俺は今、理不尽過ぎる課題を突きつけられていた。
様々な角度から襲い来るレーザー。スパイ映画とかでよくあるやつだ。
それをかわしながら前進しないといけない。なんで俺みたいな普通の高校生がこんなことしてるんだか。
文句を言っていてもどうにもならない。俺の身体が多少焦げた程度で、手を緩めてくれる相手ではないから。
「はあ、行くか」
覚悟を決めて駆け出す。逃げ場を塞ぐように網目を張っているレーザーの隙間を探す。
常に動き回るレーザーは人が通れる隙間なんてほとんどない。それでも、辛うじて見つけた隙間を走り高跳びみたいに飛び越える。
こんなことを数十メートルやるのか?無理だ、その前に俺が黒焦げになる。
だったらどうする?再生力に任せて突っ切るか?
いや、そんな突貫じゃ訓練の意味がない。レーザーを出しているあの兵器を叩き落とすか。
「
四糸乃の天使の力を借りる。周囲から冷気が生み出されて、一気に冬みたいな気温になる。
そして、氷の礫を周囲にいくつもつくりだす。そのまま白い球みたいな兵器の一つに向けて発射する。
でも、こっちの攻撃に気づいてレーザーで迎撃された。いくつかの礫が当たったけど、周囲に張ったバリアで防がれちまってる。
「だったら数と質で押し切ってやる!」
一気に礫をでかくして、最早氷塊といえるサイズになる。数も倍以上に増やして、辺り一帯真っ白になった。
一つ一つが冷蔵庫より大きい氷塊を百発近く。これでさっきのようにはいかないだろ。
「行け!」
合図と同時にまとめて発射する。同じようにレーザーで迎撃されるけど、簡単に溶けることはない。
半分以上が兵器に到達して、防壁を削ってる感触がする。このまま押し切れ!
「集中し過ぎです」
突如、後ろから声がする。振り返るとそこには愛が立っていた。
「しまっ……」
気づいた瞬間、俺は斬りつけられていた。血飛沫が地面に飛び散る。
「くっ!」
浅い傷で済んだけど、俺が避けられたんじゃなくて愛が手加減してくれたんだろう。その証拠に愛の態度には余裕が見える。
すぐさま炎が発生して傷を塞ぐ。
もう何度この炎に助けられたかわからない。それくらいに実力差は明白だ。
「戦場ではいつ誰がどんな攻撃を仕掛けてくるかわかりません。目の前の敵にだけに意識を向けていると死にますよ」
愛は冷静な声で言い放つ。俺より年下なのに、まるで大人みたいなことを言う。
「そうだな。俺はまだまだだな」
でも、反抗する気にはなれない。年下だけど、戦闘に関しては先輩だ。
厳しいけど、愛は正しい。本番だったら、俺は死んでた。
「いえ、戦闘の素人だったことを考えたら、いい成長具合です。
「そうなのか⁉」
最初は愛どころかあの兵器一台にすら敵う気配がしなかった。ゆっくりだけど、着実に成長してるのか。
少しうれしくなる。でも、その希望は簡単に打ち砕かれる。
「それではそろそろレベルを上げましょう」
「レベルを上げる?」
「はい。士道さんも慣れてきたと思うので、
愛が今まで飛ばしてたのは多分六台。それでも、あの連携には苦しめられた。
それが増えるのか?考えただけで気が滅入る。
「二台増やすのか?」
「何を言ってるんですか?六機ですよ」
「え?八台が限界じゃなかったのか?」
琴里から話を聞いたことがある。愛の兵器は使うのが大変で、限界があるって。
映像で見た感じ、愛は普段六台使ってて、たまに八台使ってた。てっきりそうするもんだと思ってたんだけど。
「それは旧型の話です。新しい操作モードを追加してもらったから、今は倍以上の同時運用ができます」
「うそ、だろ……?」
背筋がぞわっとする。夏なのに流れる汗が冷たい。
倍以上ってことは、十二台が限界じゃない?それが一気に襲い掛かってくるのか?
眩暈がする。下手すると、難易度はさっきの倍じゃ済まないかもしれない。
「DEMの部隊と戦うならいい練習相手になるでしょう」
「いや、ノータイムで連携取れる部隊なんて聞いたことねーよ!」
あいつら一台が隙を作ってもう一台が攻撃みたいなことを当たり前のようにやってくるんだぞ。そんな阿吽の呼吸が取れる奴、ほとんどいないだろ。
「そうですかね?まあ、
愛は白い球をいくつも出した。数えるのが馬鹿らしくなってくる。
「さあ、そろそろ本番ですよ」
両手を広げて『かかってこい』と言わんばかりの態度。微笑するきれいな顔。
背後ではあの恐ろしい兵器が輪を描いて踊っている。俺を見てあざ笑っているようにも見える。
俺は心の中で思った。まるで魔王のようだと。
♦♦♦
あの後、何度も手足を貫かれた。一応、急所は外してるみただけど容赦がない。
炎の再生力があるから傷はすぐ治るけど、結構辛いものがある。毎回、今まで一度も感じたことのないような痛みが走るから。
全部愛なりに俺のことを思ってくれての行動だってのは分かるけど、もうちょっと優しくしてくれないもんかね?そんなこと思いながら歩いていた。
すると、轟音が響き渡る。戦争でも起きてるかのような激しい地響きがする。
その音が気になって音のする方へ向かう。木々を抜けると、そこには琴里が立っていた。
「あら士道。そんなに慌ててどうしたの?」
「いや、さっきからすごい音が……」
「ああ、そういうこと。別に何かあったわけじゃないわ。見てみなさい」
琴里がチュッパチャプスで方向を示す。その先を見ると、霊装を纏った十香と四糸乃が向かい合っていた。
二人とも霊装をまとって天使を出している。完全な臨戦態勢だ。
「あの二人も、少しは勘を取り戻さないといけないみたいね」
「そういうことか」
愛は精霊化できたらいいって言ってたけど、二人とも長い間平和な生活をしてたもんな。
「精霊の力なんて必要なかったらいいのにな」
「本当にね」
琴里も目を閉じて同意してくれる。
やっぱり十香たちには普通の女の子として暮らして欲しい。愛には悪いけど。
「行くぞ、四糸乃、よしのん」
「負けま……せん」
「よしのんの力でやっつけちゃうよ」
そう思っていると戦いが再開した。
「ふん!」
十香が霊力を斬撃に変えて解き放つ。俺が受けたらバラバラになりそうな威力だけど、四糸乃たちは慌てていない。
「よしのんビーム!」
随分と子供っぽい名前の反撃だ。でも、威力は全然かわいくない。
どっちの天使も俺が使ってた時と威力が全然違う。あの攻撃だったら、愛も倒せるだろう。
「とんでもない威力だな」
二人の攻撃は激突して、吹雪を巻き起こす。かなり離れているのに、腕で防がないといけない。
愛の戦いは平気を使った戦争って感じだったけど、こっちは最早自然災害だ。人間がどうこうできるものじゃない。
拮抗していたバランスが崩れ、四糸乃の方が競り勝つ。そして、そのまま十香に攻撃する。
「
十香は足を上げて地面を強く踏みしめる。すると、地面から黄金の玉座が現れる。
そういえば、あれも
十香は玉座を盾代わりにして攻撃を防ぐ。よしのんはしばらく頑張っていたけど、諦めてビームを止める。
その瞬間を狙って十香が動き出す。玉座をサーフボードのように変形させてから、乗って一気に四糸乃に近づく。
剣士の十香は四糸乃を間合いに入れることができたら一気に有利になる。四糸乃もそれがわかっているから、氷を操って妨害する。
でも十香は止まらない。シューティングゲームのように弾幕をよけ、残りを
遂に四糸乃が十香の剣の間合いに入った。それを誰よりも先に感じ取った十香は
四糸乃のピンチ。固唾を飲んでその光景を見る。
しかし、四糸乃は斬撃を喰らっていなかった。分厚い氷の盾を作り十香の斬撃を防いでいる。
ひびが入っていて、決して無事ではない。でも、四糸乃の能力なら、あのくらいの盾はいくらでも作れるだろう。
「ぬ?」
嫌な予感がしたのか、十香が周囲を見渡す。氷の弾丸が十香を取り囲んでいた。
「もう遅いよ~」
そして、十香の逃げ道を塞ぐように発射される。さっきと違って避けることなんて無理だろう。
「はぁ!」
それに対する十香の判断は豪快だった。乗っていた玉座を加速を利用し、弾幕の一部に渾身の突きを放つ。
ただでは済まないけれど、ダメージを最小限に抑えた。そのまま四糸乃と少し距離を取る。
「やるではないか」
「十香さんも、すごい……です」
二人とも口角を上げる。互いの攻撃をたたえ合いながら。
普段の様子からは想像もできない姿だ。二人とも、精霊なんだな。
「すごい戦いだな」
「ええ、あの二人だけ次元が違うわ。悔しいけど、あの二人以上の戦力は
琴里は悔しそうに歯噛みする。司令官としてこの状況は不本意なんだろうな。
しかし、それを聞いて別の疑問が浮かんだ。
「そういえば、琴里は訓練しないんだな。やっぱり、暴走の危険が?」
「ええ、そうよ。私は精霊化したら破壊衝動に呑まれるかもしれない」
琴里は霊力を取り戻すと破壊衝動に襲われるらしい。とにかく何でもいいから壊したくなるって。
俺もそんな琴里は見たくない。できれば、精霊化しないで欲しい。
「まあ、それ以外にも理由があるけどね」
「と言うと?」
「全員が一気に霊力を取り戻したら、士道の霊力がほとんどなくなっちゃうじゃない。それでどうやって身を守るのよ?」
「……それもそうか」
俺はみんなの力を借りて戦ってる。借りる力がなかったら、俺はただの人間だ。
確かにそれじゃ何もできない。俺が戦うためには、絶対に戦わない精霊が一人は必要なのか。
「安心しろよ、琴里。琴里は司令官だろ。後方でみんなに指示を出してくれよ。キングは絶対に取られないようにするから」
「はぁ、何もわかってないわね」
琴里を勇気づけるために言ったつもりだったけど、なぜか呆れられてしまった。今のセリフ、不味かったか?
「いい、士道!うちのキングは私じゃなくてあなたよ。あなたが殺されたら、みんな終わりなの。そこをちゃんと理解しなさい」
「ええと……俺一人じゃ何もできなんだけど」
琴里はそう言って距離を詰めてくるけど、実感が湧かない。
「逆よ!士道がいないと、誰も精霊を救うことなんてできないの!霊力の封印もせずに、どうやって普通に暮らすと思ってるの?」
「いや、七罪は普通に暮らせてるじゃないか。俺の力がなくてもなんとかなるんじゃないか?」
七罪は霊力を持ったまま暮らしている。愛の話だと、もう二年近く前から問題ないみたいだ。
確かに霊力の封印をできた方がいいと思う。でも、絶対ってわけなないんじゃないかな?
「見えてる景色が違うわね。私は七罪が普通に暮らせているとは思ってないわ」
琴里は腕を組んで目を細める。俺の言葉に強い不満を持ったみたいだ。
「どういうことだ?」
「日常的に霊力を隠蔽して、空間震も完璧にコントロールして、誰にも迷惑をかけずに生活する。それはとんでもなく難しいことよ」
「そんなに難しいのか?」
実感が湧かないな。
七罪は平気そうにしている。無理をしているとも思えない。
「年単位の練習が必要よ。仮に破壊衝動がなかったとしても、私には無理ね」
「七罪ってそんなにすごかったのか?」
十香や四糸乃はわかるけど、プライドの高い琴里がそこまで言うなんて。よっぽどなことだぞ。
「士道は朝から晩まで頭の上に本を乗せたまま生活できる?学校に行くときも料理するときも、一切除けることなく」
「無理だな、そんなお嬢様学校みたいなこと。でも、それが何か関係あるのか?」
「七罪はそれくらいのことをしてるのよ。いや、それよりはるかに難しいわね」
「……マジか」
自分の身でできることに置き換えられてようやく理解できた。それは確かに異常だ。
それを七罪は毎日平気な顔でやっている。七罪ってすごい子なんだな。
「あれは七罪が相当器用だからできることよ。他の精霊が真似できると思わない方がいいわ。できて狂三くらいでしょうね」
「……確かに狂三ならできそうだな」
狂三は精霊なのに来禅高校に転入してくるくらい馴染んでいた。それくらいはやってのけるだろう。
ただ、それは練習すれば誰でもできるって言うより、狂三がすごいんだと思う。十香や四糸乃に求めるのは酷な気がする。
「その上でちゃんと調べたら、七罪は精霊だって簡単にわかるの。封印は他に考えられないほど、精霊を安全に生活させるための手段なのよ」
「なるほどな、勉強になったよ」
今まで曖昧に理解してたことがしっかりした。確かにそうなると、俺の能力は重要なんだな。
「できれば七罪も封印したいんだけどね」
琴里は困ったように言う。そんな無理難題を吹っ掛けないでほしい。
「封印って好感度を上げてキスしないとダメなんだよな?」
「ええ、そうね」
「愛と七罪の間に入って、七罪を奪い取れって言ってるのか?」
「…………」
琴里は黙り込んでる。自分が言ってることの難易度わかってるな。
「そもそも好感度を上げるのが不可能だと思うし、仮にできたとしても愛に刺されるだろ。俺、あいつに本気の殺意向けられるの嫌だぞ」
ただの訓練でさえ容赦がないんだ。あれだけ固執している七罪を奪ったらどうなるのか?
多分、生きて日の目を見ることはできないだろう。再生力なんて何のあてにもならない。
「……その辺はぼちぼち考えるわよ」
「頼むから、愛の逆鱗にだけは触れないでくれよ。本当に消し炭にされかねないから」
想像して軽く身震いした。正直、俺はDEMよりも愛の方が怖い。
だいぶ酷い目に遭っている士道でした。ここまでする気はなかったんですけど、愛くんが許さないから。
さて今回の裏話は愛くんの訓練について。
愛くんは大変観察力に優れています。普段はその能力を七罪のアシストや戦闘、分析に利用しています。
そして生死の境を見極めるのがプロレベルです。それを訓練に反映させます。
流石に他人を死の淵に追い込みませんが、かなりギリギリまでやります。士道、大丈夫かな?