「見てみろ、シドー。海がきれいだぞ」
十香が白い柵に身体を預けて海を指さしている。鉄棒のような扱いをしている。
「落ち着けよ、十香。そんなに乗り出したら落ちちまうぞ」
そんな十香を士道は宥めている。
柵の下は海だ。落ちたら十香でも危ない。
士道なら十香をなんとかしてくれるだろう。そう思いながら、周囲を眺める。
クルーズ船の船首でみんなが集まっている。夏休みの旅行という雰囲気がする。
精霊のみんな、姉さん、士道、令音さん。知り合いが勢揃いだ。
「そろそろ到着するから準備しておきなさいよ~」
琴里がやる気なさそうに注意する。その声を聞いて、みな船の少し先にある島へ注目する。
バカンスのような見た目だ。遠目からでも大きな施設が見える。
「あれがラタトスクの所有する無人島」
姉さんが視線を鋭くさせる。これからのことに思いを馳せたのだろう。
「そうだよ、あそこが僕たちの訓練場。あそこでDEMに対抗するための力を養うんだ」
改めて口にすることで、覚悟を決める。これから始まるのは訓練漬けの日々だ。
♦♦♦
あれは一か月くらい前のこと。僕は強い危機感があった。
これまでの日々で実力不足を痛感していた。僕自身だけでなく、仲間たちも全体的に。
「強化合宿がしたい?」
だから琴里に提案した。強くなるための手段を。
「そう、精霊のみんな、士道さん、真那、僕。この辺りのメンバーで夏休みのどこかに」
「いや、あんた達はまだしも、士道や十香にそんなことさせるわけにはいかないわよ」
琴里は僕の提案に難色を示す。
ラタトスクは精霊を保護する組織。士道や精霊を戦わせたくないのだろう。
「それで、次にDEMが攻めてきたら、みーんな殺されて終わりなわけね」
七罪が琴里を冷たい目で見る。
「そ、それは」
「わかってるでしょ、琴里。DEMは私たちやラタトスクが頑張ってカバーして、どうにかできるような相手じゃないわよ。最低限、自分の身は自分で守ってくれないと」
琴里は何も言えずに黙ってしまう。七罪の指摘は容赦ないけど正しいから。
この前ですら、DEMはまだ余力を残していた。それでも、僕の精霊化があった上でギリギリの撃退。
次に同じようなことがあったら、確実に誰かが死ぬか攫われる。このままだったら。
琴里だって揺れているのだ。士道や精霊を戦闘に関わらせたくない理想とそれが困難な現実の間で。
「別に闇雲に強くなれって思ってるわけじゃない。戦力増強の目途はつけてる」
琴里に紙を差し出す。事前に用意しておいた計画書だ。
「……これは⁉」
琴里は最初の方のページを見て目を見開く。そこには本命の二つの強化が書かれている。
「一つ目はともかく、二つ目はできるわけが……」
「いや、むしろできないと考える方が不自然じゃないか?既にその一部を使えているんだから」
琴里と視線が交差する。琴里も荒唐無稽な話だとは思っていない筈だ。
僕は原作知識があるからできると知っている。でも、現状から十分予想できる。
「琴里、士道さんを死なせたくないなら、やった方がいい」
「っ――わかったわよ」
そうして十日間の強化合宿が決定した。後にラタトスクへ入った姉さんも含めて。
♦♦♦
ラタトスクだけあって、無人島にリゾートレベルの施設を用意している。訓練場に宿泊施設も併設されていて至れり尽くせりだ。
「今日からここに泊まってもらう。部屋は全て準備しているから、各自好きな部屋を使ってくれて構わない」
令音さんはエントランスでそう宣言した。十香や四糸乃は元気に自分たちの部屋を決めに走る。
「村雨先生」
「……どうしたんだい?」
姉さんが令音さんに話しかける。何か質問でもあるのだろうか?
「この宿泊施設に二人部屋はある?」
「……二人で入れる広めの部屋はいくつかあるが、どうしてだい?」
令音さんは先の言葉を察しながらも姉さんに問いかける。姉さんがなんて言うかわかっているだろう。
「この合宿は厳しいものになる。訓練に不慣れな士道は、一日の終わりに疲労困憊で動けなくなっている可能性が高い」
「……そうかもしれないね」
「だから、士道のサポートが必要。その点、私が一緒なら何も問題はない。
入浴、着替えのサポート、果てはマッサージまで可能。完璧なオリリンサービス」
姉さんは隙のないパーフェクトプランとでも言いたげだ。ドヤ顔をしている。
「いや、そんなこと許可するわけないでしょ⁉なんで飢えたライオンの檻に士道を放りこむと思ってるのよ⁉」
しかし、その理論を琴里が全力で否定する。ツインテールを荒ぶらせながら。
「誰かが動けなくなった場合を想定して、スタッフを待機させている。君を煩わせることはないさ」
令音さんが理由をつけて否定する。厳しい訓練になることは想定しているから、準備もそれなりにしている。
「そう、では仕方がない。士道の隣の部屋で我慢する」
「言っとくけど、侵入できないように鍵は厳重にしてあるからね。夜中に警報で起こすような真似は止めてよ」
姉さんの妥協に対し、先回りして対策を告げる琴里。多分、姉さんのためにこの施設のセキュリティレベルが上がっていることだろう。
「そんなヘマはしない」
「……大丈夫かしらね、本当に」
琴里は疲れた顔で姉さんを見ている。
姉さんが大人しくしてるとは思えないけど、まあどうにかなるでしょう。姉さんも本気でラタトスクに対抗する気はないだろうし。
「愛、二人部屋は一番上の三階にあるらしいから、行くわよ」
「オッケー、行こうか」
七罪の後について自分たちの部屋を探しに行った。七罪と僕が一緒の部屋なのは既に確定事項だ。
♦♦♦
荷物を置いて集まったのは会議室。そこには今回の合宿参加者が集まっている。
士道、十香、四糸乃、琴里、真那、姉さん、七罪、神無月さん、令音さん。その他、サポートスタッフも大勢いるがメインはここいるメンバーだ。
「さて、明日から訓練を行います。今日は簡単な方針の説明をして終わりです。長時間の移動で疲れたと思うので、ぱっぱと終わらせましょう」
僕は前に立って説明をする。気分はセミナーの講師だ。
「まずは
全員、新しいCRユニットを手に入れて日が浅いです。順当に使いこなす訓練をしましょう」
僕は新型《ノルン》、姉さんは《ブリュンヒルデ》、真那も《ヴァナルガンド》を手に入れたばかり。習熟訓練が必須だ。
「問題ない」
「テメーに言われなくてもそのつもりでしたよ」
流石、覚悟の決まっている二人だ。何の動揺もなく、僕の考えを受け入れる。
……真那の当たりが強いのは半分諦めた。どうしてここまでヘイトを買ったんだか。
「次に精霊組。基本的に天使の力を発揮出来たら、問題なくDEMと戦うことができます」
そもそも、精霊たちは
下手なことをしなくても、十分戦えるだけの力がある。
「だから、全員精霊化できるようになってください」
その言葉を聞いて、みんなの視線が一点に集まる。ただ一人精霊化できたことがない十香の元に。
「む?」
その視線を浴びて十香が不思議そうな顔をする。これは状況を改めて説明しないといけないな。
「十香さん、あなたは精霊の中でもかなり強い。士道さんに危機が迫ったとき、十香さんの行動が重要になります」
「うむ、そうだな。士道は私が守るぞ!」
十香は元気よく返事をする。でも、今のままではダメだ。
「ただし、限定霊装では話になりません。しっかりと霊力を取り戻さないと、DEM相手には力不足です」
「そ、そうなのだな……」
十香は以前のエレンとの戦いのことを思い出しているのだろう。全く歯が立たなかったことを。
「十香さんが精霊化できるようになること。これが一つ目の重要なポイントです。十香さんの精霊化が最低条件となります」
「わかったぞ」
十香はガッツポーズをしてやる気を見せる。是非頑張って欲しい。
「ところで、テメーは精霊化の特訓をしねーんですか?あの力が使えるなら、かなりの戦力になりやがるでしょう?」
真那が僕に指摘する。その言葉を聞いて、今度は僕に好奇の視線が集まる。
みんな触れにくいだけで気にしていたのだろう。この機に少し話しておこうか。
「確かに真那の言う通り。できるなら、あの力は使いこなせるようになりたい」
「だったら、どうしてそうしねーんですか?」
「全く使える見込みがないからだよ。いろいろと試してみたけど、霊力の兆しすら確認できなかった」
訓練でギリギリまで追い込まれてみたり、七罪に霊力を流してもらったり。霊力が活性化しそうなことは思いつく限り試した。
結果、霊力反応はずっとゼロ。あれ以来、僕が霊力を使えた瞬間は一度もない。
「だから、期待しないことにした。使えたらいいけど、そこまで可能性の低いものに注ぐような時間はない。
だったら、できること確実にやる方が効果的だ。……それが僕の考えです」
みんなは静まり返る。色々と思うところはあるのだろう。
「……いいんじゃないだろうか。状況が変わればまた何かわかるかもしれない」
令音さんがひとり呟く。その言葉に周囲も触発される。
「まあ、仕方ねーですね」
「そうね、うじうじ考えても答えは出ないもの」
「いいんじゃないか。愛には愛なりの考えがあるみたいだし」
納得感のある空気が広がる。本当に、いい人ばかりだな。
「さて、話を戻しましょう。十香さんの精霊化と並んで重要な強化が、士道さんです」
「俺か?」
士道は自分に指を向けて不思議そうにしている。そこまで重要なポジションだと思っていなかったのだろう。
「士道さんには天使を使えるようになってもらいます」
「天使って、あれだよな。十香の
士道は自分の知っている天使の挙げていく。士道も精霊に関しての知識を身に着け始めている。
「そうです。士道さんは現状、三人の精霊の霊力を保有しています。その霊力を引きずり出して、天使を顕現できるようにしてください」
「いや、無理だろ。俺、精霊じゃなくて人間だぞ」
士道は『何を言っているんだ?』という雰囲気を出している。自分に天使が使えるなんて微塵も思っていない。
「むしろ、何でできないと思っているんですか?あなたは精霊の霊力を封印するという、他にない能力を持った存在ですよ」
「いや、でもな」
さらに否定しようとする士道。だったら、一番わかりやすい可能性を突きつけよう。
「そもそも、既に精霊の力を使ってるじゃないですか」
「え?」
「傷を負ったときに発生する治癒の炎。あの力は琴里の力でしょう?」
原作でもずっと士道を支えてきた能力。既に士道が何度か使っている力は精霊由来のものだ。
士道をただの霊力タンクではないと証明する証拠になる。
「士道さん、あなたの力は霊力を蓄えるだけのものじゃありません。エレンや精霊と戦えなんて言いませんが、雑兵くらいは倒せるようになってください」
「いやでも、誰かを倒す力なんて望んでないんだけどな」
士道は反論しようとする。でも、僕はここで議論する気なんてない。
「DEMは遠慮なく攻めてきますよ。そして、全員殺されるかモルモットにされるでしょうね。士道さん自身も、保護した精霊も」
「…………」
士道に冷たい視線を向ける。僕は甘い理想が大嫌いだ。
「ここにいる誰も失いたくないのなら、戦ってください。それが正しい平和主義です」
「……わかったよ、やってやる」
士道は僕の視線に応えた。明日からは本気で士道の強化に力を入れよう。
♦♦♦
七罪との二人部屋。そこで秘密の話をしていた。
「結局、それをやる気なのね」
七罪は疲れた様子で僕の話を聞いている。かなり乗り気ではないようだ。
「やらないといけないと思う」
「それがわからないわけじゃないけど、いつもあんたはやり過ぎなのよ」
七罪とのにらみ合いが続く。よくないことはわかってるけど、ここで譲るわけにはいかない。
必要なことだ。平和な日々のためには。
「はぁ、仕方ないわね。手伝ってあげるわよ」
「ありがとう」
七罪は溜息を吐いて了承してくれた。こういうときに折れてくれるのはいつも七罪だ。
「ただし、条件があるわ」
「条件?」
「実行役は折紙に頼みなさい。あんたは絶対にやっちゃダメ」
七罪はよくわからない条件を出す。どうしてそんな話になるのだろうか?
「いや、僕が決めたことだし、姉さんに役目を押し付けるのは……」
「それでも、あんたはやらない方がいいのよ。折紙に心労かけてでも、あんたにやらせるよりマシね」
七罪は真剣な顔をしている。色々言ったけど、七罪が譲ることはなかった。
僕は渋々姉さんにその役を頼んだ。姉さんは少し考えて、嫌な役を引き受けてくれた。
♦♦♦
あれから半日ほど過ぎて、訓練が始まった。姉さんが士道と自分の部屋に壁に小さな穴を空けようとしたトラブルはあったけど、割愛しよう。
今は十香、姉さん、士道、僕が訓練場に集まっている。
「
空中に向けて何度も手を掲げるが、うんともすんとも言わない。かれこれ一時間以上、無為な時間を過ごしている。
「本当に士道が天使を出せるの?」
姉さんが聞いてくる。この現状を見て、確認したくなったのだろう。
「必要なのはきっかけだよ。士道さんに精霊の力を使う機能はあるんだから、最初の一回ができたら後は自然とできるようになっていく」
「そう……だったら、やるの?」
姉さんが作戦を実行するか確認する。できればしたくなかったけど、時間も限られているし仕方がない。
「そうだね、そろそろやろうか」
覚悟を決めて心を殺す。大丈夫、僕はどこまででも冷酷になれる。
「士道さん、なかなか上手くいかないみたいですね」
「愛、悪いな。全然天使が出てくる気配はない」
士道はこっちを見て申し訳なさそうにする。期待されているのに応えられないのを、面目なく思っているのだろう。
「いえ、仕方ありませんよ。天使なんて奇跡を扱うんですから、それなりの状況がないと使えるようにならないでしょう」
「そう……かもしれないな」
士道も僕の言葉を聞いて納得する。
「はい、なので士道さんが必死になれる状況を用意することにしました」
「え?」
士道が呆けた顔をしている。その瞬間に状況は動く。
「緊急着装、《ブリュンヒルデ》」
姉さんが緊急着装デバイスを使用してCR-ユニットを身に纏う。その名に相応しい、戦乙女のような武装を。
そして、
「鳶一折紙、貴様何をする気だ?」
その言葉を無視して姉さんは十香に歩み寄る。槍の武装、《エインヘリヤル》を構えた状態で。
「折紙!ちょっと待て、折紙!」
士道は姉さんを止めようとするけど、
姉さんはその鋭利な刃を振るい、十香の右の手首を切断した。
「ぐっ、あああああああ!」
十香は切られて押さえて絶叫している。その声は筆舌に尽くしがたい痛みを想像させるには十分だ。
血が滴り落ち、地面を赤くしていく。五百円玉サイズの染みがいくつかできる。
「何やってんだよ、折紙!止めてくれ、折紙!折紙!」
士道は姉さんに懇願する。その視線を受けて、姉さんは士道に身体を向けた。
「安心して、士道。
「そういう問題じゃない!お前が十香のことは嫌ってるのは知ってたけど、そこまでだったのかよ!殺したいほど憎んでたのかよ!」
士道は姉さんに向けて必死に問いかける。その行動を止めるために。
「私は今ラタトスクに所属している
「だったらどうして⁉」
「士道の力を引き出させるため」
「っ⁉」
姉さんの言葉に士道は目を見開く。
「士道、あなたは力を得ないと非常に危険。その可能性があるなら、多少強引にでも引き出させる」
「だからって、そんなこと……」
士道は悲しそうな目で姉さんを見る。しかし、姉さんは止まらない。
「士道、天使を顕現させて。でないと、次は左手を切断する」
「そんな、やめろ!止めてくれ折紙!」
士道は更なる追い打ちに再び
「
……あるのは痛みだけ」
そう言って、士道の視線を促す。その先には右手を抑えてうずくまる十香がいる。
「ひっ、うう、ああ」
まともに声を上げることすらできない。そう見える。
「愛、頼むから折紙を止めてくれ!」
士道は僕に声をかける。しかし、無駄だ。
「何を言ってるんですか。これは僕が姉さんに頼んだんですよ」
残酷な事実を伝える。
「愛、お前……」
「DEMはこれよりおぞましいことを平気でしますよ。それが嫌だったら対抗する力を身に着けるしかないんです。この状況を打破する方法は、天使の顕現以外にありません」
冷淡に残酷に真実を告げる。
「士道が天使を顕現させるまで続ける。手の次は足首。それでもだめなら腕や脚を根元から」
姉さんが更に追い詰める。士道の恐怖をかき立てるために。
姉さんは再び空いていた距離を詰めるため歩みを進める。その足は数秒と持たずに、十香の元まで辿り着く。
そして、《エインヘリヤル》を振り上げた。
「ふざけるなー!」
光が溢れて霊力の奔流が渦を巻く。
その力は形を成す。何でも切り裂くことのできる大剣の形に。
士道の手に十香の天使、
そのまま駆け出していき、十香と姉さんの間に
軽い押し合いの後、姉さんがバックスステップで引く。
「折紙、いくら何でも今日のは見過ごせないぞ!」
士道は
「わかっている。……今日はやり過ぎた。例え、
「?何を言って……」
士道が姉さんの言葉を聞いて怪訝そうにする。その答えはすぐに示される。
「し・ど・う」
「へ?」
士道は後ろから聞こえた声に振り向く。すると、ほっぺに指が突きささる、古典的なイタズラが士道を襲う。
しかし、士道は衝撃で動けない。それを実行した人物に驚いているから。
「十香?しかもお前、手が……」
士道のほっぺを突きさしているのは十香だ。しかも、右手の指で士道のほっぺを突きさしている。
「鈍いわね~、とっとと気づきなさいよ」
十香がそう言うと、光に包まれる。シルエットが小さくなり、そこには七罪が立っていた。
「七罪?どうして?」
「初めっから十香はここにはいなかった。それだけよ」
七罪は落ちていた手を拾い上げる。グロテスクな手首は少し大きな石に変わる。
「折紙は誰も傷つけてないわ。ただ私が折紙の攻撃に合わせて演技してたの」
七罪は士道に種明かしをする。士道をその気にさせるため、二人には芝居を打ってもらった。
「士道は誰かが傷つく危機感がないと力を引き出せない。でも、本当に十香や四糸乃を傷つけるわけにもいかないでしょ」
「だから、七罪に怪我人を演じてもらいました」
七罪の説明に補足を入れる。僕も流石にラインは弁えている。
「はぁ、そうだったのかよ」
士道は崩れるように尻もちをつく。同時に鏖殺公も消え去る。
「士道さん、騙すような真似をしてすみません」
「……そうだな。気にするなって言う気にはなれないな」
士道は不満げにそう言う。あれだけのことをしたのだから、仕方ない。
「ただ、さっきも言った通り、DEMはこれ以上のことを息をするようにしますよ。四肢を切断して誘拐するくらいのことはやるでしょうね」
「………………」
僕たちもやりたくてやったわけじゃない。やらないと、もっとひどい目に遭うからやったんだ。
それは理解して欲しい。
「愛、お前はもっと気持ちを伝えた方がいいんじゃないか?誤解されるぞ」
「……そうですか?」
士道に疲れたような目を向けられる。困った子供でも見るような。
「士道、もっと言ってやって。こいつ、そういうのは全く得意じゃないから」
「七罪……」
七罪が後ろから背中を叩いてくる。僕に不満をぶつけるように
「少しずつ直していけばいい。あなたはまだ成長期なのだから」
「姉さんまで……」
言葉は優しいけど完全にあっち側だ。僕、そこまで会話下手かな?
「愛、この力が、天使の力があったら十香たちを守れるか?」
士道は僕の目を見て問いかける。
「無理ですね。今の状態ではDEMの雑兵と戦うのが精一杯です。実力者が相手なら絶対に負けます。限定霊装の十香さんにすら勝てるか怪しいですね」
「そうか……」
士道は残念そうに呟く。しかし、その反応はまだ早い。
「士道さんが天使を使いこなせるようになれば、話は別ですが」
「そうなのか⁉」
士道は急に反応を見せる。食いついた。
「士道さんの問題は戦闘経験があまりに乏しいことです。それでは絶大な天使の力があっても宝の持ち腐れになります。逆に力を使いこなせるようになれば、エレンを倒すのも夢ではないでしょう」
士道は既に三人分の精霊の力をその身に宿している。十全に使うことができたら、十香たちを軽く超える力を発揮できる。
「頼む、愛!俺に戦闘を教えてくれ!俺はみんなを守りたい!誰も失いたくない」
「ええ、勿論初めからそのつもりです」
そう来なくては面白くない。士道には誰よりも期待しているのだから。
「士道さん、初めに合格ラインを伝えておきましょう。僕から一本取ることです」
《ノルン》を着装して
「寸止めで構いませんから、一回でも僕に勝ってください。一切手加減しないので覚悟してくださいね」
「え?」
士道は驚いた顔をする。何を驚くことがあるのだろうか?
「エレンをどうにかしたいなら、僕”ごとき”に勝てないようでは話になりません。そのくらいの力は付けてもらわないと」
「いや、お前は”ごとき”って言える相手じゃないだろ!琴里が世界で十本の指に入る
士道が何か言っているけど過大評価だ。特殊なタイプで周囲と比較しにくいから誤った評価がされている。
平均からは抜けているけど、上位陣と比べると全然弱い。精々上の下ってところだろう。
足きりとしては丁度いいポジションだ。主人公ならこの程度のハードルは今のうちに越えてもらう。
「哀れね、士道」
七罪の合掌を合図に訓練が始まった。士道の絶叫が響き渡った。
ラインのギリギリを攻めまくる愛くんでした。やることが一々怖いんだよな~。ブレーキがあるのかないのか微妙なところがあるから。
今回の裏話は《ブリュンヒルデ》について。
原作の終盤、六喰戦で出てきたCR-ユニットですが、今作ではすでに開発済みです。というのも、いつ折紙がラタトスクに入るかわからなかったので、愛くんが開発を急かしてました。ここまで早くなるのは作者すら微妙に想定外ですが。