ヒロインは七罪   作:羽国

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サクサク行きましょう。ゆっくりしてたら夏休み編みたいに長くなりますから。


嵐の予感

 新たに現れた二人の精霊。橙色の髪と被虐趣味でもあるかのようなベルトの衣装で揃えた双子(?)だ。

「質問。先ほどの天使は何ですか?」

「あ、私もそれ気になる」

「あれは氷結傀儡(ザドキエル)よ。あなたたちと別れた後で使えるようになったの」

 そして仲睦まじく話す大人の姿の七罪。

 確かに、愛の『七罪の教えを受けた』という言葉通り慕われている感じがする。でも、いまいち状況が呑み込めない。

「あの二人とは、いったいどういう関係なんだ?」

「う~ん、改めて聞かれると返答に困りますね。友達であることは間違いないですけど……」

 妙に歯切れが悪い。何かいいにくいことでもあるのか?

 

「懇願。七罪、見ていてください」

「くく……鍛錬を積んだ我らの絶技、しかとその目に焼き付けるがよいぞ」

 突然、二人が踊るように空中へ浮かび上がった。二人で向き合って両手を突き出している。

 何かするつもりなのだろうか?

「ちょっと、あんたたち待ちなさい!」

 七罪が必死に止めにかかる。しかし、二人は言うことを聞く気配が全くない。

「あ、ヤバイ」

 愛がぽつりとつぶやいた一言。それが次の状況を端的に表していた。

 

 突如、島中に身の危険を知らせるサイレンの音が鳴り響く。俺たちにとっては身近になりつつある空間震警報の音だ。

 世間一般で地震や津波と同じ天災として知られている空間震。その正体は精霊の現界の余波だ。

「なんだ?また新たに精霊が出てくるって言うのか?」

「違いますね。あの二人が自発的に空間震を起こそうとしているんです」

「は⁉」

 愛の説明で余計頭が混乱した。

 空間震は精霊が無意識で起こしてしまう災害じゃなかったのか?それを自発的に起こすことができるのか?

 いや、それ以前にどうしてそんなことを?やる意味がないだろ。

 

「もう時間がありません!衝撃に備えてください!」

 愛の指示でそれぞれが身を守る。折紙や愛は随意領域(テリトリー)を展開して、十香や七罪は霊力の結界で身を守る。

 俺は折紙と十香の二人に守られている。天使は使えるようになったけど、こういう器用なことはできないんだよな。

 そんなんことを考えている間に大気を震わせる波は解き放たれた。轟音から予想される破壊は――起こらなかった。

 

「無事……なのか?」

「わからない。ただ、確認できる範囲で被害はない」

 折紙の言葉通り、何も破壊された様子はない。そもそも、震源の一番近くにいた俺たちにも被害がないしな。

 

「自慢。どうですか七罪?」

「我らの力を見て、声も出ぬか?」

 二人はふわりと軽やかに地面へ着地する。よくわからないけれど、二人は得意げな顔をしている。

 

 そんな二人に対して七罪は。

「こんの迷惑姉妹が!何やってんのよ!」

「あだっ!」

「衝撃。痛いです」

 贋造魔女(ハニエル)鏖殺公(サンダルフォン)に変身させて二人を思いっきり殴った。刃は立てていないけど、かなり痛そうだ。

「成功したからよかったようなものを。失敗したらどうなったと思ってんのよ」

 保護者のように二人を りつける七罪。なんか見慣れた光景だな。

 七罪も誰かさんのせいで板についてしまったようだ。人を叱るのが。

 仲良く語り合えそうな気がするな。主に日々の苦労について。

 

「二人は一体何をしたのだ?」

 十香がみんな疑問に思っていたことを聞いてくれた。俺も知りたい。

 目の前で何が起こったのか全然わからなかったから。

「空間震を打ち消す方法が一つだけあります。二人が今やってみせたのはそれです」

 二人のお説教で忙しい七罪に代わって愛が説明する。その内容は意外なものだった。

「そんな方法があるのか⁉だったらなんで今まで黙ってたんだよ⁉」

 俺たちは空間震をなくすために精霊を封印している。今愛が言ったのはそれを根底から覆すようなこと。

 そんな方法があるなら、俺がプレイボーイみたいな真似をしなくて済む。

 

「士道さんが期待するようなものじゃないですよ。空間震に全く同規模の空間震をぶつけて相殺するって方法です」

「えっと?」

 愛は説明してくれたけど、いまいち問題点がわからない。十香と一緒に頭を悩ませる。

「逆位相による振動の打ち消しということ?」

「そうそう。イヤホンのノイズキャンセルとかと同じやつ」

「なるほど。あの二人が完全に同じ規模の空間震を発生させて、実際の振動波はゼロにしたと」

「完璧だよ。流石姉さん」

 鳶一姉弟は二人だけで理解して盛り上がっている。インテリの話にはついて行けない。

 十香なんて頭の周りにいくつも?を浮かべている。俺もわからないから、子犬みたいな目で見ないでくれ。

 

「確かに空間震の対策としては非現実的。空間震が起こる現場を予測して精霊を配備しないといけない」

「ああ、そういうことか」

 折紙の言葉で納得した。

 確かに、空間震は精霊しか引き起こせないもんな。未来を知っていない限りそんなの無理だ。

「ついでを言うと、空間震のコントロールって簡単ではないみたいですよ。コントロールミスしたら、被害が倍になりますからね」

 想像して身震いする。ただでさえ街一つ消し飛ばす規模なのに、倍になるって。

 

「でも、なんであんなこといきなりやったんだ?」

 原理の説明はわかったけど、動機がわからない。結局無意味なことってのは変わらないはずだ。

「あの二人は訳あって競い続けているんです。それで昔勝負のネタとして『どっちが早く空間震を打ち消せるようになるか』という勝負を提案しました」

「ああ、うん、なんというか……愛らしいな」

 サラッと言ってるけど、相変わらずとんでもない。どうして毎回毎回そんなこと思いつくんだ?

「そのときにやり方を教えたのが七罪です。今回、上手くできるようになったのを見てもらいたかったんでしょうね」

 愛は微笑ましそうに二人を見つめる。だが、嫌なことに気づいてしまった気がする。

 

「……ちょっと待て。そんな理由で島一つ消し飛ばしかけてたのか?」

 空間震警報から実際に起こるまでほとんど時間がなかった。失敗してたら、大変なことになってだろう。

 死傷者が出てもおかしくない。近くにいた俺たちのクラスメイトも含めて。

「ええ、そうですよ。頑張って攻略しないと、二人の遊び半分で島が消し飛んじゃいますね」

 愛が楽しそうな笑顔をしているときは碌なことがない。今回も例外ではなさそうだ。

 

♦♦♦

 

「久しぶり!耶倶矢、夕弦!」

 手を大きく振って二人に駆け寄る。当然僕も二人のことはよく知っている。

「あ、愛もいるんだ~」

「想定。七罪がいるなら、愛もいると思っていました。予想通りです」

 二人は僕とも好意的に接してくれる。二週間、勝負の内容を考え続けた甲斐はあったようだ。

 

「耶倶矢、口調崩れてるけど大丈夫?」

 耶倶矢は現在進行形で中二病という病魔に犯されている。常に格好つけたような振る舞いをする痛い子なのだ。

 周りからは生暖かい目で見られることになるのだが。普通にいい子だし、本人のスペックもかなり高いからね。

「やべっ。くっくっく、久方ぶりだな我が盟友よ。この出会い、われの魔眼には見えておったぞ」

「そうなんだ。すごいねー」

 こういう子の扱いはこれくらい雑でいいのだ。その方が本人も輝くから。

 決して中二病設定を聞きたくないからではない。

「ちゃんとびっくりしろし!子ども扱いすんなし!」

 それに気づいた耶倶矢は反抗してくる。それを適当にかわしながら、夕弦の方に話を振る。

 

「悪かったね、二人の勝負を邪魔しちゃって。代わりに勝負の内容を提案しようと思うんだけど、どう?」

「無視すんし!ていうか、それ私にも関係あることじゃん!」

 耶倶矢の追求を無視しながら夕弦に問いかける。

「高揚。面白そうです。愛の考えた溶接勝負やフラッシュ暗算勝負は新鮮でした。今回もわくわくする勝負を期待します」

 アメリカ(向こう)で提案した勝負は欲求を満たすものだったようだ。おかげで二人を誘導できる。

 

「そこの五河士道さんをどっちが誘惑できるかって勝負なんだけど」

 士道さんの方に手を向ける。その先で、士道さんは『え、俺?』って顔をしてる。

「思案。誘惑ですか。確かに今までしたことがありません」

「私も話に入れろし!……まあ、でも悪くないんじゃない。ちょっと面白そう」

 二人とも乗り気になっている。ちょっと後押ししてやろう。

「加えて、士道さんかなりの忍耐力を持っている。美少女四人に迫られ続けているのに、今まで一度も手を出したことがない。そんな相手を篭絡出来る方こそ、八舞に相応しいと思わない?」

 据え膳を無視し続けるチキンもこんな風に言いかえることができる。挑戦しがいのある壁に見えてきたことだろう。

 

「くっくっく、面白いではないか。貴様の用意した苦難、この耶倶矢が乗り越えて真の八舞の称号を奪い去ってやろう!」

 顔の半分を左手で覆う耶倶矢。正に邪気眼といった感じだ。

 格好つけて笑ってる。写真撮っておいたら五年後くらいにからかうネタになるかな?

「否定。士道を堕とすのは夕弦です。ぺったんこ耶倶矢にはない大人の魅力で、心を奪い去ってみせましょう」

 夕弦は勝負に乗るついでに耶倶矢を馬鹿にしている。好きな子ほど虐めたくなるタイプだな。

「誰がぺったんこだしー!」

 

 喧嘩している(イチャついている)二人。そんな二人を横目に見ながら、士道さんに耳打ちする。

「さあ、舞台は整えました。ここからは士道さんの役目ですよ」

「……ありがとな」

 複雑そうな顔をしている士道さん。その顔を見て、とても楽しそうな未来が予想できる。

「愛って革命家とか向いてそうね」

 七罪が遠目から見て呆れた顔をしている。その顔をちらりと見て()()()()で返しておいた。

 

♦♦♦

 

 風が強く吹きつけておりますわ。やはり、こういう場所では髪が遊んでしまいます。

 背の高い建物は偵察に適した場所ですが、長居したくないですわね。汚れも少々気になりますし。

 淑女たるもの、どんな状況であろうと見た目には気をつけませんと。交渉を有利に進めるためにも。

 しかしながら、ここからはよく見えるのです。愛さんたちが和やかにお話しされている姿がはっきりと。

 

「『わたくし』。どうやらこの島は今とても面白いことになっているようですわ」

 わたくしたちが影の中から現れましたわ。偵察から帰ってきたようですわね。

「面白いこと、ですか?」

「ええ。ラタトスクとDEMの人間がた~くさん、集まっていますわ。双方、空中艦を何隻も携えて」

「しかも、《ベルセルク》までこの島に来ているようですわ。精霊さんの中でも、中々被害が大きいタイプですわね」

 分身体(わたくし)たちはこの島が現在置かれている状況を端的に説明してくれましたわ。いつ嵐が起こるかわからない危機的状況だと。

 顕現装置(リアライザ)の元締めたる二つの組織。士道さんや愛さんたち。武闘派の精霊さん、《ベルセルク》。

 これだけの存在が一堂に会すれば、戦火が広がることは必定。全員無事では済まないでしょう。

 

「それはそれは。大変喜ばしいことですわね」

 期待通りの展開に思わず笑みが零れてしまいましたわ。こういった機会を待ち望んでいたのですから。

「わたくしたち、わかっておりますわね」

 改めて、今回の目的をわたくしたちに確認しますわ。わざわざ、この島に来た目的を。

「ええ、もちろん」

「必ずや、始原の精霊を打ち倒す剣を『わたくし』の手に」

 聞くまでもなかったようですわね。何せ、若いとはいえ『わたくし』なのですから。

「さあ、『わたくし』も参りましょう」

 待っていてくださいまし、愛さん。今度はあなたが『わたくし』の掌の上で踊る番ですわよ。

 

♦♦♦

 

 最近開発されたばかりの不可視迷彩(インビジブル)を搭載した空中艦。そしてその艦橋では我が社の優秀なクルーたちが必死に働いている。

 素晴らしい熱量だ。他の人間を押しのけてでも昇進しようと努力している。

 その最たるは私の隣にいる艦長だ。必死に部下へ指示を飛ばして、私の命令を何が何でも遂行しようとしている。

 私の首元に食らいつく牙を持ち合わせていないことだけが残念でならない。しかし、彼も我が社に欠かせない人間だ。

 

「レーダーに反応あり。詳細な数は不明ですが、複数の空中艦が島の付近に待機しているようです」

 艦長は早速、敵の存在を把握する。数を捉えきれないのは敵の隠蔽能力の高さを称えるべきなのだろうね。

「やはり戦力を集めてきたか、エリオット。君なら相応の出迎えをしてくれると思っていたよ」

 あれだけの啖呵を切ったんだ。これくらいでないと張り合いがない。

 

「想定以上に(ふね)が多いですね。本当に私が《ゲーティア》へ乗らなくてよろしいのですか?」

 ノルディックブロンドの少女、エレンが私に確認を取る。世界最強の魔術師(ウィザード)たる彼女というカードの切り方は戦局を大きく左右する。

 彼女が《ゲーティア》に乗ってラタトスクの空中艦を沈めてくれたら、有利に立ち回ることができるだろう。ラタトスクの崩壊にチェックをかけることができるかもしれない。

 しかし、それではダメなのだ。

 

「エレン、今回の目的はあくまで精霊だ。君は精霊たちの確保を優先してほしい」

 《ゲーティア》は空中艦の体を取っているが、実際は彼女専用のCRーユニットに近い。他の空中艦とは比較にならないほど小回りが利く。

 しかし、それでも流石に精霊の捕獲には向いていない。肝心の精霊に逃げられてしまっては意味がない。

「なに、敵の(ふね)は優秀な艦長殿が蹴散らしてくれるだろう。エレン、君は君の任務に集中してくれ」

「お任せください。Mr.ウェストコット」

 艦長が私に一礼をする。彼ほどの人間ならば、エリオットの遊び相手くらいにはなれるさ。

「……了解しました」

 少し不満そうだが、エレンはちゃんと言うことを聞いてくれたようだ。頬を膨らませていないだけ、昔より成長したのかな?

 

「今回の最優先目的はわかっているね?」

「《アポクリファ》の殺害、ですね」

 エレンが迷わず答えてくれた。相変わらず素直でいい子だ。

「そうだとも。彼の死が我らの悲願の礎となる」

「お任せください、アイク。必ずや、《アポクリファ》の首を取ってみせましょう」

 強い使命感と世界最強の矜持を胸に抱くエレン。とても頼もしいじゃないか。

 それに、もう一人。

 

「うん、任せて。精霊は必ず殺すよ」

 エレンとは違う色素の強い金髪の少女。人に好かれる笑顔で殺意を漲らせている。

 彼女もまた我らが第二執行部に加わった。我ながら()()()()をしたものだ。

 私が知る限り、純粋な魔術師(ウィザード)としての力で右に出る者はいない。彼女なら真那が抜けた穴を塞いでくれるだろう。

 

「待たされるのには慣れている。だが、得意ではないんだ。早速今夜、仕掛けようじゃないか」

 機は熟した。戦力も十二分に整えた。

 さあ、楽しい夜を期待するよ。




わちゃわちゃさせてるのが結構楽しいですね。早く物語を進めて精霊を増やさなきゃ。

今回の裏話は愛くんと八舞姉妹で何があったか。
いつものようにお掃除をしていたら、帰りに八舞姉妹に遭遇。厄介なことにならないように、平和的な勝負のネタを考え続けた愛くん。結果、海まで移動して空間震の相殺勝負をさせました。で、苦戦していた八舞姉妹は一発で成功させた七罪に弟子入りしました。
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