ヒロインは七罪   作:羽国

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最近一次創作の投稿を始めました。気が向いたらどうぞ。完結させるまではこちらがメインなのでご安心ください。
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南の島のバカンス 後編

「海だ~」

「待ってください、十香さん」

 ビキニ姿の十香が海へ向かって砂浜を走っていく。それを四糸乃が追いかけている。

 二人ともはしゃいでいるな。そう言えば十香も四糸乃も海は初めてか。

「あんまり遠くに行くなよ~!溺れちまうぞ~!」

 声をかけるけど、なかなか届かない。身体の方はなおさらだ。

 

「はあ、どうしようかね」

「問題ない、ああ見えて水中ではラタトスクのスタッフが待機している。もしものときは、ライフセーバーの資格を持った人間が救助に入る」

「折紙……」

 十香を追いかけようとしたところで折紙が裏の事情を説明してくれた。

 そうか、折紙も今はラタトスクに入ってるんだっけな。だから、こういう事情にも詳しいのか。

 

「夜刀神十香のことは心配しなくてもいい。それよりも私と……」

「折紙!水着でそれはちょっと……」

 折紙は腕に抱き着いてくる。それ自体はいつもの折紙なんだけど、今は格好が違う。

 今はビーチにいるわけで、当然折紙も水着に着替えている。この前のデートで一緒に買った競泳水着を。

 折紙は俺の腕と自分の身体をしっかりと密着させている。ざらざらとした薄い生地越しに、つつましくも確かに柔らかい感触が伝わってくる。

「士道は他の女の身体に何度も触れていると聞いた。着衣の状態ではなく、水着越し、或いは裸体を直接。だったら、私がダメな道理はない」

「いや、確かにそうなんだけど。アレは不可抗力って言うか……」

 琴里や愛の策に嵌められたのがほとんどだぞ。決して自分から進んでやったことはない。

 嬉しくなかったわけじゃないけど。

「士道、欲望を開放して。大丈夫、全て受け止める」

「ダメだろ、それは!」

 折紙は腕をがっちりとホールドしている。AST仕込みの折紙の技術からは逃げられない。

 

 折紙に美味しくいただかれてしまう。そう思ったときだった。

「何をしているか、鳶一折紙!」

「十香!」

 十香が砂煙を起こしながら戻ってきている。俺と折紙のやり取りに気がついたようだ。

「ちっ、妙に勘がいい」

「折紙⁉」

 折紙は舌打ちをしながら悪態をつく。十香を出し抜くことまで含めて作戦だったのか⁉

「鳶一折紙、シドーは渡さんぞ!」

 距離を詰めた十香は堂々と言い放つ。

「あなたに口を挟まれることではない。士道は私と話をしていた。人の話に割って入るのはマナー違反」

「何を言うか、鳶一折紙!貴様がシドーを無理矢理抑え込んだのではないか!」

 おでこをぶつけ合いながら睨み合っている。発言はどっちもどっちだ。

 

「ならば鳶一折紙、シドーをかけて勝負だ!」

 十香がびしっと指を立てて宣言する。またいつもの喧嘩か。

 前みたいに殺し合う関係じゃなくなったけど、やっぱり仲が悪いな。どうにかできないもんかね?

「士道をあなたに渡すことはできない。夜刀神十香、ここで徹底的にねじ伏せる」

 折紙も思いっきり十香の言葉に乗ってしまった。二人の間では火花が散っている。

 

「それじゃあ、スイカをたくさん食べられた方が勝ち……」

「却下。いくら何でもあなたが有利過ぎる。勝負は公平にすべき」

「ぐぬぬ」

 自分の得意な分野で勝負しようとした十香。それを折紙が一瞬で否定する。

 まあ、流石にな。十香と大食いで勝負をするのは無謀だ。

「士道が勝負の内容を指定して」

「俺か?」

「士道をかけた勝負なら、士道が内容を決定するのが道理」

 俺はそもそも勝負なんてして欲しくないんだけどな。

 まあ、適当に怪我しなさそうな勝負内容を考えるか。このままじゃ止まりそうにないし。

「じゃあ、海に来たんだし、水泳勝負なんてどうだ?あそこの岩にタッチして、先に戻ってきた方が勝利ってことで」

 あそこならそこまで離れてないし、溺れることもないだろう。

「それで構わない」

「行くぞ、鳶一折紙。誰がシドーに相応しいか貴様に教えてやる」

 そのまま二人はダッシュして海へ飛び込んだ。頼むから、もう少し仲良くしてくれ。

 

「ふっふっふ、私の勝ちだ。シドーのことを諦めるのだな」

「ちっ、妨害工作を全て破壊するとは」

 勝者は十香。それは間違いない。

 でも、その過程が明らかにおかしかった。

 モーターボートよりも速く泳ぐ二人。海上で次々と起こる爆発。

 二人とも”力”を使っていたのは間違いない。折紙なんて、十香への妨害まで仕掛けてたんだろう。

 その上で十香の方が速かった。今の十香は精霊の力を存分に使える状態だったから。

 高波を起こしながら泳ぎ、水面は嵐のようになっていた。

「お前ら、ほどほどにしとけよ」

 あんまりな二人に呆れるしかなかった。

 

♦♦♦

 

「ふふふふ、シドー。楽しいな」

 一応、勝負の結果に従うということで俺は十香と一緒にいる。十香は俺の腕に絡んで嬉しそうにしている。

 さっきの折紙への対抗意識か?これはこれでまた辛い。

 破壊力の高い十香の身体が惜しげもなく当てられる。芯のある折紙の身体と違って、どこまでも沈み込んでいきそうな柔らかさ。

 世界の神秘がこの身体には宿ってる。――そんなふざけたことを考えていないと、どうにかなりそうだ。

「ぬ?あれは何だ、シドー?」

「あれ?」

 十香の指さす方へ目を向ける。そこには、キッチンカーが停まっていた。

 街中で軽食を売ってるやつ。ここ、無人島だったよな?

「とりあえず行ってみようか」

「わかったぞ、シドー」

 

 十香を連れて向かってみた。そこには、アイス、ジュース、クレープといったのぼりがはためいていた。

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

「……箕輪さん?」

 接客をしていたのは、琴里の部下、箕輪さんだ。やっぱりというか、当たり前というか、ラタトスクの用意したものだった。

「こちらがメニューです。他のお客さまもいらっしゃらないので、ゆっくりお選びください」

「は、はい」

 箕輪さんから強い圧を感じた。余計なことは言うなってことか。

「シドー、どれも美味しそうだ。バニラ、チョコレート、ストロベリー、クッキークリーム。全部食べてみたいぞ」

 十香は既にメニューを眺めている。ご丁寧に写真までついていて、つい頼みたくなってしまう。

「四つまでにしとけよ。倒れちまうから」

「ぬ?そうか、ではしっかり選ばなくては」

 十香はメニューとにらめっこを始めた。結局、俺の分も合わせて八種のフレーバーを選んだ。

 

「ご一緒にお飲み物はいかがですか?」

「そうだな、じゃあラムネをお願いします」

 いまどきちょっと珍しい。不意に飲んでみたくなった。

「シドー、ラムネとは何だ?」

 十香が不思議そうに尋ねてくる。そう言えば、見たことなかったっけ?

「ラムネってのは瓶に入った甘酸っぱい飲み物のことだよ。シュワシュワで美味しいぞ」

「なんと、コーラとは違うのか?」

「そうだな。コーラよりすっきりした感じだな」

「そうか。では店主、私にもラムネをくれ」

「わかりました。ラムネがお二つですね」

 箕輪さんが冷蔵庫の中から青い瓶を二つ取り出した。

 

 キッチンカーの近くの席に座る。ビーチパラソルまであって、小休憩には丁度いい。

「お~、確かにコーラとは違って少し酸っぱいな」

 十香はぐびぐび飲んで目を丸める。お気に召したようだ。

「だろ?最近あんまり見かけないけど」

「そうなのか?」

「ああ、普通のスーパーとかじゃあんまり並んでないな」

 ガラス瓶だし、言っちゃ悪いけど毎日飲むものじゃないし。仕入れにくいのかもしれないな。

「そうか、それは残念だ。美味しいのに」

「そう言ってもらって作った人も嬉しいと思うぞ」

 アイスとラムネを交互に口に入れる十香を微笑ましく見ていた。

 

「なあ、シドー。一つ聞いてもいいか?」

「どうした、十香?そんな思い詰めた顔して?」

 ラムネもアイスもほとんど消えた頃、十香が意を決したように話し始めた。

「私と一緒にいて……後悔してないか?」

「本当にどうしたんだ?何か悪いものでも食べたか?」

 そんなことを聞いてくる十香を疑問に思う。何かあったのだろうか?

「七罪に言われたのだ。このままだと、シドーが殺されると」

「……なるほどな」

 DEMは俺の霊力を封印する力を知ったら殺しに来るらしい。

 考えると手が震える。十香には見せないようにしないと。

「勿論、シドーのことは私が全力で守る。でも、思ってしまったのだ。そもそも私に関わらなければ、そんなこと気にしなくてもよかったのではないかと」

 十香は胸の前でギュッと手を握る。

「なあ、シドー。シドーは本当にこのままでいいのか?私と一緒にいない方がいいのではないか?」

 十香は心配そうに俺を見つめる。その目には少し、涙が見えた気がした。

 十香だってそんなこと望んじゃいないだろうに。俺のために言ってくれている。

 だったら、その気持ちに心から応えないとな。

 

「十香、俺は楽しいんだよ。みんなと一緒にいられるこの日々が。少し前の生活に戻ることを考えられないくらいに」

「シ、ドー……」

 十香は口を開けたまま俺の方を見る。そんなに心配そうな顔するなよ。

「確かに、何度も痛い目に遭った。死にかけたこともあった。でも、それがなかったら……十香たちと出会うこともなかった」

 悪いことだけじゃない。いいことも数えきれないほどあった。

 十香がいる日常はかけがえなないものだ。失いたくない。

「俺は欲張りなんだ。DEMを倒して、全ての精霊を救って、みんなで笑える日々にしようじゃないか。きっと、にぎやかで毎日楽しいぞ」

「……ふふふ、そうだな。それはとても楽しそうだな」

 十香は目尻に涙を浮かべながら微笑む。

 絶対に実現させて見せるさ。それがどれだけ大変だろうと。

 

 十香は急に席を立ってテーブルの反対側の俺のところに歩み寄って来る。どうしたんだ?

「シドー、絶対に守るぞ」

 いつもの元気いっぱいの天真爛漫な顔じゃない。覚悟を決めた顔だ。

「お、おう。……え?」

 十香は俺の顎を人差し指と親指でつかむ。

 そして十香はそのまま顔を引き寄せて、唇を合わせた。まるで、お姫様にキスする王子様のように。

 思考が追い付かない。一体何が起こってるんだ⁉

 柔らかい唇のしっとりとした感触が伝わってくる。口の中は少し甘くて暖かい。

 折紙や四糸乃みたいに技術はない。でも、精一杯の気持ちが伝わってくる。

 やっと離れたとき、十香の顔に胸がキュッとした。

 

「と、十香、一体どうしたんだ?」

「?こういうのを好きな相手にするのがよいのではないのか?テレビでやってたぞ」

 十香はキョトンとしてる。どうやら、純粋にこれを好きな相手にする行為だと思っているようだ。

「えーっと、なんというか……多分、男女逆だと思うぞ」

「そうなのか?では、ダメ……だったか?」

 十香は心配そうな目で見てくる。悪いことをしてしまった子供のみたいに。

「いや、そんなことはないぞ。」

 多分間違えてない。

 十香が狙っていた効果はあったと思う。俺は不本意だけど。

「そうか、それはよかった」

 十香はいつも通り太陽のように微笑んだ。

 かっこいい顔と純粋無垢な顔のギャップが凄まじい。その魅力にやられてしまいそうだ。

 

♦♦♦

 

「これで封印は終わったんだよな」

 夕日が沈む海を見て少し黄昏る。緩やかな風が髪をなでている。

「別に、琴里と折紙にはキスする必要、ないんだよな」

 キスをしなきゃいけない相手は十香と四糸乃だけ。残りの二人は愛に言われたからそうなったに過ぎない。

 少し迷う。こんな気持ちでキスされても嫌じゃないんだろうか?

 

「ええ、別にキスする必要はないわよ」

「琴里……」

 いつの間にか琴里は近くまで来ていたみたいだ。ゆったりとした足取りで近づいてくる。

 白い水着が夕焼けに照らされて絵画の世界みたいだ。改めて、最高に可愛い妹だな。

「愛の口八丁であんな雰囲気になっちゃったけど、別に気にしなくていいのよ。私もちょっと暴走し過ぎだと思ってたし。キスできなくても今回は罰ゲームなんてしないし、させないわ」

 琴里は司令官としての顔を見せる。俺を守ってくれようとしている。

 でも、ちょっと無理してるようにも見える。

 どうなんだろうな?ちょっと試してみるか。

 

「なあ、琴里。本当はお前もキスしたいんじゃないか?」

「は、はぁ⁉何を言ってるのかしらこの馬鹿兄は。一体どんな根拠があって……」

 琴里は大げさに反応してる。やっぱり無視してるように見えるんだよな。

「琴里、お前無理してるとき腕組みする癖があるぞ」

「えっ、そんなわけ……」

 琴里は慌てて自分の胸元を見る。そこには当然、組まれた腕がある。

「ああ、嘘だよ。今腕を組んでたから適当に鎌をかけただけだ。でもその反応を見ると、やっぱりキスしたかったみたいだな」

 そういうことが得意な奴とずっと戦ってたからな。影響されちまったかもしない。

「士道の癖に、生意気じゃない」

 琴里は恨みがましい視線を俺に送る。……こういうのは俺には合わないな。

「それで、どうなんだよ?」

「……はぁ、流石にここで抵抗しても無駄みたいね。どうしてこんな朴念仁にばれちゃったんだか?」

 琴里は観念して俺の考えを認める。

「長い付き合いだからな。琴里の様子が変だったらわかるよ」

「わかりやすいヒントを出されてようやく、だけどね」

「あはは……それはそうだな」

 今回はキスしなきゃいけない状況だったからすぐにわかった。でも確かに、何もヒントがなかったら、何に困っているかはわからなかっただろうな。

 

「なあ、琴里。ここでしないか?」

 夕焼けでオレンジに染まった海。砂浜に伸びる二人の影。

 程よく弛緩した空気。何より、琴里をかわいいと思っているこの状況。

 悪くないシチュエーションだと思う。

「ふん、好きにすればいいじゃない」

 琴里は鼻を鳴らして腕を組む。相変わらずこっちの琴里は素直じゃないな。

 今の琴里にキスするのが間違っていることくらい、俺でもわかる。琴里の本心を引き出さないと。

「琴里、かわいいぞ。どうしてもキスしたくなっちまうくらいに」

「はいはい、そんな歯の浮くようなセリフは十香たちに言ってあげなさい。私相手に無理しなくていいわよ」

 琴里はこっちも見ずに手を横に振る。お世辞は要らないと言わんばかりに。

「琴里、こっち見ろ」

「何よ。私相手に下手なムード作りなんて……」

 琴里の顔を両手で挟んでこっちに向けさせる。

「俺は本気で言ったんだ。琴里のことをどうしようもなくかわいいと思ってる」

 そして、琴里の顔を真っ直ぐ見て宣言する。紛れもない本音だ。

「え、いや、え⁉」

 夕焼けの中でもわかるくらい、琴里の顔は真っ赤になる。動揺してるな。

「琴里、大好きだぞ」

 そう言って、そのまま琴里の唇を奪う。琴里は少し暴れているけど、嫌ってわけじゃない……と思う。

 でもこのままだと歯が当たって危ないな。少し強みに抱きしめる。

 すると、琴里の手から力が抜けた。そのままされるがままになっている。

「きゅ~」

 唇を離したとき、琴里は自分の力で立てなかった。というか、ショートしてしまった。

「おい、大丈夫か?琴里、琴里」

「おに~ちゃん……」

 のぼせたみたいな状態だな。目をぐるぐるさせている

 ……やり過ぎたかな?

 

♦♦♦

 

 日も沈み切って星が輝く夜になった。ラタトスクが用意した屋台で夕食を食べ、みんなで花火をしている。

「あはは、見てみろ真那。楽しいぞ」

 十香は両手に花火を持って火花を噴出させている。コマみたいにくるくる回ってるな。

「いいでいやがりますね、十香さん。でも、こっちもすごいですよ」

 真那は十香と少し違ったタイプだ。スパークさせるような火花を出している。

 二人とも仲が良さそうだな。素直なもの同士、相性がいいのかもな。

 

「それじゃあ、合図で行くよ」

「お願い……します」

「早く早く、よしのんをお空に咲かせて見せてよ」

 令音さんは通信機で指示を出している。少ないけど、打ち上げ花火を用意してるみたいだ。

 琴里特注のよしのん花火。面白そうだな。

 

「あ~、落ち着くわ。こういう地味で目立たないけど必死に頑張ってるのを見ると、つい応援したくなっちゃう」

 七罪は線香花火を自分の子供のように必死に守ってる。なんというか、あれはあれで楽しそうだ。

「僕もやろうかな。派手なのよりこういうのが好きなんだよね」

 その隣に陣取って一緒に線香花火へ興じる愛。あいつ、本当に七罪大好きだな。

 

 みんなが花火で遊んでいる中、一人いないことに気づいた。

「あれ、折紙どこ行った?」

 最後のキス相手の折紙だ。他のみんないるけど、折紙だけはどこにもいない。

「トイレかな?」

 そう思って適当にフラフラしていたときだった。急に何者かに襲われた。

 まず口元を覆われて叫べないようにされた。これじゃあ助けを呼べない。

 次に腰のあたりに腕が巻きつき、少し離れた茂みの中に連れ込まれた。

 鮮やかな手並みだった。鮮やか過ぎて、誰か見当がついてしまった。

 

「何やってんだ、折紙?」

 みんなから完全に離れたところで俺は解放された。予想通り、折紙の犯行だった。

「これから士道は私とキスをする。あのような大勢の前では士道が照れてしまう」

「いや、まあ、それはそうなんだけど」

 一応俺のことを気遣ってくれたみたいだ。手段はアレだけど。

「えーっと、折紙さん。何してるんですか?」

 折紙は急にガバっと抱き着いてきて離れない。少し緩めようと抵抗するけど、全く離れる気がしない。

「士道には別の女の匂いが付着している状態」

「ああ、そりゃそうだろうな。朝からずっと誰かと一緒だったし」

 四糸乃、十香、琴里。代わる代わる誰かと遊んで、キス……してきた。

「だから、私で上書きする。士道についた匂いはすべて私のものに置き換える」

「そんな、猫のマーキングじゃないんだから」

 そういうのも聞かず。折紙の身体を強く俺の身体にこすりつける。

 淫らじゃないんだけど、これはこれでヤバい感じがする。倒錯的な雰囲気だ。

 折紙の肌や衣服が遠慮なくこすりつけられて、その感触がよくわかる。肌の柔らかさと、全身を包む女の子の香りで変になりそうだ。

 顔を逸らすのが俺にできる精一杯。絶対真っ赤になってると思う。

 

「これで大丈夫」

「満足したか?」

 折紙は数分間ずっとそうして俺と密着していた。

 よく耐えたぞ俺。自分で自分を褒めてやりたい。

 

 少し離れた空でバーンという音が響いた。何かと思って空を見上げると、花火が咲いていた。

「そう言えば、打ち上げ花火もあるって言ってたっけ」

 次々と打ちあがる花火を見ながら思い出す。よく見ると、眼帯をつけたウサギが空に浮かんでいる。

「ここが一番花火を見やすい場所。打ち上げ位置と高度から計算した」

 折紙は自然と隣に立って一緒に花火を見上げる。さらっととんでもないこと言ってるな。

 そんな計算できるもんなのか?できたとして、すごく大変だろ?

「ありがとうな、折紙。俺のために頑張ってくれて」

「その言葉が聞けたなら、やった価値がある」

 折紙の顔を見ると、花火に照らされて表情の変化がよくわかった。口元が緩んでいた。

 

 やるなら今じゃないだろうか。

「折紙……」

 少しためらいながらも折紙の肩に手をつかむ。折紙は抵抗も見せず、むしろキスしやすいように体勢を整える。

「士道」

 こっちを向いて顔を上げる。誘い込まれてるみたいだ。

 花火の光を頼りに狙いをつける。折紙の唇は色鮮やかに輝いていた。

「行くぞ」

「来て」

 一応の確認を取ってみる。折紙は一瞬の迷いもなく受け入れた。

 その反応を見て覚悟を決めた。一気に顔を近づけて唇を合わせる。

 女の子の唇って一人一人全然感触が違うんだな。折紙はすっきりした感じっていうか、味わい深いっていうか。

 そんな最低なことを考えている自分に呆れてしまう。ちょっと前までキスどころか手をつなぐこともろくにしたことなかったはずなのに。

 

 唇を離すと二人の間に銀色の橋が架かる。折紙の顔が上気していて煽情的だ。

「相変わらず、士道とのキスは素晴らしい」

 折紙は自分の唇をぺろりと舐める。まるで、味わうみたいに。

「そ、そうか。それはよかったよ」

 そんな顔を見て、俺は顔をそむけるしかできなかった。

 こうして俺の無人島生活は終わった。充実していたと言えるものだった……と思う。

 

♦♦♦

 

 私の世界は闇に包まれている。何もない空間の中で輝く光景だけが、外と私を繋ぐ接点。

 それを見て私は、ただただ苛ついてた。

「ああ、本当にイライラするね。なんでこんなの見せ続けられないといけないんだろう」

 これがモニターだったら何度壊してるかわからない。それくらいには神経を逆撫でされる。

 七罪がいて、おねーちゃんがいて、楽しそうに笑ってる。本当ならそこに私がいたはずなのに。

「まあ、あと少し我慢してあげるよ。どうせ一年もかからない。その場所は、私のものになる」

 器の成長はいい感じに進んでる。欠けた部分もちゃんと塞がってきている。

 私がちゃんと外に出られる日もそう遠くない。

「それに、いい仕事をしてくれたしね」

 ()()()使()を見つめる。そこには新しい()()が刻まれている。

鏖殺公(サンダルフォン)氷結傀儡(ザドキエル)灼爛殲鬼(カマエル)。これだけの天使を使えるようになったのは大きいね」

 この三つは少し好みじゃないけど、天使を使えるようにしておくことは大事だ。これで私の手札が増えるんだから。




誰かさんが久しぶりの登場です。彼女の目的は何なのか?正体は何なのか?それは今後の物語で明かしていきます。

さて今回の裏話は最後に登場した誰かさんの天使の能力について。
お察しでしょうけど、彼女の天使にはコピー能力があります。しかし、その条件は千変万化鏡よりも厳しいです。代わりに能力を劣化させない完全なコピーができます。その条件は天使の能力がわかったら自動的にわかります。
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