ヒロインは七罪   作:羽国

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人生で一度もコミケに行ったことがないんですよ。夏は流石に無理だけど、冬は行ってみようかな。


戦争(デート)はこれから

 旅館の廊下。シンと簡単な作戦会議を終えて歩いていた。

「あ~、つかれた~」

 シンは足元がおぼつかない。布団を見れば、その場で沈むだろう。

 

「シン、先にお風呂に入ってくるといい。学生たちの入浴時間には少し早いが、岡峰先生は私が誤魔化しておこう」

「本当に助かります。なんだか、クラスの奴らの視線が鋭くて。一緒に風呂なんて入ろうものなら、命がいくつあっても足りない」

 シンは肩を震わせながら礼を言う。モテる男はやっかみを買って大変だね。

「それじゃあ、お先に失礼します」

「ああ、また明日」

 シンは着替えを取ってすぐにお風呂に向かったようだ。

 

 ……気を利かせたつもりだったけど、思ったように事態は動かないね。折紙と夕弦が士道の行先に気づいてしまったようだ。

 ああ、先回りしている。愛も逆にやり込められてしまった。

 十香と耶倶矢まで入ろうとしている。こうなってしまうとは予想外だ。

 

 彼女らは入浴中に迫るだろう。シンは逆に疲れてしまうな。

 折角の気遣いを無為にはされるのは好ましくない。だけど、彼女たちの動きを察知した方法を説明することはできない。

 人間の視点は常に意識しておかないと。折紙は聡い子だしね。

 

「全く、昔はあそこまで強引ではなかったのだけど」

 変わってしまった彼女に少し思うところはある。いや、”私”が変えてしまったと言うべきかな?

 

♦♦♦

 

 まだギリギリ沈んでいない夕日がよく見える。この時間帯の露天風呂も悪くないな。

 少し濁ったお湯は疲労回復に効く作用があるらしい。今日の疲れもきっちり取ってほしいもんだ。

「あ~、生き返る」

 

 温泉の気持ちよさに身も心も溶かされている。そんなときに……

「それはよかった」

「わぷっ!お、折紙⁉」

 折紙が一メートルも離れてない至近距離から突然声をかけられた。いきなり背後にいるって忍者かよ⁉

 

「奉仕。士道、お背中流しに来ました」

「夕弦まで⁉」

 今度は反対側から夕弦が現れた。二人ともタオル一枚で目のやり場がない。

 

「お前ら、なんでここにいるんだよ⁉ここ男湯だぞ!」

「心配しないで、士道。清掃中の札を立てておいた。これでしばらくは問題ない」

「大層準備のいいことだな!」

 いつも通り冷静な折紙にはもう誉め言葉すら出てきた。どうして無駄に手際がいいんだよ?

 

「誘惑。士道、きもちいいですか?」

「夕弦⁉お前それは流石に……」

 夕弦が二の腕に胸を押し当ててくる。服の上からとは全然違う、むにゅんと柔らかい感触が伝わってくる。

 抑えろ、抑えろ俺。攻略する前に攻略されてどうする。

 

「そういうのはいけない」

 折紙が夕弦に待ったをかけた。折紙……もしかしてやり過ぎって注意してくれるのか?

「性急すぎると上手く欲情させられない。局部の接触はNG」

「納得。流石マスター折紙。勉強になります」

 そんなことはなかった。結果的に夕弦は離れたけど、檻の中で逃げただけと思える。

 前門の夕弦、後門の折紙。布陣は完璧だ。

 

「安心して、士道。士道のペースで進めて構わない。準備はいつでもできている」

「何の準備だよ!」

 もうこの子怖い。俺の胸を指でなでながら至近距離でずっと見つめている。

 

「マスター折紙が言っていました。男を堕とすなら、獣にするのが手っ取り早いと。士道、早く獣になってください」

「意味わかってて言ってんのか⁉」

 夕弦も負けじと背後に回って耳元でささやく。肩に手を当てる感触がぞくぞくする。

 胸と違って完全にアウトじゃない分、心に染み込んでくるようだ。

 このままじゃ食われる。そう思ったときだった。

 

「我らを出し抜くとは。なかなか小賢しくなったな、夕弦よ!」

 お風呂のドアを勢いよく開けて耶倶矢が入ってきた。こちらのバスタオルをばっちり巻いた状態で。

「残念。来てしまいましたか、耶倶矢」

 夕弦は眠たげなまぶたをより落として耶倶矢をにらむ。そんな夕弦に対して耶倶矢は昔の俺がかっこいいと思うポーズをとる。

「ふん、我が眷属が貴様らの姦計を暴いたのだ!褒めて遣わすぞ、十香よ」

「やっぱりか。ここからシドーと鳶一折紙の匂いがしたのだ」

 耶倶矢の後ろからバスタオルを巻いた十香が顔を出す。自分の身体と俺の方をちらちら見て赤くなっている。

 うん、そのままでいてくれよ十香。男の前で堂々と風呂入ってるこいつらがおかしいんだから。

 

「ちっ、やはり夜刀神十香は厄介。あと少しで士道を堕とせるところだったのに」

「折紙……」

 なんとか、折紙の包囲網から逃げ出す。比較的安全そうな十香と耶倶矢の方へ。

 

「くくく、やはり士道は夕弦よりも我を求めているようだぞ?」

 そんな俺の姿を見て、耶倶矢は得意げに笑う。どっちかと言うと逃げてきたんだが。

「疑念。どうして士道は鶏ガラ耶倶矢なんかを求めるのでしょうか?」

「誰が鶏ガラじゃ、コラー!夕弦だって脂肪ばっかり蓄えたでぶちんの癖にー!」

 馬鹿にされた耶倶矢は夕弦に飛び掛かる。それに夕弦も応戦し、プールでもなかなか見られない水飛沫を上げている。

 洗濯機の中はこんな風になっているだろうか。滝みたいなお湯を浴びながら、そんな風に現実逃避していた。

「勘弁してくれ」

 

♦♦♦

 

 二人の喧嘩が終わったころ。クラスの奴らとギリギリすれ違わないタイミングでお風呂を出た。

 俺たちが移動したのは令音さんがこっそり用意してくれた休憩室だ。ここで一息入れてから部屋に戻ろう。

「はあはあ、夕弦の癖に生意気な」

「反論。耶倶矢の方が身の程知らずのオタンコナスです」

 二人は暴れ疲れて倒れてる。十香たちが止めてくれなかったら、お風呂がどうなっていたか。

 

「お前ら双子なんだろ?もうちょっと仲良くできないのかよ?」

 俺の言葉を聞いてすぐに二人は目を丸くする。まるで、変なことでも言ってしまったかのように。

「……そういえば、士道に言ってなかったか?我らが争ってる理由」

「失念。伝え忘れていました。裁定者たる士道には知る権利と義務があります」

 二人は示し合わせたように語り合う。全然話について行けない。

 

「なんだよ、お前ら。そんな急に改まって」

 ちょっと怖くなる。どんな話がされるのか。

「我らは元々八舞っていう一人の精霊だったのだ」

「首肯。ですが、幾度目かの現界のときか、八舞は二つに分かれてしまったのです」

 二人は当たり前の真理を語るように話す。

 

「そんなこと、ありえるのかよ?」

 二人の顔をじっと見つめる。

 確かに顔立ちも髪色もよく似ている。クローンと言われてもおかしくないくらいに。

 だとしても、一人の人間が二人に分かれるなんて……

「あり得ない話だとは思えない。世の中の常識が全く通用しない存在。それが精霊」

 今まで部屋の端で聞いていた折紙が口をはさむ。

 その顔は大して驚いていない。まるで、実例でも見てきたみたいに。

 

「そして、いつかは一人の真なる精霊・八舞に戻る。それが私たちの運命なのだ」

「なんでそんなことがわかるんだよ?」

 堂々と胸を張って語る耶倶矢。そこに疑問を感じる。

「それはこの身に刻まれた宿命よ。二つに分かたれたその瞬間から我らはいずれ一人に戻る。それを理解しておったのだ」

「補足。真なる八舞に戻るとき、夕弦か耶倶矢。どちらかの人格は失われます。この決闘は、どちらが生き残るかを賭けたものなのです!」

 残酷な宿命を語る二人。それなのに、二人の表情は清々しささえ感じるようなものだった。

「この勝負で、二人の運命が決まるのか?」

 ふと思いついて疑問を投げかける。背筋も凍りつくような嫌な予想を。

「そうよ。因みに戦績は二十五勝二十五敗四十九引き分け。丁度百戦目にあたるこの勝負の勝者が真の八舞となる」

「肯定。勝っても負けても恨みっこなし。最期の真剣勝負です」

「お前ら……」

 楽しそうに語る二人。負けた方は消え去るって自分たちで言ったのに。

 

「そのことを愛と七罪は知っているの?」

「⁉」

 折紙の言葉を聞いて我に返る。そういえば、この勝負を提案したのは愛だったよな。

「それはわからん。あの二人はどうしてだか、いろいろなことを知っておる」

「同意。あの二人は八舞の宿命も最初から知っていました。もしかしたら、今回の勝負が最後ということも知っていたかもしれません」

 二人の話は普通なら荒唐無稽な妄想だと思っただろう。でも、愛が相手なら否定しきれない。

 あいつは未来予知みたいなことをちょくちょくする。もしかしたら、今回も……

 

「悪いな、二人とも。今日は疲れたからまた明日にさせてくれ」

「ふっふっふ、そうか士道よ。しっかりと英気を養い、明日の裁定に臨むがよいぞ」

「挨拶。お休みなさい、士道。また明日を楽しみにしています」

 快く送り出してくれる二人に何とか笑顔で返す。

「確かめないとな」

 愛が二人の決闘の結末を知ってたら。あいつは俺にどっちかを選べって言ってるのか?

 

♦♦♦

 

 旅館のベランダ。そこには簡単な密談くらいならできるだけのスペースがあった。

 愛には連絡を取った。すぐに

「士道さん、どうしたんですか?」

 装備を着たままの愛が何もない空間からふと現れる。ずっと……見てたのか?

 

「なあ、愛。教えてくれないか?お前、もしかしてこの決闘で耶倶矢か夕弦のどっちかが消えちまうって知ってたんじゃないか?」

「さっきの耶倶矢と夕弦の話ですね。そろそろなんだろうと思っていましたよ」

「…………」

 全く動じた様子がない。いつも通りのあどけない表情だ。

 ただ、今はっきりと宣言したな。愛は最初から全部わかってたって。

 

「俺を審判にするよう誘導したのはお前だよな?俺に耶倶矢か夕弦。どっちか一人を選べってのか?」

 風がざわめいている。その身に風を浴びながら、愛は俺を見ている。

 愛のわずかな表情の変化も見逃さないようにしっかり見つめる。俺は仲間を信じたい。

 誰かを犠牲にする選択を笑顔で進めるような奴だと思いたくない。

 

「その通りですよ。生き残らせたい方を士道さんが選んでください」

「な⁉」

 愛は表情を消して言い放った。その言葉に俺は目を見開く。。

「何か勘違いしているようだったら先に言っておきます。僕はいい人間じゃありません。

 犠牲が必要なら何十人,何百人だろうと許容します。例外は七罪と姉さんだけです」

 俺の希望をへし折るようなことを語る愛。その声を聞いているだけで体温が冷えていくようだ。

 

「そんな結末でいいのかよ!あいつら、お前の友達なんだろ!」

 今日会ったばかりの俺たちとは違う。仲良く遊んで過ごした時間があるはずだ。

 そんな相手になんでそんなことが言えるんだよ。

「大事な友達だろうと救う手段がありません。二つに分かれた霊結晶(セフィラ)が磁石のように戻ろうとするのでしょう。僕にはどうしようもないことです」

 目を細めて無感情に淡々と語る愛。何を言ってるかはわからないけど、精霊のことはよっぽど俺より詳しいんだろうな。

 その愛がないって思ってしまった。それだけ二人を救うのは難しいことなんだろう。

 それでも……

 

「まだ諦めるときじゃないだろ。みんなで一緒に考えたらいい案が見つかるかもしれない。

 一人で抱え込まずに俺たちも協力させてくれよ。お前もあの二人のこと大切なんだろ!」

 とても仲よさそうにしていた。冗談も言えるし、遠慮なく言い合える関係だ。

 何も思わないわけない。愛も愛なりに苦しんで出した結論のはずだ。

「頼りないかもしれない。弱くて背中なんて預けられないかもしれない。

 でも仲間だろ。少しは頼ってみろよ」

 俺の言葉を聞いても愛は動かない。何か考えているのか、それとも全く心が揺れなかったのか。

 

霊結晶(セフィラ)が一つに戻ろうとする。これはどう足掻いても止められません」

 愛はベランダの手すりに手をかけ、夜空を見上げる。

「二人とも救うには、二人の霊結晶(セフィラ)を別の場所で一つにしないといけません。かと言って、二人から霊結晶(セフィラ)を抜けば死んでしまう」

「ええと?」

 俺を見ず、夜空を見ながら語る愛。二人を助ける方法を考えてくれてるんだろうけど、何を言っているのか全然わからない。

「もうちょっとシンプルに言い直しましょう。二人の霊力を抜き取って別の場所で一つにする必要があります」

「それって……」

 今のは俺でもわかった。つまりは封印のことじゃないか。

 

 俺が二人にキスして封印する。それで二人とも生き残れるのか?

「士道さん。二人とも幸せにする気がないならどっちか片方を選んでください」

「…………」

 幸せにするって()()()()()()だよな。いや、流石にそこまでの覚悟は……

「別に今すぐ娶れとは言いませんよ。ただ、英雄は色を好む。その器が士道さんにはあります」

「……考えとくよ」

 なんというか、愛と折紙って姉弟なんだな。どことなく発想が似てる気がする。

 

「ありがとな、愛。お前のおかげで何のために頑張るかはっきりした気がするよ」

 二人を助けるために攻略する。それが俺のすべきことだ。

「いいえ。僕もそういう士道さんを望んでいましたから――それと利用してしまってすみません」

「え?」

 

 急激に五感が鋭くなる。まるで命の危機を感じて、意識が加速されたみたいに。

 ガキン。金属でもぶつかったような音が背後から響いた。

 振り返ると武装した色素の薄い金髪の女が俺に向けて手を伸ばしていた。確か前に愛たちを襲ったエレンっていう女だ。

 俺に何かしようと手を伸ばしたんだろう。その前に愛が出したであろう障壁に阻まれている。

 そして、その手は斜めに逸れていく。ベルトコンベアに流されるかのように。

 

 よく見ると俺とエレンの間に白い球、衛星(サテライト)がいくつもある。障壁をくるくると回転させながら、俺への攻撃をいなしている。

「ヨルムンガンドの鱗環(りんかん)。やはりエレン相手でも通用するか」

 愛はエレンに気を配りながら俺の方へ歩み寄る。襲撃者と向き合うために。

 

「隙だらけかと思っていましたが、そうでもないみたいですね」

「誰かさんに不意打ちされてひどい目に遭ったからな。対策してるんだよ」

 エレンは落ち着いた様子で愛を見ている。愛も驚いた様子はない。

 愛はわかってたのか。こいつが攻撃してくるって。

 

顕現装置(リアライザ)を見ても驚いていませんね。少年、あなたもラタトスクの関係者ですか」

 エレンがちらりとこちらを見て俺の立ち位置を考えている。一般人の振りはできないみたいだな。

「だとしたらどうする?さっきみたいに人質に取ろうとするか?」

 愛は挑発的にエレンと会話する。そばで見ているだけでひりひりする。

 

「そうですね。あなたが足手まといを抱えながらどれだけ戦えるか。見ものです」

「安心しろよ。前回みたいな無様をさらす気はないから」

 二人の視線が交差する。或美島での戦いの火蓋が切られた。 

 

♦♦♦

 

 エレンと愛の刃が激突する。何度も火花を散らし、夜の暗闇を照らしている。

 何とか目で追うだけで精一杯だ。これが愛の本気の戦闘か。

 そして、つばぜり合いに持ち込んだ。二人が刃越しににらみ合う。

 

「ふむ、魔力量も随意領域(テリトリー)の精度も格段に向上していますね。以前ならこれで勝負が終わっていたでしょう」

 映像を見せてもらったけど、以前のこの二人の勝負はエレンの圧勝だった。でも、今は食らいついている。

「老化真っ最中のお前と違ってこっちは成長期だからな。二か月もあれば成長するんだよ」

「減らず口を」

 エレンは青筋を立てながらレイザーエッジを振るう。安い挑発だけど、エレンは引っかかったようだ。

 完全に意識が愛に集中している。今だ。

 

氷結傀儡(ザドキエル)!」

 力を借りるのは四糸乃の天使。圧縮した冷気をエレンに向けて放つ。

「な!」

 エレンは驚愕して目を見開く。そして思いっきり直撃した。

 

「近接戦闘中に敵だけ当てるとは、中々天使の扱いが上手くなりましたね」

「誰かさんのスパルタ教育のおかげでな」

 どれだけあの白い球に追い回されたことか。夢の中でも襲ってきたぞ。

「ただ、士道さん加減しましたね」

「……相手は人間だろ」

 俺は人を殺す覚悟なんてできてない。人間に天使なんて本気でぶっ放したら死んじまうだろ。

 

「アレは人間のカテゴリに入れていいか怪しい存在です。天使を本気でぶっ放しても死ぬようなたまじゃないですよ」

「随分な言い様ですね。そもそも人間でないあなたには言われたくないですよ、《アポクリファ》」

 愛の言葉と同時に白い冷気の向こうからエレンが現れる。全くダメージのない様子で。

 なるほど、確かに化物だな。俺みたいな素人が手加減している余裕はないってことか。

 

「《アポクリファ》?それもしかして僕の識別名か?なんともまあ中二臭い名前をつけたもんだな?」

「気に入りませんか?だったらこれ以上その名が広まる前に、その首を差し出すのがおすすめですよ」

 目に見えそうなほどに殺意をたぎらせながら話す二人。ちょっと前だったらこの空気に耐えられなかっただろう。

 

「それとそこの少年。今使ったのは《ハーミット》の天使でしょうか?」

「…………」

 エレンの視線がこちらに向く。まるで観察対象を見つけたような目だ。

「話す気はありませんか。まあいいでしょう。あなたも他の精霊たちと同じ、捕獲対象に加えます」

 エレンは嫌な笑顔をしながら武器を構える。これで俺も狙われるか。

 

「ん、ちょっと待て?他の精霊は捕獲で僕は殺すことになってるのか?」

 愛がエレンの言葉を聞いて何か疑問を感じたようだ。俺によくわからないけど。

「ええ、そうですよ。自分の命でも惜しくなりましたか?」

「いや、そういう意味じゃない。なんで僕だけ扱いが違うんだ?同じ精霊だろ?」

 エレンは愛の言葉を聞いて逆に訝しげな目をする。

「そちらこそ何を言っているのですか?あなたと他の精霊が等価な訳ないでしょう」

 エレンと愛のやり取りが続く。どうやら愛にとっては聞き逃せない言葉があったようだ。

 

「……エリオットは何も教えていないのですか。しかも自覚までないと。これは奇妙ですね」

 エレンは憐れむような目で愛を見つめる。それを受けて愛も何か考えているようだ。

「まさか……」

「さっきから何の話をしてるんだよ?全然意味わかんないぞ」

 ついに我慢できなくなって愛に問いかける。愛が何も教えてくれないのはいつものことだけど、限度があるだろ。

 

「士道さんには話せませんね。僕の考えが正しかったら、あまりにも危険すぎる」

「……そうかよ。話したくなったらいつ話してくれてもいいぜ」

 やっぱり大事なことは教えてくれないみたいだ。

 本当にイラっとするな。頼り甲斐のない自分自身に。

 

 闘いの最中、場違いな電子音が鳴り響く。エレンの武装から。

「ちっ、こんなときに。今はそんな場合じゃ……」

 苛立ちを隠さず通信に応じるエレン。

 

「アイク⁉」

 その言葉に愛が強く反応する。その名は確か、DEMの親玉の名前だ。

 前回、今回の襲撃の首謀者。十香たちを狙ってる張本人。

「それは本当ですか⁉……ええ、そうですね。だとしたら、計画を変更するしかありません。わかりました一度退却します」

 エレンは驚いた様子で会話をしている。どうやら帰ってくれるようだ。

 

「また明日会いましょう、《アポクリファ》、天使を使う少年」

 エレンはベランダの柵を乗り越えて夜空に飛び出す。その後ろ姿を愛と二人で見送った。

 初めての実戦はすさまじいものだった。愛があんな厳しい訓練をさせたのも納得できた。




ようやく八舞編も熱が入ってきましたね。ここから楽しくなりますよ。

今回の裏話はエレンと愛君がどうしてまともに戦闘できているのか。
戦闘時、衛星のシンクロ率をかなり上げています。以前までが常時五十パーセントだったのに対して、今は常時七十五パーセント。エレンと戦闘が成立するくらい強くなりましたが、その分リスクも跳ね上がっていますが。
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