前回の投稿時は忘れていましたが、折紙のデートコーデもAI生成しています。イメージ補強に使ってください。
https://www.pixiv.net/artworks/130126945
士道は遂に腕組みをしても、ほとんど動じなくなった。余裕の笑みすら浮かべている。
しかし、こっそり腕の脈を取ると、普段よりも心拍数が高い。動揺を抑え込んでいる。
つまり、全て押さえ込める程度に慣れたということ。次のレベルに進んでも問題ない。
「士道、無人島に行く話は聞いている?」
「ああ、そう言えば琴里がそんなことを言ってたな。非常時に備えて訓練をするとかなんとか。お盆の前後だっけ?」
「その通り。八月十日から十九日までの十日間、戦闘訓練を行う。ラタトスクの戦闘要員を集めて」
愛が中心となって企画した。このままではDEMに対抗できないと判断して。
「せっかくの夏休みに気が滅入るよな」
士道は不満がある様子。私も戦闘に志願していない士道が訓練に参加するのは非常に不本意。
しかし、士道の能力を考えたら、自衛手段を持たないといけない。それほどまでに士道の能力は価値が高い。
「全ての日程を訓練に当てるわけではない。目標を達成したらその時点で訓練は終了。残りは休息日になる。最低でも一日は確保されている」
「そうなのか?だったら、頑張って早く遊べるようにしたいな」
士道はやる気を見せている。目標達成はほぼ不可能だけど、士道の気概に水を差すのは止めておく。
「無人島は簡易的なビーチもあると聞いている」
「へー、流石ラタトスクだな。無人島にそんなものをポンと作っちまうなんて」
士道は他人事であまり興味を持っていない様子。おそらく、具体的なイメージができていない。
「ビーチでは水着が必要。新調したい。士道の意見を取り入れた上で」
「そうなのか、わかった。俺でよければ感想を伝えるよ」
表向き士道の反応は薄い。脈拍から本当に無反応でないことは確認しているけれど、改めて士道に耐性がついていることが確認できた。
士道は既に《プリンセス》や《ハーミット》と水着選びを経験していると聞いている。それを超える印象がないと、士道の心に残らない。
♦♦♦
『士道、わかってるでしょうね。鳶一姉弟のいいようされるなんて論外よ。動揺せずスマートに褒めるくらいの気概を見せなさい』
「んな無茶な」
インカムを通して話しかける琴里は無理難題を押しつけてくる。怒り任せで現実が見えてない。
折紙は普段からいまいち行動が読めない。今回は
次は何を仕掛けてくるか。水着を持って試着室に入る折紙の背中を見て思う。
心臓がドキドキしている。さっきから、形だけ取り繕うので精一杯だ。
今までの訓練がなかったら危なかった。悔しいけど、琴里には感謝だな。
正直なところ、どうして折紙とデートしているかもよくわからない。ただ愛の勢いを断れず、デートすることになっちまった。
折紙が俺のことを好きなことだけは伝わってくる。……そんな風に思われる覚えは、ないんだけどな。
折紙の好意を無碍に断れないけど、受け取る覚悟もできていない。中途半端な自分が嫌になる。
折紙にどういう態度で接すればいいんだろうか?十香や四糸乃同じように接するのも少し違う気がするし。
そんなことを考えていると、試着室の中から衣擦れの音が聞こえてきた。この中で、今、折紙が着替えている。
折紙が服を脱ぐイメージが浮かんでくる。大きな音が聞こえなくなったから、今は多分下着を……。
そんなことを考えちゃダメだ。頭を振って邪念を振り払う。
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。うろ覚えの念仏を頭の中で唱えながら折紙の着替えを待った。
「見て、士道」
シャーっとカーテンが開き、折紙が姿を見せる。胸の前で手を握りしめ、顔を上げた。
どんな水着を着ていても大丈夫なよう、覚悟していた。それでもなお足りなかった。
「お、お、お、折紙。それ、裸じゃないか!」
折紙の身体には肌色しかなかった。とっさに手を使って自分の目を隠した。でも一瞬見えた折紙の姿が頭から離れない。
「驚いた?」
折紙はいつもの調子でに聞いてくる。こんな状態でも余裕がある。
「驚いた!驚いたから、早く水着を着てくれ!じゃないと……」
試着室のカーテンを戻して、折紙を着替えさせようとする。もし誰かに見られたら大変なことになる。
「問題ない」
折紙は俺の手を無理矢理外させて、あごに両手を添えた。そして、そのまま俺の顔を折紙の身体に向けさせる。
力はそこまで強くない。でも、妙な強制力があって抵抗できない。
そこまでされて目を閉じるほど俺は聖人君子にはなれない。悲しいかな、男の性だ。
堂々と見る勇気もなくて、視界の端に捉えるように見つめる。折紙の裸体がよく見える――ことはなかった。
よく見たら折紙はセパレートタイプの水着をまとっている。白っぽいベージュが折紙の白い肌との境目を分かりにくくしていたみたいだ。
ぱっと見だと裸体だと思わされるけど、じっくり見たら間違うことはない。一種の錯覚のようなものだ。
「……はぁ、びっくりした。心臓に悪いから止めてくれよ」
「退屈な日々にちょっとした刺激を提供。小粋なオリリンジョーク」
折紙は変わらぬ表情で話している。しかし、なぜだろう。『ふふん』という効果音が聞こえてきそうだ。
『あんなの見ればすぐわかるじゃない』
琴里がぼやいている。現場にいない癖に好き勝手言いやがって。
「だったら何で教えてくれなかったんだよ」
教えてくれていたらここまでドキドキすることはなかった。
『琴里だって固まってたのに、よく言うよ』
『うっさいわね。作戦が上手くいったからって、調子に乗ってんじゃないわよ』
割り込んで喋りかけた愛に、琴里は文句を言っている。どうやら、琴里も折紙の作戦に嵌っていたらしい。
悲しいけど、向こうの姉弟の方が一枚上手だ。こっちの兄妹はいいように踊らされている。
「それで、水着の感想はどう?」
折紙は水着がよく見えるようにポーズを取る。
光が加減によって水着と肌の境目が消えたり現れたりする。折紙が少しポーズを変えると変な気分になる。
わかっているのに、変な思考が頭から離れない。
「可愛いと思う。でも、もっと似合う水着があるんじゃないか?」
俺はこの水着を折紙に着てほしくない。俺が間違えたってことは、他の人も間違えるかもしれない。
他の男が折紙を変な目で見るのは嫌だな。折紙の好みにとやかく言うことなんてできないけど。
「……わかった。次の水着に着替える」
折紙はあっさり引き下がり、試着室の中に戻った。俺の意見を押しつけちまったかな?
「次はこれ」
そう言いながらかなり大人しい水着を着てきた。白い長そでのパーカーのようなものだ。
水着というよりもウェットスーツに近い。ダイビングのような本格的な遊びを考えているのかもしれない。
「いいと思うぞ。大人っぽくてかっこいいな」
素直な感想を伝える。折紙のクールな雰囲気とも合っている。
これならプールとかへ遊びに行くのにも使えそうだ。
「感想はまだ早い」
「折紙?」
折紙は俺の手を取って、胸のファスナーを持たせる。
「下ろして」
「え、いや、でも」
俺は抵抗を試みる。しかし、折紙の力強い拘束によって手をファスナーから離せない。
『落ち着きなさい、士道。それはラッシュガードよ。水着の上着みたいなもの』
「……そうか、なるほど」
下に水着を着ているとわかり、少し落ち着いた。下に水着があるなら、ファスナーを下ろすことは特に問題じゃない。
……しかし、そうとわかっていても、何も感じずにいられない。ある意味、裸よりも
このファスナーを下ろしたら、水着が現れる。無意識に喉を鳴らす。
「じゃあ、行くぞ」
戸惑いと期待を胸に抱きながら、ファスナーをゆっくり下ろす。その下からは、黒と青の競泳水着が顔を出した。
しかし、とても際どい角度をしている。ちゃんと大事なところは隠れている。激しく遊んでも、
人前に出ても下品と思われない絶妙なラインだ。折紙の鍛えた身体も、その水着を上品に引き立てるのに一役買っている。
とても似合っている。否定する言葉が見つからない。
それでも、長時間眺めるのは危険な格好だ。心臓が持たない。
「どう?」
折紙はいつもの表情で尋ねてくる。俺はその
「顔をしっかり見てくれるのは嬉しい。でも、水着の感想は顔ばかり見ても出てこない。もっと水着をしっかり見て。」
折紙はこれ以上ない正論を繰り出す。その真剣な瞳に何も言い返せない。
『何してんのよ、士道。据え膳を平らげろとは言わないけど、これくらいはやって見せなさい』
琴里からも文句の言葉が飛んでくる。どうやら、傍からは相当な意気地なしにみえているようだ。
「……そうだな、見るぞ」
「是非もない」
一度目を閉じて折紙の全体像をしっかりと見る。奥歯を噛み締めて、湧き上がる衝動を抑え込む。
俺は芸術を評価する評論家だ。決して邪なことは考えない。
「とても似合ってる。きれいだ。上着も合ってるから、一緒に買ったらいいと思う」
早口でまくし立てる。言い切ったと同時に顔を斜め下に向けて、折紙を視界の端に映した。
上着の購入も勧める。折紙がその格好でいる時間が減るように。
「わかった。これを購入する」
折紙はすぐに私服に着替えてレジに向かった。楽しくないわけじゃないんだけど、一瞬先もわからない怖さがあるな。
♦♦♦
「どうして、こう、なってんの、よ!完全に、折紙の、ペース、じゃない!」
「ありがとうございます!」
フラクシナス艦橋では、乱心中の琴里が神無月さんに八つ当たりしている。言葉の一節ごとに、神無月さんへかかとが下ろされる。
神無月さんは恍惚とした表情で、尻を突き出している。サムズアップする神無月さんを、僕は苦笑いで見つめるしかなかった。
「琴里の天職って『女王様』じゃない?多分、司令官より楽に稼げるわよ」
「止めてよ。絶対ナンバーワンになれるから……」
七罪が呆れた顔で嫌なことを言っている。事実だろうけど、そんな未来は見たくない。
小学生並に小柄な身体と、豊富なボキャブラリーから繰り出される罵倒、たまに見せる優しさ。夜の店で人気になれる要素盛りだくさんだ。
「……しかし、奇妙だね。選択肢が出てこない。選択肢があれば、対処できるかもしれないのだが。AIに何か不具合でもあったのかい?」
令音さんが疑問を呈す。令音さんの言う通り、デートも後半に差し掛かるのに選択肢が出ていない。確かに不自然だ。
「そういうときは本人に聞いてみましょう」
パソコンを起動して、ショートカットからマリアとのチャットを開く。フラクシナスのAI、マリアとは週に一回以上話す気安い仲だ。
愛
選択肢が出てこないけど、何かあったの?不具合でも発生した?
MARIA
乙女の体調を尋ねるのなら、もう少しデリカシーを持ってください。あなたはレディへの配慮が足りません。
問題があるのは私ではなく、士道の状況です。折紙が士道の行動を著しく制限しています。
これでは選択肢を挟み込む余地がありません。だから、私も不本意ながら黙っています。
愛
悪かったよ。今度からもうちょっと言い方に気をつける。
ありがとう、マリア。
MARIA
いいえ、わかったら令音の認識を改めてください。故障や不良品といった誤解をされるのは、我慢なりません。
「……というわけだそうです。」
「……ああ、なるほど。選択肢が出なかったのではなく、出せなかったのか。確かに、シンが主体的な行動をできないのなら、選択肢を出しても意味はないな」
令音さんが納得して頷いている。
「どうしたものだろうね?このままでは、シンは折紙のいいようにされてしまう」
眠たげな眼で見つめる先には、完全に主導権を握られている士道が映っている。ここまでは僕と姉さんの筋書き通りだ。
「さて、どうなるんでしょうか?士道さんがその程度の器であってほしくないですけど」
このまま作戦通り、姉さんに落とされても僕は全然かまわない。そうなったら、そうなっただ。
でも、士道は主人公だ。完全に僕と姉さんの掌の上では面白くない。
僕は士道の反撃を期待している。僕たちの想像を越えて、主人公に相応しい姿を見せてくれることを。
♦♦♦
空が茜色に染まり始めた時間帯。俺たちは最後の店に訪れていた。
「雰囲気あるな」
洋画の世界からそのまま出てきたような、大人の雰囲気の店だ。年齢制限はないようだけど、高校生なんて俺たち以外ひとりもいない。
レプリカとは思えない高そうな調度品の数々。踏んでいいのか不安になってしまうカーペット。
その中でも特に異彩を放っているのは、壁に並ぶダーツと中央に鎮座するビリヤード台だ。何も言われなくてもアレがこの店の主役だと分かる。
「ここはLEVEL.9。ビリヤードやダーツができるコンセプトカフェ」
折紙は
「えーっと、なんかすごい上手そうな人が多くないか?あのダーツやってる人とか、連続で真ん中に当ててばっかりなんだが」
「この店はプロや高レベルなアマチュアも訪れることが多い」
「いや、俺完全な素人なんだけど……」
俺がこんなところにいていいんだろうか?場違い感がすごい。
「別に、入店制限を設けていない。初心者も歓迎とSNSで書いてあった」
「そうなのか……」
建前な気がするけど、事前に調べている折紙に否定の言葉をかけづらい。ここは虚勢を張って楽しむ方向で考えよう。
色みがかった照明を浴びながら、折紙はビリヤード台に向かう。スナイパーのように狙いを定めて球を打ち出す。
球は真っ直ぐに転がって番号の振られたの球にぶつかる。ぶつかった球もまた動き出し、連鎖が始まる。
連鎖の最終地点は9が描かれた球。真っ直ぐポケットに向かって、きれいに落ちた。
「すごいな。相当うまいんじゃないか?」
無意識のうちに拍手してしまう。今ので俺の負けが決まったのに悔しいと思えない。
「基本はただの物理計算。風もないから、コツを掴めばそこまで難しくはない」
折紙は涼しい顔で言ってのける。ビリヤードのことなんて全く分からないけど、その言葉をそのまま信じてはいけないことくらいはわかる。
才能、なのかな。俺は一生あのレベルになれそうにない。
「俺ももうちょっと上手くなれば、楽しめるかもしれないな」
俺は多分そこまで上手くなれない。それでも、せっかくだからもう少し上達して楽しみたい。
「それならば、私が教える」
折紙はビリヤード台の反対側から俺の元まで歩み寄る。そして、ボールを打つ棒、キューを握らされた。
「構えて」
「わ、わかった」
折紙の勢いに押されて構えを取る。折紙が右手と左肩に手を添える。
「士道は腕を真っ直ぐにして打つから、軌道が曲がる」
「それじゃダメなのか?」
「ダメ。人間の腕は左右対称ではない。腕を真っ直ぐにしたら、軌道は左右どちらかにぶれる。腕ばかりでなく、全身の姿勢から調整する必要がある」
「なるほど」
折紙はそのまま姿勢の調整を手伝ってくれた。さっきまで真っ直ぐ転がることなんてほとんどなかった球が、半分以上真っ直ぐ転がるようになった。
「士道は呑み込みが早い。私も早いといわれたけど、ここまでではなかった」
「いや、折紙の教え方が上手かったからだって。俺一人じゃ絶対ここまで上達しなかった。ありがとな折紙」
折紙はその言葉を聞いて静かにうなずく。こういうのも悪くないな。
そう思っていた瞬間だった。横やりが入ったのは。
「おいおいおいおい、ここは素人の練習場じゃねーんだぞ。そういうのはもっとレベルに低い店でやれよ」
荒々しい声を投げかけるのはホストのような金髪の男。ピアスやタトゥーまで入れていて、いかにもって感じだ。
「なんなんですか?」
「見ててイライラするんだよ。お前みたいなズブの素人が、嬢ちゃんみたいな見込みのある人間の時間を奪ってる。そんなの耐えられねえ。料金全部払ってやるから今すぐ消えろ、ヘタクソが」
男は勝手な持論を話す。完全に否定できるものではないけど、とても許容できない。
『士道、店を出なさい。そんな奴の相手しなくていいわ』
琴里が店を出ることを提案する。それを聞いて反抗心を抑え込む。
ここで喧嘩してもいいことなんてない。
「そうだな……折紙、店を変えよう」
「……わかった」
折紙の手を引いて会計に向かおうとする。逃げるみたいで癪だけど、こういう手合いには関わらない方がいい。
「おい嬢ちゃん。嬢ちゃんは才能がある。あの打ち筋は見てて心が震えた。そんな何の取り柄もなさそうな男と付き合うのは止めて、俺と遊ばねーか?」
乱暴ながらも折紙の実力を認める言葉。その言葉が折紙の逆鱗に触れた。
「訂正して。士道は何の取り得もない男ではない」
「どうせビリヤードと同じように、何やってもパッとしない男だって。付き合う相手は選んだ方がいいぜ。これは善意からの忠告だ」
金髪の男は本当に折紙を気遣うかのように話している。その言葉を聞いて自分が情けなくなる。
確かに、俺は折紙の横に並び立つのに相応しいと思えない。ビリヤードに限らず、自信を持って誇れるものなんてない。
「だったら、士道の優秀さをあなたの得意なビリヤードで証明する」
折紙は堂々と啖呵を切った。俺の意見も聞かずに。
「おい、折紙……」
「大丈夫、問題ない」
止めようとした俺を逆に制止した。
「俺に勝つって言うのか?ビリヤードで?……くっくっくっ、あっはっはっは。正気か?」
男は腹を抱えて笑っている。絶対に負けることはないという自信が漂っている。
「本気。士道があなたを地につける」
折紙は何故か自信満々に宣言した。俺にそんな自信はないんだが。
「そうか、だとしたら見せてもらいたいもんだな。嬢ちゃんもまとめて相手にしてやるよ。まともな勝負が成立するようにな」
男は自らハンデを設ける。しかし、それを必要とするだけの格差があるように思える。
「わかった。士道と私であなたを倒す」
こうして俺の意思は考慮されないまま勝負が決定した。……これ、大丈夫か?
というわけで何かデート中に勝負が始まりました。どうしてこうなった?
さて今回の裏話。折紙はこの日のためにビリヤードの練習を数日間頑張りました。何でそんな超スピードで上達してるんでしょうか?
折紙、愛くん、七罪が揃うと大概のことができるようになります。それぞれが微妙に得意分野が違うから、協力するとほぼ完璧な攻略法をを作り上げるんですよ。こいつらが協力する環境を作り上げちゃったな~。