ヒロインは七罪   作:羽国

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とうとうやって来た愛君の返事回です。タイトル回収する話だから、全力を尽くしました。これ以上の話は今の作者には書けません。

愛君はどんな答えを出したのでしょうか?それではどうぞ。


ヒロインは七罪

 あれから、フラクシナスで大量の検査を受けさせられた。顕現装置(リアライザ)があるから普通の検査よりも楽とはいえ、あの項目数は疲れる。

 しかも、これで半分も終わっていない。明日の朝から検査の予約が入っている。

 本当はフラクシナスで泊まる予定だった。でも、どうしても今日は家に帰りたかった。

 六月三十日。六月最後の日だ。

 今は寝る前の安穏とした時間。寝るまで余裕があるし、お膳立ては整った。

「ねえ、七罪。」

「何?」

 七罪の表情は柔らかい。少し大人になった気がする。

「僕、勝手に決めたんだ。今月中に七罪に返事するって。」

 狂三と戦争した次の日、僕が自分自身に課した時間制限。それが今日だ。

「あら、そうなの?でも、そんなに無理しなくていいんじゃない?色々あって余裕なかったでしょ?また今度で良いのよ。」

 七罪は僕を慮ってくれている。それ自体はとても嬉しい。でも、もう必要ないんだ。

「大丈夫、答えはもう出た。」

「……へ~、聞かせてくれるかしら?」

 七罪は目を細めて楽しそうにしている。本当に長い間待たせてしまった。

「うん。でも、その前に屋上へ行かない?」

 思い出に残る場所なのだ。少しムード作りしても悪くないだろう。

 

♦♦♦

 

 季節はもう夏に差し掛かっている。夜に上着なしで野外に出ても、寒さは感じない。

 空を見上げると、夜空が綺麗に見える。雲一つなく、星空がよく見える。

「愛って、よく夜空を見ているわよね。星が好きなの?」

「好きなのは星じゃないかな。僕は夜空そのものが好きなんだ。」

 星に対する興味はそこまで大きくない。七罪のイメージだから多少興味があるくらいだ。

 星座の元となった神話に興味はある。でも、それは星に興味があるのとは違うだろう。

「星を見るのと何が違うの?夜空に浮かぶのは星と月くらいじゃない。」

 確かに不可思議な発言だ。僕の感性は理解しがたいと思う。

「夜空ってそれ自体はそこまで綺麗なものじゃないと思うんだ。それでも綺麗だと感じることができるのは、人が後付けでイメージを追加しているからだと思ってる。」

 ヒトデ型の星なんて存在しない。それは人の作ったデフォルメが浸透した結果だ。

 星座も昔の人が考えた妄想。それが長い年月を通して一般化した。

「夜空に趣深い印象が強いのは沢山の人の心を映しているから。それが僕の考え。」

「相変わらず面倒な理屈をこねるわね。まあ、らしいと言ったら、らしい気がするわ。」

 呆れと納得が半分ずつ。七罪の表情から感情を読むのも慣れたものだ。

「だから、夜空を見るのは僕自身の心を覗き込むようなもの。そのために、いつも夜空を見上げている。」

 自分の心を確認することは(今世)(前世)も変わらない、僕の日課だ。異常者である僕は自分の心を見つめることが義務であり、楽しみでもある。

「理解できなかったかな?」

「多分ちゃんとは理解できてない。でも、理解したいと思ってる。愛のことを。」

 七罪は真剣に夜空を見ている。その瞳には星が輝いている。

 

「これを先に言わないと不誠実だから、先に言っておくわ。」

「何?」

 切り出し方を考えていると、七罪の方から話し始めた。

「私、あんたと令音の会話を聞いてたのよ。」

「……それってまさか……。」

「そう、私を依存させたいって言ってたのも、全部……聞いてた。」

 嘘だろ?

「どうやって?」

贋造魔女(ハニエル)で観葉植物に変身して。」

「どこからどこまで聞いたの?」

「最初から最後まで。あの日、令音に話した内容は全部聞いていたわ。」

 どうして?いやそれよりも、どういうことだ?

「なんで、あれを聞いた後も、僕と一緒に……暮らしていたの?」

 あんな話を聞いたら、普通顔を合わせたりできない。一緒に生活なんて不可能だ。

 それなのに、七罪はずっと一緒にいた。行動に何も変化がなかった。

「なんでと言われても、最初から知ってたからよ。」

「……知ってたって。ずっと隠してたのに。一度も言ったことないのに、どうして……?」

「隠してたつもりだったの?分かりやす過ぎて、暗黙の了解かと思っていたわ。」

 何でもないことのように言ってのける。信じられない。

「隠したいなら、もう少し行動を改めた方がいいわよ。あんたの感情はすぐ行動に反映されてる。こっちが恥ずかしくなるくらいに、私への執着が伝わってくるのよ。」

 七罪は少し顔を赤らめながら言っている。

「気持ち悪くないの?重いと思わないの?」

「そりゃ、重いと思うわよ。どう考えても、普通の恋愛じゃない。でも、気持ち悪いとは思わない。それくらい、あんたじゃないと……ダメになってる。」

 こんなに、僕に都合のいいことがあっていいのか?こんなに醜い願いを、好きな子から、全部許容されようとしているなんて。

「あんたの不安は、初めから悩む必要がないのよ。私はあんたの望みを聞いた上で、ずっと一緒にいたいと思ってる。

 あんたがずっと私だけを見てくれるなら、私をいくらでも好きにしていい。その覚悟であんたと一緒に暮らし始めた。

 別に共依存でもいいのよ?それが私たちの愛の形なら、それでも私は全然いいと思っている。

 その上で愛はどうしたいの?これでも答えは変わらない?」

 七罪は僕を甘やかす。僕の醜い欲望を受け止めようとしている。

「僕の答えは変わらない。ちゃんと自分なりに自信の持てる答えを出した。」

「そう。それで、愛はどんな答えを出したの?聞かせて頂戴。」

 七罪は先に覚悟を見せた。ここまで七罪に言わせたんだ。答えないといけない。

「聞かせるよ。僕がどう思っているのか、どうするつもりなのか、全部。」

 これは僕が変わるための答え。七罪と一緒に歩くための答えだ。

「僕はずっと依存相手を探していた。七罪を選んだのも、相性が良くて、ずっと一緒にいてくれそうだったから。初めから、下心いっぱいで声をかけた。」

「懐かしいわね。最初は、からかって遊んでやろうと思ってたわ。」

 当時、七罪は大人モードで僕に接していた。子ども扱いされていたのか。

「それなのにいつの間にか、愛が心の中心に収まっていた。かけがえのない存在になってた。」

 七罪は目を閉じて胸の中心に手を当てている。自身の心に触れるかのように。

「最初はただの依存だった。家族を失った寂しさを埋めてくれる人が欲しかった。恋愛感情はなかった。

 でも、七罪に告白されて変わり始めた。ううん、それより前から変わり始めていた。」

 ずっと一緒にいた。苦楽を共にしてきた。互いに命を預け合ってきた。

 その日々で関係は変わっていた。変わらないわけなかった。

 それに僕自身が気づいていないだけだった。七罪の言う通り、僕は恋心すら分からない子供だったのかもしれない。

「七罪も姉さんも両方失いかけて、やっと気づいた。僕は七罪を愛している。女の子として見ている。」

 ウェストコットに感謝する気はないけど、あの戦闘は僕が感情を自覚するきっかけになった。大人への登竜門になった。

「でも、まだ足りない。違う感情だけど、大部分は一緒だ。僕は未だ、七罪に依存している。」

 愛情を自覚したからこそ、よりはっきりした。僕の依存心は重症だ。

 不安定で簡単に自滅する。トランプタワーみたいな安定感だ。

 その証拠に、DEMとの戦闘の後で壊れかけた。七罪がいなかったらダメになっていた。

「僕は七罪がいないと生きていけない。望む望まないに関わらず、七罪を精神安定剤のように扱っている。」

 恋人がいると安らぐのはいいと思う。でも、恋人がいないと精神が安定しないのは違う気がする。

「でも、僕の依存心は消えない。そんな簡単に消えるようなものじゃない。」

 僕の依存心は僕という人格そのものに根を張っている。僕から依存心をなくすのは、家から大黒柱を引っこ抜くようなものだ。

 実践不可能なことをやろうとしても、意味がない。大事なのは僕が成れる未来を描くことだ。

「だから、依存心の上にそれ以上の愛情を積み重ねる。依存心が小さく見えるように愛情を大きくする。それが僕の答えだ。」

 馬鹿げたことを言っているのは分かっている。子供じみた考えだとも思う。

 でも、これしか思いつかなかった。これしかないと思った。

 僕が納得しないと意味がない。これが僕自身を納得させられる答えだ。

「愛情を積み重ねるの?あんたの依存心よりも?」

「そうだよ。」

 数秒の沈黙が流れる。七罪はどう思う?

「ふ、ふふふふ、あははははは。」

「……七罪?」

 七罪は笑い始めた。七罪とは思えない大きな声で。

「あははは、止めて、お腹痛い。ひぃー、ひぃー。」

「あのー、七罪さん?」

「ああ、ごめんちょっとおかしくて。」

 七罪は笑い涙をこすりながら呼吸を整える。何がそんなにツボに入ったのだろうか?

「だって、依存心以上の愛情とか、頭のおかしいこと言うんだもの。

 あんた自分がどんだけ重いか自覚ある?それ以上の感情を追加するの?

 どれだけ重くなるのよ?私をパンクさせたいの?」

 七罪は笑顔のままで続ける。下手なコントよりも大笑いしているぞ。

「仕方ないだろ。綺麗な答えでも欲望だけの答えでも納得できなかったんだから。」

「だからって、どうしてそうなるのよ?ふふふふ。ダメ、思い出したら笑いが止まらなくなるじゃない。」

 七罪は再び笑い始める。そんなに笑うほどじゃないだろう。

「七罪も人のこと言える立場じゃないだろ。何だよ、自分を好きにしていいって。僕に負けず劣らず重い女じゃないか。」

 僕は七罪に反撃する。笑われたままで引き下がれるか。

「私はあんたに合わせてるだけよ。別に重い女じゃないわ。あんたみたいなのに合わあげる、優しい私に感謝しなさい。」

 七罪が嘯いている。そんなわけないじゃないか。

「合わせてるだけの女は、海外までついて来ないよ。」

 アメリカについて来たのは七罪の自由意思だ。僕は誘いすらしなかった。

 なのに、いつの間にか一緒に行く前提で話を進めていた。僕が知ったのは全部決まった後だった。

「私、精霊だから海外に行くのも簡単なのよ。コンビニに行く気分で行けるわ。だから、全然重くない。」

 究極のインドアが何を言っているんだ。地球の反対側に行くのはそこまで簡単じゃないだろう。

 往生際が悪い。だったら、別の材料を提示しよう。

「勝手に二人暮らしを決めてたのは、どういうつもりなんだよ。あれも身体を張って外堀埋めようとしてたんだろ。」

 七罪はいつの間にか二人暮らしになるように手配していた。僕に黙って一人で根回ししていた。

「最初に言ったでしょ。秘密の会話をするなら二人暮らしの方が楽だからって。そこまで深い理由はないわ。」

「いいや、嘘だね。二人暮らしをするために手間をかけすぎてる。七罪が手を回したからだろ。」

 よく考えたらおかしいんだよ。一人暮らし前提で考えてたのに、こんなに快適に暮らせていることが。

 普通、物を買い替えなきゃ不都合が出る筈だ。なのに、そんな経験が一度もない。

「後で確認してびっくりしたよ。家のものが全部、僕を騙すための道具になってた。選んだのほとんど七罪だったよな?」

 どうせ七罪が入りびたるだろうと思って、七罪の意見を多く取り入れた。そう誘導されていた。

 二人暮らしに使えるけど、一人暮らしでも問題ないようなものばかり選んでいた。しかも、実際の生活の快適さまで考慮して。

 気の回る七罪の全力を見せられた。僕と生活するためだけに、気の遠くなるような準備をしていた。

 七罪は目を逸らしている。図星のようだ。

「それに、七罪が重いのは僕に限った話じゃない。四糸乃に向ける感情も、度を越えて重いじゃないか。僕の影響じゃない。七罪はそもそも重い性格なんだよ。」

 七罪は四糸乃を神格化するほど大好きだ。原作からそうだったから、僕の影響という可能性はゼロだ。

 七罪は重い女。覆しようのない事実だ。

「ああ、そうね。分かったわよ、認めるわよ。私は重い女よ。何か文句ある?」

 とうとう認めた。開き直って、ない胸を張っている。

「いいや、ないね。僕にとって最高の条件だ。」

 だから、こっちも開き直る。こっちは初めから、そういう相手を選んでいるのだ。魅力になりこそすれ、文句など出るわけがない。

 少しの間、剣呑さのない睨み合いが続く。

「ぷっ、あははは。」

「ぷっ、ふふふふ。」

 どちらからともなく笑い出す。このじゃれ合いがおかしくて仕方がない。

「私も少し変な女だったのね。変な奴が相手の方が、上手くやれるのかもしれないわ。」

「全然少しじゃないと思うけど、同じ意見だよ。破れ鍋に綴じ蓋って言うじゃないか。互いに欠けているから、補い合えるんだよ。」

 二人とも、人間としてどこか欠けてる。だからこそ、補い合って丁度良いのだと思う。

「ふん、言うじゃない。絶対、私以外の人に言っちゃダメよ。『何だこいつ』って目で見られた後、距離を置かれるから。」

 七罪は妙にリアルなアドバイスをする。長年、人間関係に苦しんだ学生のようだ。

「大丈夫。七罪以外に言わないから。」

「疑わしいわね。アウトだと思ったら止めるわよ。あんたは誰かが面倒見ないと、おちおち寝てもいられないから。」

 その言葉は既に未来を描いている。だから、未来を確定させよう。

「どう考えても普通じゃない。自分でもよく分からないくらい、拗らせまくっている。あり得ないくらい重い人間だけど、一緒一緒にいてくれますか?」

 最低最悪の告白。間違っても人に聞かせられない。それでも、これが僕なりの誠意。

「喜んで。」

 七罪は優しい笑顔で受け入れた。

「ねえ、今度は愛からしてよ。」

「うん。」

 何を求めているかは、言わずとも分かった。

 七罪の肩に手を置いて、顔をじっくり見る。七罪の顔は、既に真っ赤だ。

 七罪はゆっくりと目を閉じた。それを確認して肩に置いた手へ少し力を入れる。

 その力を感じて、七罪も肩を揺らす。でも、すぐに身体を制止させた。

 ゆっくりと唇を合わせる。唐突だった最初のキスと違い、ゆっくり味わうような二度目のキス。

 一秒ごとに幸福感が押し寄せる。実利のない行為なのに、恋人たち求める理由が分かった気がする。

 こんなにも満たされるのか。中毒になりそうだ。

 名残惜しさを感じつつも、唇を離す。視線は自然と引き合う。

「七罪、大好きだ。この世で一番。」

「私も大好きよ、愛。」

 七罪は本当に幸せそうに笑った。

 これから苦難は山ほどある。七罪と一緒に生きるためには、何度も地獄を越えないといけない。

 それでも僕はこの子と一緒に進む。僕のヒロインは七罪だ。




これにて第一部は終幕です。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。ここまで来れたのも読者の皆様のおかげです。読者の皆様がいなければ、ここまでの話は間違いなく書けていません。本当にありがとうございました。

愛君たちの物語はこれからも続きます。最後までお付き合い頂けたら幸いです。

告知です。シリアスな話を書き過ぎて疲れたので、ここから箸休めに入ります。二話の番外編をやった後、八舞編の前に夏休み編を設けます。シリアスを投げ捨ててキャラの絡みばかり書く予定です。

現状は誕生日会、折紙のデート(愛君全面協力)、水着回複数、四糸乃のおうちデート、十香のメイン回ですね。その他も色々書くつもりです。何かアイディアがあったら教えてください。面白そうなら採用します。

最後に裏話。七罪はいつから愛君が好きだったか。
愛君と三か月過ごして、本来の姿がばれた時点で恋心を自覚しました。結構前なんですよね。だから、覚悟を決めてアメリカまでついて行きました。時間がかかりましたが、ようやく恋の成就です。
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