は意味が理解できないようだ。まあ、崇宮澪の行動と今の話が繋がるようには思えないだろう。

「割とそのままの意味だ。崇宮澪は三十年前に恋人を失った。恋人をもう二度と失わないように、精霊化させて寿命や外傷で死なないようにする。その状態で蘇らせる。それだけが崇宮澪の願いだ。」

 七罪に話したように物語として聞かせる必要はない。要所だけを摘まんで情報として話すつもりだ。

「それがどうして、わたくしたちに霊結晶(セフィラ)を与えることに繋がりますの?理解しがたいのですが……。」

「人間の精霊化にリスクがあることは、狂三自身よく知っているよな?」

 わざと狂三自身の経験に絡めつつ確認する。復讐を誓うきっかけとなった、親友の殺害を思い出させながら。

「……そうですわね。人間を精霊化できるかは一か八かの賭けになる。確証はありませんが、そうなのでしょう。」

「その通りだ。今活動している精霊のほとんどは貴重な成功例だ。狂三も七罪も生き残ったのは偶然に過ぎない。」

 残酷な現実を突きつける。狂三も七罪も既に知っている事実とは言え、聞いて気分の良いものではない。

 でも、これを話さないと進めない。

「だから、特定の人物を確実に精霊化させるためには、誰かがリスクを肩代わりしなくてはならない。ここまで言えば、僕が言いたいことは分かるんじゃないか?」

「精霊化のリスクを肩代わりさせられたのが、わたくしたち。そして、精霊化させたい恋人が士道さんと言うことでしょうか?」

 狂三は予想通り、答えを言い当てた。ただ、このままだと士道に矛先が向きそうだからフォローしないといけないな。

「それでほとんど合っている。でも、士道さんは恋人の記憶がないただの器だ。」

「器?どういうことでしょうか?」

 頭の回る狂三でもその辺は懇切丁寧に説明しないと理解できない。まあ、当然か。

 狂気的な感情だけで構築された道筋。常人には理解しがたい。

「士道さんは崇宮澪のことを何も知らない。ただ、都合のいいよう利用されている。士道さんが全ての霊力を集めきったとき、崇宮澪は恋人の記憶で士道さんを上書きするつもりだ。」

「だったら、その前に士道さんを食べて差し上げましょう。」

 狂三は銃を構えて立ち上がる。このまま士道の元に行くつもりだろうか?

「士道さんは殺したくないな。士道さんには霊力を集めて貰いたい。」

「そんなことを聞けるとでも?むざむざ利用されるのを待っていられませんわ。」

 狂三の怒りは激しい。まだ好感度が不十分だな。

 士道の命よりも崇宮澪への憎しみの方が上回っている。崇宮澪の目的を潰すために、士道を殺せてしまう。

 ちゃんと利用価値を示さないと。狂三の目的のための士道の利用価値を。

「士道さんという器は崇宮澪への最大の武器になる。崇宮澪を処理ためには士道さんが不可欠だ。」

「どういうことでしょう?」

 狂三は話を再度聞く気になったようだ。

「薄々気づいているんじゃないか?どれだけ霊力を集めようと、崇宮澪は殺せないと。」

「……それが復讐の手を止める理由になるとでも?」

 やはり、この時点である程度察していたな。原理的に狂三が始原の精霊を殺すことは不可能だ。

 始原の精霊は全ての精霊の始まり。崇宮澪も含め、今存在する霊力をすべて集めてようやく同じ霊力。

 崇宮澪以外の全ての霊力を集めても不十分だ。それでようやく力を分けた、今の崇宮澪と同等にしかならない。全盛期の崇宮澪に勝てると思えない。

 現在の崇宮澪を食べるのはほぼ不可能。なのに、その難題を解決しないと勝負の土俵にすら立てない。

 その上で、不利な勝負を仕掛けないといけない。過去に戻るために莫大な霊力を消費するのだから。

 毎年宝くじの一等に当たるより難しい。そこまで分かっていなくても、ある程度推論は出せる筈だ。ほぼ不可能だと。

「別に復讐を止めろって言っているわけじゃない。利用しろって言っているんだ。士道さんは比較的安全に霊力を束ねることができる。お前ならその価値が理解できるだろ。」

 狂三が霊力を集めても恐らく安定しない。でも士道は元々そのために作られている。

 一番安全に崇宮澪を処理する方法は、士道が十個の霊結晶(セフィラ)を集めることだ。七罪の霊結晶(セフィラ)はその時までになんとかする。

「……仕方がありませんわね。しばらく、士道さんを食べるのは止めにしましょう。食べるにしても、美味しくなってからの方が良さそうですし。」

 狂三は妥協を受け入れた。しばらく士道は安全そうだ。

 狂三は影を広げて沈んでいく。相変わらず便利な能力だ。

「ふふ……またお会いしましょう、愛さん、七罪さん。楽しみにしておりますわ。」

 狂三は顔だけこちらに向けつつ、再開を仄めかした。本体が消えたと同時に、いつの間にか学校中の分身体もいなくなっていた。




前の章でボロボロに負けた狂三さんですが、格を取り戻して大復活です。狂三の視点の話も今度書くのでお待ちください。

今回の裏話は狂三の方針について。
狂三は少し前にあることを予想しました。今回の話を聞いて、その予想はほぼ間違っていないと確信しました。その予想と分身体から得た情報に従って、狂三は少し方針を変更しようとしています。何を企んでいるのでしょうね?
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