ヒロインは七罪   作:羽国

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機能の十香の日良かったですね。橘先生のご回答が予想外ながらも、すっと入ってくるいいものでした。新プロジェクトがどうなるか楽しみです。

最近、お気に入り登録が順調に増えていて嬉しい限りです。皆さまいつもありがとうございます。贅沢ですが、感想や評価もいただけると嬉しいなと思っています。本当に感情を動かされたときだけでいいので、お願いします。

今回の話はかっつりシリアスです。ここだけはシリアスで行かないといけないんです。少しお許し下さい。


七月二十三日 祭りの後

 愛がこそこそとパーティー以外の準備をしていることには気づいていたわ。だって、花束はまだしも線香はパーティーに必要ないもの。

 すぐに鳶一折紙に聞いてみた。幸いなことにパーティーの準備を一緒にやっている都合で、顔を突き合わせる機会は腐るほどあったから。

 

 自分でも踏み込み過ぎている自覚はあるわ。らしくないとも思っている。

 普段なら面倒なことに首を突っ込むなんて絶対しない。だって、私が出しゃばっても、いいことなんてないもの。

 でも、それが愛なら話は別。愛は肝心なところで私を遠ざけようとするから。

 辛い、苦しい、怖い、悲しい。そういった感情を全部自分でため込んで、誰かに話そうとしない。

 寂しがり屋で構ってほしい癖に。どうしてそう不器用なのかしらね。

 放っておいたら、どこか遠くにいってしまいそう。だから、誰かが見ていないといけない。

 愛の行動をよく見て、気づかれる前に逃げ道を塞ぐ。これが一緒に暮らした中で見つけた、愛を繋ぎとめておく方法よ。

 私はずっと愛と一緒にいたい。そのためなら、努力は惜しまないわ。

 

 鳶一折紙は嫌そうな顔をしながら話してくれたわ。愛に聞かれるよりはマシって思ったんじゃないかしら。

 愛よりも先に、鳶一折紙に聞いて良かったと思ったわ。きっと、愛の心の傷跡を撫でることになったでしょうから。

 今日は愛と鳶一折紙のお母さんの命日。愛が生まれたその日に亡くなっている。

 色々と腑に落ちたわ。愛があれほど自分の誕生日を雑に扱う理由は、お母さんを失った日を祝福できなかったからなのね。

 それでも、私の誕生日なら祝おうとする。あいつの中で私は何なのかしらね?

 

 ……私はどうするのが正解なのかしら?全部見なかったことにして、愛の行動を見逃す――それが一番楽なのでしょうね。

 以前はそうしたわ。愛がお墓に行くとき、気づいていて何も言わなかった。

 あのときの私はなんの資格もなかったから。ただ同居しているだけの他人が、参加していいものだと思えなかったから。

 でも、今は違う。愛の彼女っていう明確な立場を得た。

 愛の彼女って立場はとても重いわ。婚約者よりも重いものだと私は思っている。

 あれだけ全部ぶっちゃけ合ったんだもの。決して自惚れじゃないわ。

 婚約者が家族の冠婚葬祭に参加するのはある話らしいわね。私が参加しても別に変じゃないでしょう。

 ええ、そうよ。私は変じゃない。

 私はあの姉弟に毒されていない。普通の行動をしているのよ。

 ……何を一人で言いわけしているのかしら?馬鹿みたい。

 今回は愛について行く。そうした方がいいと思ったわ。

 鳶一折紙よりも義理を通さないといけない相手に会うため。なにより、愛のため。

 

 予想通りに愛はパーティーの終わりに会場をこそこそと抜け出そうとしているわね。だから、そこを捕まえる。

「どこに行こうとしているのかしら?」

「七罪、えーっと……。」

 愛は困った顔をしているわね。私を誤魔化したいけど、嘘も吐きたくないってところかしら?

 全く、困った彼氏ね。全部一人で抱え込もうとするんだから。

「下手に誤魔化さなくていいわよ。鳶一折紙に聞いたから。今日が何の日か。」

 だから、私が気づかないといけない。潰れてしまうよりも前に。

「一緒に行っても良いかしら?」

 愛の抱えているものを奪ってでも一緒に背負う。それが(彼女)の役目よ。

 

♦♦♦

 

 愛は反対しなかったわ。じっくり悩みながら、了承してくれた。

 愛は基本的に私の意思を尊重して、応援してくれる。例えそれが、愛にとって不本意な行動であったとしても。

 単純に私のことが好きだから、自分よりも私を優先する部分もある。何故か私への好感度が高すぎるから。

 でも、それ以上に愛は私を信じている。私の考えが、自分の考え以上の結果をもたらしてくれると。

 そんな過度の期待に応えられる自信なんてない。でも、答える努力はしないといけない。

 やれるだけのことをする。それだけよ。

 

 ラタトスクの手配した車に乗るため、少し移動したわ。その先で鳶一折紙と合流した。

「……どうして七罪もいるの?」

 いつもの鉄面皮を微妙に震わせているわね。まあ、私と一緒に両親の墓参りなんて嫌でしょう。私もそうだし。

 流石に悪いと思っているけど、引けないわ。これは必要なことだもの。

「一緒に行きたいんだって。いいでしょ?」

 愛はそんな内心に気づかず、鳶一折紙に確認している。この居心地の悪い空気に気づかないなんて相変わらずね。

 察しは悪くないのに、いきなり鈍感になるのはどうしてかしら?まあ、そっちの方が都合がいいから別に良いわ。

 女の醜い争いなんて、見せたくないもの。

「……………………構わない。」

 随分長い葛藤だったわね。僅差で弟の前で体裁を保つことを優先した、といったところかしら。

 良かったわ。このタイミングで本格的な喧嘩はしたくないもの。

「それじゃあ、行こうか。」

 愛は後部座席に乗り込んだ。私と鳶一折紙は愛に続いて、競うように後部座席に座ったわ。

 愛の隣を譲って助手席なんて御免よ。少し狭いけど、三人で一緒に座った方がマシね。

 愛が目を離した隙に睨み合う私たち。冷や汗をかくラタトスクのスタッフ。

 唯一、愛だけがのほほんとしていたわ。私と鳶一折紙に挟まれて、ご機嫌そうに鼻歌を歌っていた。

 ……そのまま純粋でいてほしいものね。

 

♦♦♦

 

 沢山の墓地が並ぶ一角。そこには周囲と比べて、かなりきれいな墓石があったわ。

 ご両親を大事に想っているのね。私と違って。

「母さん、父さん、久しぶり。今日はね、紹介したい子がいるんだ。

 初めてできた僕の恋人。頭が良くて、気が利いて、多才で、優しい、とってもいい子。応援してくれたら、嬉しいな。」

 おもちゃを自慢する子供のように、楽しそうに語る愛。これでも、頑張って隠している方なのよね。

 でも、そんなにハードルを上げないでほしいわ。愛の評価が異常に高いだけで、そんなにできた性格してないわよ。

「初めまして、七罪です。愛君とお付き合いしています。」

 改めてこういうことをするのは恥ずかしいわね。でも、我慢しないと。

 これはとても大事なこと。愛にとっても、私にとっても。

「二人で将来を誓いました。一生をかけて、大事にするつもりです。だから、私に愛君をください。」

 こんなに真剣にお願いしたことなんて初めて。でも、誰にも譲りたくないから。

 認めてほしい。形だけだとしても。

 目を閉じて必死に祈った。天まで届くように。

 

♦♦♦

 

「七罪、お手洗いは大丈夫?」

 帰り際、鳶一折紙は唐突に言い出した。こいつが私を気遣うとは思いにくい。

「そうね、行こうかしら。愛はちょっと待っていなさい。」

「うん、分かった。」

 鳶一折紙と一緒にトイレへ入った。鳶一折紙の裏の意図が予想できたから。

「それで、何の話がしたいのかしら?仲良くトイレに行きたいわけじゃないでしょ。」

 さっきの言葉は、愛に隠れて話がしたい合図。しかも、一度分かれて再度会うことが待てない、緊急の話かもしれないわね。

「あなたは、DEMと……私がオーシャンパークを襲った日の全てを知っている?」

 見て分かるくらいに辛そうね。自分のトラウマを掘り返しているのだから、当たり前かもしれないけど。

「エレンにぶった切られて気絶してたから直接は見てないわ。でも、後で映像を見たから、大体のことは知っているわよ。何が聞きたいの?」

 わざわざ自分の傷痕をえぐって話す。その心意気は買ってあげましょう。

 ただ、嫌な予感がするわね。できれば、当たってほしくないけれど。

「あのとき、愛に何が起こったの?あの子のあの姿は何?」

 思い通りに行かないものね。あれを覚えているなんて。

「あんた、やっぱり洗脳されていたときの記憶があるのね。そんな気はしてたけど。」

 

 ――《ウィッチ》!殺してやる。――

 

 鳶一折紙は()()()()姿()()を見てすぐに《ウィッチ》だと判断していた。こいつには一度も見せたことがないのに。オーシャンパークを除いて。

 だから鳶一折紙は、オーシャンパークで起こったことを覚えているんじゃないかと思っていたのよ。せめて、愛が精霊化したと気付かれなかったら良かったのだけど。

 確かに、精霊化した愛は別人だった。でも面影はあるから、私なら気づけないほどじゃなかったわ。

 まして、顔は鳶一折紙にかなり似ていた。こいつならもしかしたら、って思っていたのよ。

「答えて。あの子は、精霊なの?」

「それを聞いてどうするの?愛が人間じゃなかったら、どうするつもり?」

 意識して冷たい声を放つ。警告の意味合いを込めて。

「愛が精霊だったら、殺す?大勢の人の命を奪う前に。」

 鳶一折紙は、もう二度と自分と同じような人を生み出さないため、ASTに入ったらしいわね。精霊に大事な人を奪われることがないように。

 愛は人の命を奪う精霊になった。そうなったとき、こいつがどうするか分からないから知らせたくなかった。

「答えなさい、鳶一折紙。答えによっては、私が引導を渡してあげるわ。

 もう二度と、過ちを犯せないように。あんただって、何度も醜態を晒したくないでしょう?」

 愛は鳶一折紙を攻撃できない。多分、自分の命に代えても。

 やるなら私がやるしかない。例え、愛が悲しむことになっても。

 鳶一折紙が愛より多くの人の命を取るなら、ここで殺す。

「……私は……もう二度とあの子に刃を向けられない。例え、精霊だったとしても。例え、あの子が多くの命を奪うとしても。私は……家族を殺せない。」

 悲痛な声は私の耳にしっかり届いたわ。声色からしても、表情からしても、嘘はないようね。

 あの鳶一折紙がただの少女に見えるわ。

「……本当に良かったわ。」

 緊張が解けて息が漏れる。覚悟はできても嫌なものは嫌だもの。

「愛は精霊になった。それは間違いないわ。今はどうしてか霊力がないみたいだけど。」

 改めて本題に戻る。

「どうして人間が精霊になるの?意味が分からない。」

 そうね。私と愛以外はそこからなのよね。

「精霊がある日突然生まれた超生物だとでも思ってるんじゃない?」

「……まさか、そうではないと?」

 私自身、愛から教えてもらった話だけど、とんでもない話よね。

 こいつになら話してもいいでしょう。愛を守る同士として。

「そういう精霊もいるわ。でも、精霊になった元人間の方が多いのよ。私がそうであるように。」

「精霊が、元人間……。」

 目を丸くして驚いているわね。精霊が人生に深く関わっているこいつからしたら、人生がひっくり返るほどの話かもしれない。

霊結晶(セフィラ)っていう霊力の塊があって、それを取り込んだ人間は精霊になるのよ。私も中学生のとき、精霊になった。」

 あまり思い出したくない、嫌な思い出。 命を救われて、人間を捨てた。私という存在が始まった日。

「多分、愛も同じように霊結晶(セフィラ)を取り込んで精霊になっていると思うわ。あいつは間違いなく元人間だもの。」

 愛は人間として生まれて、人間として成長した過去がある。親がいて姉がいる普通の人間。

 髪の色や性格を考えても、鳶一折紙と血のつながりがある。霊結晶(セフィラ)から生まれた純粋な精霊じゃなくて、精霊になった人間じゃないとおかしいわ。

「……霊結晶(セフィラ)とはどういった物質?色や形状、特徴などは?」

「私もよく覚えてないのよね。かなり昔の話だし。かなり大きな宝石みたいな見た目だった、と思う。」

「だとしたらおかしい。私はそんなものを見たことがない。あの子が人間から精霊になったというのなら、私かあなたがそれを見ていないとおかしい。それに愛自身も。」

「それは、そうなのよね……。」

 愛は鳶一折紙か私とずっと一緒にいた。それなのに、愛が精霊になった瞬間は分からない。

 愛本人もそんな記憶はないみたい。もしかして、記憶を弄られている?

「全身モザイクの女を見たことない?それが霊結晶(セフィラ)を持っている存在なんだけど。」

 崇宮澪は正体を隠して人間に霊結晶(セフィラ)を与えている。それだけでも覚えがあったら。

「見たことがない。そんな存在を見て、忘れるなんてあり得ない。」

「まあ、そうよね。」

 そんな不思議存在を忘れるわけないわよね。見ていたとしたら、一緒に記憶を消されているに決まっているわ。

 やっぱり、崇宮澪が記憶に干渉しているのね。多分、この姉弟の二人ともに。

「私もあなたも、愛自身すらも()()()()()()()()()()()で精霊化していたとしたら……。」

 鳶一折紙の呟いた言葉。それは聞き逃せない言葉だったわ。

「それ、どういう意味?」

「心当たりがある。」

 危険を冒してこいつに話をした意味はあったみたいね。一番の謎のヒントが得られるなんて。

 愛の力は、この世界に精通している愛も知らない。その価値は計り知れないわ。

「教えなさいよ、その心当たりってやつを。」

「少し調べてからにする。迂闊に話したくはない。……お母さんに関わることだから。」

 そう言われたら少し聞きにくいわね。一大事とはいえ、墓を暴くような真似をするのだから。

「夏が終わるまでには調査を終わらせる。それまで待って。」

「……まあいいわ。あんたがしたいようにしなさい。」

 こいつが愛を想っていることだけは間違いない。信じて待ちましょう。

 

「ところで、どうして急に話す気になったの?話す機会なんていくらでもあったじゃない?」

 愛が精霊になったことを気づいたのは、昨日今日わけがないわ。あれから一月近くたってるんだから。

 ずっとパーティーの準備で集まってたんだから、話す機会なんていくらでもあった。それなのに、今話し始めた。

 何が鳶一折紙を動かしたのかしら?少し気になるわ。

「あなたが……。」

「私?何でそこで私が出てくるの?」

 私がどうかしたのかしら?特に何かした覚えはないけど。

「……やっぱり止めておく。」

「ちょっと、変なところで切るのは止めてよ。余計、気になるじゃない。」

「絶対にイヤ。そんなことをするなら、舌を噛み切った方がマシ。」

 そんなに屈辱的なことを言うつもりだったの?絶対に吐かせたくなるじゃない。

「言いなさいよ。愛には黙っておくから。」

「拷問されようと、話す気はない。」

 鳶一折紙は本当に口を割らなかったわ。本当に強情ね。

 それ以降、鳶一折紙の口撃が優しくなった気がするわ。……まさか、ね。




この三人の関係は結構複雑です。だからこそ、書いてて楽しいです。思いもしないような転がり方をするので。

今回の裏話。七罪と折紙は互いに嫌悪感がそこまで高くないです。
七罪はそもそも初めから嫌悪感が低いです。感情表現が不器用で、暴走しがちなのは理解しているので。愛を傷つけるなら許さないけど、自分への攻撃はあしらうつもりでいます。折紙の態度に張り合ってけんか腰になってるだけです。

一方、折紙は嫌悪感が徐々に薄れています。自身の感情をしっかり理解している七罪と違って、感情の変化に戸惑っています。弟にもけんか相手にも相談できないので、どうしようもできないでいるのですが。
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