ヒロインは七罪   作:羽国

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夏休みは時系列のシャッフルをします。今回の話は告白の返事とパーティーの前準備の間の話です。夏休み編が終わったら時系列のまとめでも出しましょう。

愛くんの変人レベルが上がったな。折紙と一緒に変人の階段を駆け上がっていきそう。


二人のデートプランナー

 フラクシナスの検査室。僕はそこで横になっていた。

「令音さん、これで検査はどれだけ終わりました?」

「喜びたまえ、愛。今のでちょうど半分終わった。」

 令音さんはポジティブな意味を込めて話す。しかし、僕にとっては全然いい話ではなかった。

「まだ、半分ですよ!一体いくつ検査受けたと思ってるんですか!途中で数えるの諦めましたよ!」

 フラクシナスで寝泊まりする日々が、既に四日続いている。僕は七罪(癒し)のある家に早く帰りたい。

「諦めてほしい。君は精霊の中でも、かなり特殊なケースなんだ。念入りに検査しないと、家に帰せない。」

 令音さんの言うことはもっともだ。僕は精霊になった。

 それなのに、今は霊力が全くないらしい。僕の知識から判断しても異常事態だ。

 念入りに検査するのは当然だと思う。しかし、限度がある。

「理解はしてるんですけど、これだけ多いと嫌になるんですよ!令音さんの持っている記録用紙の厚さ、おかしいじゃないですか!」

 記録用紙が十センチくらいの束になっている。そんな数の検査を受けていたら、頭がおかしくなりそうだ。

 検査をする令音さんの方が大変だと思う。それを確認して円卓会議(ラウンズ)に報告しないといけない琴里も。

 しかしそれはそれ、これはこれだ。中学生の一週間を検査で潰すのはよくないと思う。

 なるべく短くするため、一日の項目数を増やしたのは僕だけど。仕方ないじゃないか、できたばかりの七罪(彼女)と早く楽しみたいんだから。

「これで午前の分は終了だ。……君は少し休んできた方がいい。お客さんが来ているよ。」

「あ、もしかして……。」

 我儘な子供に飴を出してくれたのかな?期待して良いのかな?

「外まであんたの声は聞こえてたわよ。少しは大人しくできないのかしら?」

 ドアを開けて現れたのは七罪だ。いつものジト目で僕を見ている。

「なつみ~。」

 その視線がとても心地いい。検査の間、ずっとその目で見ていてほしい。

「元気だね、愛く~ん。七罪ちゃんがいたら、無人島でも生きていけるんじゃな~い?」

「お久しぶりです、愛さん。」

 一緒にいるのはよしのんと四糸乃だ。七罪と遊んでいて、そのまま来てくれたのか。

 よしのんは珍獣でも見るような目を僕に向けている。このウサギ、案外常識人(人?)なんだよな。

「うん、久しぶり。……よしのんの言葉は誉め言葉だと思っておくよ。

 僕は七罪さえいれば無人島で生きていける。その程度のサバイバル術は仕込まれてる。」

 そんな今更なことを言われても困る。自分の身をどうにかする方法は知っているから、必要なのは心の癒しだ。

「七罪ちゃん、大丈夫?愛君、変になっちゃったけど。」

「間違ってるわ、よしのん。愛は変になったんじゃなくて、元から変なのよ。隠してただけで、二人のときはずっとこんなもんよ。」

 七罪はよしのんに酷い解説をしている。全部事実だから何も反論できないけど。

「……何かあったら言ってね。」

「いつでも、話してください。」

 あのよしのんがガチトーンで七罪の肩を叩いている。一緒にしなだれている耳はどうやって動かしているのだろう?

 四糸乃もそっち側だ。僕に気遣って露骨な表現を避けているけど、ストレートパンチより痛いぞ。

「ありがとう、二人とも。でも、もう諦めたわ。愛が常識人になるなんてあり得ないもの。」

 七罪は疲れた表情をしている。もしかしなくても、少し怒ってる?

 僕、やり過ぎた?もうちょっと七罪を労わった方がいい?

 

♦♦♦

 

 「頭のおかしいあんたでも、世のため人のため、四糸乃のために役立つなら問題ないわ。あんたの知恵を貸しなさい。」

 七罪は情状酌量の余地があると仰っている。ならば、僕のする事は一つだ。

「喜んで協力させていただきます。何なりと仰ってください。」

 七罪と四糸乃に向かってジャンピング土下座をする。七罪は満足げに鼻を鳴らしている。

「完全に七罪ちゃんのお尻に敷かれてるね~。」

 よしのんは楽しそうにしている。こいつ、やっぱり性格悪いわ。

「仲良しでうらやましいです。」

 四糸乃は純粋な瞳というフィルターを通して僕らを見ている。合ってるけど、間違っているぞ。

「それで、僕はどういう協力をすれば良い?四糸乃に何か協力が必要なんでしょ?」

 顔を上げて裁判官(七罪)の顔色を伺う。僕の罪は許されるだろうか?

「ほら、四糸乃。」

「はい。愛さん……士道さんとデートがしたい……です。」

 よしのんの後押しを受けて、四糸乃が勇気を振り絞った。しかし、なぜ僕に?

「誘えば良いんじゃない?士道さんなら聞いてくれるでしょ。」

 優しい士道なら、四糸乃の願いくらい聞いてくれるはずだ。僕に宣言する意味はないと思う。

「それは、あの……。」

 口ごもる四糸乃。何か複雑な事情でもあるのだろうか?

「四糸乃は今封印されてないのよ。そんな状態で街に出たらどうなるかしら?」

「あー、そういうことか。」

 四糸乃は精霊としての力を取り戻して、霊力を放出している状態なのか。だとしたら、街に出てデートをしたらASTに発見されるかもしれない。

 それを懸念してデートができないのか。納得できた。

「デートの最後にキスをしたけど、そのままデートしたら危ないかもしれない。そういうことで合ってる?」

「そういうこと~。察しがよくて助かるよ~。」

 よしのんが答え合わせをしてくれた。面倒なジレンマに囚われてるな~。

 そりゃあ、好感度が高いからといっても義務的なキスでは嫌だろう。女心が許さない。

 事情が分かる四糸乃だからこそ、要望と周りへの配慮で板挟みになって苦しんでるのか。

「霊力の隠蔽はどうなの、七罪?」

 七罪は今でも封印されていない。それでも普通に生活できているのは、霊力の隠蔽技術があるからだ。

 天使を使うタイミングはともかく、普段はほとんど霊力を発していない。だから、ASTに見つからずいられる。

「教えているんだけど、時間がかかりそうね。」

 七罪がそういうのなら難しいのか。どういう技術なのか、霊力を持っていない今の僕には全く分からないな。

 七罪はいろいろと技術レベルが高い。長い間人間社会に溶け込んできた、七罪を基準にするべきじゃないのは確かだ。

「すみません……。」

 四糸乃がしょんぼりしている。それができたら一日デートするくらい簡単だからな。

「四糸乃が悪いんじゃないわよ。霊力の隠蔽なんて卑屈な覚えなくて問題ないわ。そういうのは人間社会でこそこそ嗅ぎまわっている鼠みたいな精霊が身に着けるスキルよ。

 ボッチが空気になる技術と一緒ね。教室の端で誰にも気づかれないように息を殺して、『私は石、私は石』って唱え続けるの。

 そしたらいつの間にか誰からも忘れ去られて、担任にすら呼ばれなくなるの。そうしたら完璧ね、チクショウ。」

 自分で連想ゲームをして自分の想像に怒っている。学校の記憶(トラウマ)を掘り起こさなくても良いのに。

「七罪さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、問題ないわ。とにかく、四糸乃のように純粋無垢なイノセントガールが、霊力の隠蔽ができないのは当然よ。今は別の方法を探しましょう。」

 七罪は元気なさそうに四糸乃に返事をする。空元気だけど、そこをつつくのは野暮か。

「精霊化したままでもデートができるアイディアを、僕に求めてきたってこと?」

「そうよ。あんたの発想力なら、何か思いつくんじゃないかと思って。」

 切り替えて、肯定する七罪。僕は期待されているようだ。

 彼氏としてかっこいいところを見せたい。

 それに、四糸乃にはDEMとの戦いで助けられた。それくらいの見返りはあってもいいだろう。

 少し頑張らないといけないな。久しぶりに()()()の力を借りるか。

「令音さん、ここに三人分の昼ご飯とパソコンを手配してください。」

 背後で景色と同化していた令音さんにお願いをする。離れていなくて丁度良かった。

「構わないが……何をするつもりだい?」

「ちょっとデートプランの構築を手伝ってもらうんですよ。最高の知能を持つあいつに。」

「……ああ、そういうことか。分かった、いいだろう。」

 令音さんは納得したようで、微笑んだ。裏を知っていても、この人は母親の雰囲気あるよな。

 令音さんは端末を開いて連絡している。スタッフに指示を出したのだろう。

「四糸乃、おうちデートなんてどうだ?」

「おうちでーと、ですか?」

 僕は準備に取り掛かった。僕とあいつの力を見せてやろう。

 

♦♦♦

 

 僕はパソコンに向かって自分の考えを出力する。もうこうやって会話するのも慣れたものだ。

「愛さんは、何をしているんです……か?」

 四糸乃は不思議そうにこちらを見る。初めて見ると何をしているか分からないだろうな。

「マリアとデートプランを考えてるんだよ。」

「マリア……さん、ですか?」

 四糸乃は首をかしげる。聞いたことのない名前が出てきたからだろう?

「ねえねえ、愛くん。それって、女の子のお友達?愛くんも隅に置けないね~。」

 よしのんがからかうように言っている。まあ、間違ってないけど、それだと誤解されるな。

「マリアはフラクシナスのAIよ。」

「えーあい、ですか?」

 七罪の説明を受けても四糸乃は不思議そうにしている。人間の常識に疎い四糸乃には謎のワードだったか。

「Artificial Intelligenceの略で、日本語だと人工知能って意味だな。ざっくり言うと人の手で作られた存在だ。機械だけど人と同じように考えて助けてくれる。」

「そう、なんですか……?」

 四糸乃は分かっていなさそうだ。難しかったかな。

 まあ、いろいろ説明するより実際に見た方が早いだろう。

「こんな感じで会話してるんだよ。」

 パソコンの画面を四糸乃に向ける。そこにはマリアとのチャットが映し出されている。

 

四糸乃が士道とのデートをしたいらしい。でも、霊力を封印されていないからASTに見つかる危険がある。

だから、士道さんの家でおうちデートをしたらいいんじゃないかと思ってる。協力してくれないか?

 

MARIA

了解しました。協力しましょう。

精霊の自発的な行動は好ましいものです。四糸乃のデートを支援します。

それで、協力の具体的な内容はデートプランですか?

 

デートプランもお願いしたい。でも、まずは琴里の許可が必要だ。

この内容を僕の名前で琴里に申請しておいてほしい。あと、士道さんの日程調整も。

デートプランはそれが通ってからだな。

 

MARIA

問題ありません。既に琴里の返信待ちです。

琴里はそれを却下するような狭量な女ではないでしょう。すぐにデートプランを考え始めるべきです。

万が一却下されても、次に生かせるので問題ありません。

 

それなら早速お願いしようか。取り敢えずいくつか候補を出してほしい。

そこにいくつか調整や追加を入れていく。こっちでプランを考えて、二人に好きなものを選んでもらうつもりでいる。

 

MARIA

それでは、このようなものはいかがでしょうか?

・二人で一緒、ワクワククッキング

・ドキドキ、ツイスターゲーム

・ムードたっぷり、恋愛映画鑑賞

 

全体的に方向性はいい感じだと思う。でも、いくつか調整点がある。

あと、僕もアイディアを思いついたから盛り込んでみたいな。一つずつ話すね。

 

MARIA

聞かせてください。あなたの意見は興味深いものが多いです。

あなたとの会話を通して、人間の心を学び、私は進化します。

 

「これが、マリアさん……。」

 四糸乃は画面を見ながら、手をぶんぶん振って興奮している。無邪気で、羨ましいな。

「すごいね~。本当に女の子とお話してるみたい。これがあれば、彼氏のいない寂しい男の子も大丈夫だね。」

 よしのんが不穏なことを言っている。そういうこと言うの止めてくれ。

 本当にハマりそうな人がいるんだ。中津川さんとか絶対そうだろ。

「このポンコツ、また愛を学習ソースにしようとしているのね。こいつに毒されちゃダメって言ってるのに。」

 七罪は呆れ半分で腕組みをしている。僕の行動の監視お疲れ様です。

 マリアは人間の行動を学習しようとしているから、僕の言動も参考にしている。変人代表の僕でも。

 そんなことがまかり通らないように、七罪と琴里は調整を入れている。放っておいたら、僕は他メンバーの数倍、マリアにアクセスするからな。

「琴里がわざわざ会話機能の導入を遅らせているのは、英断だったわね。こいつが自由に話せていたらどうなっていたか。」

「え、それ初耳なんだけど。」

 どうして簡単に導入できそうな会話機能が未だついていないのか不思議だったんだ。まさかわざと遅らせているとは。

「マリアが自由に話せてたら、あんたどうしてた?」

「そりゃもちろん、知りたいことの調査とか新しい装置の開発を、無限に手伝ってもらってたけど。」

 マリアがいれば色々なアイディアを実現できる。そのためにも、マリアの会話機能はぜひ欲しい。

 チャットだと会話速度が遅すぎる。新型カメラの開発も会話で情報交換出来たら相当早くできていただろう。

「だからよ。あんたにブースターつけたら、とんでもないことになるのは火を見るより明らかじゃない。

 あんたにそんな危険なおもちゃを渡す気はないわ。そこは全面的に琴里に同意ね。」

 七罪はうんうん頷いている。仕事の効率下げてまで僕の暴走を抑えたいの?

「まあ、いいや。七罪がそう言うなら多少の不便は受け入れようじゃないか。」

 最早、飼い主みたいなポジションになりつつある七罪に、僕は全面降伏する。直感には従った方がいいと知っている。

 多分、七罪はお冠だ。やり過ぎるとそろそろテコ入れが入る。

 話題を逸らして元に戻そう。今回の本題は四糸乃のデートプランだ。

「こんな感じで適当にデートプランを考えるつもり。問題なさそう?」

「大丈夫、です。」

「ありがとね~、愛く~ん。やっぱり、君は頼りになるよ。」

 四糸乃はともかく、よしのんは随分調子いいな。さっきまで罵倒寸前の台詞を吐いてたのに。

 まあ、別に気にすることではない。成果を出して、性格のマイナス評価を相殺するのは僕の義務だ。

 それに、よしのんからのパンチが弱くなったら、それはそれで寂しい。僕はこのウサギを許容しよう。

 よしのんは悪友だ。悪友とは殴り合ってるくらいで丁度いい。

「友達だからな。力を貸してほしいならいつでも言ってくれ。」

 四糸乃もよしのんも大事な友達だ。この程度のことでいいなら、喜んでやる。

 七罪のことを抜きにしても、僕はこの二人のことを好ましく思っている。大事な休憩時間を消費してもいいくらいには。

「さて、そろそろ終わったかな?君は検査の続きがある。」

 令音さんに肩を叩かれる。短い楽しみは終わってしまったようだ。

「楽しみを奪うのは心苦しいが、予定が詰まっている。遊びたいならば、早く終わらせよう。」

「……はい。」

 この人はとことん大人だ。僕が反論できない程度には。

「なつみ~、また来てね~。」

「気が向いたら来てあげるから、大人しくしてなさい。」

 七罪はやる気なさそうに手をひらひらさせている。来てくれるよね?

「ばいば~い。」

「愛さん、またお会いしましょう。」

 皆に手を振られながら、検査地獄に引き戻された。その後、僕の文句がうるさく響いたのは言うまでもない。




愛くん、犬耳と尻尾と首輪いる?それつけて、七罪にご主人様やってもらう?

愛くんは七罪が相手なら受け入れそう。七罪は頭掻きむしりそう。

今回の裏話。愛くんとマリアの関係について。
愛くんはアメリカ時代に五河夫妻にちょっかいかけてます。結果、マリアの開発を少し早めて、マリアとチャットできるようになりました。愛くんとマリアは相性いいです。放っておいたら、琴里の胃に穴を空けるくらいには。
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