主人公以外の視点で書くの難しい。別の人が生み出したキャラクターを頭の中で動かすのって結構大変。琴里の口調が変だったらすみません。
2025年1月16日追記
内容を大幅に修正しました。出している情報はあまり変化していませんが、琴里の一人語りから令音との対話形式に変えました。以前より読みやすくなっていたら良いなと思っています。
「令音、何見ているの?」
親友であり副官でもある令音が熱心に何か映像を見ている。他の機関員と違ってサボっている事は無いと思うけど、少し気になったわね。
「ああ、琴里。何、愛が交渉を持ちかけてきたときの記録を少しね。」
そう言うと、令音は画面が私に見えるように一歩引いた。内容は丁度一年位前、愛と私が出会ったときのものだ。
「あー、それね。」
思わず苦々しい顔をしてしまう。ちょっと思い出したくない、嫌な思い出ね。
「どうしたんだい琴里?渋い顔をしているじゃないか。」
私の態度に気づいた令音が質問する。余り気は進まないけど、答えないのも不自然ね。
「誰でも自分のミスを積極的に振り返りたくは無いじゃない。まして、完全に相手にやり込められたとなれば。」
このとき、私は完全に愛の掌の上で踊らされていた。終始愛のペースで愛のしたいように話は展開されたわ。ラタトスクの司令官とも有ろう者が情けない。
「仕方ないさ。愛は
「令音の言いたいことも分かるわ。でも、ラタトスクの司令官がそれでは駄目なのよ。」
愛が偶々協力的な相手だったから助かった。でも、相手が害意の有る精霊やDEMだったら危なかった。こんな不甲斐ない姿はもう見せないようにしないと。
「……ふむ、だったら反省会をしようじゃないか。私も当事者の君から話が聞けるから丁度いい。」
「令音、あなた私を都合良く使おうとしていないかしら?」
「そんな事はないさ。君も急ぎの仕事は無いだろう。」
「……まあ良いわ。今のうちに確認しておく事も大事だし。」
令音は口が上手い。人を説得して誘導することに長けている。そういう能力は私よりも高い。
乗せられていると知りつつも、断りにくい状況を作られてしまった。今回は従うしかないわね。
「この映像の前にも会話が有ったらしいじゃないか。聞かせてくれないか?」
「別に大したことは話してないわよ。ただ、体育館裏に呼び出されて、『ラタトスクの琴里さん。あなたと精霊に関する取引をしたいです。』って言われただけ。」
「それは……凄いね。」
珍しく令音が唖然としているわね。無理もないわ。大胆というか計算高いというか。ほとんど初対面の相手にそんな交渉持ち掛けてきたのだもの。
あれは中学に入ったばかりの頃。授業が本格的に始まって、話せる子も何人かできて、これから中学生だって実感が湧いてきた時期だった。
放課後でそろそろ帰ってフラクシナスに向かおうかって思ってた。そうしたら、クラスの子から誰か呼んでるって声をかけられたのよね。
その子の指さす方を見ると、特徴的な白い髪の少年が立っていた。それが愛だったわね。
「最初は告白かと思ったけど、そんな可愛らしい話ではなかったわね。」
「体育館裏なんて古典的な告白の場所だからね」
余りにベタだけど、あいつ何だかんだで顔は整っているから、周りの子が興奮してたわ。中学生って恋バナが大好物なのよね。私も結構可愛いから、美少年から美少女への告白ってシチュエーションは絶好の標的だった。
でも、私にはお兄ちゃんが居るから、告白を受けるつもりは無かった。小学生の頃も同じような子は何人か居たけど、大抵は好きな人が居るって言えば引き下がるのよね。人気のない場所で話をしたいって言うから、今回も同じだと思っていた。
「そうしたら交渉を持ちかけられたのよ。思考停止した私は悪くないと思うけど。」
「……大変だったね、琴里。」
令音は私を抱えて頭を撫でる。ちょっと照れ臭いけど悪くないわね。令音って子供どころか恋人も居ない筈なのに、母性が有るのよね。そういう人柄なのかしら。
「その後も大変だったわよ。必死に何も知らない振りをしたら『そういうのいいんで』って言っていたし。」
「君がラタトスクの重要ポストに就いていることを確信しているような台詞だね。」
令音の言う通り、愛は会った時点から色々と知っていた。私がラタトスクの司令官であることも。ラタトスクが精霊の保護を目的としていることも。ラタトスクが愛の存在を無視できないことも。
「全部理解した上で交渉を持ちかけていた。私たちは愛に話しかられた時点で、愛の言い分を呑む以外の選択肢が無かったのよ。」
「そうだね。向こうに七罪がついている以上、強引な手段は取れない。全て愛の掌の上だったのかもね。」
令音の言う通り一番厄介なのは七罪が愛の味方をしていること。そうでなかったらラタトスクの機関員が工作する手段も取れた。ASTとはいえ、個人が相手なんですもの。
でも、
「今だから思うけど。カラオケルームでの話を提案したのは、七罪と合流したかったからでしょうね。」
誰に聞かれるか分からないから、学校で話したくない意図も有ると思うわ。ただ、それだけならフラクシナスでの交渉に応じれば良い。それを断ってカラオケルームにした理由は、七罪と合流したかった。私たちに圧力をかけたかったのでしょうね。
アウェイでの話し合いを避けて逆に一手打ってくる。愛は用心深くて頭も回るって思い知らされたわ。
「その後は知っているでしょう。」
「カラオケルームでの交渉だね。」
「交渉なんて立派なものじゃなかったわ、あれは。一方的な条件の提示でしかなかった。」
カラオケルームに入って一番最初に言われたことは二つ。隠さずに誰とでも相談しても良い。琴里以外の人間がこの部屋に入ってきた時点で交渉は無かったことにする。
前者はフラクシナスと通信していることを知っていると暗に示していたわ。誰も部屋に入れてはいけないのに相談して良いと言っている。通信していることは前提だと思っているのね。つまり、愛はフラクシナスも知っていたと想像できる。
後者は工作員を派遣させないためね。これだけやっておいて、まだこちらの抵抗を完全に封じようとする。慎重と言うか臆病と言うか。
とにかく私たちは完全に敗北していた。抵抗する気力を根こそぎ奪うような徹底的な対策をしていた。
だから、なるべく相手の要求を呑んで怒りを買わないようにする。それが最善の手なのよ。
幸いなことに要求の内容自体はそこまで厳しいものではなかった。むしろ、ラタトスクにも利が有る話だったわ。
「これだけやって要求が資金やCRユニットの提供とはね。」
「しかも、ラタトスクへの協力を申し出ているのよ。拍子抜けしたわ。」
令音は映像を再生する。画面の中の愛は次々と条件を述べている。改めて聞いてみても、
愛は出所が分からないけど、ラタトスクが舌を巻くほどの情報を持っている。あいつは未だに情報を出し渋っている節が有る。
それでも、価値のある情報を次から次に持ってくる。天使の能力なんてどこから調べてきたのかしら?
それに七罪が精霊の攻略を手伝うという話も魅力的。それだけでこの条件を呑んでお釣りが来るほどの価値が有る。
それ程、精霊という存在は影響力が有る。単純な戦力としても、
それに対してこちらが支払うのは資金やCRユニット。あとはフラクシナスへの立ち入り許可や家も要求されたわね。そんなもの、いくらでも出すわよ。
愛と七罪のことを探ることは禁止された。でも、当たり前の対処だと思う。
むしろ、これだけ仕掛ける相手ならやらない方が不自然ね。今、二人が住んでいる部屋も厳重に対策してあるし。
「ただ、七罪の封印を禁止されたのは問題なんじゃないかな?」
「……むしろ、それで済んで良かったと思うべきでしょうね。」
愛の出した条件はもう一つ。それは七罪の封印の禁止。七罪の霊力を士道に封印して一般人同然になることは拒否されたわ。
どうしてラタトスクの最重要機密まで知っているのかは気になるけど、それは今更ね。問題は精霊としての力を持ったままでの生活を望んでいること。
私としては霊力を封印して、ただの人間として暮らして欲しかった。空間震の懸念が有るし、霊波をラタトスク以外に観測されたら大変なことになる。
何よりもラタトスクの最終目的には全ての精霊の霊力が必須。一人でも封印できなくなるのは致命的ね。
でも、愛も七罪も頑なに拒否していた。信用されていないのでしょうね。
ラタトスクが安全を保障するって言ったけど、信用できないって突っぱねられたわ。自分の身は自分で守るってことでしょう。今でも七罪からはその意思を強く感じるわ。
最終目的はあくまで絵に描いた餅に近い理想。ここで争うよりも妥協するのがベストと判断したわ。この交渉を蹴ったら二人は敵に回ったでしょうし。
何より、時間はある。味方に引き入れたら、状況によっては封印できるかもしれない。交渉に乗った方が良いと判断したわ。
「なんだかんだ、良い関係を築けているんじゃないか。」
「だと、良いのだけど。」
交渉の後、私たちの関係は始まったわ。最初は二人とも警戒していて、フラクシナスを敵地のように思っていたのよね。でも、少しずつ打ち解けていったわ。
神無月が愛の訓練に協力したり、令音が七罪の話を聞いたりと。少なくとも、愛の方は私たちのことを信用してくれていると思う。
「この後もなかなか大変だったね。」
「鳶一折紙の件?」
映像が終了したのを契機に話題を少し変える。この後と言われて思いつく話題はそれしか思いつかない。なんて言ったって、ほんの半月後で起こった事件ですもの。
「そうさ。愛が駆け込んできたときは私も肝を冷やしたよ。」
事件が起きたのは四月の終わり頃。いきなり、「七罪の正体が姉さんにばれた」って言ってきたわね。
前提が色々と分からなかったから補足説明をさせたけど、こういう内容だった筈。
愛はASTにも唯一の家族の姉にも秘密で七罪と会っている。そして、姉はASTに所属していて、精霊に強い憎しみを抱いている。ここまでが前提。
前提だけで、なかなか濃い内容よね。でも、本題はここから。その姉に七罪が精霊だとばれてしまったと。しかも、ばれた理由が意味分からない。
「どうして家族に盗聴器を仕掛けているのよ。」
家族に盗聴器を仕掛けるなんて正気の沙汰じゃないでしょう。愛も何故かそのことを不思議にも思っていなかったし。
あの兄妹かなり変なのよね。鳶一折紙は士道の訓練で、士道の変態発言を全て受け入れていたし。愛も別方向で変わった人間だし。
「……。」
「何よ、令音。そんな顔で見て。」
「……いや、何でもないさ。」
一体何かしら。まるで憐れむような視線で。考えないようにしましょう。
愛の姉の鳶一折紙は、愛と七罪の会話を盗み聞きして、七罪が精霊であると知ってしまった。そして、鳶一折紙もASTに所属している。これは頭を抱えたくなるような状況だったわ。
鳶一折紙が一般人なら特に問題はない。ラタトスクでちょーっと保護して、綺麗さっぱり忘れて貰えば解決だもの。
でも、ASTに知られたらそうはいかない。何せ、ASTは陸自の組織。その上は政府に当たる。
流石にそこまで行くとラタトスクでももみ消しできない。最悪の場合、愛が指名手配される可能性まで有った。
「ウッドマン議長が便宜を図ってくださらなかったらどうなっていたかしら。」
議長があの状況をどうにかする手段として、アメリカのアスガルド・エレクトロニクスで匿うことを提案してくださった。アスガルド・エレクトロニクスはラタトスクの母体。DEM以外で唯一、
愛は一も二も無くその提案に乗って来たわ。しかも、鳶一折紙に止められないように、書置きだけ残して家を出てきた。覚悟が決まり過ぎていて正直ドン引きしたわよ。
そして、数日も経たないうちにアメリカに行ったわ。七罪も一緒にね。
七罪は「愛と一緒じゃなければ協力する気は無い」って言っていたわ。だから一緒に七罪もアメリカで暮らせるように手配してね。
「向こうではゆっくりと暮らしていたのかな?」
ああ、令音は知らないのね。愛が向こうで一体どんな生活をしていたのか。
「全くそんなこと無いわよ。これを見て頂戴。」
コンソールを操作して、愛の戦闘記録に関するデータを呼び出す。そこには驚異的な数の記録が記載されている。
「
「普通の
愛は莫大な戦闘経験を経て帰ってきた。その強さは驚愕に値するわね。
ASTとの戦闘を見ていたけど、うちのクルー全員が唖然としていたわ。たった一人でASTの全隊員を無力化してしまったのですもの。無理もないわ。
確かに、ASTに比べて
「あの兵装の名前、確か
「アレは愛の提案で製造された兵装よ。強力だけど、使用難易度が高すぎて愛以外まともに使うことができないってスタッフが嘆いていたわ。」
完全に使いこなすことができたら、ノータイムで連携が取れる兵隊を手に入れたも同然になる。その上、
しかし、その制御難易度は常軌を逸している。愛以外で六機同時に制御できた人間を神無月以外知らない。それほどに扱いが難しい。
ほとんどの
「あれだけの力を持っていて、全く満足していないのだね。」
「そうね。一体何と戦う気なのかしら?」
今でも愛はちょくちょく神無月と訓練している。まるで何かに追い込まれるように。あの強さで、まだ余裕の持てない敵を想定しているのでしょうね。
私たちが予想できる敵の候補はDEMと《ナイトメア》辺り。でも、愛は秘密主義だから他の敵を想定していてもおかしくない。
「仲良くしておきたいものだね。」
「愛と七罪が敵になることなんて考えたくないわね。」
精霊と世界有数の
今回も裏話を少し。
琴里が話してくれた通り、愛君はアメリカでも色々しています。そのため、七罪や折紙、琴里以外にも何人かの原作キャラに意識されています。良い意味でも悪い意味でも。それがどのように今後の物語に影響するかは更新をお待ちください。