旅行の最終日は登り切った太陽に出迎えられてスタートとした。時計を見ると十時半を回っている。
これでも早い方かな。昨晩のことを考えたら。
昨夜のことを思い出しながら、隣で眠る七罪を見つめる。かわいかったな~。
僕のやること全てにいちいち大きな反応を見せてくれた。それが面白くて、弱点を探りまくった。
やり過ぎた自覚はある。次はもうちょっと丁寧にできるかな。
反省をしながら、支度を始めた。忙しないけど、今日は帰る日だしね。
崩壊した最終日の予定を見返しながら、喜びを噛みしめる。そんなことどうでもよくなるくらい、昨日の夜は素晴らしかった。
「愛……」
僕が起きて三十分ほどして、七罪が起きてきた。神妙な面持ちをしている。
格好はネグリジェのままだ。寝ぼけてるのかな?
「おはよう、七罪。睡眠時間は足りた?」
あんまり元気そうには見えない。昨日はだいぶ遅かったし、寝足りないなら二度寝してもいいと思ってる。
そんな気遣いはサラッとスルーされる。まっすぐ僕の方に歩み寄ってくる。
「ねえ、夢じゃないのよね。その、昨日のこと」
七罪は直接的な表現を避けて確認する。両手の指を絡ませてもじもじしてる。
恥ずかしいのかな?昨日は積極的だったのに。
「かわいかったよ。食べちゃいたいくらいに」
その態度が面白くて少しからかう。たまには攻めに回ってもいいでしょ。
「っ~~~!」
七罪はリンゴのように赤くなる。ショートしちゃった。
うつむいて、前髪で顔を隠してる。借りてきた猫みたいだ。
「大丈夫、七罪?」
顔を覗き込むと前髪の向こうから恨めしそうな眼が覗いていた。
……流石にからかいすぎたかな?昨日も大概だったし。
「……きにん」
七罪がボソッとつぶやいた。でも、よく聞こえなかった。
口元で耳を澄ませる。謝意はあるから、誠実に対応するつもりだ。
「責任……とりなさいよ」
「えっと……」
ようやく聞こえた言葉に戸惑ってしまう。どう返していいかわからなかったから。
それに不満を持った七罪が踏み込んでくる。
「あれだけ弄んで、恥ずかしいこと山ほどしたんだから!責任もって一生隣にいなさいよ!死ぬまでずっと愛するって誓いなさいよ!」
胸のあたりを何度も叩かれる。肉体的にはほぼダメージがないけど、心が痛い。
「ずっと前からそのつもりだよ。僕から離れるつもりはない。ずっと愛してるよ」
告白を受け入れた時点で覚悟は決めている。七罪にも宣言したつもりだった。
だから、どうしていいかわからなかった。これ以上どうにかする手段が思いつかないから。
「ん。だったら、改めて誓いなさいよ。不安になる暇がないくらい、言葉と行動で示しなさいよ」
七罪は激情のままに慟哭する。
やっと七罪の気持ちがわかった。不安だったのか。
元々、自信のない子だし。伝わったつもりでも、なかなか伝わっていないのが感情だからね。
ちゃんと気持ちを形にしよう。今この場で。
「あ……」
七罪の顔に手を添える。それで何をするか察したみたいだ。
目を閉じて待っている。イメージに従って静かに唇を合わせた。
最初のころに比べると緊張が消え、愛情に置き換わった気がする。今まで味わう余裕のなかったものが見えてくる。
七罪の息遣いや余裕のない顔。背伸びして少し不安定に体勢。
背中に手をまわして緊張を取るように意識する。もっとキスに集中できるようにしないとね。
ゆっくりと唇を離して互いの顔をしっかり見つめる。七罪はそっぽ向いて口をすぼめた。
「妙に上手くて腹立つ。私はまだいっぱいいっぱいなのに」
「慣れがちょっと早いだけだよ。七罪もすぐに上手になるって」
それでも七罪は少しにらんでくる。だったら練習すればいいじゃないか。
「毎日キスする?それなら七罪の安心できるし、一石二鳥だよ?」
割といい案だと思う。僕も七罪の楽しめてウィンウィンだ。
「毎日なんて、持たないわよ。一週間……やっぱ三日に一回で」
七罪は微妙に提案を修正する。いじらしい姿ににやけが止まらない。
♦♦♦
島を出る直前、お土産を選んでいた。
「十香は士道たちと一緒でいいかしら?」
「別で一箱渡しておいたらいいんじゃない?一人で食べちゃうでしょ」
流れる時間は穏やかで、なんてことのないこの瞬間が心地いい。
「折紙には何渡すの?」
「食べ物渡しても微妙だし、小物とかアクセサリーにしようかと思ってる」
ただ平和な日常を享受する時間。それが何より尊く、何より儚い。
「四糸乃には何選ぶの?」
「帽子を選んだら喜んでくれる?いや、でも私のセンスで選んでも……」
こんな時間が永久に続いたらいいと思う。でも、それは叶わない。
「令音にも選ぶのね」
「お世話になってるから。あと
DEMとの闘いの日々は迫っている。それに、崇宮澪が動く日もそう先の話じゃないだろう。
「これで全部かな」
「宅配使うことになってるじゃない。あんた、いろんな相手に顔売り過ぎよ」
「……七罪がコミュニケーション取らなすぎだと思う」
僕たちは日常を掴むために戦う。それがどれほど過酷だったとしても。
この日常を守るため。夏休みは終わり、闘いの秋が僕たちを待っている。
さあ、
これに手夏休み編終了です。長い作者の自己満足にお付き合いいただき本当にありがとうございます。
布石も打ち終わりました。次回からは第二部・八舞編スタートです。お楽しみください。
今回は裏話の代わりに夏休み編の時系列です。ある程度わかるようにしていますが、さすがにないと面倒だと思うので。下の方が時系列後になります。
【七月】
二人のデートプランナー
四糸乃のおうちデート
七月二十三日 前準備
信じてはいけない
愛の恋愛観
中学校体験入学
七月二十三日 パーティー&祭りの後
鬼に金棒
【八月】
強化合宿
南の島のバカンス
愛と七罪の旅行デート