ヒロインは七罪   作:羽国

6 / 148
こういうのを書くためにこの小説を投稿したんです!


番外編:七罪とのデート

 僕は七罪とデートの約束をした。僕の秘密を七罪に見逃して貰うための交換条件として。

 ある意味義務的なものだ。でも七罪がデートを望むなら、七罪を楽しませるために全力を尽くすべきだ。

 僕はフラクシナスに来ていた。参考にする意見を集めるために。

「美味しいスイーツ店を教えて欲しい?」

「はい、七罪と一緒に行きたいので。」

 最初に意見を求めたのは令音さんだ。この人の人間性は最後の方までは余り明かされていなかった。

 でも、甘いものが好きということは分かりやすく描写されていた。間違いなく美味しい店を知っているだろう。

「あら、もしかしてデートですか?」

 近くに居た椎崎さんが話しかけてきた。何だかちょっと楽しそうだ。

「はい。七罪とデートに行く約束をしたで。」

「わ~、良いですね~。美少年と美女のデート。絵になりますよ。」

 椎崎さんは興奮して高い声を上げている。藁人形(ネイルノッカー)という不穏な二つ名を与えられている。

 けど、普通の女性らしく恋バナが好きなのだろう。フラクシナスのメンバーは地雷を避けたらまともな人たちだ。

「あら、良いじゃない。フラクシナスでサポートするわよ。」

 会話の内容を聞いて琴里も話に参加する。僕たちのデートに協力してくれようとしている。

 七罪も精霊だからラタトスクの活動の一環だと判断してくれたのだろう。周りをちらりと見ると、他の船員もこちらを見てやる気に満ちた顔をしている。琴里の言葉に反した意見を持っている者はいないようだ。

「いや、気持ちは嬉しいけどお断りするよ。僕の力で成し遂げたい。一個人としての意見をもらえたら嬉しい。」

 七罪とのデートは僕が計画して僕がエスコートする。ラタトスクの力を借りたら楽になるかもしれないけれど、それは何か嫌だ。僕は僕の力で七罪を幸せにするって決めたんだ。

「分かったわ。あなたの意見は尊重しましょう。」

 琴里は納得してくれたようだ。少し顔を緩ませてこちらを見ている。

 優秀な司令官だけど、それ以前に優しくて甘い人間なのだ。露骨な危険がない以上、ある程度の事には目を瞑ってくれる。

 その後、僕は令音さんだけでなくフラクシナスのメンバー全員から意見を沢山貰った。

 その意見を元にデートプランを計画した。サブプランもいくつか用意したし、準備は問題なしだ。

 

♦♦♦

 

 そしてデート当日、僕は犬の銅像の前で七罪を待っていた。同じ部屋に住んでいるが、待ち合わせをした方がデートっぽい。

 外で待ち合わせをすることにした。七罪も何だかんだでロマンチストな部分が有る。素直に受け入れてくれた。

「待ったかしら。」

 現れたのは大人モードの七罪だ。ラベンダーのブラウスにネイビーのフレアスカートを合わせた服装だ。

 女性らしい柔らかさを表現している。素材の良さを引き立てるために主張は控えめだ。

 だが、七罪のイメージに合わせた三日月のネックレスをして、個性はきっちり出している。購入したにしろ変身で出したにしろ、七罪のセンスの良さが伺える。

「何よ、黙り込んで。私の恰好何か変?」

 ただ僕は少し思う所が有って黙り込んでしまった。黙り込んだ僕を七罪は追及する。

「いや、似合っているよ。ただ、そっちの姿も綺麗だと思うけど、いつもの姿の方が僕は好きだな。」

 七罪は僕と二人っきりの時以外は常に大人モードに変身している。醜いと思っている本来の姿を隠すために。

 他人の見た目に興味がほとんどないと言い続けた。その結果、僕だけに本来の姿を見せている。七罪は未だ本来の姿に自信が無いのだ。

 でも、僕は本来の姿の方が好きだ。本来の姿の方が七罪の性格が強く出ているから。

 こちらの姿も普段と少し違う七罪を見ることができてお得感が有るが、やっぱり本来の姿には敵わない。

「ふん、そんなもの好きはあんただけよ。」

 七罪はぷいっとそっぽを向いてしまった。うっかり本音を言ってしまった。

 でも、デートのスタートからいきなり否定するのは完全にミスだった。七罪を怒らせてしまったかもしれない。

「行くわよ、愛。」

 七罪は反対方向を向いたまま僕の左腕を抱きかかえた。顔を見えないから七罪の情緒がよく分からない。

 ただ、デートをご所望であることは間違いないようだ。ミスを取り返すために頑張ることにしましょう。

 

 僕たちはショッピングモール内の映画館に向かった。時間には余裕を持たせてあるから、まだ席の案内が始まっていない。入り口近くのソファで軽く待つことにした。

「映画ねぇ。」

 七罪が小さく呟きながら目を細めた。その姿を僕は見逃さなかった。何かしら不満が有ることは間違いない。

「七罪が思っていることを当ててみようか。」

「聞いてあげるわ。」

「高い金払ってわざわざ映画館で見る必要ない、じゃないか?」

 挑発的に僕に話を促した七罪。僕の言葉を聞いて押し黙ってしまった。

 図星を突くことができたのだろう。こういう時は素直に嬉しい。

魔術師(ウィザード)ってテレパシーが使えたっけ?」

「ただの推測だよ。人読みだけでお前との勝負に勝ったのは伊達じゃないんだ。」

 七罪は苦し紛れの言い訳をするが、僕は否定する。他の誰の事が分からなくても、七罪の事だけは分かるつもりだ。だからこそ僕は今七罪の隣にいる。

「話を戻すけど、七罪は高い金を払って映画館で映画を観るのは無駄だと思っているんじゃないか?」

「……今の時代少し待てば映画は配信で観られる。そうすれば、半額未満で済むわ。映画館で観るのは広告代理店の陰謀に乗っているようなものじゃない。」

 七罪さん素が出かけていますよと言わなかった僕を褒めてあげたい。まぁ、大人モードじゃなかったらリア充否定談義まで始めていただろう。これでも抑えている方なのだ。

「確かに映画は無駄に高い部分が有ると思う。でも、映画館でしか観れないものが有ると思うぞ。」

 僕達は入場案内が始まったから、シアターに向かった。隣に座った七罪は座席の周りを色々な方向から眺めている。初めて見たのではないだろうか。

「4D映画ねぇ。」

 入ったシアターは4D映画を観るためのシアターだ。映画の展開に合わせて風が吹いたり水飛沫が飛んだりする。

 まるで画面の中にいるかのような臨場感を楽しめる。当然今から見る映画も4Dが映えるものを吟味した。

「臨場感って言っているけど、そんなに大げさなことはできないんじゃない?」

 七罪は十香のように人間社会の常識を知らない訳ではない。4D映画も実際に観たことこそないが、存在自体は知っていたのだろう。

 実際に七罪の言葉は正しい。風は微風レベルで水飛沫は霧吹きよりも弱い。

 その他も日常生活で起こってもほとんど気付かないだろう。普段なら。

「食わず嫌いは良くないぞ、七罪。文句が有ったら後でいくらでも聞くから。」

 シアターが暗くなるのを合図に僕たちは会話を止めた。映画の盛り上がるシーンになる度に隣から可愛い声が聞こえて来ていた。

 

♦♦♦

 

 映画は終わって昼食の時間だ。いくつか店をピックアップしておいたから七罪の意見を取り入れつつイタリアンレストランを選んで入った。

「正直、思っていたよりも悪くなかったわ。」

「それは大変良かったよ。」

 話題は必然的に映画の話になる。七罪はもじもじしながらも正直な感想を言ってくれる。それで僕は笑顔になれる。

「映画に合わせて効果を出すから小さい効果でもあんな風に感じるのね。」

 七罪は顎に手を当てて考察する。人間社会に精通しているだけあって、自力で答えに辿り着いたようだ。

 普段は何も感じないような小さな感触でも、視覚の情報と合わせることで脳が誤解する。実感しないと分からないものだ。

「映画館で観るのも悪くないだろ。」

「……そうね。偶には来ても良いかもね。」

 七罪は強がりながらも同意してくれた。定期的に面白そうな作品がないか探すようにしよう。

 昼食が終わった僕達は次の目的地に移動した。ショーケースが沢山並んでおり、中には沢山のパソコンがずらり置いてある。

 パソコンだけでなくキーボードやマウス、AV機器等も売っているちょっと規模の大きな店だ。ショッピングモールの中でも結構広めの区画だ。

「レディとの初めてのデートでこの店の選択はどうなのかしら?」

 七罪は上ずった声で述べている。眉もぴくぴくさせている。冷めたり呆れたりしている訳ではないと思う。

「嫌なら他のお店に行く?」

「愛が選んだ店でしょ。少しは見ておかないと失礼じゃない。」

 七罪はずかずかと店のほうに歩いて行った。

 七罪は真剣にショーケースの中を眺めてカタログスペックをしっかり確認している。サンプルとして置いてあるマウスの実際に動かして手触りを確かめている。

 スマホで検索を始めた。チラリと画面を見たら、家に有るパソコンの情報が映っていた。

 スペックの比較をしているのだろう。どう見ても興味深々だ。

 七罪はインドア趣味が結構多い。まあ、原作で漫画描いたり、小説書いたり、楽曲制作してたりしたから素養は有るはずだ。

 一日の内パソコンに向かっている時間も少なくない。だからこういう店は興味持つのではないかと思っていたが、想像以上だ。

「持ち合わせがそんなにないわね。愛、お金貸してくれない?」

 七罪は財布とにらめっこしながら渋い顔をしている。妙に思考が小市民だ。まあ、それも七罪の良いところなのだが。

「百万とか言わなければ出すぞ。クレカも持ってるし。」

 十三歳ではクレジットカードは作れないから、ラタトスクに言って作ってもらった。

 口座は僕のだからそこまで気兼ねなく使うことができる。蓄えはそれなりに有るし、七罪の為に使うなら本望だ。

「そんなにホイホイ出しちゃ駄目じゃない。そんなんじゃ、美人局とかに引っかかるわよ。」

「七罪にしか言わないって。」

 七罪はびしっと指を立てながら反論する。基本的に人を信用しない七罪らしい意見だ。

 だが、僕も相手が七罪だからそういう対応をするのだ。誰にでもこんな対応をするとは思われたくない。有るとしたら十香に少し奢るくらいだろう。

 悩んだ結果、七罪はキーボードと多機能マウスを選んだようだ。もうちょっと派手に買っても良いと思うのだけど。

 支払いで一悶着有ったが、無事に支払いの権利を奪うことができた。配送サービスもやっていたので、家まで送ってもらうことにした。

 七罪は後ろで色々言っていたが、今回ばかりは聞かなかったことにする。

 

♦♦♦

 

 光陰矢の如しと言うように、楽しい時間は過ぎ去って夕暮れになっていた。僕達は天宮市を一望できる展望台に来ていた。

 士道の二番煎じになるから嫌だった。でもこれ以上に景色の良い場所はなかなか見つからなかった。

 これだけ良い場所を見つけるとは、流石主人公。今回は白旗を上げるておこう。

「楽しんでくれたか?」

「ええ、あなたの秘密を暫く聞かないであげよう思うくらいには。」

 七罪は意地悪くデートのきっかけになった話を掘り起こす。僕の知る未来を黙っておくため、デートを企画することになったのだ。これに関しては僕の勝手な部分が大きい。苦笑いをするしかできない。

「話せないことも有るけど、七罪の事を想っていることだけは絶対に本当だから。」

 覚悟を決めて言葉を紡ぐ。本当のことは教えられない。でも、信じて欲しいなんて都合の良い話だ。

 自分で言っていて矛盾が嫌になる。そんな言い分でも、今はこうするしかない。

「そんなこと今更言わなくても良いわよ。ここ一年半位あなたの姿をずっと見てきたから。私はあなたを信じてる。」

 七罪は呆れたように言い放った。その言葉に泣きそうになる。

 人を余り信じない七罪が、信じてると言ってくれる。それだけの信頼を預けてくれる。それが僕にとって一番の勲章だ。

「ありがとう、なつ……」

「でも、文句が無いわけじゃないわ。」

 綺麗に終わらせようとした僕の言葉を遮る。

「どうして、私の事を恋愛対象として見ていないのかしら?」

「それは……。」

 七罪は多分怒っている。十香のように激情は持っていないが、責めるような視線は怒りを孕んでいる。

「あれだけ七罪七罪言っている。でも、女としては見ようとしていないじゃない。」

 僕は黙るしかできなかった。敢えて考えないようにしてきたから。敢えて目を逸らしたままここまで来たから。

 ただ七罪の幸せさえ叶えばそれで良い。そう思って自分の事は勘定に入れないでいたから。

「愛、あなた私が好き?」

「好きだよ。」

 それは迷いなく答えられる。答えなきゃいけない。七罪と出会ってから、そのためだけに生きてきたから。

「じゃあ、私と付き合いたいと思っている?恋愛感情を持っている?」

「……分からない。」

 最初は本や画面の中に居る存在だった。ただのお気に入りのキャラクターだった。推しだった。

 この世界に生まれ変わって同じ世界の住人になった。初めて出会った時に認知すらされていなかった。だから悔しくて、見てもらうために必死に頑張った。

 半年かけて、本来の姿を見せて貰える程度に信用を得た。姉さんに銃を向けられてから、アメリカに渡った。

 やれることは全部やった。七罪を奪われないように。七罪を幸せにできるように。

 この気持ちは何なのだろう。少なくとも前世と同じ感情ではない。姉さんに抱いている感情とも違う。でもそれが何かわからない。これが恋なのか分からない。

「そう。」

 七罪は残念そうに呟く。目を閉じて何か考えている。

 これで終わりかもしれないな。人間関係なんてあっさり終わりを迎える。

 どれだけ深く付き合っていても冷めるときは一瞬だ。僕と七罪も例外ではない。

 とても楽しい日々だった。死ぬほど大変だったけど、それ以上に充実した日々だった。

 僕のような人間には大それた時間だった。走馬灯のように七罪と出会ってからの思い出が流れ始める。

 もうここで終わっても良いかもしれないな。目を閉じて思い出に浸ろうとする。

「むぐっ。」

 それを妨害するように感触が与えられる。唇に柔らかく暖かい感触が伝わる。突然で何が起こったのか分からずに僕はあたふたすることしかできない。

 数秒かけて思考がやっと追いついて何が起こっていたかを理解する。僕の唇に七罪の唇が押し当てられている。つまり、キスしている。

 理解した内容を咀嚼してさらに混乱する。何がどうしてこうなっている。

 逃げようとするが七罪が顔を手で固定して逃がさない。初めてのキスは七罪が少し長い時間続いた。

「だったら、私が愛を惚れさせて見せる。あなたが私を惚れさせたんだから。責任は絶対に取って貰う。覚悟してなさい。」

 七罪は一方的に言って去っていった。僕は暫く何もすることができず、ただ指で唇をなぞっていた。

 

♦♦♦

 

 その後、僕たちは数日間気まずい思いをしながら生活をした。あれが有っても同じ部屋で生活しているのだ。嫌でも顔を合わせる羽目になる。互いに言葉はぎこちなく、目が合うとすぐに逸らす。

 でも、決して互いに生活リズムはずらさない。普段の生活に戻るために一週間近い時間を費やした。




書いてて超楽しかったです。またちょこちょここういう話を書きたいな。

今回の裏話は愛君と七罪の関係について。
愛君は自分より七罪優先で考えています。しかし、それが恋愛感情なのかよく分かっていません。迷う余地なんてないでしょうに。

一方、七罪は既にいつでもウェルカム状態です。一年前にアメリカに一緒に行くと決めている辺りからずっと愛君を待っています。夜いきなり襲われても良いと思っています。なのに、愛君はずっと謎の関係を続けようとしています。なので、今回遂に我慢の限界を越えたのです。

二人には困難を与えまくるつもりですが、この二人のハッピーエンドだけは確約します。

次回から四糸乃編ですお楽しみに。

2025年2月23日追記
デート中の七罪のコーデをAIで生成しました。服だけですが、イメージの補強に使ってください。
https://www.pixiv.net/artworks/127556571
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。