ヒロインは七罪   作:羽国

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デートの前に作戦会議です。愛くんは折紙のためにちょっと張り切ります。


愛の恋愛観

 鳶一家の食卓では僕と姉さんと七罪が向き合っていた。三者三様でそれぞれの性格が表れている。

 僕は楽しくプロジェクターのセッティングに戸惑っていた。新しく買ったばかりで、慣れてないから角度や光量の調整に時間がかかる。

 姉さんはまだ説明が始まっていないのに、真剣な顔をして画面を見ている。ノートも準備して聞く準備ばっちりだ。

 七罪はやる気なさそうにこっちを見ている。二分の一倍速にしたかのような速度でお菓子を食べている。

 『面倒くさい』という言葉が聞こえてきそうだ。興味はなさそうだけど、どういう意図で参加しているんだろうか?

「さぁ始めようか、士道さんの攻略会議を。僕が()()()()()()()士道さんの情報を駆使して、姉さんのデートをサポートするよ」

 士道の近所に住み始めて約三か月。士道のことは色々知っているつもりだ。

 僕には原作知識もある。姉さんのために士道の情報を利用しよう。

 僕が知らない筈の知識も、士道の性格から予想したことにすれば問題ない。

「あなたは観察と推測に長けている。性格を捉える能力は私よりも高い。期待している」

 どうやら、姉さんも僕のことを高評価してくれているみたいだ。頑張らないと。

「……本当にこいつ、考えを見抜くのよね。感情は理解しないし、空気も読まないけど」

 七罪は呆れた顔で毒を吐いている。僕自身も『よくこんな歪な生物が生まれたな』と不思議に思っている。

 まあ、今回はそれが役に立つ。存分に使い倒そう。

「まずは、士道さんの特徴を振り返るよ」

 スライドの本編に入る。一枚目は士道がエプロンをつけ料理している写真。そして、箇条書きにした士道の特徴が並んでいる。簡単な士道の紹介ページだ。

「この写真はどこで入手したの?少なくとも、()()()()()()()()()()()入手不可能なもの」

 姉さんは士道の写真を穴が開くほど見つめている。瞼の奥に焼き付けるかのように。

「ああ、これは僕が衛星(サテライト)を使って撮ってきたやつ」

 文字だけにすると寂しいから適当に撮ってきた。身内にしか見せないから、まあ……いいでしょ。

「素晴らしい写真。非常に解像度が高いのに、士道に悟られていない。士道の日常を上手に切り取っている。是非欲しい」

 片手間に撮った写真だけど、姉さんから高い評価をもらってしまった。

 普段、七罪を撮るためにカメラにはこだわっている。軽い気持ちで撮っても、最低限の品質のものになる。

「後でデータを渡すよ。データの中で士道さんが映っているものをピックアップする。その代わりに撮影技術を教えてね」

「わかった。お姉ちゃんが教えてあげる」

 姉さんは真剣な顔で僕にUSBを握らせた。姉さんは本当に士道が好きだな。

 まあ、気持ちはよくわかる。僕も七罪の写真だったらいくらでも欲しい。

「……なんなの、この姉弟?」

 七罪はいつもの半目で僕たちを見ている。少し変わってるけど、仲良し姉弟……だよ?

 

「じゃあ気を取り直して、今度こそ士道さんのことを振り返るよ。

 デートにおいて大事なのは、士道さんが男子高校生として、普通の趣味趣向をしているところ。そして、優しいところ。

 これらを意識しつつ、攻めるポイントを考えていくよ」

 デートだからといってふわふわした雰囲気でやるつもりはない。しっかり分析して戦略を考える。

「士道さんは僕や姉さんと違って、異性に対する明確な好みや譲れない点がない。十香さん、姉さん、四糸乃、琴里。全員全く違うタイプの女性だけど、全員に一定以上の好意を抱いている」

 画面に映すのは四人の写真。身体的特徴、性格、アピールポイントも簡単にまとめているが、全員方向性が違う。

 十香:オーソドックス美少女、天然、万人受け

 姉さん:クールビューティー、超肉食系、士道以外の男に興味なし

 四糸乃:フェミニン系、心のオアシス、よしのんもセット

 琴里:子供趣味、妹属性&サディスティック、十数年一緒に暮らした士道の義妹

 普通これだけタイプの違う人間を平等に愛すのは難しい。それでも、士道さんは平等に全員を好きでいる。誰が一番か拷問しても答えてくれないだろう。

「……悔しいけど勉強になるわね。いざというときのために」

 七罪も渋い顔をしながらメモを取り始めた。いざというときは変身するときのためだろう。

 贋造魔女(ハニエル)で再現できるのは見た目だけ。行動は自分で再現しないといけない。

 その辺を七罪は自前の観察能力で担っている。既に自分自身で分析している筈だけど、それで補えていない範囲がこの説明の中にあったようだ。

 素直に嬉しく思う。七罪の役に立てたこと。そして、七罪を越える部分を確認できたこと。

「これは誰にでも等しくチャンスがあると言える。でも逆に言うと、基本は横並びで抜け駆けできない状況だ。士道さんを堕としたいなら、他のメンバーを明確に越えないといけない。」

「全員根絶やしにすれば問題ない。誰を愛してもどんなに汚れたとしても、最後に私の横にいればそれでいい」

 姉さんは世紀末覇者のようなことを言っている。姉さんらしい意見だ。

 まあ、ここまでは想定通り。僕はデートを上手くいかせるよう、少し誘導するつもりなのだから。

「それじゃダメなんだよ。最初に言ったでしょ、士道さんは優しいって。

 士道さんは誰かが傷つくことを許容できない。それが自分のためならなおさら。

 士道さんを堕とすために、ライバルを蹴落とすのはNG。むしろ、全員を士道さんのハーレムに取り込んで、正室に収まるぐらいの気概がないと」

「………………」

 姉さんは渋い顔をしながら考えている。受け入れがたい意見だろう。

「まあ、どっちにしろ士道さんの好感度を稼ぐのが重要だ。そして、士道さんを堕とす方向性も考えた。士道さんに好きなタイプはなくても、好きなシチュエーションは存在する」

 次のページに移る。そこに映すのは、少し恥ずかしい写真だ。

「これは……士道が泥棒猫に迫られている写真?」

「……まあ、正解。士道さんが精霊達に迫られている写真をピックアップした」

 十香に抱き着かれている写真。姉さんにボディタッチを求められている写真。狂三にからかわれている写真。

 士道さんは漏れなく顔を赤くしてたじろいでいる。原作でもよく見られる光景だ。

「士道さんは受けのタイプだ。女性から好意を集めているけど、あまり自分からは動かない。

 だから、よく女性の方からアタックされる。ここまでは、姉さんもなんとなくわかるんじゃない?」

 それぞれ、どのような経緯でこの状況に至ったかまとめておいた。

 言っちゃ悪いけど、『士道がチキンだった』の一言に尽きる。肯定も拒絶もしないからこうなるんだ。

「士道は初心なところがある。私はいつでも問題ないのに」

 『どうして襲ってくれないのだろう』という言葉が聞こえてきそうだ。いつでもホテルに行く準備ができている人は違うな。

 姉さんはうんうん頷いている。なんとなく認識のずれを感じるけど、話とは関係ないからいいや。

「士道さんは攻められているときに輝く。向こうから押してこないなら、こっちから押し倒してしまえばいい。シンプルだけど、有効な戦術だ」

 奥手なタイプを堕とすなら、攻めの姿勢を取らないといけない。世界の心理といえる。

「だったら、士道に睡眠薬を盛ってホテルに……」

「はい、アウト。それじゃ、むしろ好感度が下がるかもしれないよ」

 姉さんは行き過ぎた極論を採用しようとした。こうなると思ったから、作戦会議をしているのだ。

「何故?男性にとって、女性の身体に触れるのは幸せなこと。私も士道も幸せでウィンウィン。好感度が下がる理由が分からない」

 姉さんは本当に不思議そうな顔をしている。他人の感覚を理解するのがやっぱり苦手だな。僕も他人のことは言えないけど。

「多くの人はゆっくり段階を踏まないと、脳が混乱するんだ。

 確かに、きれいな異性の身体に触れることは幸せな行為だよ。だけどそれがいきなり起きたら、幸せよりも戸惑いが勝っちゃうんだよ。」

「そうなの?」

 小首をかしげて珍しい動作をしている。たまにかわいいことするんだよな。

「デートの最中に飲み物を飲んだら眠くなった。起きたらホテルで相手が裸になっていた。

 大概の人はそれで興奮できない。何故そのような状況になったのか、考えるので手一杯になるから」

「なるほど?」

 姉さんはその状況をむしろ喜んで受け入れてしまうから、士道の視点に立てない。姉さんは『士道が求めてくれた』と喜ぶだろうからな。

「関係が何であろうと、双方向のコミュニケーションを取ることが重要だよ。攻めるコミュニケーションと一方通行は全く別物。

 相手の反応を見て攻め方を変えることが必須条件になる。例えば、相手が性的な視線を向けていたらボディタッチをするみたいにね。」

「ふむ、参考になる」

 姉さんは凄い勢いでノートを取っている。イラストまでつけながら詳細に。

 姉さんのノートは丁寧でわかりやすい。これがそのまま参考書になるほどに。

「睡眠薬や精力剤は飛び道具だ。有効な戦術だけど、そればかりに頼っているようではダメ。

 姉さんだって新人隊員が不意打ちばっかり考えて、基本戦術を勉強しなかったら指導するでしょ」

「当然。不意打ちは基本を覚えてから学ぶべき戦術。そればかりでは決して強くなれない」

 姉さんに対してはこっちの方が通じやすい。不得意な分野は、相手の得意分野に置き換えて話すといい。

「恋愛も一緒だよ。

 関係を積み重ねて、最後の一押しとして薬やボディタッチを使うのはいい。でも、初手で使っても有効性は低い。

 相手の感情や精神状態を予測して、心を捕まえるのが基本。ちゃんと士道さんの心に寄り添うんだ。」

 目的を果たすのに近道はない。一歩ずつ歩いていくことでしか辿り着けないんだ。

「……やはり、あなたは大人になった」

 姉さんは喜んでいる。それほど特別なことを言ったつもりはないんだけど。

「そうね、考えた方は立派な大人よ。まだまだ危ういところは多いけど」

 七罪まで同じようなことを言っている。……前世の知識があるから、ちゃんと大人のつもりなんだけど。

「とにかく、ちゃんと段階を踏むんだ。徐々に過激な行為をして、士道さんの許容範囲を少しずつ上げていく。」

 変な空気を払拭するために話題を進める。ここからが具体的な話だ。

「手を握ることからスタートして、ボディタッチ、局部への接触という風にシフトする。いきなり段階を上げるんじゃなくて、時間をかけて丁寧に進歩していくのが大事」

 カエルはいきなり熱湯に入れられるとすぐに飛び出る。でも、水からゆっくり温度を上げられると、ゆで上がってしまう。

「ホテルに行くことは将来的な最終目的として、今回は諦める。今回の最終ラインはキスになる。

 ディープなのじゃなくていわゆるフレンチ・キスね。今回そこまで行けたら、次回はそれ以上の行為をできる可能性が高まる。

 大事なのは危機だと思わせないこと。少しずつ調教して、常識を侵食するんだよ」

「長期的な計画を立てて、確実にホテルに連れ込めるように考える。なるほど」

 姉さんは目を輝かせている。理解してくれたようだ。

「……ねえ、愛?」

「何?」

「話を聞いていて怖くなったんだけど。私も士道みたいに調教しようとか考えてる?というか、既にしてるとか言わない?」

 七罪は自分の常識が侵食されていないか心配になったようだ。そんなこと心配しなくていいのに。

「そんなことしてないし、する気もないよ」

 七罪の元まで近づいて目を合わせる。びくっとしたけど、逃げる様子はない。

「今回は姉さんの希望と今の状況が乖離しているからやっているんだよ。僕にとって今の七罪が理想なんだから、する必要がないじゃん。」

 わざわざ好みのタイプを探して、アタックしたんだ。無意識に相手を染めることはあるかもしれない、計画的にそんなことをするつもりはない。

「そ、そう。ふ~ん」

 七罪はそっぽ向いてぎこちない態度を取っている。声色から機嫌がよくなったことはわかる。

 顔見せてほしいけど、そういう態度も見ていて楽しいな~。素直じゃないけど、分かりやすいんだよな~。

 

「さあ、ここからはクイズ形式での勉強だよ。実際にデートで起こり得るイベントを上げていくから、それが一から十のどのレベルのイベントか当ててね。ホテルに行くことをレベル十とするよ」

 パソコンから流れるクイズ番組のBGMに合わせて進行する。気分はクイズバラエティの司会だ。

「相変わらずこだわりが強いわね」

「どんなときも全力。それが愛のいいところ」

 完全に子ども扱いされているけど、無視しよう。今日は僕の独壇場だ。

「デートで街中を歩いています。周囲に人だかりはなく、歩きなれている道だから迷うこともありません。ここで手をつなぎました。このシチュエーションのレベルは?」

「レベル一」

 問題を聞き終わって姉さんが即答する。考える時間すらほとんどなかった。

「どうして?」

「さほど難しくない行為。レベル一が妥当」

 姉さんの迷いない理論。その答えは……

「残念、不正解。正解はレベル三だよ。重々しい覚悟は必要ないけど、簡単にはできない行為になる」

 ブッブーと音が鳴る。本当にクイズ番組のノリだ。

「理解できない。何が困難な行為?」

 姉さんは不服そうにしている。理由を聞かないと納得できないようだ。

「大事なのはその行為がどんな意味を持つか。

 はぐれることも迷うこともない道で手をつなぐなら、その理由は『相手と手をつなぎたいから』に他ならない。それを大っぴらに主張するのは恥ずかしい行為なんだよ。

 繰り返すけど、士道さんは普通の感性をしている。士道さんも同じ状況なら抵抗を感じる可能性が高い」

「……難しい」

 姉さんは拗らせてるからな~。少しずつ修正して、士道さんに合わせないといけない。

「さあ、こんな感じでどんどん行くよ」

 クイズはたくさん用意している。どんどんこなして学んでもらおう。

 

 その後、様々なイベントをレベル別で姉さんに見せた。一緒に料理をするようなレベルの低いものから、観覧車に二人で乗る中くらいのレベルのもの、ホテルで高級ディナーを取る高いレベルのものまで。

 これだけ見せたら自分で段階を踏むプロセスを考えられるはずだ。姉さんは学習能力が高いから。

「あとは、ちゃんと最後にキスができるように姉さんが大枠を考えて。僕が調整と追加アイディア出しをするから」

「わかった。お願いする」

 姉さんと僕は手を取り合った。いいデートプランにしよう。

「仕方ないから、私も手を貸すわ。あんたらを放置すると、後で痛い目を見そうだから。

 今日見ていて、嫌というほど再確認させられたわ。……琴里みたいに胃薬の世話になるのは勘弁したいわね」

 七罪は疲れた顔で言っている。悪いけど、姉さんのために少し頑張ってもらうよ。

 かくしてデートプランは設計された。いきなりホテルはなくなったけど、将来的な可能性は倍以上に跳ね上がった。

 




愛くん、理論だけはきっちりしてます。理論だけは。行動は知りません。

今回の裏話をしましょう。今回は愛くんのキャラ分析能力について。
愛くんは人の感情を察する能力が乏しいです。では何故こんなにちゃんとキャラの性格や特徴を捉えられているのか。それは精神構造の分析に長けているからです。

根底的思想、トラウマ、誇り、好悪の基準といった性格的要素からその人の思考モデルを頭の中で再現します。それを使って行動を予想したり、精神的特徴を記憶します。

まあ、分かりやすく言うと、大概の人がオートでやっているキャラの把握を、フルマニュアルでやっています。頭のおかしいことするな~。
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