僕は姉さんと七罪、二人と向き合っていた。それぞれ槍の武器、エインヘリヤルと魔女箒の天使、
この二人と戦うのは少し気が進まない。でも、それより僕の頭を悩ませる問題がある。
「何でテメーと組まなくちゃいけねーんですか?」
不機嫌さを隠そうともしない真那だ。チームメイトであるはずの僕に敵意を向けている。
「仕方ないだろ。チームのバランスをとるとこうなるんだよ」
この四人の実力は七罪>僕=真那>姉さん。他のメンバーは実力が離れすぎていて本気の勝負は難しい。
結果、僕と真那が組んでしまうことになるのだ。不本意ながら、僕と真那の実力は大差ないから。
「ちっ、足引っ張らねーでくださいよ」
「そっちこそ、下手に前に出て狙い撃ちされるなよ」
とてもではないけど、同じチームで戦う雰囲気じゃない。自分でも少し、いやかなり不安になる。
「それでは、両チームとも準備はいいですね。それでは始め!」
審判役の神無月さんが合図をする。それと同時に戦いの火ぶたは切られた。
最初に突撃するのは真那。電光石火の勢いで七罪との距離を詰める。
そして、そのまま七罪のレイザーエッジを振り下ろす。
チェーンソーのように回転する刃は霊装すら容易く切り裂く。精霊の中では最低レベルの七罪の霊装なら、無事では済まないだろう。
攻撃をまともに受けていたら、の話だけど。
「
それよりも前に
「あんたが私を狙うことなんてわかり切ってるのよ。次からはもうちょっと頭を使いなさい」
七罪はいたずらっぽく口元を緩めながら煽りを入れる。大人モードのクールな雰囲気が煽り性能を強化している。
「舐めるな!」
煽りが十分に効いてしまった真那は連続攻撃を仕掛ける。しかし、七罪は全部捌いている。
十香に剣技を教わっただけある。かなり練度が高くなっている。
「遊んであげるわ、真那ちゃん」
七罪は性格の悪さを発揮して、楽しそうに微笑んだ。
真那と七罪の戦いが激化する中、僕は必然的に姉さんと戦うことになる。挨拶代わりの攻撃をしようか。
手元に五機の
十分に魔力が溜まったと判断した。そのタイミングで、姉さんの死角となる
後ろから不可視化した別の
相手の調子を崩すのによく使うんだけど。そう上手くいかないみたいだ。
「あなたの性格はよく知っている。私と同じで効率的、実戦的な戦い方を好む」
姉さんはダメージを受けた様子がない。それどころか動揺すら見せない。
「だからこそ、あなたの行動は予想できる。隙を見せていない相手に無策で大技は見せない。やるとしたら、それは十中八九陽動」
「ばれてたか」
わざわざ目立つように魔力を充填していた。不意打ちを成功させるために。
それを予想していたら、準備はできるよね。
「やっぱり、この程度じゃ効かないか」
「この程度……あなたにとって、先ほどの攻撃が簡単なもの?」
姉さんは真剣な顔をして聞いてくる。
「?そうだよ」
どういった意図かいまいちわからない。とりあえず、正直に答える。
「今の攻撃は簡単に実施できるものではない。少なくとも、私には不可能」
「僕は特殊型だからね。足りない火力を小細工で補ってる。僕と同じことができなくてもいいと思うよ」
僕は足りない実力を補うため、正気を疑われるようなことをしている。何度、
姉さんは僕と同じにならなくていい。むしろ、そうならない方がいい。
「……それでも、あなたは
「そんな開きがあるとは思ってないけどな~。姉さんは今までまともな特訓相手がいなかっただけだよ。すぐに追いつける」
ASTのみんなはいい人たちだけど、実力者ではない。姉さんの相手には力不足だ。
それ故に姉さんの才能は腐っていた。
一方、僕はアメリカで経験を稼いできた。あの地獄みたいな環境を経たら、誰でも強くなると思う。
「だったら、私はここで力を得る。これからのために、力が必要」
「いいよ。喜んで協力する」
僕の得てきた技術、使えるものは全部教えよう。挨拶を終え、本格的な戦いが始まった。
「さて、
少し試してみたけど、とてつもなく難しくて強力だった。実戦でも使えるように練習しないといけない。
十二機の
「その兵器を十二機⁉そんなことが人間の脳で可能なの?」
姉さんは
「もしかして、姉さんも使ったことあるの?」
「少しだけ。私は四機を数分間動かすのが限界だった。」
「初めてでそれだけ使えるなら十分だよ。ほとんどの人は二機が限界だから」
嫌味でも何でもない本音だ。僕以外で四機以上使える人は、片手で数えられるくらいしかいない。
「どうやってそんなに?」
「ちょっと機能を追加してもらったんだ。フルオートモード、《ウルズ》。
自立思考して、僕の指示通りに戦闘してくれる。勿論、僕自身が操作しているときほど上手くないけど」
ちょっと特殊な僕でも、そのままなら十二機操作できるわけがない。それを解消するために、AIによる制御を以前から考えていた。
前は使い物にならないレベルだったけど、ようやく実戦へ導入できるレベルになった。開発を手伝ってくれた五河夫妻には感謝だ。
「それが新型の力?」
「その一部だね。今から存分に見せてあげるよ」
(一から四号機、モード《ウルズ》。姉さんを包囲して攻撃。目的は撹乱。無視できない強さの攻撃を継続的に実施)
頭の中で対象の
「ただ機械に劣るほど、今の私は弱くない」
姉さんは槍型の武装、《エインヘリヤル》を振りかぶって攻撃する。訓練された鋭い一撃だ。
姉さんの言葉通り、ただの機械だったら避けられなかっただろう。でも残念ながら、新しい
姉さんの攻撃をかわし続ける。人間の可動域と逆に動くよう、立ち回って。
「……やりにくい」
姉さんは渋い顔をする。あんな避け方をされたらそういう顔になるだろう。
「
「……なるほど、
姉さんは何かに気づいたように態度を変えた。
誰がモデルかわかったから言い直したのか。優しい姉さんらしい。
気を取り直して攻撃を再開する。
ありとあらゆる方向から姉さんのをうレーザー。今の姉さんの
でも、無視はできない。絶妙な鬱陶しさだ。
姉さんなら、抜け出すのは難しくない。しかし、無理をして抜け出すと、その瞬間を狙われる。
そのことを姉さんもわかってる。だから、様子見をしている。
状況は膠着している。今のうちに畳みかける。
(五から八号機、モード《スクルド》)
モード《スクルド》はモード《ウルズ》の逆だ。フルマニュアルで
制御難易度は上がるけど、細かい操作ができるようになる。こんな風に。
「なっ⁉」
姉さんが驚愕の声を上げる。避けた筈の攻撃が直角に曲がって再び襲い掛かったから。
「
「正解。姉さんは理解が早いね」
姉さんの言う通り、一から四号機は攻撃、五から八号機は補助・妨害という形で分けている。分担することで、攻撃の厄介さを上げたんだ。
「まだまだこんなもんじゃないよ」
軌道を曲げるのはただの初歩だ。収束、加速、威力強化とできることは選り取り見取りだ。
「何て自由な攻撃。その上、ジャミングまで」
姉さんの
「いいでしょ。
姉さんの言う通り、あの
実力ある
エレン相手でも有効だ。無論、姉さんにも。
姉さんの動きがさっきに比べて鈍い。攻撃も防御も、ただの移動でさえ。
「相手を妨害して、味方に支援する。シンプルな戦術でしょ」
「そんなレベルで実行できるのは、あなたくらいしかいない」
姉さんは《エインヘリヤル》でビームを切り払う。何とか大ダメージを避けているけど、いつ状況か崩れてもおかしくない。
全力を出せない状態。それなのに、全方位から息つく暇もなく様々なレーザーが飛んでくる。
これ以上なくやりにくいだろう。そう思っていたんだけど。
姉さんが《エインヘリヤル》の魔力を急激に増大させる。さっきの何倍の威力だ⁉
「はあ!」
そのまま巨大化させた刃で
「新しい兵器を手に入れたのはあなただけじゃない。慢心が過ぎるのはあなたの悪癖」
「……魔力を吸収する能力があるのか。《ブリュンヒルデ》、いいCR-ユニットだね」
魔力の流れを改めて感じると、姉さんの手元に集まっている。二人分の魔力を集めて強化したのか。
「でも、あんな使い方したら残ってないでしょ」
戦闘で空間に散った魔力を集めて利用する能力。でも、逆に言えばそれで集められる魔力には限りがある。
「…………」
黙ってるけど、わかるよ。無駄に一か月以上過ごしたわけじゃないんだから。
「さあ、追い込みと行こうか」
手元に残しておいた四機で大技の準備をする。
姉さんが言った通り、大技を使うときは隙を作るんだよね。今は絶好の機会だ。
魔力を充填しているその瞬間。急に邪魔が入る。
この場にはある筈のないものだ。だからこそ、何が起こったのかが大まかに想像できる。
一瞬考えた結果、攻撃を止めてそいつを受け止める。弾丸のような速度で飛んできたから、攻撃を止めて
一応味方だし、助けないといけないだろう。
「大丈夫か、真那」
僕にぶつかってきたバレーボールは真那だ。
七罪にやられたんだろう。仕方ないから、
「テメーに心配されるほど、落ちぶれちゃいねーですよ」
元の姿に戻った真那が悪態をつく。
助けてやったのに、失礼な奴だ。そして、真那の言葉は全く信じられない。
完全な七罪のいいようにしてやられたのだろう。真那は決して弱くないんだけど。
「あら、元に戻っちゃったの?よく飛ぶいいボールだったのに、残念ね」
七罪がこっちに寄ってきて真那を思いっきり嘲る。絶世の美女の口が三日月のようになっている。
「今度は何がいい?リクエストがあれば、好きな姿に変えてあげるわよ。どうせあなたを変身させるの機会なんて、腐るほどあるんだし」
七罪はとても楽しそうに語る。何度やっても真那が負けるって。
七罪は普段抑えているだけで、人を小馬鹿にするのが大好きだ。真那相手には遠慮なく発揮してる。
本当、いい性格してるよ。……微笑ましく思っちゃ、ダメなんだろうな。
「あの性悪女。ぜっっったいに、泣かせてやります」
真那が目をぎろりと鋭くさせる。殺意をひしひしと感じる。
完全に切れてるな。
真那は大事なことに気づいていない。あの煽りも含めて七罪の作戦だ。
それをわざわざ説明してやる気にはならない。でも、チームメンバーとして、このまま突貫させるのは流石にダメだな。
「落ち着けよ、真那」
真那の前に
「邪魔しやがらないでください。これはあの女との戦争でいやがります。邪魔するなら、テメーから先にやりますよ」
真那は僕にも殺意を向ける。こいつ、僕が同じチームだって覚えてるよな?
「作戦もなしに突撃したら、さっきの二の舞だぞ」
「じゃあ、どうするってんですか?テメーがあいつを倒す作戦を考えると?彼女を本気で倒すことができるんですかねー?」
真那の目は無理だと言っている。僕が七罪相手に手を抜くと思ってる。
「あんまり舐めないでほしいな。僕は七罪より弱いんだ。弱者が強者に手心を加える余裕なんてないよ」
「ほぅ、じゃあ聞かせてもらいましょうか、テメーの彼女をぶっ倒す作戦とやらを」
真那は目を細めて話を促す。その舐めた態度を崩させてやろう。
僕は真那に作戦を聞かせた。真那の反応は悪くない。
「とりあえず、テメーの作戦に乗ってやりましょう。色々ごちゃごちゃやるのはテメーだけですし」
「まあ、その通りだ。真那はいつも通りにやればいい。僕が攻撃を通しやすくするから」
さあ、ここからがチーム戦だ。七罪に一泡吹かせてやる。
♦♦♦
「大丈夫、折紙?」
ボロボロの折紙に声をかける。戦況が悪そうだったからちょっかいかけたけど、だいぶ酷いわね。
「……問題ない」
「そう見えないけどね」
相変わらず素直じゃないわね。前に比べたら言葉の棘がなくなったけど。
「愛は強いでしょ」
「……正直、あそこまでとは思わなかった。
折紙は悔しそうな顔で呟く。愛に負けてる自分への怒りかしらね?
「あいつは時間を与えると次々奇策を考えるわよ。考える時間を与えないよう、間断なく攻めなさい」
「……了解した」
私の言うこと聞くのは不服そうね。でも、愛を自由にさせると厄介なことがわからない折紙じゃないでしょ。
愛は単純に強くて、それ以上に厄介なのよ。何して来るかわからないけど、絶対に戦場をかき乱す。
「さて、残念だけどさっきのアドバイスは一回忘れなさい。私たちは既に作戦会議の時間を与えてしまったわ」
私たちが話をしている間に愛と真那も何か話してたみたいね。愛のことだから、何か仕掛けてくる。
「何が起こっても驚かないようにしなさい」
「わかっている」
折紙は槍を構えて覚悟を決めた。私もしっかりと油断ならない相手を見据える。
一番最初に動いたのはさっきと同じで真那。でも、真那だけじゃない。
「折紙、真那の周りに
「きっと、あれで何かする気」
真那の周りには三機の
真那だけでも十分脅威なのに。おまけまでつけてくるなんて。
「私が真那の相手をする。七罪は愛を」
「わかったわ、行きなさい」
折紙はすぐに陣形を決めたわ。
愛の対応を私がやるのは妥当ね。 近接戦闘メインの折紙より、私の方が向いてるわ。
愛は後ろで動かないけど、そのまま操作に集中するつもりかしらね?そんなことさせないけど。
「
四糸乃とよしのんの力を借りる。これで愛を狙い撃ちにする。
愛の弱点は火力がないことよ。シンプルな弾幕が一番刺さる。
「四糸乃直々に教えてもらった技の威力、見せてあげるわ」
作り出すのは馬鹿みたいな数の氷の弾丸。一発一発が愛より大きい、致命の一撃。
それを一気に発射する。避ける隙ができないようにわざと範囲を広げて。
氷の弾幕が愛にダメージを与える。それができなくても、
なんというか、感触がおかしい。抵抗がなさすぎる。
あっさりと
「――まさか⁉」
そこまで考えてやっと気づいた。あいつならやりかねない。
「
耶倶矢の天使を使って最高速で
「やっぱり」
そこにいたのは三機の
さっきそこにいるように見せてたのはただの立体映像。
やられたわね。あいつ、どんどんこういうのが上手くなってる。
「七罪、ここにいるのは真那じゃない!」
折紙が事態を伝えるために叫ぶ。でも、ここまで来たら驚かない。
「……そうなるわよね」
こっちの愛が贋物なら、あっちの真那も贋物。真那に
「折紙、多分本物がどこかに……」
折紙に警戒を促したそのときだった。なんとなく嫌な予感がしたのは。
その予感に従って全力でその場から飛びのく。
「完全に虚を突いたつもりなんですがね~」
そこに立っていたのは真那だったわ。さっきまで私がいたところに刃を振り下ろしてた。
あと少しで刃の餌食になるところだった。危ないわね。
「まあ、気持ちの悪い余裕を崩せただけ良しとしましょう。あいつの力を借りたのは気に食わねーですが」
「ふん。愛の力を借りて粋がってるなんて、お子様らしくていいわね」
強がってみるけど、実際のところ冷や汗だらだらよ。私はあいつの攻撃まともに一発でも受けたら負けるんだから。
真那は舐めてかかれるほど弱くない。近接戦なんて長く続けたら絶対負ける。
だから、実力が発揮できないよう怒らせてたのに。愛ったら、余計なことしてくれちゃって。
あともうちょっとで攻撃が届くところだったわよ。
「じゃあ、もう一回です。今度はきっちり当ててやりましょう」
真那はまた空気に溶け込むように消えていった。やっぱり、
しかも気配まで消えてる。
単純に火力が高くて速い真那。その攻撃を通すために真那を攻撃の瞬間まで認識できなくさせる。
どう考えても愛の作戦ね。真那の力を完全に引き出してる。
多分、
風を起こして身を守る。身を守るためじゃなくて、攻撃を感じ取るためのセンサー替わり。
一瞬の変化も見逃しちゃダメ。見逃したら、次の瞬間には斬られてるから。
私の周囲を渦巻く風が変な流れをする。すぐ上から来る。
それを感じてすぐに前方へ少し動いた。
「もらった!」
真那が一瞬遅れて攻撃を仕掛ける。後一瞬遅かったら負けてたわね。
でも、これでチェックメイトよ。真那は今最も無防備な姿を晒してるんだから。
「はぁ!」
身体をひねって
真那が気絶してるのを確認して一息つく。
「引き分けかな?」
背後を見ると愛が立っていたわ。気絶した折紙を抱えながら。
「そうみたいね」
タッグ戦で互いに一人ずつ再起不能。流石に引き分けかしらね。
「新しい兵器も手に入れたし、勝てるとかもって思ったんだけどね。やっぱり七罪は強いや」
愛は残念そうに頭をかく。
「あんたは十分強いわよ。今までみたいに模擬戦で圧勝なんてのはもう無理」
愛はどんどん強くなってる。騙し騙し勝ってきたけど、そろそろきつそうね。
今回の勝負も一歩間違っていたら私は負けてた。
「そうかな?だったらいいんだけど」
信じてなさそうな顔の愛。もうちょっと強さを自覚してくれないと、私が死にそう。
「頼むから、本気の攻撃は止めて。私の霊装、あんたの
「そうなの?じゃあ、今度から一応威力の調整を考えないとね」
そんな心配いらないでしょって顔してるわね。私が攻撃全部避けると思ってるのかしら。
信頼してくれるのは嬉しいけど、過大評価よ。私、戦闘のプロじゃないからね。
魔術師組メインの回でした。こいつらも強いけど、最上位組が化け物なんだよな。だから、色々活躍の場を考えてます。
今回の裏話。七罪は顕現装置に関して勉強しています。当然、愛くんによる影響です。
原作知識、現地で得た知識関係なくひたすら教えています。呆れ顔をしながらも、七罪は真面目に勉強しています。