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真実に近づく者たち
気を抜いてしまいそうになるほどの治安の良さ。車椅子の老人にやさしく接してくれる国民性。
久方ぶりの日本に心を和ませていた。ここは本当にいい国だ。
全てが終わったら、この国でひっそりと暮らすのもいいかもしれない。そのとき、私の命が残っていればの話だが。
「そういえば、DEMを抜けると決めたのはこの国だったか」
懐かしい話だ。アイクと袂を分かち、精霊のために動くと決めたあの事件。
今でも鮮明に覚えている。
「後悔、していますか?」
車椅子を押す少女、カレン・メイザースが問いかけてくる。私の秘書にして、唯一残った旧い仲間。
「後悔などあろうものか。私はもう、精霊を使って復讐を果たそうとは思えない。だからこそ、ラタトスクを起ち上げた」
三十年前の行動を後悔したことなど一度もない。友人たちと敵対することになったのは心苦しいが、仕方のないことだ。
私たちは相容れない。どちらかが倒れるまで戦うしかない。
「今度こそ、アイクとの決着を着けようじゃないか」
「そうですね。姉さんとの決着を着けましょう」
カレンの言葉を聞いて、気の強い不器用だった少女の顔を思い出す。彼女もアイクに並ぶ最大級の障害だ。
カレンの手に押され、道を進んでいく。もう彼と並んで同じ景色を見ることはない。
♦♦♦
「お待ちしておりました、ウッドマン卿」
若い機関員が頭を下げる。ここはラタトスクの保有する施設の一つ。
気味の悪い連絡を受けてやって来た。私以外対応できない状況になっていると。
「それで、例の人物は今どこに?」
「はい、こちらです」
機関員に案内された先。そこには鉄格子で塞がれたベッドがある。
そこに寝ているのは若い男。まるで病人のように伏せている。
「これがスパイだった男か」
「おっしゃる通りです。先日、施設に侵入して情報を盗み出そうとしていました。幸い、盗まれる前に発見し拘束することができました」
事前に聞いていた内容を改めて確認する。露骨に不自然なところは見つからない。
「持ち物からDEMの関係者ということはわかりましたが、それ以上は何も。
「ふむ、それで『エリオットを呼べ』と言い続けていると」
「……はい」
今回、私が直接出向いたのはそれが理由だ。どういう意図か知らないが、DEMの関係者が私を呼んでいる。
アイクが絡んでいる可能性が高い。だからこそ、罠の可能性を承知でここに来た。
「話をしてもいいかな?」
「勿論です。どうぞ」
機関員の彼に従って前に出る。
「私だ。エリオット・ボールドウィン・ウッドマンだ。君の誘いを受け、やって来たよ」
鉄格子の向こうの彼に呼びかける。嫌な予感をうっすらと覚えながら。
「あ、あ、あああああアアアアあぁああ、う、う、ウウウウウウつど、ま、まままン」
急に捕虜の男が痙攣をして暴れだした。瞳孔の開いた目でこちらを見つめる。
「うお……ッ⁉」
若い機関員が肩を震わせておののく。しかし捕虜の男はそんなこと意にも介さない。
そして、急に落ち着き喉を開く。その喉から不協和音が流れ出す。
『やあ、久しぶりだな、エリオット』
そして、全く違う声を発した。まるでスピーカーのように。
「な、こ、これは……」
機関員が狼狽している。彼は下がらせるべきだったかな?
この光景は少しショッキング過ぎる。相変わらず、君は趣味が悪い。
「ああ……三十年ぶりだ。壮健かね、アイク」
『おかげさまでね。君はどうだい、エリオット』
「私の方は自信がないな。最近はすっかり目も悪くなってね」
『それはそれは』
わざとらしい会話のやり取りを行う。よく相手を知っている距離感ながらも、互いに一線を引いている。
旧い友との会話がこれとは。嘆かわしいものだ。
『――ところで、エリオット。私たちのところに戻ってくるつもりはないかね。
君も知っているだろう。トビイチアイが精霊となった。
《アポクリファ》。あれほど素晴らしい精霊は《デウス》を除けば存在し得ないだろう。
君が連れて来てくれると嬉しいのだがね』
アイクは興奮を抑えられない様子で語る。相変わらず子供のような性格だ。
「《アポクリファ》という識別名を彼につけたのかい?」
「おっと失敬。だいぶ前につけたから、君に伝えていないのを忘れていたよ」
「なるほど」
しかし、《アポクリファ》、異端か。彼の様子を見て名付けたのだろう。
不本意ながら、適切な名前かもしれないな。
「生憎だが、私にそのつもりはないよ、アイク。私たちがDEMに戻ることも、大事な弟子を渡すことも、あり得ない」
はっきりと拒絶する。どちらの望みも到底受け入れられない。
『ほう、やはり彼は君の教え子だったのか。どうりで見覚えのある技だと思ったよ。戦い方は全然違えど、
どうやら、アイクは精霊としてだけでなく、
「自慢の弟子だ。あの子以上の逸材が見つかることはこの先ないかもしれない」
初めて出会ったとき、彼は私やエレン以上の存在になると予感した。その予感は間違っていなかったと今も思っている。
彼の才能は凄まじい。正しく導いてやらないと、次世代のアイザック・ウェストコットになりかねない。
『フフフッ、そうか。彼は君も魅了していたか。やはり私の目に狂いはなかったようだ』
アイクは不気味に嗤う。何を考えているか、私の頭では予想できないことだけが予想できる。
アイクは彼が精霊だと知る前から強く欲していた。崇宮真那の状況を鑑みる限り、先兵に加えようとしていたのだろう。
『それに関しては残念だよ。彼は精霊として使わなければならないのだから』
「彼は人間として育てる。精霊の力を振るわせる気はない」
彼が何者であろうとも、人間として育てる。
『彼の状態を知っていて尚、そう言うのかい?君も知っているだろう?』
アイクはきっとあのデータを知っている。彼も観測していただろうからね。
だからこその《アポクリファ》。そうだろう、アイク。
「それでもだ。ラタトスクが何を目的とした組織か、君も知っているはずだ」
そんなことは関係ない。彼は私の弟子であり、一人の人間だ。
精霊を安全に暮らさせる。そのためのラタトスクだ。
『そうか、では戦うしかないな。君と戦うなんて、怖くて震えてしまうよ』
わざとらしい口調でそう話すアイク。喜びが漏れている。
あの不気味な笑みまで見えそうだ。隠す気がさらさらない。
「刃を研いで待っているよ。君相手に情けない姿を見せるわけにはいかないからね」
静かに火花が散る。これは私たちが始めた戦いだ。
私たちが終わらせる。若者たちが安心して暮らせるように。
『次は戦場で会おうじゃないか』
「ああ、また会えるのを楽しみにしているよ」
そう言い残して男は倒れた。口からあふれるほどの血を噴き出している。
もう助からないだろう。人を封筒のように雑に扱う。
そんな相手に愛を渡すわけにはいかない。勿論、他の精霊たちも。
「カレン、早速愛の元へ行こう。すぐに作戦を立てないといけない」
「わかりました。参りましょう」
アイクの思い通りにしてなるものか。
♦♦♦
私は折紙の部屋に呼び出されていた。愛に気づかれないように念押しされて。
この部屋に来たことは何度かあるけど、いつも愛と一緒だった。私一人招かれたことなんて一度もない。
嫌でもわかる。愛に聞かせられない話をするって。
覚悟して来たつもりだった。でも、聞かされた内容に驚愕するしかなかった。
「噓……でしょ」
「嘘ではない。状況証拠から導き出した、確度の高い推論。愛は生まれる前、正確に言うなら胎児の時点で精霊だった可能性が高い」
折紙は確信をもって話す。でも信じられない。
「これを見て」
そう言いながら、折紙はコピー用紙の束を取り出す。ノートか何かをコピーしたものみたいね。
「これは?」
「お母さんの日記の一部。愛の妊娠初期から出産直前までのものを抜粋した」
折紙は真剣な顔でそう言った。でも、それを見て私は訝しむ。
「あんたたちのお母さんって、えっと、確か……」
「愛の出産と同時に帰らぬ人になった」
言い淀んでいたら折紙が続けた。珍しく、感傷的な面が見える。
「それと何が関係あるの?」
「お母さんの日記には愛が精霊だったと推測できるものがいくつかあった」
「な⁉」
それを聞いて急いでコピーの中身を確認する。一見すると、子供と自分の命を天秤にかけて追い詰められてる妊婦の話。
でも、愛が精霊だという前提を念頭に置くと話が変わってくる。精霊の奇跡が見え隠れしてるように見える。
「確かに、そうね。女の子って誤認してたり、お腹の中の子供を化け物扱いしてたり。でも、これじゃあ……」
「確固たる証拠にはならない。だから、一月かけて調べた。お母さんを担当した産科医を訪ねて。病院をクラッキングしても、データは残っていなかったから」
「あんたね……」
折紙はサラッと言ってのける。何当たり前のように犯罪行為をしてるんだか。
まあ、今回ばかりは仕方ないわね。調査をラタトスクにさせるのもアレだし。
「それで、確信は得られたの?産科医なら何百人と妊婦を担当してるでしょうし、十四年前の話よ。覚えてると思えないんだけど」
私だったらそんな前のこと忘れてる。十四年も前ならカルテも残ってないのが自然。
「ダメもとだった。でも、お母さんのことは鮮明に覚えていた。珍しいこと状態だったから、そう話していた」
「……なるほどね」
珍しいこと……。医学で収まる範囲じゃなかった可能性が高そうね。
「お母さんのような例は一度も見たことがない。母体の衰弱具合が異常で、新種の病気かと思ったと」
「その衰弱が霊力によるものって言いたいのね」
ただの人間が精霊なんて宿していたら無事でいられないでしょうね。霊力に毒されていたと。
「それだけじゃない。おかしいところはもう一つあると教えてくれた」
「何よ?」
「日本で一番多い流産の原因を知っている?」
折紙が急に変なことを聞いてくる。何が言いたいの?
「お腹を殴られたとか、無茶しすぎたとかそういうこと?」
「日本のような先進国でそのような流産の例は少ない。一番多いのは染色体異常による初期流産。そもそも、生まれことに耐えられなかった命が流れる。これが半分以上を占めている」
折紙は関係ないようなことを話す。でも、嫌な予感がする。
折紙がただの雑学を急に話すと思えない。
「日記の記載から予想すると、愛が危険な状態になったのは妊娠初期」
「ちょっと待って!それってつまり……」
「愛は生まれないはずの命だった可能性が高い」
「なんて、こと……」
冷静に宣言する折紙の言葉を聞いて、背筋が冷たくなる。それってつまり……。
「だったら、愛はまさか本当の子供じゃ……」
愛は死んだはずの子供と入れ替えられた精霊。そんな想像が浮かんでくる。
そこまで言いかけて自分の口を抑える。そんなこと、家族の前で言っていいわけない。
息を飲んで折紙を見つめる。折紙は眉を潜めることすらしていなかった。
「その可能性を私も考えた。だから、DNA鑑定を行った」
折紙は新たな資料を差し出す。DNA鑑定の調査報告書と書いてある用紙が三枚ある。
「あの子の髪の毛を何本か採取した。それを使って、念のため全く違う三社に依頼して、私と愛の遺伝的関係を調べた」
最近はこっちでも寝てたし、それほど難しくなかったでしょうね。愛、身内にはほぼ無警戒だし。
「結果は、どうだったの?」
息を飲んで問いかける。ずっと無表情の折紙からじゃ、結果は予想できない。
「三社とも私と愛を同じ両親から生まれた姉弟だと報告している」
「……はぁ、そうなのね。よかったじゃない」
嫌な想像を否定されて胸をなでおろす。そんな酷い真実はあってほしくない。
折紙はもちろん、愛にとってもそれは最悪な結果になるから。
「おそらく、流れるはずだった胎児を精霊の力で生き残らせた。あの子はあなたの言う
「まあ、そうよね」
よく考えたら、あいつは絶対こいつの姉弟よ。ちょくちょく行動から血のつながりを感じるもの。
「しかし、思い切ったことするわね」
「別に大したことではない。依頼料はそこまで高くない。愛の髪の毛を気づかれないように採取するのも簡単だった」
「物理的なハードルのことじゃないわよ。もしかしたら、血のつながらない存在って言われたかもしれないのよ」
姉弟って証明されたからよかったものの。もしかしたら、全然関係ない精霊だって突き付けられてた。
それを知って愛を同じ目で見られるか。そんなことを考えなかったのかしら?
「大事なのは血縁ではない。これまでの時間と私が愛をどう思っているか。あの子が何者だろうと、私の弟であることに変わりはない」
「……なかなか言うじゃない」
折紙の言葉に迷いはない。結果がどちらだとしても、問題ないと思っていたのね。
「そう、士道も血縁はないけど立派な家族。血縁がなくても心のつながった家族になれる」
「それはなんか違くない⁉」
叫んだ私に折紙は『何言ってんだ、こいつ?』って目を向けてる。やっぱこいつ、頭のねじが何本か抜けてるわね。
愛と一緒で悪い奴じゃないんだけど。思考回路がおかしいっていうか、イカれてるっていうか。
「ともかく、愛に対する気持ちも接し方も変わらない。恨みがあるとしたら、愛とお母さんを弄んだ存在」
折紙の瞳が冷たく細められる。あの時と同じ目ね。
「許さない。必ず見つけ出す」
「だからって暴走するんじゃないわよ。あんたがいなくなって悲しむのは愛なんだから」
「……わかっている」
不満げに怒りを収める折紙。本当にわかってるのか怪しいけど、そこまで激しく暴走はしないでしょ。
一度派手にやらかしてる。反省しないような馬鹿ではない――そう信じたいわね。
「このこと、愛には?」
「まだ話していない。知ったら、あの子の負担になる」
「同意見ね。聞いたら、自分のせいでお母さんが亡くなったって思いかねない」
とにかく自分が悪いって思うやつだもの。これを聞いて、また心をすり減らすところが簡単に想像できる。
「この話は私たちだけの秘密よ」
「当然」
折紙は強くうなずく。ちゃんとお姉ちゃんしてるわね。
「しかし、確たる証拠は得られなかったのね。DNA鑑定もいい結果で終わっちゃったし」
いいことなんだけど、困ったことでもある。これだけ状況証拠があってもあと一歩足りない。
それに何かが起こったことは予想できても、何が起こったかはわからない。多分、崇宮澪が愛に
進んだけど、余計わからなくなったことも多いわね。
「十四年も前のこと。今更調査するのは難しい。それこそ、時をさかのぼって過去でも見ない限りは」
「……」
一人の女の顔が頭に浮かぶ。不気味に笑う、あの中二病女の顔が。
時間を操るあいつの力なら……。折紙もきっと同じことを考えている。
「それは最終手段よ。簡単に頼っていい相手じゃない」
前回はそれしか手段がなかったから交渉した。今回はそこまで追い詰められた状況じゃない。
あいつは危険な存在。簡単に頼っちゃいけない。
「可能性の一つとして考慮しておいて。おそらく、これ以上調べることは困難」
折紙もそれをわかっているから無理は言わない。でも、折紙がそこまで言うなら、きっとその言葉は正しい。
拳をゆっくりと握りしめる。キツイわね、この状況。
♦♦♦
この村雨令音という偽りの存在に与えられたプライベート空間。そこで私は細心の注意を払いながら、相手に連絡を取る。
万が一にも誰かに聞かれてはいけない。念入りに結界を張って、外からは私が本を読んでいるダミーが見えるようにした。
これで大丈夫だろう。
「やあ、久しぶりだね、私。どうしたんだい?」
”私”はすぐに応える。警戒など全くしていない。
連絡できる時点で私しかあり得ない。”私”は現在、存在を認識すらされていないのだから。
「久しぶりだね、”私”。少し、頼みがあるんだ」
「何だい?もう
不思議そうに聞く”私”。私から頼み事をするなんてこれまでなかったからね。
私も崇宮澪だ。大抵のことはなんでもできる。
しかし、これだけは私にできない。
「その
「どうしてだい?折紙は候補から外すんだろう。愛の地雷をこれ以上踏み抜くわけにはいかないから」
そう。折紙を精霊にするということは、最終的に折紙を殺すことに他ならない。
ただでさえ、七罪のことで困っているんだ。これ以上、悩みの種を増やすのは賢明ではない。
「……保険だよ。万が一、愛を止めなければならなくなったとき、折紙が非力では困る」
愛を止められるのは七罪と折紙だけだ。そのとき、引っ叩いてでも止める力がないと話にならない。
ねじ伏せるほどの力はなくていい。それほどの力など、用意できるはずもないのだから。
「なるほどね。しかし、その後はどう処理するつもりなんだい?」
当然その問題が出てくる。しかし、案はある。
私に話して聞かせる。精霊を殺さずに
「……なるほど。それが実現するなら、七罪は死なずに済むだろうね。折紙を精霊にしたとしても同じだ。賭けにはなるけれど……」
「賭けをするだけの価値はある。愛をこちら側に引き込めるなら、安いものだ」
愛は他と比較にならない、最大の障害だ。彼に比べたら、DEMもラタトスクも塵芥と変わらない。
「わかった。最後の
「ああ、頼んだよ、”私”」
「連絡は以上かな?そろそろ通信を切ろうと思っているんだけど」
”私”は連絡を切ろうとする。その前に確認をする。
「
私は愛が何者か知っている。しかし、何のために生み出されたかは検討もついていない。
「さっぱりだね。全く尻尾を出さない」
いつも通りの言葉が返される。期待はしていなかったけど、改めて聞かされると気分が下がる。
「何がしたいのだろうか?」
「わからないけど、”私”の利になることではないんじゃないかな?」
「……そうだね」
彼女が”私”のためになることをするとは思えない。
「それでも、なるべく穏便に済ませたいものだ」
「仕方ないよ。あの子は”私”の唯一の■なんだから」
その言葉にうなずく。彼は何者にも代えがたい、大切な存在だ。
一気に真実に近づくお話でした。ちょっとやりすぎかなって気もしますが、なんとかなるでしょ。
ちなみに日記の内容は『番外編:墓参りと母の日記』に記載しています。良かったら見返してみてください。
今回の裏話は七罪と折紙の関係について。
誕生日パーティーからさらに一か月以上経過して、かなり関係が良くなりました。普通にちょくちょく愛君に関する連絡を散り合っています。七罪は内心『ブラコンうざ~』と思いながら対応しています。