ヒロインは七罪   作:羽国

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偉大な師 前編

 そろそろ次の戦いが迫っている。七罪と二人で秘密の作戦会議の時間だ。

 今回、姉さんは誘っていない。僕が転生者ということは姉さんにも話していないから。

「折紙には話していいと思うんだけどね、あんたの秘密」

 七罪が腕肩をすくめて困った子を見るような顔をしている。やれやれって。

 七罪って精神年齢が乱高下するよね。普段は見た目相応なのに、ずいぶん達観してるな。

 

「……正直、迷ってるんだよね。話せる人なんて、七罪以外だと姉さんくらいなんだけど」

 情報を与えられるハードルはかなり高い。心から信頼できて、情報の危険性を理解できて、自分の身を守れる強さを持ってる人。

 条件を満たしているのは姉さんだけ。それ以外の人は何かが欠けている。

 

「未来がどう転ぶか見当もつかなくなってきたから。ここで姉さんに情報を渡して、変な化学反応が起きたら対処できそうにない」

 この世界はもう既に僕の知ってる『デート・ア・ライブ』とは離れすぎている。パラレルワールドと言ってもいいくらい別物だ。

 もう、何が起こるかわからない。僕の知っている未来にはつながりそうにない。

 

「ここからは慎重に動かないといけないんだ。七罪と姉さんの未来のために」

 前はなるべく原作に寄せるように意識してた。だから、姉さんの凶行も止めなかった。

 その結果があの様だ。姉さんはウェストコットに操られ、七罪もあと少しで死んでいた。

 全員、無事に生き残ったのは奇跡といっていい。アレの繰り返しだけは避けないといけない。

「あんたもよ。私も折紙もあんたなしで幸せになれると思わないで」

 七罪は僕の言葉に待ったをかける。うっかり出た本音が気に入らなかったみたいだ。

 気を付けないと。七罪に心配かけないために。

 

「……まあ、好きにしたらいいわ。元々、あんたの持ってた情報だし。私があれこれ言うことでもないでしょ」

 七罪は適度な距離感保ってくれるからいいんだよね。ダメだと思ったら突っ込んでくるけど、放置してもいいと思ったら引いてくれる。

 空気の読める七罪だからこそなせる業だ。本当に頼れる相棒で最高の彼女だ。

 

「とりあえず、しばらくは保留で。覚悟が決まったら話すよ」

「……あんたの懸念は要らない心配だと思うわよ。折紙は相当なブラコンだから。いまさら転生者って言っても治らないわね」

 七罪がニヤニヤとこっちを見てる。……そこまで見透かされてるのか。

 さっきのも嘘じゃないけど、一番怖いのは姉さんの目が変わること。大事な人だけでいいから、ただの人間として受け入れてほしい。

 身も心も人間からは程遠い、化け物の贅沢だ。

 

「さあ、真面目な話をするよ。今度出てくる精霊は八舞姉妹。原作だと、姉さんたちの修学旅行先、或美島で接触する」

 パンパンと手をたたいて気分を変える。精霊を相手にするならおふざけをしてられない。

「ああ、あの迷惑姉妹ね。二人で喧嘩してるんだかイチャついてるんだか知らないけど、周りに被害ばっかり出して」

 七罪がうんざりした顔をする。あの二人には結構手を焼かされたからな。

 風の精霊たるあの双子は喧嘩するだけで嵐を発生させる。余波だけで大災害を起こす。

 

「まあ、封印さえできたらマシになるから」

 あの二人は一人の精霊が分かれた存在だ。このままだといずれ元の『八舞』に戻る。

 そのときにどちらが残るかを賭けて争っている。その原因が取り除かれたら、戦う理由はない。

「……本当かしら?」

 七罪は目を細めて訝しむ。面倒な目に遭ったからって、言い過ぎだよ。

 まあ、あいつら普通に勝負が好きなんだけどね。三度の飯より勝負とか言っちゃう奴らだし。

 

「そっちはそこまで問題じゃない。士道さんに頑張ってもらうだけ。問題はDEMの方だよ」

 さらっと女難は士道に押し付ける。僕は七罪以外を攻略するつもりはない。

「あんたの知ってる物語ではDEMが襲って来た。今回もそうなんでしょ?」

 七罪の言う通り、原作ではエレンとバンダースナッチ、戦艦一隻が待ち構えていた。

 プリンセスに似た少女がいるだけでこれだ。精霊がいると確定している今回どうなのかというと……。

「DEMは多分仕掛けてくる。DEMの全戦力とは思えないけど、その数割は出てくると思った方がいい」

「全力で仕掛けてこないっていう根拠は?ウェストコットって精霊を反転させるためなら何でもするんでしょ?」

 七罪は真剣に問い返す。僕が物事を楽観的に見るなら、それ相応の理由があると知っているから。

 

「最終目的を果たせなくなるからだよ。今、ラタトスクにいる精霊は僕と七罪を入れたとしても五人。この世界に存在する全ての霊力を集めるには程遠い」

 ウェストコットの最終目的は始原の精霊と同等の力を持ち、世界を上書きすること。そのために何でもするけど、逆に言えば奴の行動指針は全てそこに帰結する。

「今、全力を出したら、DEMの力が世間にばれてちゃんと機能しなくなる。ウェストコットはイカれてるけど、馬鹿じゃない。目的を果たすまでは、DEMという箱を残しておくはずだ」

 DEMは国家や軍隊を矢面に立たせて影の政府(フィクサー)に徹している。それがDEMという組織の強みなのだ。

 

「なるほどね。だから、DEMは全力を出さないと。――でも、DEMの全戦力の数割ってとんでもないわよ。それこそ、狂三との戦争がかわいく見えるくらいの」

 七罪が目を細める。数えるのも馬鹿らしくなるくらいDEMと戦ってきた僕たちは、DEMの戦力を知っている。

 空を覆いつくし、太陽の光さえ遮った狂三の軍勢。DEMが相手なら、あれ以上の戦いを強いられる。

 相手にしてたら魔力がいくらあっても足りない。おまけに、エレン・メイザースという正真正銘の化け物もいるのだから。

 

「だからこそ、今回は慎重にならないといけない。勝てる見込みがあるとしたら、ラタトスクが本気でDEMに応戦することだけだ」

 DEMの戦力はラタトスクの十倍近くある。向こうの数割に対して、こっちは全力を注がないと応戦できない。

「まずはラタトスクの出方を見る。本気で戦う気があるなら乗ってもいい。そうじゃなかったら……」

 ラタトスクに義理はあるけど、七罪たちの身を犠牲にしてまで尽くす気はない。頭が回らないなら関係を切ってでも逃げる。

 

「その言葉が聞けて安心したわ。ウッドマン議長から離れられないかもって考えてたから」

「……師匠(せんせい)に砂をかけるのは心苦しいけど、優先順位を間違える気はないよ」

 お世話になったのは間違いない。三番目は誰かって言われたら、あの人になる。

 その上で、いざとなったら七罪と姉さんを連れて逃げる。それくらいの覚悟はできてる。

 

♦♦♦

 

 フラクシナスは慌ただしくしている。これから組織のトップを出迎えるのだから当たり前だ。

「なんだかんだで半年くらい経つのね」

 アメリカを発ったのが四月。既に九月になっている。

「最後の方はいろいろあってあんまり会えなかったし、ゆっくり話したいな」

 七罪と二人で思い出を語る。懐かしき日々だ。

 

「いや、あんたらなんでそんなにリラックスしてるのよ?これから出迎えるのはあのウッドマン卿よ?」

 話しかけてる琴里以外はみんな緊張の面持ちになってる。普段は修学旅行のバスみたいなノリで仕事してるのに。

「今更緊張することある?ウッドマン議長とカレンでしょ?」

「なんなら優しくて親しみやすいよね」

 七罪に続いて僕も意見を述べる。

 ラタトスクの外での付き合いもたくさんあった。最早、家族みたいな相手だ。

 

「本当、あんたら大物よね。自覚が全くないみたいだけど」

 琴里は呆れた(いつもの)顔で僕たちを見てる。

「そうかな?」

「週一以上顔を突き合わせてたら勝手にそうなるでしょ」

 七罪と二人で顔を突き合わせてうなずき合う。琴里はそれでお手上げ状態になってた。

 

「はっはっは、そうだな。いまさら君たちが私相手に気負うことなどあるまい」

 突然笑い声が聞こえてきた。自動扉を開けて、車椅子に押された男性が入ってくる。

 色素が少し抜けた金髪。穏やかな笑顔。

 三十年前、ラタトスクという組織を起ち上げた張本人。エリオット・ボールドウィン・ウッドマン卿。

 顕現装置(リアライザ)の生みの親の一人にして、僕の師匠(せんせい)だ。

 

師匠(せんせい)!もういらしてたんですか?」

「ああ、つい今しがたね。元気そうで何よりだよ、愛」

師匠(せんせい)もお変わりないようで」

 駆け寄ると、師匠(せんせい)は優しく応えてくれる。

 

「ウッドマン卿、どうやって艦の中に?それに、言ってくださったら迎えに行きましたのに」

 琴里が僕の後ろから慌てて駆け寄る。

 ここは空中艦《フラクシナス》。転送を使用しないと中に入れない。

 それなのにいきなり艦橋に現れたから驚いたのだろう。

 

「《MARIA》に頼んで入れてもらったんだよ」

 なるほど、《MARIA》か。《フラクシナス》の全てを取り仕切るあいつなら、琴里に気づかれずに招き入れることが可能だな。

「どうしてそのようなことを?」

「君たちが愛と上手くやれているか、実際のところを知りたかったからね。アメリカ(向こう)ではあまりよくない雰囲気になってしまった。だから、五河指令とは仲良くやっているようでうれしく思うよ」

 やっぱり心配かけたみたいだな。日本(こっち)でも上手くやってるとは言い難いけど、アメリカ(向こう)は一触即発レベルまでいったから。

 

「七罪、あなたも変わりましたね。常に警戒心をむき出しにしていたあの頃が本当に懐かしい」

 師匠(せんせい)の後ろから声をかける二十代中盤くらいの見た目の女性。カレン・N(ノーラ)・メイザースさんだ。

「ふん、別に警戒してないわけじゃないわよ」

 七罪は腕を組んでそっぽ向いた。でも、微妙に言葉に棘がない。

 七罪もラタトスクを全面的に受け入れてないわけじゃないんだよね。特にいろいろしてもらったカレンさんには。

 

「私のプレゼントも有効活用していただけたようで、喜ばしい限りです」

 カレンさんが満足そうに頷いてる。そういえばこの前使った衣装、用意したのカレンさんだったな。

「大変詳細なレポートも頂きましたし、お店の人も喜んでいましたよ」

「私そんなの書いた覚えないんだけど⁉」

 あ、余計なことを言われた。今のうちにこっそり逃げておこうか?

 

「愛に連絡したら自発的に送ってくれましたよ?」

「な~にやってんのよ、あ~い~!」

 逃げようとしていたところ、七罪らしからぬ速度で追いつかれた。そして首根っこ掴まれて部屋の中央に戻される。

 そのまま贋造魔女(ハニエル)で出した縄を使って僕を縛り上げる。ミノムシ状態で転がされた。

 

「ふん」

 その上に七罪が座りこむ。制裁を加えるために。

「いつもいつも余計なことばっかりして。少しは反省しなさい」

 七罪は僕のこめかみを肘でぐりぐりしてる。体格差があっても、全体重かけてそれをされるとかなり痛い。

「あいだだだだ。七罪、それ本当に痛いやつ」

「痛くしてんのよ」

 僕の悲鳴を聞いても緩める気が一切ない。結構、怒っているようだ。

 

「仲がよさそうでなによりだよ」

「そうですね。羨ましい」

 二人は微笑ましそうな顔で僕たちを見ている。本当におおらかな人たちだよ。

 

♦♦♦

 

「さて、向こうでしなければならない仕事はひとまず終わらせた。しばらくは私自身が戦線に加わろうじゃないか」

 師匠(せんせい)らしく、穏やかながら力強く宣言する。修羅場を潜り抜けてきた人の言葉は重みが違う。

師匠(せんせい)、それは報告書の件を承諾していただけた、という認識でよろしいでしょうか?」

 一歩前に出て師匠(せんせい)に問いかける。師匠(せんせい)は僕の顔を見て深くうなずく。

「士道君の修学旅行先でDEMが仕掛来る可能性が高い話だね。私も同意見だ。

 アイクは……ウェストコットは、それくらいのことをするだろう。君の調査結果から考えても、まず間違いない」

 

「それはよかった。わざわざ沖縄に飛んで調査してきた甲斐がありました」

 士道さんの修学旅行先が沖縄から或美島に変わった時点で調査に出向いた。急に本来泊まるはずだった宿泊施設が崩落して、DEMの子会社が来禅高校に接触してきた。

 あまりにあからさま過ぎる。原作を知らなくても疑うくらいだ。

 実際に見てみると、宿泊施設は人為的に壊された痕跡があった。顕現装置(リアライザ)を使っただろう痕跡が。

 

「いや、本当に急だったわね。明日沖縄に行くって聞いたときは『何言ってんだこいつ?』って思ったわよ」

 一緒に弾丸調査をしてきた七罪が文句を言ってる。半分、思い付きで調査に乗り出したからな。

「別に一人でもよかったのに」

「あんたを一人にできるわけないでしょ。あんたは核兵器より危険な存在なんだから」

 ずいぶんな言われようだ。どういうわけかわかんないけど精霊らしいし、仕方ないか。

 

「DEMが罠を仕掛けているなら、士道君たちには修学旅行を欠席してもらうことも考えた。

 しかし、都市部から離れた島というのは我々にとっても都合がいい。周囲の被害を気にせずに戦うことができるのだから。

 罠ごとウェストコットの野望を打ち砕いてやろうではないか。ラタトスクの全力をもって」

 師匠(せんせい)は一瞬目を閉じて見開く。強い覚悟が宿っている。

「招集をかける。私が集められるだけの戦力を或美島に集結させる。

 総員、準備をしたまえ!これはラタトスクの威信をかけた戦いとなる!」

 

 一瞬の静寂が場を支配する。しかし、すぐに雰囲気がガラッと変わる。

『了解しました、ウッドマン卿!』

 集まっているクルーの声が揃う。全員やる気に満ちている。

「ええ、前回は司令官にあるまじき失態を見せたけど、今回こそ汚名をそそぐわよ」

「司令の美しき世界樹にもう二度と、不届きな者を近づけさせたりしません」

「……ああ、そうだね。ウェストコットへお礼をしてやろうではないか」

「ええ、今度こそ無様な姿は見せません。目にもの見せてやります」

 各々が覚悟を述べている。前回の戦いが相当悔しかったんだな。

 元々優秀な人たちだ。今度こそ、活躍してくれるだろう。

 

「これで、君の期待には応えられたかな?」

 師匠(せんせい)がこちらを見て少し悪戯っぽく笑う。試しているのを見透かされていたかな?

「完璧です。あなたがラタトスクのトップでよかったと、心から思っています」

 師匠(せんせい)は僕の期待に十二分に応えてくれた。今度は僕たちが期待に応える番だ。




さあさあ、闘いの予兆がしますね。

今回の裏話はアメリカでのアレコレについて。
愛君と七罪はいろいろあった結果、円卓会議のメンバーとものすごく仲が悪くなりました。その結果、愛君の側からウッドマンと距離を取りました。ウッドマン”議長”と役職で呼んでいたのはそれが理由です。ちなみに七罪も引っ張られてます。
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