そして、いきなり七罪視点です。前に琴里視点を書いたときに主人公視点以外は難しいのかと思っていました。けど、七罪視点はそんなこと無かったですね。むしろ凄い筆が進みました。書いてて楽しかったです。
七罪と四糸乃とよしのん
「ねぇねぇ七罪ちゃん見てみて~。よしのんのブレイクダンスだよ~。」
眼帯をしたウサギのパペットが私の目の前でアピールをする。そのまま、神社の賽銭箱に頭をつけてくるくると回り始めた。
関節をどうやって動かしているか全くわからない。まるで、本当にブレイクダンスをしている様に見える。
「凄い技術ね。私には真似できそうにないわ。」
正直な感想をよしのんに伝える。私には本当のブレイクダンスも左手をブレイクダンスの様に動かすこともできそうにない。それが何の役に立つかは知らないけど。
「え~。七罪ちゃんにもできるよ~。一緒にやらな~い?」
よしのんは小さな手で器用に私の手を掴んで誘う。どうしてこうなったんだろう。水たまりに映る
♦♦♦
私は愛とデートして、キスして、告白した。よくもまあ私みたいな似非美人があれだけの事をできたなと思う。
思うけどやってしまったものは仕方ない。七罪七罪言ってるのは愛の方なんだから脈は有る。と思いたい。
だから、私は愛をデレさせないといけない。そのために私がやらないといけないことは、今の私の姿で外に出ることね。
全く理解できないけど、愛は変身してない私の方が好きらしい。何度も言われているから、流石にドッキリとかではないと思う。ドッキリだったら一週間は寝込む。
とにかく、私はこの姿で愛を誘惑しないといけない。部屋の中ではほとんどこの姿だけど、外でこの姿を見せたことは無い。
デートで相手の好みに合わせられないのは致命的。だから、この姿で外に出ないといけない。
何でこんな鶏ガラみたいな身体で誘惑するなんて罰ゲームをしないといけないのか。これも全部、愛がブス専なのが悪いのよ。
正直この姿で人前に出るなんて考えただけで嫌な気分になる。だから、愛も無理強いはしなかった。
でも私の願いを叶えるために、愛と付き合う為には必要なことだ。この姿でも人前に出られるように練習しないといけない。
私はこっそり家を出て、適当に知っている人が誰もいなさそうな場所を探した。
琴里や令音に見せることも考えたけど,あいつらに弱みを見せると後で脅しの材料にされかねない。だから、私の顔を知らない人を練習台にする。
私はトイレの個室で変身を解いて、深呼吸をした。そして、街へ繰り出した。そうしたら五分もしない内に雨が降ってきた。
あれかしらね。私みたいな勘違いブスが街を歩いたら街が汚れるからとっとと立ち去れって意味かしらね。
分かっているわよ。私みたいな存在が街を歩いたら人の気分を害するって。でも、ちょっと位夢を見ても良いじゃない。
出鼻を挫かれてどうしようもなくなった。仕方なく、近くに有った神社で雨宿りをすることにしたわ。
こんな狭い場所で誰かと一緒だったら気まず過ぎて吐きそう。だから近くに誰も居なくてよかった。
そう思っていたわ。
けど、近くでぴしゃぴしゃって音が聞こえてきたの。明らかに雨音じゃなくて人が水たまりを踏む音。
だから、音の方を見てみたの。そうしたらレインコートを着た女の子が水たまりで遊んでいた。
ウサギを模した女の子らしいレインコート。それに合わせたかのように、可愛らしいウサギのパペットを左手につけている。
顔は遠目からでも分かるビスクドールの様な美少女ね。身長だけは私と同じくらいかしら。
ああいう可愛い子が水たまりで遊んでいると、可愛いって評価になるのよ。私がやったら、ブスが意味分からないことやっているって評価になるのに。
私は話すこともできずにしばらく見ていたわ。だって私に何ができるって言うよ。
ああいう子は私と違ってスクールカースト上位のメンバーに囲まれた生活をするに決まっているのよ。
私ごときが話しかけても優しく返事してくれる。けど、周囲の奴らが後ろでごみを見るような目をするに決まっているのよ。学校なんて滅べばいいのに。
暫くしたら、あの子思いっきり滑って転んだのよね。可哀そうなくらいに。
「だ、大丈夫かしら?」
思わず声をかけちゃったわ。声帯が退化しているから、掠れた声しか出ない。本当に何しているんだろう。
そしたらその子、二メートルくらい後ずさりしたのよね。雨で湿った泥の上を。
そうよね。私になんて近づいて欲しくないわよね。私に近づかれる位なら泥で汚れた方がマシよね。
「来ないでください。」
遂に口に出されてしまったわ。「空気が汚染されるから、お前近寄るな」って。
「痛くしないでください。」
可能な限り近くに寄らないように、離れようとした、だけど、次の言葉を聞いて少し足を止めたわ。
「痛くしないで」って言ったの?初対面の私に?
もう一度その子を見て特徴を捉える。
緑色のレインコート。ウェーブのかかった青い髪。中学生位の美少女。何よりウサギのパペット。
どう見ても愛の言っていた精霊よね。確か名前は四糸乃だったかしら。
偶然とはいえ精霊に出会った。
どうするべき?愛に連絡?それとも話しかけて情報収集?
とにかく下手な刺激はしないように立ち回らないといけない。
この子が精霊だとすれば、怯えている理由も納得できる。人間社会を知らない精霊はASTか見たことが無い。精霊を殺そうとする存在しか。
だから、怯えている。この子と対話をするには、私が敵意の無い存在だと示さないといけない。だったら私のすることは……。
「
召喚に応じて霊装が現れる。霊力の光が物質化して私を守る城になる。
光が消えたとき、私は魔女服のような霊装を纏っていた。この子が混乱してしまわないように、大人への変身はせずに。
「大丈夫。私も精霊よ。あなたを襲う気は無い。」
虚勢を張っているけど、心臓が嫌と言うほどバクバクいっているのわかるわ。
思わず霊装を出しちゃった。けど、これが敵対行為だと思われたらどうしよう。
私なんて精霊の中ではほとんど戦闘できない雑魚なんだけど。このまま殴られたら終わりなんだけど。
「精霊さんですか?」
「そうよ。」
四糸乃(?)が上目遣いで聞いてくる。私が男だったら、この子の魅力に堕とされていたかもしれない。なんて可愛らしい女の子なのかしら。
「えっと、よしのんを取ってください。」
「よしのん?」
よく見てみると先ほどまでつけていたウサギのパペットが左手にない。転んだ時に外れてしまったのだろう。
周囲を見るとよしのんが地面に落ちている。幸いにも水たまりの中には落ちなかったようね。余り汚れてはいない。
拾って渡すと震えた手でよしのんを受け取ってくれた。慣れた手つきで装着すると、まるで本当に生きているかのように動き出す。
「や~失敗失敗。よしのんとしたことがうっかりしてたよ~。」
「え。」
多分私の顔を鏡で見たらアホ面をしていると思う。でも仕方がないじゃない。さっきまで可憐な美少女だったのに。パペットを装着した瞬間、プロもびっくりの腹話術でコミカルに喋り始めたんだから。
「助かったよ、お嬢さん。ありがとう。よしのんの名前はよしのん。お嬢さんもよしのんに名前を教えてくれないかな~?」
「え、えっと七罪だけど。」
「そうかそうか、七罪ちゃんか。可愛いお名前じゃな~い。」
「あ、ありがとう。」
よしのんは四糸乃の無意識下の別人格って話だったかしら。別人格がこのパペットを通して表に出てきている。それが四糸乃の精神を安定させていると。信じがたい話だけどこの光景を見たら納得できるわね。
「そっちの女の子も名前を教えてくれると嬉しいのだけど。」
四糸乃と話すときの注意点は、よしのんを一個人として扱うこと。よしのんは四糸乃とは別個の存在だと四糸乃自身は思っている。
よしのんを腹話術の人形として扱うのはタブー。四糸乃は精神状態が悪くなるって言っていたわね。
「そうだね~。よしのんばっかり喋りすぎちゃったかもしれないね~。ほら、四糸乃。」
「四糸乃……です。あの……ありがとうございます、七罪さん。」
「はうっ。」
今何かで胸を刺し貫かれたような衝撃が。これが恋?
ダメダメ。私には愛がいる。でも、この子本当に可愛い……。
「よしよし、頑張ったね四糸乃。それで、七罪ちゃんも精霊さんなんだっけ?」
「そ、そうよ。それがどうかした?やっぱり私みたいなブスが精霊なんて名乗っていたら精霊の格が落ちるから名乗らないで欲しい?すみません今すぐ消えてなくなります。申し訳ございません。」
「いや、誰もそんなこと言ってないけど。むしろ可愛いお顔じゃな~い。ねぇ、四糸乃?」
「ん。」
四糸乃は何回も首肯している。嘘でも褒めてくれるなんていい子だな。顔も性格も良いなんてパーフェクト美少女じゃない。
「結婚して~。」
「おやおや~。」
「はわわ。」
私が変な発言をしたから場の空気が変になってしまった。一体何を言っているんだろうか。
お世辞を言われたからって。調子に乗ったら失礼じゃない。おじさんに「まだお若いですよ」ってお世辞を言って「じゃあ、結婚しよう」って返されたらドン引きするに決まっているじゃない。
「こほんっ。話を戻しましょう。私はあなたと同じ精霊よ。」
わざとらしく咳払いをしながら軌道修正をする。じゃないと変な空気が続きそうだったから。
「精霊さんか~。あんまり見たことないし、お話したのは初めてだよ~。」
「そうなのね。」
私は十香を始めとして何人かの精霊に会ったことが有る。けれど、ほとんどは愛と出会ってから。普通にしていたら精霊同士で出会うのは難しいわね。
「私は何人か会ったことが有るわ。皆個性的な子ばかりよ。」
「へ~、どんな子どんな子?」
「そうね。」
それから私は今まで会ったことのある精霊の話をしたわ。ブラコンを拗らせた女王様気取りの精霊の話。ゴスロリファッションの痛い精霊の話、常に競い合っている双子の精霊の話。純粋無垢な大食い精霊の話を。
そして、少し気になったことが有る。よしのんは積極的に話題を振るけど、四糸乃は全く話に入ってこない。
時々肯いたり笑ったりしているから聞いていない訳ではない。パペットが本当に生きている筈がないから、四糸乃が聞いているのは当たり前の話なのだけど。気になる。
「ねえ四糸乃、あなた何でさっきからずっと黙っているの?」
「……私は……人と会話しても……うじうじして……困らせちゃうから。」
絞り出すようなその言葉は、悲痛な彼女の思いを伝えるには十分だった。私も人の事は言えないから、少し思う所が有る。
私も愛と出会っていなかったら、この姿で人と話すこと一生無かった。そう思うから。
「だから……よしのんに……お願いしています。よしのんは……私と違って……強くて格好いい……ヒーローだから。」
「ヒーローね。」
よしのんは四糸乃の頭を撫でたりガッツポーズを取ったりして応援していた。四糸乃が喋っている間ずっと。
確かによしのんの方が受けの良い性格をしているのかもしれない。
理想の自分という願望を作って嫌なこと全部押し付ける。まるで自分を見ているようなそんな気分になる。
だからこそ私は言いたい。
「よしのんよりも四糸乃が好きって言ってくれる人がどこかに居ると思うけどね。」
「え?」
「ひゅ~。」
愛がこっちの姿の方が好きだって言ってくれたように。四糸乃の方が好きって言ってくれる人が絶対に居る。だって、こんなに可愛くて優しい子なのだから。
「少なくともここに一人いるわ。よしのんよりも四糸乃を好きって思っている人が。……私なんかに好かれても、迷惑しれないけど。」
「ん――!」
「あらあら七罪ちゃん。本人、じゃなくて本ウサギを前にしてそう言う事を言っちゃう~?」
四糸乃は顔を背けて代わりによしのんが私に迫る。嫌がられていると思うけど、これだけは伝えておきたかった。私の本心。
「あり……がとう……ございます。……七罪さん。」
四糸乃は目線を合わせないまま、もじもじとお礼を言う。ASTはどうしてこんな女神を襲っているのか。理解に苦しむわ。今度会ったら痛い目を見て貰うとしましょう。
それから程無くして、四糸乃とよしのんは消えたわ。多分隣界に戻ったのでしょうね。
私は今日有ったことを、四糸乃とよしのんに出会ったことを決して忘れない。
因みに家に帰って愛には話したのだけど、何故かずっと「ふ~ん」って言ってたわ。まるで面白いことでも有ったかのように。
七罪と四糸乃は原作でも絡みが多いキャラなのでこの作品でも仲良くしてもらいましょう。本当は初対面はちょっと険悪にするつもりだったのに何故か仲良くしてますね。これがキャラが勝手に動くってことでしょうか。
さて今回も少し裏話を。
七罪は愛君から始原の精霊と未精霊化状態の人以外の精霊の情報を教えられています。だから、今回は四糸乃とよしのんの事を知っていました。でも未来の事は教えられていないので、四糸乃がよしのんから自立する話は知りません。