ヒロインは七罪   作:羽国

76 / 147
ええ、すみません。原作の修学旅行は夏休み前だったみたいです。勝手に夏休み明けと勘違いしてました。

修正不可能な段階まで来てるので、もうDEMの介入でそうなった世界線ということにしておきます。


いざ、或美島

 フラクシナスの医務室。そこで僕は久しぶりの全身チェックを受けていた。

 先ほど僕は衛星(サテライト)との完全シンクロを行って暴走しかけた。念のため、異常がないか確認しないといけないとの判断だ。

 精霊化したとき以来。あのときに比べたら検査項目はかなり少ないかな。

 これからその結果がわかる。七罪と一緒に令音さんの答えを待っていた。

 

「ふむ……君の身体に異常は見られない。霊力の兆候は全くなかった。前回の精霊化とは切り離して考えるべき問題だろう」

 令音さんが検査の値と僕を交互に見ながら診断を下す。

「それはいいことなんでしょうか?」

「何とも言えないね。問題が複雑化しなかったことを喜ぶべきか。それとも全く別の問題ができてしまったことを悩むべきか」

 また精霊の力が出てきたのかと心配していた。それは否定されたけど、素直に喜べなさそうだ。

 

「あれは衛星(サテライト)の問題でしょうね。元々、コンセプトの時点でリスクがあることはわかっていましたから。むしろ、今までよく問題を起こさなかったというべきです」

 一緒に座っていたカレンさんが意見を差し込む。顕現装置(リアライザ)の専門家としての立場からだ。

「カレン、あんたそんな危険なものをこいつに使わせてたの?」

 七罪がカレンさんをにらみながら文句を言う。確かに、あんな危険な状況になったら文句が言いたくなるかもしれない。

「ほとんど愛の要望通りですよ。私はむしろ愛の身体に配慮するよう努めました」

「愛、あんたね……」

 七罪からの視線が突き刺さる。居心地が悪くして視線を逸らす。

 あれはアメリカにいたときカレンさんと話してたものを落とし込んだものだ。旧型よりも僕の理想に近づいてる。

 

「とはいえ、あれは完全に想定外でした。個人的な所感ですが、魔力量も制御能力も想定より遥かに上。

 何が起こったか確認しないといけません。説明できますか、愛?」

 カレンさんがこっちに真剣な目を向ける。僕はあのときの記憶を引きずり出した。

 現実感があまりなくて、記憶があやふやだ。それでもある程度は覚えている。

 

「あのときはAIとのシンクロ率を上げて、顕現装置(リアライザ)を上手く使えるようにすることだけ考えました。なるべく自然に滑らかに使えるよう。

 そしたら、いつの間にか記憶が飛んでました。まるで自分が自分じゃなくなったかのような……」

 いつもと違って感覚的な話しか出てこない。あれを言葉に落とし込むのが不可能だとすら思える。

「……ある種のトランス状態にあった可能性が高いですね。他を全て置き去りにする高い集中力と、普段の愛は持たない大き過ぎる力。それがあのような暴走状態を引き起こしたのかもしれません」

 カレンさんが見解を述べる。そういわれたら納得できるかもしれない。

 いわゆる無我の境地って言われるもの。それが一番納得できる。

 

「強大な力でした。出力を上げた防性随意領域(プロテクト・テリトリー)を簡単に貫通するくらい」

 あのとき、軽い気持ちで放ったレーザー。それは師匠(せんせい)の攻撃を防ぐ前提で展開されていた防性随意領域(プロテクト・テリトリー)を貫いた。

 普段の僕なら全力で破壊しようとしてもできないだろう。それを紙でも破るようにあっさり。

「その力がどれだけ危険かわからないほど、君は愚かでないだろう?」

「…………」

 令音さんの言葉に反論できない。制御できない上に、どのようなリスクがあるかわからないのだから。

 

「推奨は一切できません。しかし、どうしてもというなら接続数を減らして少しずつ慣らしていくこと。いきなり十二機と接続したら、また同じことが起こりますよ」

 カレンさんがすごく不本意そうなアドバイスをくれる。僕の性格を考慮してのものだろう。

「止めないんですね」

「それが無駄なことはよく知っています。ストッパーはあなたが話を聞く相手に任せます」

 そう言って視線を別方向に向けるカレンさん。その視線の先には、大変不機嫌そうな七罪がいる。

 

「ええ、知ってるわよ。どうせ、今回も面倒な役回りは私がやることになるんでしょ」

 腕を組んで鼻息をふんすと出している。大変ご立腹なようだ。

「ええと、その、ごめんね」

 『そんなことないよ』と言えない。僕は謝るしかなかった。

 いつも押し付けてごめんね、七罪。

 

「いいわよ、別に。ただでやるつもりなんてないから」

 七罪は最近見せてなかった悪戯っ子の顔を見せる。こういうときは僕がひどい目に合うって知ってる。

「ええと、何を……」

「やられっぱなしってのは性に合わないのよ。たっぷり遊んであげるわ、()()()()

 大変いい笑顔の七罪。ご愛嬌と言わんばかりに目は笑ってない。

 その夜、()()七罪のものを参考にしたネグリジェを着せられた。不本意ながら、かわいいと思いました。

 後、七罪も結構器用だった。ハイ。

 

♦♦♦

 

 急に行き先が変わった修学旅行。みんな最初こそ不満を垂れてたけど、飛行機に乗ってみれば結構楽しんでる。

 俺の隣に座る二人もそうだ。それぞれの希望を胸に抱え、俺に迫っている。

「シドー、或美島ではお土産とやらが買えるそうだ。食べてみたいぞ」

 きらきらと目を輝かせながら、ついでに頬を伝うよだれも輝いている。食いしん坊な十香らしい。

「そうだな。観光地らしいし、いっぱい買おうか」

「うむ」

 お土産はその場で食べるものではない気もするけど。まあ、十香がいいならそれでいいだろう。

 

「士道、或美島での()()()()はリサーチ済み。周りから見えづらく、押し倒してもケガをしない、若さを発散するためのスポット」

 折紙が大量の書き込みを加えた地図を指さしている。洞窟の中やホテルの裏など、怪しいスポットが並んでいる。

「いや、どんなスポットだよ⁉嫌な予感がするんだけど⁉」

 折紙の言い方にも妙な含みがある。そして、折紙の大きめのカバンを見ていると、なぜか悪寒が止まらない。

「白昼堂々、大勢の人がいる前では言えない」

「人前で言えないようなことするつもりかよ!」

 

 この二人と離れてはいけない修学旅行。今から先が思いやられる。

 

♦♦♦

 

 修学旅行前に我が家の食卓に集まって会議が開かれた。よく知ってる顔を集めての精霊の対策会議(?)らしい。

「士道。修学旅行中は十香と折紙から可能な限り離れないこと。それを絶対に守りなさい」

 偉そうに進行役を務める琴里。ミルクたっぷりのコーヒーを飲んで放った一言がこれだ。

「えっと、二人の機嫌を損ねるなって意味か?」

 十香はいないけど、折紙はソファに座っている。本人の堂々と聞くのもどうかと思って、こっそり琴里に耳打ちした。

 

「そうじゃないわ。今回の旅行、DEMが仕掛けてくるかもしれないからよ」

 琴里はそれを聞いて強く否定する。その言葉を聞いて信じられなかった。

「DEMってあれか?この前、愛と七罪を襲ったっていう……」

「ええ、そのDEMよ。愛が怪しい動きを掴んだの」

 琴里の言葉と同時に愛が紙束を取り出す。本人にアイコンタクトで確認をして、内容を読んでみる。

 いろいろと専門用語が並んでいてわからない部分も多かった。ただ、DEMが俺たちの修学旅行にちょっかいかけてるって結論だけはわかる。

 

「だったら、修学旅行を欠席して……」

「DEMは今後、ありとあらゆるタイミングで十香さんと姉さんを狙いますよ。既にDEMから標的にされていて、学生という身分がありますから」

 俺の言葉を遮ったのは愛だった。いつも通り、冷めた目で持論を話す。

「修学旅行がダメなら天央祭。それがダメなら普段の登校まで仕掛けてくるかもしれません。

 DEM相手に逃げるなら、社会から切り離される覚悟が必要ですよ。できますか?」

 愛は鋭くにらむ。それを実行したやつが言うと迫力もひとしおだ。

 愛は一時期アメリカにいたらしいし、今も学校に通ってない。相当な覚悟だ。

「俺には厳しいな。学校に通わないと将来のことが不安だし」

 なりたいことは決めてないけど、大学には行きたいと思ってる。高校中退でどうにかするのは厳しい。

 

「問題ない。士道を養うための蓄えはある」

 何でもないことのように言ってのける折紙。

「士道レベルの家事能力があるなら、稼げる女のヒモで食っていけるんじゃない?」

 完全に他人事扱いでどうでもよさそうな七罪。

「……ふむ。シンの頼みなら、お金の融通くらいは構わないよ」

 大人の余裕を見せる令音さん。

「将来の心配なさそうね、士道。学校辞めて誰かに永久就職するのかしら?」

 サディスティックに笑う琴里。

 

「そんなことしねーよ!なんでみんなして高校辞めること推奨してんだよ!」

 あんまりな言い分に叫んでしまった。なんでみんなして俺にニートの烙印を押そうとしてるなんて。

「まあ、それは失敗したときの手段にしましょう。」

「お前もか、愛」

 ほぼ全員に裏切られた俺は項垂れるしかなかった。

 

「そういうわけなので、十香さんと姉さんにはDEMの囮として動いてもらいます。狙われそうな士道さんもついでに」

「俺はついでかよ……」

「まあ、運がいいのか悪いのか、まだ士道さんはDEMに捕捉されてませんから。……どうせ近いうちにバレるでしょうけど」

 愛は言い方に含みを持たせてた。また何か知ってて隠してるのか?

 気にしても仕方ないか。どうせ、愛がその気になるまで離させることなんでできないし。

 

「今回でDEMを返り討ちにして、狙われることがないようにする。いいわね、士道?」

 琴里にいつもの勢いでごり押しされる。確認の形を取ってるけど、俺に選択権はないのだろう。

「わかったよ。十香と折紙の近くにいればいいんだな。それくらいなら」

 二人と一緒なんていつもの学校生活と変わらない。それが旅行先になっただけだ。

「大丈夫。入浴中も就寝中も、士道のことを守ってみせる」

 折紙は重要な任務を引き受けたって顔をしてる。

 ただ、毎回のことながら余計な言葉がついている。……大丈夫だろうか?

 

♦♦♦

 

「風が強いな」

 飛行機から降り立った直後から風が吹き続けている。扇風機の前にでも立っているようだ。

 折角の修学旅行だから、雨なんて降らないでほしいんだが。島の天気は変わりやすいって言うしな。

 

「ぬ?」

 そんなことを考えていたら、十香がキョロキョロと当たりを見まわしている。何かを探すように。

「どうした、十香?」

「いやな、誰かが見ているような気がして」

 そう言いながら、まだ何かを探し続けている。俺は何も感じないけど。

 

「夜刀神十香、それは本当?」

 話していると折紙が入ってきた。近くにいたし、聞いていたみたいだな。

「……ああ、そうだぞ。飛行機から降りた瞬間から、クラスメィトとではない誰かの視線を感じるのだ」

 十香は一瞬不機嫌そうな顔をしながらも、折紙の質問に答える。前よりは仲良くできてる……かな?

「一考の余地がある」

 折紙の言葉に少し驚いた。前は十香の言葉ってだけで何でも否定してたのに。

 

「夜刀神十香は妙な勘の良さを発揮する場面が多い。封印状態でも何かしらの感知能力を持っている可能性がある。

 それに、今はDEMに狙われている状況。警戒し過ぎるくらいが丁度いい」

 折紙は続けて話した。再度、驚かされた。

「案外、十香のこと見てるんだな」

「精霊は常に警戒すべき存在。観察、分析は当然のこと」

「……そうか」

 俺には折紙が口で言うほど無感情に見ていると思えない。折紙自身、どう思っているのかはわからないけど。

 

「とにかく、少しこの場で捜索行う。クラスのみんなとは村雨先生と連絡を取って後で合流する」

「わかったぞ」

 二人は張り切って辺りを探し始めた。俺も探すか。

 

 探し始めて十分くらい。もう流石にあきらめようとしたところで異変は起こった。

「なんだよ、あれ」

 雲が目に見える速度で動いている。早送りでも見ているみたいだ。

 

 周囲は巨大台風の渦中みたいになっている。

 背の高い木々は引っこ抜けかかっているし、周囲のものはお風呂のゴミみたいにかき混ぜられている。大災害待ったなしだ。

 その原因はおそらく二つの影。風をまとってベイゴマのように何度も激突している。

 

「士道、下がって」

 折紙が俺の目の前に立ってバリアを貼る。随意領域(テリトリー)って言うんだっけ?

「ああ、ありがとな」

「……恩に着てやるぞ」

 俺と十香はその中に入れられた。これなら何とかこの風の中でも立っていられそうだ。

 

「空間震警報なんて鳴ってないよな」

 アレの正体は多分精霊か魔術師(ウィザード)だ。でも、どっちにしろ空間震警報で人が避難した後に現れるはずだ。

 それがこんなに堂々と現れるなんて。何が起こっているんだ?

 それにあの影、どんどんこっちに近づいてないか?

 

「どういう理由かはわからない。だけど、野放しにはできない。緊急着装――《ブリュンヒルデ》」

 折紙が宣言すると、身体が光に包まれた。随意領域(テリトリー)の力で戦いのための装いに転換される。

 天使の翼のようなスラスター。戦乙女のイメージそのままのスラっとした甲冑。悪を裁く光の槍。

 折紙がラタトスクから渡された兵装だ。精霊にも負けない存在感を放っている。

 

「待っていて」

「あ、ちょっと。折紙!」

 折紙が影に向かって飛び出そうとした。そのときだった。

 

 折紙の前に白い球が躍り出た。それを目にして折紙も制止する。

 夏の間トラウマになるほど見せつけられた、あいつの専用装備。

「はい、ストップ」

 予想通りに愛が現れた。折紙と同じように兵装を身にまとっている。

「どうして止めるの?」

 折紙は不満そうにしている。精霊に向かっていくのを止められたのが不服なんだと思う。

「今回は話が通じる相手だからだよ。ちょっと見てて」

 

 愛に促されるまま影の方に顔を向ける。丁度、ひと際強い風をまとってぶつかり合おうとしている瞬間だった。

 このままでは強い衝撃が来る。そう思って身構えていると。

氷結傀儡(ザドキエル)

 二つの影の丁度真ん中を氷塊が通り抜ける。流石に無視できなかったようで影たちはぶつかる前に止まった。

 風が止むとその影の正体が見えてきた。それは二人の美少女だった。

 二人とも橙色の長い髪を結いあげ、よく似た顔つきをしている。全身を拘束するベルトのような装いもほぼ同じだ。

 しかし、二人が並んでも間違えることはない。似ているけど、違うところが明確に違うから。

 

 片方は勝ち気で活発な雰囲気がある。釣り目で、その立ち姿も自信ありげだ。

 もう片方は垂れ目で、少し落ち着いた雰囲気だ。三つ編みしている髪もそれに拍車をかけているのだろう。

 身体の一部分にも大きな差がある。少し見て目をそらしたけど、垂れ目の子が結構大きいな。

 

「何者だ?我と夕弦の神聖な決闘に水を差すとは。その罪、万死に値するぞ」

 釣り目の子が大きく右手を振るいながら宣言する。まるで、漫画のキャラみたいに。

 なんだろう。見ているとムズムズする。昔の自分を見せられているような気分だ。

 

「同意。耶倶矢との決闘を邪魔をする輩には、お仕置きが必要です」

 垂れ目の子は独特な喋り方をしている。マイペースそうだな。

 どことなく折紙と似ているような気がする。掴みどころがなさそうな感じとか。

 

 二人の精霊に敵意を向けられる相手。それは俺たちもよく知るあの子だ。

「また、喧嘩で周囲に迷惑かけてるんじゃないわよ、耶倶矢、夕弦」

 七罪は大人の姿に変身して堂々と現れた。氷結傀儡(ザドキエル)を箒状の贋造魔女(ハニエル)に戻しながらクルクルとまわしている。

 あんな台風みたいな争いをする二人。敵意を向けられた状態で、その前に現れて大丈夫かと心配した。

 しかし、その懸念は次の瞬間に無用な心配だとわかった。

「あ、七罪だし~」

「驚嘆。こんなところで会えるとは」

 二人は怒りなど消し去り、嬉しそうに七罪の元へ駆け寄る。旧知の仲のように。

 

「知り合い、なのか?」

「ええ、まあ」

 無意識に出た言葉に愛が返答をくれた。そして謎の言葉が追加される。

「あの二人は七罪から教えを受けていましたから」

 その言葉の意味がわからず、俺は首をひねった。




ついに八舞姉妹の登場です。事前にちょこちょこ言ってますけど、愛くん&七罪はアメリカ時代に絡んでいます。原作とどんな違いが出るんでしょうか?

今回の裏話は士道たち修学旅行組以外の行動について。
フラクシナス含む空中艦が不可視化を使って島の近くに待機しています。愛くん&七罪が別動隊として索敵と士道たちのサポート担当。真那&四糸乃がフラクシナスの守備担当です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。