令音さんに連絡して、こっちまで来てもらった。はぐれた生徒を探しに行くという名目で。
それで、来たらいきなり精霊登場だ。流石の令音さんも驚いていた。
今、令音さんはあごに手を当てて考え込んでいる。来禅高校の制服を着た耶倶矢と夕弦を見つめながら。
「……なるほど、事情は理解した。今回は上手くやったね」
「はい、ありがとうございます」
令音さんはナチュラルに頭をなでてくる。悪い気はしない。
全精霊の母というだけあって、母性たっぷりだ。僕もこの人の子供(?)に当たる存在なのかもしれないし。
「《ベルセルク》は移動速度と移動範囲の問題で接触が難しい。それがわかっているから、シンに注目させたのだろう?」
「はい、理由は何でもいいから関係を構築する時間を稼ぐ。それが攻略のための最低条件ですから」
あの二人はちゃんと捕まえないと一期一会になりかねない。一度捕まえたら少しでも長くつないでおかないと。
「いま彼女らはシンに興味を持っている。攻略のために好ましい状況だ」
令音さんに釣られて耶倶矢と夕弦を見る。楽しそうに士道を誘惑している。
「くくく、士道よ。我が魔性の魅力の虜となるがよいぞ」
耶倶矢は腕を蛇のように絡めている。そのスレンダーな身体を惜しげもなく密着させながら。
「否定。耶倶矢を選んでもいいことなどありません。是非、夕弦に清き一票を」
夕弦も同じことをするが、体格の違いで耶倶矢にはない破壊力が生まれている。夕弦の豊かな胸はえも言えぬ感触を与えていることだろう。
僕もよく知っている。七罪(大人モード)によくやられたから。
「琴里には私の方から話しておこう。後は私たちに任せて、君たちはDEMに集中するといい」
令音さんは攻略から離れることを推奨してくる。まあ、もともと僕は戦闘要員として現場にいるわけだし。
「わかりました。ところで、もう一押しする案があるんですけど」
「……聞くのが怖い気もするけど、とりあえず聞いてみようか」
令音さんは頬をかきながら耳を傾けた。そして案を話す。
「……そんなことをして、大丈夫なのかい?」
「放っておいた方が面倒なことになりますよ。どうせなら端から巻き込んでしまいましょう」
「……一理あるかもしれないな。君の案に乗ってみよう」
令音さんとの話はついた。早速、実行しよう。
♦♦♦
「はいはい、全員話を聞いてくださいね」
士道、耶倶矢、夕弦は勿論。姉さん、十香、七罪も集める。
「この勝負、セコンドをつけましょう」
考えたプランを披露する。全員何を言っているかわからないって表情だ。
「愛、セコンドとは何なのだ?」
十香が手を挙げて聞いてくる。半分はそもそも言葉の意味がわからない派閥だろう。
「セコンドっていうのは、戦う人をサポートする人です。タオルで汗を拭いてあげたり、飲み物を飲ませてあげたり」
「おー、つまりあれだな。部活のマネージャーと一緒だな」
意外といいところを突いてくる。ちゃんと説明するなら別物だけど、厳密に理解させる必要もない。
「その認識で大丈夫です。しかし、部活に入ってないのによく知っていましたね?」
「たまにクラスのみんなに頼まれるのだ。私がマネージャーをしたら勝てると」
「…………」
どう考えても下心だな。つまり、十香という美少女が応援したら男はやる気出すと。
大変だな。僕の関与すべき内容じゃないから、今回は放置するけど。
「それで、セコンドをつけるとはどういうこと?何を考えているの?」
姉さんが聞いてくる。もう半分はセコンドの意味は分かるけど、何をしようとしているかわからない派閥だ。
「二人は士道さんを堕とすための勝負をします」
「むすー」
「…………」
僕の説明を聞いて顔をしかめる人物が約二名。十香と姉さんだ。
士道を好いている二人にとって、新しい恋敵ができるのは好ましいことではないだろう。それが封印のために必要なことだとわかっていても。
割り切っている琴里が特殊なのだ。むしろこっちの方が健全だと思う。
「でも、二人は今日が初対面。士道さんのことをよく知っている人がセコンドについてサポートをした方がいいでしょう。姉さんは夕弦に、十香さんは耶倶矢に」
「あなたの提案は理解した。ただ、それは流石に業務の範囲を超えている。愛には悪いけど、そこまで協力する義理はない」
「うむ」
姉さんの反論も予想済みだ。ちゃんと対策を考えてある。
「はい。なので、特別報酬を用意しました」
「勝利に貢献した優秀なセコンドには、シンを一日自由にできる権利を与えよう。公序良俗に反するものでなければ、ラタトスクが全面支援することを約束するよ」
令音さんの発表したセコンド報酬。それを聞いて強い反応を示したのが三人。
「シドーと一日中デート。遊園地、水族館、バイキングもいいな」
十香は非常に十香らしい健全なデートプランを考えている。十香の中では士道を自由にしていい=デートなのだ。
「ラタトスクの全面支援。つまり、
姉さんは『ラタトスクの全面支援』という点に着目したようだ。何考えてるか想像できないこともないけど、僕はやってる側だから止める権利はない。
楽しそうに皮算用をする二人。それに冷や汗をかいているのが最後の一人。
「どーして俺の知らんところで俺が商品になってるんだよ⁉」
まあ、言うまでもなく士道だ。僕としては今更諦めた方がいいと思うけど、本人なりのプライドがあるのだろう。
「琴里からの許可は貰ってますよ」
「ははは、俺の人権はどうやったら取り戻せるんだ……」
士道が真っ白な背中で泣いている。『もう無理じゃない』って言葉は言わないであげようか。
「愛よ。我らに下手な助力など不要。むしろ足手まといに……」
耶倶矢は格好つけて断ろうとしている。だが、それはこっちとして面倒なのだ。
「耶倶矢は恋愛経験あるの?というか、夕弦以外とのまともな人付き合いがほぼなかったって記憶してるけど」
「…………」
耶倶矢は黙り込む。恋愛偏差値ゼロなんだから、迷走して終わりになる。
ずっと夕弦との喧嘩に人生費やしてきただろう。
「驚嘆。そのような手法があろとは。マスターとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「構わない。私もあなたには勝ってもらわないと困る。私と士道の蜜月のために」
固い握手をしながら目と目で通じ合っている姉さんと夕弦。
いつの間にか夕弦は姉さんに弟子入りしたようだ。やっぱりこの二人相性いいんだよね。
姉さんも士道のハーレム計画に寛容になってきたようだし。いい傾向だ。
夜布団に忍び込んでとか、自分の身体で汗を拭うとか言ってたのは聞かなかったことにしよう。
「ちょっと、何そんなに早く仲良くなってんの」
耶倶矢は焦って夕弦に詰め寄る。双子の片割れの想定外の行動が信じられないようだ。
「疑問。耶倶矢は何を焦っているのですか?助力は不要なのでしょう?」
「ぐぬぬ」
それに対し、夕弦は耶倶矢自身の言葉で応戦する。口元が笑っているから、わかっててわざとやってるな。
耶倶矢のこと大好きな癖に。本当、僕の周りには素直じゃない性格が多い。
「十香と言ったな?」
「う、うむ。そうだぞ」
耶倶矢は十香の方を見つめる。その資質を見極めるかのように。
「貴様、士道について詳しいか?」
「む……シドーのことなら誰にも負けないぞ!」
十香は耶倶矢の言葉に強い反応を示す。何をおいても士道のことだけは譲らないと言わんばかりに
「よかろう。十香、貴様を我が眷属として認めてやろう。光栄に思うがいい」
「けんぞく……とは何なのだ?」
十香は難しい言葉を聞いて首をかしげている。眷属なんて漫画やアニメでしか聞かない言葉だもんね。
こうして士道を堕とすための団体戦が決定した。どのような結末になるかはプロデュースした僕にもわからない。
♦♦♦
さて、初日というだけあって時間の流れが早い。もう既に日が沈みかけている。
士道たちは宿泊する旅館の中での時間を過ごしている。僕たちも
「しっかし大変ね、士道も」
七罪が士道を遠巻きに見ながら同情している。見えない顔がどうなっているか、簡単に想像できる。
「仕方ないよ、それが士道さんの宿命だし」
「ほとんどあんたのせいだと思うけど」
「…………」
その通り過ぎて何も言えない。今回はゴリゴリにプロデュースしたから。
「今回は珍しく首突っ込むわね。
「まあ、それもあるよ。なんだかんだあの二人は友達だし」
「じゃあ、それ以外の理由ってのは?」
七罪は相変わらず鋭いな。ちょっとした違和感を見逃さず突いてくる。
放っておけないと判断されたのかな?
「僕ね、死にたくないからって心を誤魔化すのは嫌いなんだ」
「耶倶矢と夕弦が両方助かるには、士道が封印するしかないのよね。つまり、そういうこと?」
七罪は僕の言いたいことがわかったようだ。こんなにも早く理解されるだなんてかなり驚いた。
耶倶矢と夕弦は一人が二人に分かれた存在。いずれは一人に戻る。
耶倶矢か夕弦、どちらかの人格を消し去って。それを防ぐには封印するしかない。
いい方に捉えると、士道が二人の救世主になれる。でも逆に言えば、二人は士道に惚れないと一緒には生き残れない。
「自分たちのために命を懸ける士道さんに惚れるなら言うことはないよ。でも、生き残る手段として打算で好きになるのはとてつもなく嫌だ」
中途半端を許す気はない。心の底から士道を好きになってもらわないと、僕が気持ち悪い。
「……本当、めんどくさい性格してるわね。そこまで潔癖な奴、あんたくらいよ」
七罪はやれやれって態度をしている。引かれちゃったかな?
「七罪は僕とは違う考え?命が助かるなら、妥協は必要だと思う?」
「だったら、私は士道を選んでると思わない?それが一番生き残る可能性高いんだから」
呆れと悪戯心と愛情がない交ぜになった優しい言葉。それが七罪の本心を現している。
七罪は全部知っている。士道に全ての
その上で僕を選んでいる。それが答えだと。
「私も贅沢になっちゃったのよ。誰かさんが求める数倍の愛情を注ぎこんで来るから。それなしで生きられなくなっちゃったわ」
冗談めかして口調で話す七罪。でも、既に冗談じゃ済まないんだよね。
「ごめんね。僕のわがままで余計なリスク背負わせて」
やり直したいとは思わないけど、罪悪感は消えない。七罪の運命を捻じ曲げたのだから。
「そこは『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』って言いなさい。
それにあんたじゃなくて私のわがまま。どれだけ周囲に迷惑かけても、あんたと一緒に生きるって私が決めたの。
そこんとこ、勘違いするんじゃないわよ!」
七罪は不機嫌そうに訂正する。こんなにうれしい不機嫌なんてなかなかないや。
「そうだね、七罪。ありがとう」
「ふん。ちょっとは人の気持ちを理解しておきなさい」
しばらくの間、七罪はご立腹だった。なだめるために結構かかった。
♦♦♦
そろそろ士道たちの入浴の時間だ。一時間もすれば大勢集まってくるだろう。
そんな中、そそくさと更衣室に入っていく人影が二つ。姉さんの夕弦だ。
何をしようとしているかなんて考えなくてもわかる。士道と裸の付き合いをするつもりなのだろう。
まあ、それくらいなら別にいいんだけど。この二人ならその先まで行こうとするかもしれない。
釘刺しておこう。一線は越えないように。
「姉さん、姉さん」
「……愛?」
「何か問題でも?」
「いや、そうじゃないよ。ちょっと釘刺しに来ただけ」
「困惑。愛はマスター折紙が間違っているとでも?」
こんなに短時間なのにもう心酔しているようだ。姉さんの行動に間違いがないと信じて疑わない。
間違いっていうなら一から十まで大半が間違いなんだけど。そこまで口出す気はない。
「いや、あんたたちがやり過ぎないように注意しに来たのよ。混浴までは何も言わないけど、それ以上やったらダメって」
七罪が大人の姿で現れた。そっちの姿しか知らない夕弦を混乱させないためか。
「……自分たちのことは棚に上げて?」
場の空気が凍り付く。顔を見る限り、七罪もその言葉の重要性に気づいたようだ。
「折紙……あんたなんでそれを⁉まさか、盗聴器でも仕掛けて……」
「そんなものを仕掛けるまでもない。あなたたちは以前と雰囲気が変わった」
やっぱり気づいてる。僕と七罪が一線越えたこと。
「納得。やはり二人は男女の関係でしたか」
夕弦はうんうん頷いている。こいつもこいつで動じないな。
「お前も気づいてたのか?」
「驚愕。気づかれていないと思っていたのですか?お子様な耶倶矢ならいざ知らず、夕弦の目からするとバレバレでした」
夕弦は本気で呆れている。そんなにわかりやすかった?
「関心。二人の話には興味があります。コイバナをしましょう、七罪」
夕弦は七罪にグイグイ行ってる。もしかしたら、夕弦は思った以上の傑物かもしれない。
「っ~!そういう話をする趣味はないのよ!」
七罪はあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして逃げてしまった。
「懇願。待ってください、七罪。是非、参考に」
夕弦は見えなくなってしまった七罪を探すが見つからない。多分、
「姉さん、え~っと」
「別にとやかく言うつもりはない。ただ、私も同じようにしてほしい」
つまり、口出さないからそっちも口出すなと。そういうことね。
「姉さんの方から押し倒すのはなしで。あと、高校生に許される範囲も守って。これが最大限の譲歩ライン」
こっちの弱みを握られている。頭の中で決めてた限界ギリギリまで譲り渡すしかなくなった。
「わかった。既成事実を作るのは卒業してからにする」
もうどうにでもなれ。この人は僕じゃ止められない。
耶倶矢と夕弦って面白いですね。勝手に他キャラと絡んで物語を作ってくれる。何も考えずに状況設定して動かしたら、そのまま番外編書けるんじゃないだろうか?
さて今回の裏話は愛くんと七罪の進展を知っている人について。
最初に言っておくと、ちゃんと聞いた人はいません。でも鋭い人は察しています。
男性陣はほぼ知りません。ウッドマンだけが察しています。
逆に女性陣はほぼ全員察してますね。気付いていないのが十香と耶倶矢。他は大体『ああ、ヤったんだな』って思ってます。