ヒロインは七罪   作:羽国

45 / 147
今回はラタトスクが愛君をどう思っているのかについてです。火種がないわけないんですよ。


番外編:ラタトスクの考え

 フラクシナスの一室で緊急の会議が行われていたわ。通信とはいえ、忙しい円卓会議(ラウンズ)メンバーが全員顔を出しているわね。

 まあ、一人を除いて烏合の衆だから、こんなに雁首揃えなくてもいいと思うけれど。私は司令官として、現場の責任者として、顔を出しているわ。

 議題は勿論、愛の精霊化について。先日やっとの思いで報告書を書き上げ、すぐに会議の日程が決まったわ。

 普段は腰の重い爺共が、信じられない早さで動いた。それほどに今回の議題は重要ということね。

「五河司令、今回の報告書は確認した。君のことは信頼しているが、あの内容は信じがたい。あの報告書に嘘偽りは一切ないと誓えるかい?」

 話題を切り出したのは、ウッドマン卿。円卓会議(ラウンズ)の議長であり、ラタトスクのトップね。

 私を疑っているように見せて、他の円卓会議(ラウンズ)メンバーに牽制をかけているわ。この方が言及した後に追求すれば、自らの愚かさを露呈することになるわね。

 私を守ろうとしてくれている。本当にお優しい人。

「ウッドマン卿の心中お察しします。私も自分の目で見た事実を信じられません。しかし、鳶一愛は霊装を身に纏い、天使を振るいました。間違いなく、精霊になりました。」

 愛は精霊になった。それを私は映像で何度も確認し、皆からその時の話を聞いたわ。

「しかし、その後の検査で一切霊力の兆候が見られないと?」

「仰る通りです。」

 人間が精霊になる。それ自体は私という前例がある。驚愕の内容だけど、まだ納得できるわ。

 でも、今の愛には全く霊力が見られない。それが理解できない。

 私は恐らく五年前に精霊になったわ。それ以来、精霊として生きている。

 私は自分を人間だと思っているけど、あらゆるデータは私を精霊と言っている。少なくとも生物として、私は精霊に分類されるわね。

 でも、愛は人間だと判断されたわ。相変わらず、顕現装置(リアライザ)への適性が高いけど、おかしな点はそれだけ。

 精霊だと判断できる要素は全くない。全く意味が分からないわ。

「封印と違って全く霊力が観測できない。そうだね?」

「はい。」

 私も含めて、封印された精霊は霊力の大半を失うわ。それでも、僅かな霊力が身体に残る。

 レーダーで観測できなくても、精密検査をすれば精霊だと判断できるわね。例え、全く霊力を使っていなくても。

 でも、愛はそれと違う。本当に全く霊力が観測できなかったのよ。

「一体どうなっているんだね?今すぐに装置を確認した方がいい。故障していたら、今までの報告全てが信じられなくなる。」

 カートゥーンに出てくる意地の悪い猫のような男、ギリアン・オムステッドが言及してくる。的外れなことしか言わないわね。

 その程度のこともしていないと思われてるのかしら?随分と舐められたものね。

「装置の確認は済んでおります。士道と精霊たちのデータは、以前の検査と変わりありません。愛が特例だと思っております。」

 努めて感情を込めないように事実を述べる。でないと怒りか呆れを込めてしまいそう。

「では、原因は何だというのだ?」

 馬鹿丸出しの発言をするのはローランド・クライトン。何故、円卓会議(ラウンズ)の幹部になれているか、理解に苦しむほどの低能。

 とにかくうるさく吠えるだけで、脳みそが入っているのか怪しい。本能のままに行動する、犬未満の存在ね。

「それについてはまだ分かりません。ただ、愛の天使の能力ではないかと考えております。」

 分かっていたら、こんな報告はしないわ。現状、推測すらできないほど謎な事態なのよ。

 でも、他の精霊で見られない現象である以上、天使の能力が真っ先に候補へ挙がる。というより、それしか思いつかないのだけど。

 愛は贋造魔女(ハニエル)を顕現させていた。でも、あれは本当に贋造魔女(ハニエル)なのかしら?

 うまく言えないけど、違う気がする。本質はもっと別のもので、その能力を使ってこの現象を起こしているとすると納得できるわ。

 でも、こんなこと言っても揚げ足取りをされるだけ。後で、ウッドマン卿だけに話すつもりよ。

「映像を見ましたが、あの力は危険すぎる。もし、矛先が一般人に向けば甚大な被害が起こるでしょう。今すぐにでも攻略すべきだと、私は思いますよ。」

 痩身の男、フレイザー・ダグラスが片眼鏡(モノクル)を弄りながら話しているわ。厭らしい言い方をするわね。卑しい鼠みたいな奴。

 本当は自分に危機が降りかかることしか考えていない癖に。しかし、言っていること自体はまともだから、反論できないのが悔しいわ。

「そうですね。しかし、鳶一愛は現状霊力がない上、異性愛者(ノーマル)なのでしょう。封印は難しいかもしれない。

 代わりに七罪を封印した方がいい。最低限、暴れないように楔を打ち込むのです。

 彼が七罪を大事にしているのは、言動からも明らか。その七罪を支配下に置けば、実質彼を支配しているも同然と言える。」

 オムステッドも同調しているわね。自分が悪者になりたくないこの男らしい、卑怯なやり方。

 おまけに余計な尾ひれまでつけてくれちゃって。それが一番危険な行為だとどうして思い至らないのかしら。

「その通りです。今まで野放しにしていたのがおかしかったのですよ。今すぐに二体とも封印すべきです。」

 クライトンも他の二人に合わせているわね。でも、何もわかってない発言をしている。

 愛は封印できないから、七罪を封印って話を聞いてなかったのかしら?まあ、七罪も困難なことは変わりないのだけど。

「卿もそう思いませんか?攻略に乗り出しましょう!」

 クライトンはそのままの勢いでウッドマン卿に促した。しかし、その意見は通らないわよ。

「君たちの意見も理解できる。しかし、それは現実的ではないのだよ。愛と七罪は親密な関係を築いている。二人のどちらを対象にするとしても、好感度を上げるのは難しいだろう。」

 ウッドマン卿は円卓会議(ラウンズ)の中で唯一実態を理解しているわ。この人は近くで二人を見ていたんだもの。

「卿は甘すぎる。弟子が相手だからと判断力が鈍っておりませんか?相手は封印していない精霊ですよ。」

 愛はウッドマン卿に師事していた。私よりも長い間、二人を見ていたのよ。

 どうして封印できないか、分からないわけないわ。

「確かに、私は彼のことを好ましく思っている。かつてないほどに優秀な子だからね。」

 ウッドマン卿は愛のことを、孫のように大事にしている。愛がラタトスクに協力的なのも、この方の存在が大きいのでしょうね。

「しかし、それとこれとは別の話だ。彼はラタトスクに協力を持ちかけた時点で、七罪の封印を禁止している。それを破れば、彼らはラタトスクと決別するだろう。それが、一年間彼らを見ていた私の見解だ。」

 ウッドマン卿は冷静に論理を展開しているわ。自分が絆されているわけではないと証明するために。

「そうなればどうなる?二人の精霊の刃が、どこに向かうかは分からない。彼らは君たちの喉元を狙うことを躊躇わないだろう。

 彼は精霊化なしでも、指揮者(コンダクター)という名を知らしめた実績がある。それが()()()()()()()()()()ことは、諸君らも知っての通りだ。」

「そ、それは……。」

 ウッドマン卿の静かな脅しは愚かな円卓会議(ラウンズ)メンバーを圧倒したわ。その発言は現実味が強いわね。

 愛はアメリカで山ほどの魔術師(ウィザード)を屠ってきたわ。先日の戦いでも、七罪を傷つけられて激怒していたはいえ、DEMの魔術師(ウィザード)を大量に虐殺した。

 愛は躊躇しないわよ。今日の記録を見せたら、ウッドマン卿を除いた円卓会議(ラウンズ)メンバーを血祭りに上げるかもしれない。

「しかし、このまま放置するわけには……。」

 オムステッドが苦しい反論をしているわ。でも、言いたいことも分かるのよね。

 私も封印したいと思っているわ。できるものなら。

「諸君らの心配は最もだ。だから、私が日本に出向こう。」

「卿自らですか⁉」

 ウッドマン卿は大胆に出た。これは私も驚いたわね。

 でも、いい策かもしない。円卓会議(ラウンズ)メンバーを牽制しながら、愛に有効な手を打てる。

「私がラタトスクで一番、彼の信頼を得ていると思っている。勘違いでなければ、彼は私の言葉を聞いてくれるだろう。」

 自信過剰ではないわね。むしろ控えめなくらい。

 愛が魔術師(ウィザード)として強くなったのはウッドマン卿のおかげ。生活環境を整え、最高の装備を与え、自ら技術を教えた。

 愛の才能も凄まじいけど、この方の協力なしではあれほど強くなれなかった。

 愛もウッドマン卿には頭が上がらない。それだけ、愛にとってこの人の存在は大きい。

「そうだな……二か月ほどで仕事を片付けよう。その後はしばらく日本に滞在する。二か月の間は、愛と連絡を取って勝手なことをしないよう言っておく。それで構わないかね?」

「卿がそこまで仰るなら……。」

 ウッドマン卿は本気で動いた。この人には感服するしかない。

「そういうわけだ。五河指令、準備をしておいてくれ。」

「了解しました。お待ちしております。」

 私はウッドマン卿に最敬礼をした。

 

♦♦♦

 

 琴里は円卓会議(ラウンズ)の内容を語って聞かせた。随分と荒れている。

「ふん、いい気味よ。欲呆けたことばっかり言ってくれちゃって。これだから、現場を知らない脳足りんは嫌なのよ。」

 ウッドマン以外のメンバーを、ことごとく罵倒している。シンにするのとは比較にならない勢いだ。

「……ふむ、上は面倒な意見を持っているようだ。」

「そうよ。実態も知らない癖に、愛を封印しろとか七罪を封印しろとか言ってくれちゃって。できるなら、とっくにやってるわよ。」

 琴里は激しい鬱憤を吐き出す。仕方がない。

 封印していない精霊を近くに侍らせる。その行為に一番苦悩しているのは琴里だ。

「あの二人は、士道を差し込む余地がないくらいべったりなのよ。しかも、とうとう付き合っちゃったんでしょ。封印なんてできるわけないじゃない。」

 最近、愛は七罪と付き合い始めたと惚気ている。本人は幸せなのだろうが、琴里にとっては悩みの種だ。

 なにせ、それは士道の好感度を上げることを困難にする。まだ付き合っていなかった以前なら、まだ言いわけができた。シンが七罪を奪い取ったとしても、『さっさと付き合わなかったのが悪い』と。それなら、愛も閉口したかもしれない。

 でも、今は誰がどう見ても横恋慕になる。それを愛がどう思うか?……考えたくもないな。

 士道に七罪を取られることを想像したとき、あの子は深淵の闇のような目を見せた。あの目は私ですら、平常心で見ていられない。

 今七罪に手を出したらどうなるか分からない。馬鹿なことをしないで欲しいものだ。

「これは黙っておいて良かったわね。こんなことを話していたら、何を言われるか分かったものじゃないわ。」

 琴里がぴらりと一枚の紙を出す。

「これは?」

「愛の精霊化したときの観測記録よ。」

 それを受け取って内容を確認する。そこには様々なデータが記載されていた。

 その中で一つ、目立つように色を変えている項目がある。

「……これは……。」

「わけが分からないでしょ。私も頭を抱えているのよ。どういうことなのかしら?」

 そうか、こうなってしまうのか。私は理由が分かるが、琴里たちには謎のデータになってしまうな。

 これを大勢に知られてしまうのは不味い。愛本人に伝えていいかすら分からない。

 あの子は何を知っていて何を知らないのか、私も見当がつかない。

 おそらく、自分のことはほとんど知らない。なのに、始原の精霊のことは知っている。

 あの子の情報網は謎だ。何が起爆剤になるか分からない。刺激はなるべく減らすべきだ。

「琴里、これを今知っているのは誰だい?」

「私の他には、直接確認した椎崎とウッドマン卿だけよ。あと、副指令の神無月にも話しておこうと思ってる。……正直、あんまり広げたくないわね。」

 不幸中の幸いだ。今ならまだ拡散を抑えられる。

「私も賛成だ。これは愛にも黙っておいた方がいい。もし、これを聞いたら……再び精霊化するかもしれない。」

「……あり得ない話じゃないわね。分かったわ。

 愛と七罪も含めてこれは黙っておきましょう。いずれは知るかもしれないけど、わざわざパンドラの箱を開ける必要もないわ。」

 そう、これは本当にパンドラの箱になりかねない。

 あの子が暴走したら、本当に世界が滅びるかもしれない。それほどにあの子の力は恐ろしい。

 他人の天使の能力を()()()()コピーして見せた。天使のスペック自体は七罪の贋造魔女(ハニエル)と遜色ないだろう。

 千変万化鏡(カリドスクーペ)のように何か条件はある筈だ。しかし、娘たちの天使を全て使えるようになったらどうなるか。

 比較的攻撃性の低い贋造魔女(ハニエル)であれだ。封解主(ミカエル)辺りを使えるようになったら、本当に酷いことになる。

 それに、あの子は自分の天使を使わなかった。愛自身の身体を作り変えた、本来の天使の力を。

 どんな能力か分からないが、軽視しない方がいい。もしかしたら、コピーよりそっちが厄介かもしれない。

 その上、あの子の身体は未完成。完成したら、どれほど強くなるか?

 天宮市が丸ごと焦土になる。それで済んだらいい方だ。

 少なくとも、死神のように死をばら撒くのは確実。今回よりも事態がマシになることはあり得ないのだから。

「ウッドマン卿に感謝しないといけないな。七罪と鳶一折紙を以外で、愛の枷になれるのはあの人だけだ。」

 暴走を抑える鎖が一本でも多く必要になる。

 力で抑え込むことは難しい。愛の心を縛らないといけない。

 本当は、七罪か鳶一折紙のどちらかだけでも引き込みたい。でも二人とも、ラタトスクを信用していない上に完全に愛の味方だ。

 今はウッドマンの力を借りるしかない。それが一番マシな止め方だ。

「そうね。私も士道もそこまで信用されていないし。一番関係が深いのは四糸乃かしら。」

 そうか、四糸乃もいるのか。

 四糸乃は愛とも七罪とも良好な関係を築いている。四糸乃の言葉なら、愛を止められるかもしれない。

「でも、四糸乃を利用したと思われてはいけないな。純粋な四糸乃を利用したと思われたら、返って怒りを買う。」

「そうなのよ。あの二人はそういうのに目ざとく気づくわ。」

 四糸乃なら愛を止められる可能性は高い。しかし、あくまで四糸乃の意思で止めないといけない。

 操り人形にするのはダメだ。そんなことをすれば、返って怒りを買う。

 愛が精霊化していなくても、二人の怒りを買うのは危険だ。その前提ですら、ラタトスクを潰す可能性がある。

「それに、保護対象の精霊に頼るのもどうかと思うし。もしものときはともかく、基本はラタトスクが対処するわよ。」

「……それがいい。」

 ラタトスクは精霊を保護するための組織。上層部は利用を考えている人間が多いようだが、琴里はそうでない。

 本気で精霊を安全に生活できるよう考えている。優しい子だ。

 だからこそ、愛と七罪はある程度琴里に信を置いている。この関係を保たなければ。

「頭の痛い問題だね。」

「本当にね。」

 私が()()()動くことを含めても、なお面倒な問題だ。

 早めに愛を説得する材料を探さないといけないな。七罪から霊結晶(セフィラ)を奪わなくていい方法を。




地味に大事な情報が多い話になりましたね。ウッドマンが愛君の師匠というのも初公開でしょう。でも、今までのことを考えると納得できませんか?

さて今回の裏話について。愛君とウッドマンの関係について。
愛君はアメリカに行ってすぐウッドマンの弟子になりました。ウッドマンは残り少ない活動時間を使って、相手してくれたこともあります。この人が殺されたら、敵討ちしに行くくらいには尊敬しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。